一
悪魔とは。
悪魔とは何か。
それを正しく認識している者はこの世界に生きる人間の中にそう多くは存在しない。
だが、悪魔という人間とは違う生物が存在するということを知らない者はいない。
悪魔という存在が居て、それはとても強い。大概の人間の悪魔に対しての認識はその程度のもの。
それでいい。それだけで十分だ。それ以上のことが必要になることなんて基本的にはありえない。
ただ、それをふまえたうえで、おおよそ誰にとっても必要のない知識であることを踏まえたうえできちんと悪魔について話すのならば、やはりその理解では些か浅すぎる。
悪魔とは、神の作る神の使い。その失敗作を意味する。
悪魔の説明をするのなら、神の説明もかかせない。
神とは唯一にして絶対の存在。世界の創造主。あらゆる生命の起源。神が作った何かが作ったものも神が作ったものとするならば、この世界で神以外に作られたものは何一つとして存在しないと言える。
良いものも悪いものも、ありとあらゆるものが神によって作られた。
神の使い。『天使』と呼ばれる者も神によって作られたものの一つだ。
天使の役割は神のサポートをすることにある。神は神の作った世界においてありとあらゆることを可能にするが全能というわけではない。だからこそ、世界に必要なありとあらゆることを行うサポート役が必要だった。
ゆえに天使は神に従順。神の言ったことには絶対に逆らわない。神の言ったことのみが真実。
ときに神の求めに応じて天使は新たな星を想像する。ときに神の求めに応じて新たな生物を創造する。そして、ときに神の求めに応じて既存の星を、生物を滅ぼす。
全ては神と神が導く世界のために。
しかし、神は全能ではない。失敗することもある。
己のサポート役として作り出す天使。それを作ることに失敗することも当然ある。
その失敗作こそが『悪魔』というわけだ。
では、一体何をもって失敗作とするのか。
これは神が天使に何を求めているかを考えれば自ずと答えが見える。
天使とは神に仕え、神を支える存在。
それに最も求められるものとは?
能力?
違う。
容姿?
そんなものはもっとどうでもいい。
答えは――神に対して従順かどうか、だ。
神のサポート役として作られたそれが、神の意志に反した行いをする。
それこそが神にとってもっとも都合の悪いことだった。
神の意志が絶対的に正しいものなのだと仮定すると、逆説的に悪魔の持つ意志というのはそのことごとくが間違ったもの、悪だと評することができる。
ありとあらゆる存在が神にとっては直接的、間接的に制御のできるものでしかない。にもかかわらずその失敗作はそういう訳にはいかない。
なぜなら、サポート役として作られたゆえに比較的高い性能を個々が持ってしまっているから。
基本的に神の意志に従わない者は天使を用いて滅ぼせばそれで解決する。間接的に制御したと言える。しかし、悪魔は天使と同じだけの力を持ってしまっているからそれをしようにもうまく事が運ばない。
この神によって作られ、神によって導きという名の支配を受けた世界で唯一神の思い通りに動かない最悪の失敗作。
それこそが悪魔という種族の正体。
さて、ここまで長々とグダグダと悪魔について誰も興味のない話を続けてきたわけだが、結局俺が何を言いたいのかというと。
「……よし。今日のはうまくいったな……!」
俺は悪魔。
そして少なくとも、朝食の目玉焼きの焼き加減が如何に絶妙だったかなんてことで一喜一憂するような悪魔は俺くらいのもの。
そういうことが言いたかった。