十四
「騎士が出向くとなれば、私の出る幕はなさそうですね」
というか出向いてしまえばそっちの方が問題になる。
騎士様方がワイバーンを狩ろうとしているのにそこに横やりを入れるような真似をすれば良い顔はされない。良い顔どころか敵意をぶつけられたっておかしくない。俺個人の問題で収まるのならともかく冒険者全体の問題になんて発展したものなら目も当てられない。
そんな馬鹿げたことできるわけない。
「そ、そこを何とかできないだろうか」
「……そもそも、どうして言い訳もできないような距離に来るまでワイバーンを放っておいたのですか?」
欲をかき過ぎたと言ってしまえばそれだけのことなのかもしれない。だが、この貴族様は目先の欲に惑わされて先が見えなくなるような愚か者ではなかったはずだ。
きちんと他の誰にも発見できないような、探そうと思わなければ見つからないような、人が近くにいない場所にいるような、そういうワイバーンを見つけ出して最善の注意を払って冒険者に依頼をしていたはずだ。
俺一人に依頼したことも大概おかしな話だが、他の誰かが見つけて国に報告してしまうような距離にまで近づいたワイバーンを放っておいたことはそれ以上におかしい。
「たしかに距離はあるはずだったんだ」
「……」
「依頼を出した日から逆算しても、こんなに早くここまで来ることができるはずはないはずだった」
「……」
「信じて貰えないかもしれないが、あのワイバーンは何かがおかしいのではないだろうかと思う」
「いえ、依頼主の発言はできる限り尊重することにしていますので。貴方がそういうのならきっとそうなのでしょう」
褒められたことではないが、この貴族様はよくワイバーンを見つけては冒険者に狩らせて素材を手に入れている。そんな貴族様がワイバーンの来る速度を見誤るというのはたしかにおかしな話だった。
冒険者としての矜持云々を除いても、貴族様の話は信用するに値する。
「……」
さて、ならどうすればいいか。
一番簡単なのは何も聞かなかったことにしてこのまま引き返すことだろう。ワイバーンが普通と違うにしても違わないにしても帰ってしまえば俺には関係のないことだ。貴族様は責任を問われるかもしれないが、やはり俺にとっては関係のないこと。
ただ、それを貴族様は許してくれないだろう。
「……」
言葉には出さないまでも「帰らないよね? 見捨てないよね?」みたいな目で見てるし、たぶん見なかったふりをして帰るなんてのは無理な話だ。
ノワールは都合が悪くなったら依頼主を見捨てる冷酷な冒険者だ。なんて噂が広まっても困るからな。
それにノワールは一度受けた依頼は必ずこなす。かなり思っていた依頼とは違うけど、このままにしておくわけにはいかない……だろう。
あぁ、くそっ。絶対報酬増やしてもらうからな。




