十二
ドラゴンという種族がいる。
高い知性と剣を通さないほどに強靭な鱗、自在に空を舞うための翼、鉄製の鎧を紙でも破くみたいに砕く爪、その他にも色々と人間にはないものを持っている。
要するに人間よりも一個体で見た場合には圧倒的な能力差を持つ種族だ。
しかし、人間はそのドラゴンを狩る。
特にドラゴンの中でも比較的個体数が多く体もそれほど大きくはないワイバーンなんかだとAランク冒険者が依頼を受けて束になって討伐をする。
なぜか。
空を飛び人間がまともに浴びれば骨すら残らないようなブレスを吐くようなヤバいトカゲだ。もちろん近くに居れば危ないから討伐してしまいたくなるだろう。
だが、それだけが理由ではない。
ワイバーンに限った話ではないが、ドラゴンという種族は全身が優れた素材の宝庫となっている。それこそワイバーンをもし一人で狩ることができ、その素材を一人で全て扱うことができたのならそこから先の一生で金に困ることはないというくらいには。
ロマンを求めて冒険者になった奴なんかにとって、ワイバーンは正にロマンそのものとでもいったところか。
「とはいえ、これは……さすがにAランク冒険者一人に任せる内容じゃないな」
優れた素材の宝庫であるワイバーン。冒険者のロマンという解釈はもちろん間違ってはいないのだろうけど、あくまでそれはワイバーンを討伐することができるのならばという話。
Aランク冒険者が束になって初めてどうにかできるような怪物であることは疑いようのない事実であるし、実際に冒険者をやっていくうちにワイバーンを一人で討伐なんて考えは大抵の冒険者が捨てる。依頼主だってそんなことは分かっているから指名依頼でワイバーンの討伐を単独の冒険者に依頼するなんてことはまずありえない。
残念なことに俺の依頼主はそのありえない中の一人だったようだけど。
「受付嬢め……」
よほどの依頼でない限りはどんな依頼でも受けておいてくれるように頼んでいた。今までそれでうまくいっていた。だから、大丈夫だと思っていた。
具体的な条件を言っておかなかった俺にも非はあるけれど、さすがにこんな依頼は断っておいて欲しかった。妹の事で注意散漫だったのだろうか。だとすれば何の文句も言えそうにない。
次からはもっと具体的に受ける依頼と断る依頼を示しておこう。最悪、俺自身が直接ギルドに行って判断してもいいかもしれない。
「……その仮面……」
「Aランク冒険者、ノワールだ。指名依頼を受けたので来た」
「お待ちしておりました。旦那様がお待ちです。どうぞ」
あれこれ考えてもとりあえず目の前のことを片付けないと話にならない。一度受けた依頼である以上はどんな手を使っても必ず達成させる。
半ば自棄のようなものがあるのを感じながら依頼主である貴族の屋敷を訪れる。
仮面をつけた冒険者というのは個性的な奴が多い冒険者の中でもそこそこ珍しいらしく、Aランク冒険者であることも手伝って名前を憶えられていることはよくある。
門番と思わしき者に冒険者ライセンスを見せ、口頭で名乗っただけで入れて貰えるようになったのだから俺も偉くなったもんだ。Aランク冒険者になる前、少し強い新人程度に扱われていた頃だったらこうはいかない。ライセンスを見せたあとにもなんやかんやと身分の証明をすることになっていただろう。
「ノワール殿! ようやく来てくださったか!」
「遅くなってしまい申し訳ありません。早速ですが、依頼内容についての確認をさせていただいても?」
そんなどうでもいいことを考えながら案内された部屋へと入る。すると、待っていたというのがよく分かる過剰なまでの反応で出迎えられた。
今回の依頼主である貴族から依頼を受けるのはこれが初めてというわけではない。だからこそそんな気がするのだけど、なにやら焦っているようだった。元々ほとんどないも同然だったけれど、世間話なんてことをしている暇はなさそうだ。
「じ、実は、ワイバーンを討伐するために騎士が数名来ておりまして」




