キミの真相をたべたい
キミを好きになったのは、一年前の春だった。
大人しそうなキミのことを、目で追っていた。
今までに出会ったことのない、控えめすぎる人だった。
言葉数が少なく、喋り始めても、10文字続くことはなかった。
お昼はいつも、アルミホイルに包まれた、拳半分ほどの小さなおにぎりだけを食べていた。
自分から声を発することなく、いつも僕から話し掛けていた。
キミは、うつくしい、という言葉がピッタリの女性だった。
でも、久し振りにひとりで街に出たときに見かけたキミは、ボクといるときとは、比べ物にならないくらい、笑っていた。
30文字を越える言葉を早口で放ち、口一杯にケーキを頬張っていた。
交通量の多い道路沿いにある、カフェテラスで堂々と。
キミの真相を知ってしまった。
キミの本当の姿を見てしまった。
ボクはキミの真相をたべたい。
キミの真相をたべて、真相をカラダに馴染ませたい。
馴染ませて、キミが何も隠すことのない、気を使わない世界を作り出したい。
ボクは、ポケットの湿気たタバコとライターに手を掛けた。