九話
「どうして、あんなこと言ったんだろ…」
過去からの糸に絡みつかれたように抜け出せない現状。知り合って二日目ぐらいの相手に言ったところで変わるわけじゃない。変わるだろうけど、人一人私の人生に関わったところで今後の人生が劇的に変わるわけじゃない。大きな存在でなければ。
「どうしてかな、シンを見ているとあの男の子を思い出すのは……」
あの男の子は今どうしているかな、アルステート陥落したって言ってたけど……もしそれが本当なら生きてるのかな。
「……」
少し気が強そうに見えて実は結構ビビりなのに誰かのことになると一生懸命になって、自分のことなんて気にせずに行動するもんだからついていけないときもあった。財布泥棒を追いかけたり、身寄りのない子供に家を作ってあげようとしたり、向かいのおじいちゃんが倒れたときは真っ先に駆けつけて大人の手を借りずに病院まで連れて行ったり。流石に全部に付き合いきれなかったけど、そんな子だったからこそ私も助けられた。
「似てるのかな……」
ふと思う。あの子何歳だったかな。年上のような気がしてたのは覚えているけど、実際に聞いたことないや。
物思いにふけっていると前方に人影が見えた。
「はぁ~あっ、あの二人は……」
私は人間関係をよく植物に例えている。お花屋さんが出会いの場、でもそのお花屋さんは種しか売ってない。パッケージに書かれたイラストや写真を見て種を買って植えても期待していた通りに綺麗なお花が咲かないことも多い。そうでなくても、茎や葉、物によっては蔦までもが障害になる可能性がある。それを何度も繰り返していると期待通りに綺麗なお花を咲かせる種もあれば、当然期待していないのに一際綺麗な花を咲かせるお花にも出会う。そのお花と関わっていくうちに未来への期待がギュッと詰まった種を残してくれる。それが親友や恋人などの生きていくうちに出会う大きな存在。だと思ってる。
「なら、私にとってあの二人は…ぁ」
変に落ち込みながら最近のマイブームのお茶が売っているお店に着くが、こんな時ばかり出会いたくない人たちに出会ってしまう。
「おぉ、カナエちゃんじゃーん」
「カナエ…あぁ、あのアルステートの」
「ねぇ、頼みがあるんだけど」
修道着を着て旧世代の陽キャ?に似た口調で話す三人組。彼女らも例に漏れず無表情のままだ。学校の友人…と言っていいのか分からないけど知り合い、いつも私をからかって無表情のままだから楽しんでいるのかわからなくて気味悪い人たち。
始めはチロリアンランプだと思っていたのに、いつの間にかホオズキに変わってた。
「あのさ、お金貸してくれない?」
まただ。これで十三回目。
「こ、この前貸したじゃない。その分も返してもらってないのに」
そのうち返してもらった回数。
「そんな金あったっけ?ねぇ、あった?」
ゼロ。
「ないない。知らないよ」
数の暴力。寄ってたかってハエみたい。弱いものいじめ。神に対する冒涜って考えたことないのかな。AWなのにこんなことが起こるのは最早人の性かも。いい加減にしてほしい。こちらがおとなしくしているのがいけないのかもしれない。でも私はこういう人間なんだ、それを受け入れて生きてるからいざこざになることある。
「……なんだよ、その目気に入らないな…」
「なぁみんな!身ぐるみ剥いじまおうぜ!」
「いいね、それで膜がまだ残ってるか調べようぜこいつ、確かまだ処女だよな!」
私の局部を指さして言うものだから、反射的に股を閉じてしまう。
「お、この反応処女か!」
「写真撮ろうぜ」
「いいね、なんなら私たちで破瓜させてやろうぜ!」
襲い掛かってくる彼女らを見て反撃を決意する。元からそろそろ反撃してもいいと思っていた頃合い。それに私は、ナイフが好きなちょっと変わった少女。それを伝えようとしてこの前は昨日は気絶させられた挙句パシリだけど。実はそんなに悪くない感じがしてる。でも裏を返せばそういう趣味はないからこそ、この場面で少し怖くても立ち向かえると思う。
襲い掛かってきた一人目に素早く隠し持ってたナイフを首筋にあてがったとき気づいた。
この人の名前すら覚えてないんだ、私。
「どうなってもいい?」
「…へっ、殺せるのか?」
「……」
しばらく静止した後、やってみた。切り落とすなんて芸当仕込まなきゃできないから、全力で喉を切り裂く。
「……鳥皮?」
感覚としては確かに鳥皮のようだけど、見た目からして豚肉を捌いているみたいだ。
「ああぁ、こいつ本当にやりやがった!でも、あのお方のおかげで…」
切り裂いた喉が逆再生のように閉じていく。同じように血液も宙を舞い喉に戻っていく。戻った後、さも平然な顔してこちらを見て襲い掛かってくる。
「っははは!なんだよ、それで終わりかー?!えーっ?!」
最早、旧時代の不良であるヤンキー?に見えてしまった。
こちらとしても、ナイフがだめならもう手はない。シンがやっていた格闘技のようなものは旧時代の産物として、物好きの少数の人間だけがやっているだけ。そもそも資料を閲覧できる人は限られている、だから閲覧したうえで、会得しているシンは異常なんだ。私は閲覧権限もないし、ナイフが好きなだけで格闘技なんて見たこともないものできるわけない。だから、せめてできることを。
「……っ!」
全力でナイフを投げると動きが止まった。かなりの賭けだった。素人が投げても当たらないのは何度か練習してわかりきったことなのに、今回ばかりはうまくいったみたい。
ザクッ
綺麗にナイフが眉間に突き刺さって白目をむく。いつか見たサーカスのナイフ投げのように綺麗に刺さった。
「おぅ、ああーぁぁ」
「くそ、やりやがったな?」
「おうおう、いい度胸じゃねーか」
流石にこたえたようだけど、後二人。手持ちのナイフはもうない。このまま私…
「コイツ!」
1人が私を押し倒し、やけに目ではなく頭を凝視している。まさか、と思った時には遅かった。
「この髪飾り綺麗だねー、もらってあげるよ」
無理やり髪飾りを数本の髪とともに引き抜かれ激痛ほどではないが痛みが走る。
「痛っ!」
「へへ、前から思ってたんだよ。この髪飾り欲しいな~ってさ」
転がった私を蹴り上げ、痛みが再度走るが今は気にしていられない。あの髪飾りはあの子との……
脳裏にアルステートでの思い出が走馬灯のように見え、思わず涙を流しそうになるが何とか堪えたその時だった。
「やけに長いなって思ったらこれか…苦労してるんだなお前も」
振り返ると今助けてほしい相手が歩いてきた。シンならなんとかできる。
……どこから確信が生まれたんだろう。胸が痛くて、温かくて心地いい…でも、心の底が冷たくて、寂しくて切ない。
「シ、シン、いやこれは、その」
「あー、どうすればいい?」
頭を掻いて私に近づくシン。ナイフを眉間から抜きナイフを店の壁に投げる奴を見てシンは唸る。またみるみる傷が塞りっていく、白目も治り傷が完全に塞がると強い殺意のこもった視線がシンをを見ていた。
「んー?誰だお前、ちっ、まだよく見えねぇ」
「大丈夫か?いくらあのお方の祝福があるからと言っても無茶はするなよ」
「おうおう、死ぬなよ。この後あそこに一緒に行くんだろ?」
シンがどうする?と言ったように頭だけ振り向きこちらを見ている。こちらも何とかしたいと、顔で伝えるもののお互いに解決口が無いと逃げるか殺すまで行かなくとも無力化したい。
「できれば穏便にやってくれないか?」
「優しい奴め、できる限り、善処するよ」
それだけ言って、シンはマントで隠していた右手を出すのと同時にボウガンを打ち込むと、光に照らされ輝く銀の杭が再度眉間に突き刺さる。投げナイフなんかと違ってしっかり威力のある射撃だ、これで一人目の時間稼ぎにはなる。倒れた一人目を一瞬見て、二人目に再装填しながら素早く近づき、私を気絶させた時とは明らかに違う型で投げ飛ばし壁にぶつける。
相手の右手を掴み懐に入り込んで投げるこの動作を私は知っている。アルステートにいたときこの技を使って強盗を気絶させていた人がいた。もっともその時は壁にぶつけはしなかったが。もしかしたらシンとは昔見たことあった、もしくは合ったことがあるのかもしれない。
私を押し倒した三人目に装填させた銀の杭を打ち込んで倒れたのを確認し、握りしめられた髪飾りを取り返す。
「これは渡さない!絶対に誰にも!」
叫ぶ私に目くばせしたシンと走って元居た場所に戻るとノアがちゃんが顔を真っ赤にして何かを食べながら待っていた。私がノアちゃんを見て歩きに変えると同じように歩きに変えるシン。気配りがよくできる人だと感心しながら、本当に子共の世話初めてなのだろうか?と疑ってみるもノアちゃんは機嫌が悪そうだ。間違いない、初めてだと確信してシンを見る。
「激辛はまずかったか……」
「ぷっ、何してるのよ…でもありがとう。昨日出会ったばかりの私なんかを助けてくれて」
「いや、俺はやるべきことをしただけだ。知り合いが困ってるのは見捨てられない主義でな、それにその髪飾りはお前にしか似合わないしな」
「お人よしだね」
「思ったことを行動に移さないと気が済まないだけだ」
そういう彼はどこか寂しそうに空を見た。私には誰かを思い出しているような気がして、これ以上返せなかったけどなんとなく分かった。多分似たようなことを言われたことがあるんだと思う。とても身近な人、大切な人、友人。この中で言えば大切な人かな。いつもは少し怖い目つきだけど今は、とても優しい目をしていたから。
買い物が終わって荷物を牢に置いてもカナエは帰らず牢に居座った。もちろん帰宅を促したが。
「いい、帰りたくない。今はこっちにいる方が気楽だから」
あの話を聞いているためどうも強く言えない。カナエの話が本当なら時間的に母親は出かけているころだろう。行き先は分からず、帰る頃にカナエが家にいれば問題ないとのこと。
「あのな、年頃の女の子を牢屋に連れこむとか」
「そもそも、ノアがいる時点でアウトでしょ、それにこの国ならむしろ正しいわよ」
「……」
これ以上言い返すことができずにいた。その時だった。
ドンッ、ドンッ、ドンッ
急にこの部屋の明かりが消され牢屋のドアが強めに叩かれた。誰だろうか、夕飯前に。
「はい、今行きます」
警戒しながら近づきゆっくりドアを開けてみるも誰もいなかった。
「誰もいない?…?」
床に置かれた一通の手紙。アズマさんを連想して急いで拾い上げ、封を開ける。
囚人さんへ
今晩、ゼランデュ城前にきてください。
眼鏡のメイドさんも預かってます。
ご心配なく、危険な目に合わせるつもりではございません。
聖母アリア