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八話

~ゼランデュ城下町~

 ベンチにノアと一緒に一休みしているとき昨夜とは違った服装のカナエが布に包まれた銀の杭を持ってきた。

「なぁ、シンはどんな職業だったんだ?」

「あ?どんなって……」

カナエに必要なものとしてボウガンや、ナイフなどの殺傷武器を買わせていた。囚人だからか前に買おうとして買えなかったが、今はカナエいるから購入とそれにかかる資金を任せた。しぶしぶ払うカナエは俺がどんな人間か疑問をもっても仕方ない。カナエは俺の隣に腰掛け続けた。

「あの身のこなしといい、武器にまで細かいところまでこだわるなんて、冒険者か?」

その疑問にノアも反応してこちらを見上げている。

 冒険者。一応UWには職業として認められているが、その実、好奇心に身を震わせている研究者気質な奴がこの地球の未踏の地を探しているだけ。AWになってかなりの時間が経つが未踏の地があってもおかしくないと考えている人が少なからずいる。航路ができるくらい探索されてはいるが、まだ地球を外から見ていないから確信がないらしい。資料には旧時代の人間が地球の外を宇宙と名づけて、苦悩したのち宇宙から地球を見たそうだが、その頃には地球がどんな形状でどんな特徴があるのか解っていた。しかし、AWではそれまでの地球の特徴とはまた違う特徴がある上に、資源の無駄を省こうと探索に反対しているものも少なくないため一部の人間が冒険者という職業の上やっているに過ぎない。基本的にこの地球上の人間は保身に走っているのに物好きな奴らだ。そんな愚者に憧れる子供も少なくない。そのためカナエのように武器を持っている人に出会うことある。俺みたいな例外もいるが。

「違う、俺はただの狩人だ。アルステート周辺の動物を狩ってただけ。今じゃおかげさまで無職だがな」

睨めつけながらそう答える俺に対し、カナエは疑問符を浮かべ特に気にする様子もなく、続けざまに質問してくる。

「本当か?ならあの身のこなしは?あれは動物相手にやるものじゃないだろう?」

変なところで鋭い奴だ。あれは、説明しづらい。

「あー、あれはただの趣味だ。俺が資料を読み漁ったりするのは知っているだろ?」

「ああ、そうだな」

資料と聞いて露骨に嫌な顔をするカナエ、なにか嫌な思い出でもあるのだろうか。

「その資料に旧時代の格闘技というやつがあったから趣味で友人に試して身に着けていただけだ」

「じゃあ、なんで銀なんだ?」

「動物が毒性じゃないか調べるため」

「じゃあ、ナイフは…」

少し面倒になってきた。なんで自分のことを話さないといけないんだ。理由は明白だが、面倒なことには変わりない。

「いいだろう、別に、俺の好みなんだ」

「そ、そうか」

「……」

「……」

 雑すぎたか。会話が終わってしまった。どうしたものかと話題を探す。

「あー、その、カナエ今度は俺から一ついいか?」

「ああ、なんだ?」

「カナエはアルステートが陥落して滅亡したのは知っているか?」

先ほどアルステートの名を出しても特に反応がなかったのが少し気がかりだった。もしかしたら、あれはゼランデュの上位の者がやったことに過ぎないのかも知れない。もしこの仮説が本当ならば、アルステートを襲撃した答えを解決できるピースが手に入る可能性がある。

「そ、そうなのか?な、なんで?!」

その反応は偽りなどではなく本当に知らない様子。

「三つの国に襲撃された。その国の一つがこの国でな、だから俺は自由ではあるが囚人なんだよ」

「そ、そうだったのか」

心底落ち込んでいるようで、うつむいてしまった。アルステートになにか特別な思い出でもあったのだろうか。

「私は元々アルステートの人間だったんだ」

「そ、そうなのか」

「……」

ノアですら意外だったようで、視線を俺からカナエに移している。実際俺でも驚いている。この世界では別に驚くことでもない。国から国への引っ越しは旧時代のように亡命と咎められることもない。むしろ国民の数で国の権威が上がるため喜ばれる。また、離れた国からも今まで応援してしてくれてありがとうと言わんばかりに補助金すらおりる。だが、状況が状況だ。驚かずにはいられない。

「私は、アルステートが好きだ。豊かな自然にいつも温かなみんなの表情が明るくてまぶしかった」

 カナエは遠くの空を見つめ思い出を語り始めた。これから話す物語はその表情と声色から楽しかった思い出なのだと察する。

「昔の私はトラウマがきっかけで、ビビりになって、怖がりになって、引きこもってばかりいた。今とは大違いで、そんな自分のことが嫌いだった。ある時親に言われたんだこの国の人間は怖くないよ。年頃なんだから外で遊んでおいでって」

「……」

「……」 

昔のトラウマ。

これに触れるべきなのだろうか……いや、本人から話してもらうまで聞かないでおこう。まだカナエは若い、傷が言えているように見えても実際にはそう見えるだけなんてことがあっても不思議じゃない。俺もそうだった、若いころは周りには平気な顔していたからよくわかる。

「それで?外で何かあったのか?」

「うん、少し照れ臭いけど。例えるなら運命の出会いかな。親の足に隠れながら外に出て広場行った私を見知らぬ男の子が、遊ぼって言ってくれたんだ。それから自分を変えたくなって、でも右も左もわからない私を支えてくれて今の私がいる」

「そうだったのか」

「この髪飾りはその男の子にもらったんだ。僕の事忘れないでねって」

昨夜あの服装の中で移異色を放っていた髪飾りにはこんなエピソードがあったとは。実際見やすい時刻に見ると、光がガラス部に色鮮やかに反射し、万華鏡のよう。さっきはわからなかったがどこかで見たことあるような気がした。どこだろうか……いや、やめておこう。

 実にありきたりな心温まる物語。でもカナエにとってはそれが大事な思い出。本人にしかわからない感情もあるだろう。

「どおりで、あんな装備の中でも外さないわけだ」

空を見ながら物思いにふけるカナエ。こうやって改まってみると素体も良くかわいい部類に入るのではないだろうか、また髪飾りも相まって実に異性だけでなく同性すらを惹きつけるような可憐さだ。

「どこで何してるのかなって思っているのか?」

「よくわかったねって、当たり前か。そうだよ、もし、会えるなら会ってみたいなって」

一度驚いてこちらを見た後、寂しそうな顔をしてまた空を見上げた。あの街があった方角だ。

「会って何する?」

「そうだな…お食事して色々話してみたい。ってまだ一年も経ってないけどね」

「そうなのか、ならカナエはどうしてこのゼランデュに?」

その問いかけにカナエはどうもしっくりしない顔をしていた。今でも納得していない様子。年頃の女子だ、離れ離れになることを望みやしない。ましては自分で運命の出会いなんて言ってしまうほど恋に酔っているんだから。

「よく解らないんだ。数か月前かな、ゼランデュから出張で帰ってきたお父さんがいきなり引っ越しを言い出してこの街に住んでる」

「両親は?」

「わかんない、お父さんは引っ越して直ぐ城に呼ばれて、家に帰って来たらうれしそうな顔して出張に行っちゃったんだ。お母さんはいつの間にか無表情になってて、いつも夕方居なくなって朝帰ってくるんだ」

ここまで聞いてピンときた、ゼランデュにどうしてこのような状況に陥っているのかに繋がることだと。ここは少し傷口をえぐってでも聞くべきだ。

「そうか、その様子だと、カナエは不満みたいだな」

「そりゃね。こっち来てあんまり友達出来ないし、できてもみんなお母さんみたいに無表情だし。この国の法律変だし。お父さんこの国のどこが気に入ったんだか」

ふと、ゼランデュから脱出した後のことを思う。カナエを連れて行ってしまえばと。でも、カナエには家族がまだいる。その上、行く当てもない。少なくともそのことを後先考えずに言える程の度量はない。

「……」

これ以上話す気はないと俯いてしまった。結局有益な情報はあまり分からなかった。こんな風な交渉じみたことはいつもリオンに任せてたので不得手だ。

「ごめんね、空気悪くしたよね、あ、あの私、ちょっとみんなの分の飲み物買ってくるね!」」

「お、おう」

「……」

言い切る前に駆け出して行ってしまう。無理するなと止めることすらできず、頭を掻く。リオンならもっとうまくフォローして話を続けていたと思いつつノアを見る。ノアも同じのようで俺とカナエの後ろ姿を交互に何度も見てあたふたしている。

「なぁノア」

「……」

無言でこちらの表情を覗いてくる。ノアにも人間だから当然過去はある。喋らないこと、なぜアルステートにいたのか、来る前はどこにいたのか、なぜ宝石を持っていたのか……聞きたいことは山ほどある。でも、今はノアが一緒にいることで満たされているような気がしている。だから聞いてしまってその感覚が壊れてしまうのが怖い。

「思い出は……過去は、思い出すぐらいが丁度いいのかもしれないな。いつまでもすがり続けて感傷に浸ってものはよくないと思うんだ、今はそれでよくても未来が変わるわけじゃない」

「……」

「……」

ノアの顔を見ていたら気まずくなってカナエみたいに空を見つめる。今日は雲の流れが速く黒い雲が遠くの方に見えた、今晩あたり降るだろう。

「……」

「なんてな、自分が言えたことじゃないか」

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