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三話

クローゼットの中にしばらく隠れていたら不思議と落ち着き様子を伺いつつ考察を始めた。

「それにしても、なぜこの国を今、二つの国が攻めてきたんだ?」

 無論、つい口走ったところで誰かが返してくれるはずもなく、整理のための因子にしかならずに考えを巡らせる。あの子が関係しているのは多分関係あると見てもいいだろう。しかし、女の子一人にここまでするとも思えない。あの空色の宝石関連かもしれない。あの宝石はホリスというアルステートとフロストパエーゼに挟まれた国で今はある事件により空に浮いている。飛行機でも到達どころかなぜか見つけられない。最早幻に近い国で極少数生産されていた特別な宝石。ある特別な力があるせいか他の鉱石を使った偽物がぼったくり価格で市場に出回っているところを何度か見たことがある。ただ、ホリスの人間にしか使えないためか売れているところを見たことはない。そのホリスの人間は希少な上に世界中に隠居している。アイツもそうだった。

「だが、あの宝石には確か」

 口に出した瞬間にこの部屋のドアがゆっくり開く。エレステートの兵だろうか、にしても用心する奴もいたものだ。あいつらは基本荒い。ということは、リュシオルエタの工作員か。それにしては歩き方が変だ。それが忍術というやつなら別だがどうも怪我を負い片足をかばいながら歩いている。腰袋の中には予備の折り畳み式ナイフ、銀の杭が八本、それを射出する折り畳み式の小さなボウガン、人間用のソーイングセットが入っている。現役だったころの逸品だ。たまに手入れをしているせいか今でもに一切の錆は見られない。今でもたまに使う頼れる相棒たちだ、幸いソーイングセットは使わずに済んでいる。一番の相棒がいないことに違和感を感じつつもクローゼットをゆっくり開け、ベッドに近づいた相手の背後を取り相手の脇から手を伸ばし喉に銀の杭を当てる。

「静かにしろ、お前はどこの所属だ?」

 相手の服装や装備は見たことないものばかりで、どれも手入れが行き届いているのか新品に近い。いや、新しいのかもしれない。見たところ女性。この髪色、匂い。あれ?でもどこかで。

「……もしかして、シン様ですか?なら杭を下げてください。現役を退いた身とは言えその実力は折り紙付き……それに、まだ、死ねません」

「ア、アズマさん!?ですか?」

この声。確実のにそうだ。少しおびえているがアズマさんだ。でもなんでこんな格好を?こんな格好のアズマさん知らない。いつものフリルの着いた可愛らしいメイド服しか見たことないせいか?

「そ、そうだ。速く、下げてくれ。この子が怖がっています」

この子と言われハッと気づく。女の子がアズマさんに抱き着きおびえている。素早く杭をしまい、ドアを閉めベッドの陰に三人で隠れる。

「どうして?さっきはいなかったのに」

「ここにいたとき足音がしたから、その足音から逃げるようにハイドアンド・シークしていました」

「イタチごっこだったわけですか」

「ああ、すまない。私も早く確認していれば」

「いえ、こんな状態です。無理もありません」

 アズマさんの綺麗な体には不釣り合いなほど刻まれたいくつもの傷。その中でもひときわ目を引く右の太ももには赤く染まった包帯。その部位だけ細く見えるほどかなり強めに巻かれているのが見て取れる。おおよそリュシオルエタの兵士にでもやられ相当無茶していたのだろう、出血が止まっていない。アズマさんの顔色も青白くどこかで安静にさせないと命が危ない。

「どこかゆっくりできる場所はないですよね」

「い、いえ、はぁ、ここのベッドの下に王の隠し通路が。そこのクローゼットの下にレバーがあります。倒せば開くはずです」

時事通りにクローゼットの下に手を入れレバーを倒すとベッドの下からカギが開いた音がした。

「このために無駄にクローゼットが並んでいたんですね」

「無駄ではありませんよ?さ、参りましょう」

 アズマさんを先頭にベッドの下に入り込んでいくが女の子は怖がって入り込もうとしない。

「どうした?」

「…」

しばらく口をパクパクと開閉させていたが辞めて左右に首を振る。

「ん、っんんん」

行きたくないという意思表示だろうか。その場からも動こうとしない。どうしたものか。女の子どころか、子供の相手なんてしたこともない、しかしアズマさんにあまり負担をかけるのも悪い。とにかくここを離れることを目的にしなくては。

「どうした?」

床下からこちらを心配する声が聞こえる。

「いや、何でもありません…」

 とりあえず強引に抱きかかえ手で目を隠して、体をベッドにぶつけながら時間をかけ地下に入り込む。成人女性ならまだギリギリ入れるが、成人男性は少し窮屈なのに女の子を抱えている。多分女の子もあちこち体をぶつけたり擦ったりしているだろうからあとで謝っておこう。ユウキなら進んで入り込んでいそうだ。

 先に降りていたアズマさんが灯籠を用意してくれていたため完全な暗闇ではない。コンクリートで作られた洞窟に木材がいくつか柱として立っているのがわかる。階段の脇に開閉レバーがありアズマさんが向かっているのかがうっすら見えた。階段を慎重におりて女の子を床に下ろす。案の定俺たちはあちこち擦れて女の子は涙目になってこちらに訴えている。

どうしてか、眉にしわが寄って一緒にため息が出る。

「ごめんな、でもこうするしかなかったんだ」

しゃがみこんで目線を合わせながら謝る姿を見て開閉レバーを倒しながらアズマさんが微笑している。何か変なところでもあるだろうか。

「あなたでもそんな風に困ることがあるのですね」

立ち上がり、灯籠を預かって開閉レバーを倒し終わったアズマさんを床に座らせるが微笑とは裏腹にさっきよりもあきらかに顔色が悪い。

「ありますよ、それよりも自分の体を大事にしてください。ここには何があるんですか?ベッドでもないんですか?」

再び立ち上がろうとするアズマさんを止めながら、声をかけて抑える。女の子も心配そうに見つめている。

「こ、この先に休憩所がある。そこには、一人分の飲食物と、ベンチがある」

 一度灯籠を床に置きどんどん顔色が悪くなっているアズマさんを肩に担ぎ女の子についてくるように言うけれども、ついてくる気配はなく少し震えている。

「どうした?怖いのか」

「……」

やはり言葉は使わず、頭だけを動かし静かに肯定してくれるが、どうすればいいのかわからない。年下と関わることもあったがここまで離れていると分からない、少なくとも十五以上は離れている。どんな心境なんだろうかとしばらく考えていると。左手を握られた。

「……」

無言でこちらを見つめる目はかすかに濡れている。

「手をつなげばいいのか?」

なにがなんだかわからないままつないでみる。こういったものは信頼関係がないと無理な気もしたが、わからないものだ。少し勉強しておくべきだったかと反省しながらもコンクリートの道を進んでいく。コツ、コツと反響だけが後に残った。

 灯籠があるからわかるがなかったら靴の反響と壁を頼りに進むぐらいしかできないだろう。女の子が俺の体に隠れながらギュッと左手を握っている。恐怖心を和らげるためにも話しかけてみるのはありだろうか。だが何を話したらいいのだろう。好きなもの?名前?それとも何かもっと別なこと?

「ねぇ、君は…君のことを教えてくれない?」

涙目ながらも不思議そうにこちらを覗き込んで眉をゆがめているのがかろうじて分かった。

「……」

無言のままこちらを見るだけで口を開く様子はない。

「その子ユウキ様にも全く口を開こうとしなかったんです。その上近づいてくれることもなく私も手を焼いていました」

女の子はうつむき、俺の手をつかんで離さない。

「……」

「ずいぶんなつかれてるみたいですよ。シン様のやさしさに気づいておられるのでしょうか」

頭を掻きたくなる動作を抑えながら否定する。

「やめてください、俺がどんな仕事に就いていたか忘れたわけではないですよね」

アズマさんは苦しみながらも微笑み、何を言っているのかと飽きれているように見えた。

「ええ、でも。そんなあなたの本質をつかみ、支えてくれた素敵なお人がいらっしゃったじゃありませんか」

「……」

女の子は不思議そうに顔を覗いてくる。興味を示しているらしい。俺なんかの過去を聞いたところで楽しくもないだろうに。

「さあ、もうすぐですよ」

「ええ」

 アズマさんをベンチに横たわらせて、羽織っていたマントを脱いで、しゃがんでアズマさんの包帯を取ってみる。血でよく見えないが傷口は大きくパックリ開いているようだ。常人なら既に気を失っているだろう。すごい人だ本当に。

「水は…あるか?」

「ええ、そこの箱の中に備蓄してある飲料水があったはずです」

取ろうと立ち上がると、女の子がペットボトルに入った水を両手に持ってこちらに差し出していた。綺麗な青い瞳が力強くこちらを見ている。

「……っ!」

女の子の方を向きちょっと微笑んでお礼を言いながら撫でて受け取る。

「ありがとな」

「……」

 口は開いてくれないが少し、口元が緩んでいるのが見えた。無言でも伝わってくる可愛さに思わず抱きしめたくなるがぐっとこらえて治療に専念する。ペットボトルを開け傷口にかけて綺麗にし、マントをちぎってふき取る。腰袋からソーイングセットを取り出し傷を縫合して、再度マントをちぎり汚れてしまった包帯の代わりに巻いた。なんども痛みに悶えるアズマさんだったがこちらに支障がないように我慢しているのがはっきり分かった。でもこのままよりは遥かにマシだろう。ソーイングセットの糸も丁度無くなった。後片づけをしつつ、痛みが少しでもまぎれるように言葉を交わす。麻酔無しでやったから本当に痛かったはずだ。

「すみません、これくらいしかできなくて。ああ、無理に喋らなくていいですよ」

「いえ、話でもして少しでも目を背けたいので、かまいませんよ。それにありがとうございます。相変わらずいい手際でした」

「いや、当然のことをしたまでですよ、それにしても久しぶりに見ましたよ、ペットボトル。確かにこういう緊急時には便利ですが、資源的に問題が多いですよね」

「私はそんなものよりもあなたのそんな顔の方がよっぽど珍しいですよ」

ハッと顔を触ると、口元が緩んでいた。こんな時だというのに不謹慎かもな。

「悪い」

「いえ、あなたはもっと笑うべきですよ。今回はマントに助けられましたが、あのお方がご存命の時マントなんて羽織ってなかったですよね」

「……」

「……すみません。何を言っているのでしょうね」

話題を変えて少しでも話そう。この人には消さないといけない恩がまだまだある」

「そういえば、その服装どうしたんです?」

「これは緊急時にとユウキさまがメイド全員に用意していたものです。私しか着ることができなかったみたいですが」

黒を基調とした伸縮素材でできた、ボディスーツ。奇抜な恰好ではあるが、胸部をはじめ比較的攻撃を受けやすいところには装甲がついており防御面も問題ない。武器も携帯できるようにカラビナやゴムがつけられている。スレンダーな体系のアズマさんのボディラインがくっきりとわかって少々目のやり場に困る。ユウキってこんな趣味あったんだな。

「さ、そんなくらいことよりこの先の予定を考えましょう」


 小一時間ほど休憩したしながら話し合った結果、この避難路を出て他国に逃げ込むことまでは決まったしかし、どの国に逃げるかも重要だが、どこに行こうにも移動手段の確保が難しい。アルステート周辺の動物を使おうにも、いるかどうかの確証もない。一応この避難路はホリス跡地に出るみたいだが、先に待ち伏せされているのかもしれない。あらゆる可能性を考慮すると動けなくなるため成功率の高い手段をとるのが鉄板だが。

「どうしますか?」

「正直八方ふさがりですね。隠れながら行動しても食糧の問題もある上、私がお荷物」

いくら縫合したからと言ってもすぐに動けるわけじゃない。もし走るようなことがあれば糸が切れて傷が開いてしまう可能性も捨てきれない。

「……いえ、例えアズマさんが五体満足でもこの状況は変わりませんよ」

「それもそうですね、撤回します」

「気にしないでください」

「……」

「……」

「……」

 何も状況は変わらない。ここにいても食料が尽きるか、敵に発見されるだけ。手持ちの持ち物は主に対人用の武器がある程度。一人ぐらいならどうにかなるかもしれないが、一人殺せばさらに敵が来るかもしれない、例え敵に成りすましたところで助かるのは俺だけかもしれない。全員が助かる方法はないか?と、女の子を見てふと思い出す。

「空色の宝石」

「どうされました?シン様。宝石…?ああその子の」

「ああ、宝石には何か特殊な能力がある」

ポケットから、少し形の違う。の宝石をとりだす。違いは色がと装飾。空色に対してこっちは赤色。空色は装飾が無く、赤色は何かの形を模しているのがわかる。何を模しているのかわからないが。

「宝石の色は能力を表しているみたいで、こっちの赤は赤にまつわる能力を扱える」

食い入るようにアズマさんが体をゆっくり起こす。女の子は自分の胸のペンダントと見比べている。

「空色なら空にまつわることができるのではないでしょうか?空を飛ぶとか」

少なくともかなりの自由が利くみたいで、よく赤色の宝石で料理のための火力を上げたり遊びでマグマを作ってみたりといろいろ暴れていたやつをよく知っている。

「この状況を打破できる可能性があるのですね…」

「ただ、使える人間が限られていて、その、やっぱりと言いますか、都合のいい能力には問題として使用者は使用者にしかわからない副作用みたいなのがあるみたいで。あいつは良く泣いていた……でも涙が止まらないのになぜか使っていた」

二人して女の子を見るが、よくわかっていないみたいだ。この子に頼らざる負えないのか?いや、まだこの宝石には欠陥がある。

「それに使用者のイメージが反映されるためか、不完全だと不発になるんだ。そうなると次仕えるのは丸一日後」

「そうなれば食料よりも、敵に見つかる可能性がかなり高くなってしまいます」

女の子の肩に命が二つ乗っかるんだ。失敗する可能性の方が高い。かなり分の悪い賭けだ。そう思った時だった。

「そうです~そんなことに使われたら困りますよ~」

 ふいに暗闇から声がした。反響する足音と共に黒い服装の修道女の姿が見えてくる。表情は黒い布で隠れて伺えない。どうやら一人じゃないらしく、足音が反響しているからよくわからないが数十人はいる。それを視覚でも確認すると。とっさに赤い宝石をポケットに忍び込ませる。

「あなたたちは、ゼランデュの聖母」

アズマさんが警戒心と焦燥感を漂わせていた。無表情の不気味な女。ゼランデュの中でもトップあたりにいそうな雰囲気を醸し出している。

「あら~知っていましたか~。なら話は早いです~、私はゼランデュの修道女をまとめ上げる聖母アリアと申します~私の願いは一つです~投降してください~そうすれば命だけは助けましょう~」

 無表情のまま言われる姿がどこか懐疑的だが投降するしかなかった。目隠しされ、手を縛られ馬車に乗せられる。行き先は感覚だが方角的にもゼランドゥなのは間違いないだろう。命は助かるみたいだが、どうだかな。投獄されるか、奴隷がいいところだろう。アズマさんは別の馬車で治療を受けているみたいだ。慈悲深いと言えばそうなのだろうが、果たして正気でいられるだろうか。まさに神のみぞ知るなんてな。

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