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一話

 親愛なる「君」へ。

かつて戦争があった。

地球上のすべての国がぶつかり合い、滅ぼしあった。

占領され、凌辱され、働かされ、見世物にされた人もいただろう。私がこうして生きているのは神が寄越した祝福だろう。生きていることが素晴らしいと生まれて初めて思えたくらいだ。

だが、戦争は酷かった。地獄絵図とよく言われるがあれは違ったよ。あれは…そうだな「秩序無き日常生活」とでも言おうか。

秩序がなくなったがために人は私利私欲のままに暴れてたさ、でも今までの何ら変わらない雰囲気を出してるんだ。みんな。そう、みんなだ。

しかし、一度爆発音が轟けばみんな何も言わずに逃げたり銃を持って戦うのさ。虫一匹殺せない貧弱そうな青年でも銃を持てば人を何食わぬ顔で殺してたよ。

 確かに戦場は地獄だ。

この身で受ければほぼ致命傷が約束される銃弾と憎しみと悲しみの混じった怒号が飛び交い、戦場で恋人の名を叫ぶ者もいれば血潮をまき散らした肉塊もあった。

誰もが望まなかった戦争。

 長かった。ああ。長かった。

妻が蒔いたアイビーが何度も枯れるくらいね。

結論からすれば俺たちは終わらせることができなかったって答えるさ。

そう、それが「寵愛の大洪水」。神の怒りだって言う人もち。人は始めることはできても終わらせることはできない。戦争も例外じゃなかった。でも終わった。

どうしてだと思う?

……。

 私にもわかってないし、歳が近い奴に聞いてもわからない。恐らく誰かが何かを始めたんだろうさ。それが結果的に戦争を終わらせた。

バカみたいな話だが本当のことだ。俺も経験したからな。

 ある時。そう俺たちは前線に背を向け死にもの狂いで味方の船に走っていた時だ。何かにいきなり包み込まれたんだ。柔らかくて暖かい水のような何かに。俺が見る限り全員。後から聞いた時にはびっくりしたよ、ホントに。地球上の全人類がその水のような何かに包まれていたなんてな。

視界が開けると、妙にまぶしくてなかなか目を開けられなくてな。ようやく明いたと思ったら全裸なんだ、飛び上がるほどびっくりしたよ。なんて解放感なんだってな。

ははっ、冗談だよ。ただ、地球上のすべての人間が同じ目に遭って、見たことない場所に立っていた。服も何もかも作り直し。だから初めから作り直したんだ、それまでの文明が混ざって少し面白かったよ。

 それからこの世界が出来上がったんだ。

文明も、歴史も、今を生きるためのお金も行きつけのバーも、将来生まれるはずの子供やら、輝かしいであろう未来も、そう、何もかも全てさ、全て作り直した。言い方を換えれば、全てリセットされたのがこの世界。

「ユビキタス」だ。


『戦場を駆け抜けた男が書いた手紙の一部抜粋』


~アルステート城下町端~

「お前が適任になんだってさ」

「なにが?あぁ?こんなしみったれたオンボロの納屋みたいな酒場で酒に飲まれているこの俺が?意味わかんねぇな」

 店の悪口に反応した客と店員が一斉にこっちを向くが気にしない。相手したところで意味もない。

そんなことよりも俺には足りないものがある。

「なあ、リオン、金貸してくれよ。今月ピンチなんだ。昔のよしみとして、な?な?」

リオンは心底あきれた様子でこちらを見る。英国人らしく整った顔に綺麗な金髪なのに七三分けをしている。叔父が日本人だからあこがれているんだと、服装も質素。一応貴族出身だが悪い気は一切しない。”いい奴”。

いつもの調子でため息をこぼし、何度聞いたかわからない俺への悪口を並べる。

「はぁ、あのな”何度目”だ?年一回ならまだわかる。それこそ昔のよしみ…学生時代からの付き合いだから貸しもしたさ、でもな月に何度だ?今月何度だ?何度そのセリフを口に出した?」

まったく。そのセリフそっくりそのまま返してみたいね。お前は何度そのセリフを口にした?って。めんどいからいつもやめるけどな。

「…わからん。いちいち覚えてない」

目をそらし逸らし夜空を見上げる。


 まったくこいつは、いつもこうだ。いや、前は違うか。

「だろうと思ったさ!俺が覚えている限り24回だ。いいか?そろそろ聞き飽きたんだよ!ってどこ見てる!こっちを向け!」

「あんまり大声出すなよ…空気が汚れる」

以前と雰囲気が大きく変わった。どこか空虚でトゲトゲしい。それでも態度は変えないあたり、こいつの素とでも言ったものか。”あの頃”のこいつは軍服が似合うほどの厳しい奴で口うるさく、綺麗好きでAW前の資料をよく見ていた物分かりのいい奴だった。二重の意味でも。それにいつも飽きれていたのは俺じゃなくこいつのほうだった。「お前は相変わらずダメなところはだめだなって」。なのに今は。

店主に「今日もツケで」といつものように言って店を出る。

「おい、まだ話は終わってない!それにまだ重要なこと…あーも行くなって!」

俺はしっかりと払って店を出る。生真面目に「あいつの分も払います」と言って。

リオンが店を出るとすぐ目の前に奴はいた。

「なあ、シン。話すことが……」

「静かにしろ」

それだけ言って空に顔を向けながら目を閉じ深呼吸している。

焼酎を一升瓶4本飲んだにしては落ち着いている。さっきまであんなに酔っていたのに。やっぱり忘れられないか…他のことはどうでもいいとぬかすのに。

星が降る程綺麗な夜空までもが祝福してくれていたと思っていた。あの日のこと。

気持ちはわかる。いや。わかった気になるしかない。親友として支える。俺にできることをしてやらなきゃいけない。

ここまで腑抜けたのもあの日が原因なのだから。誰のせいでもないからこそ、周りが支えてやらなければならない。

 元々シンは完壁主義で曲がったことが大っ嫌いで、酒もあまり飲めなかった。それこそ一升瓶の半分すら飲めなかった男で、学校ではいつも学級委員じゃないのに学級委員の仕事したり、周りの奴らをまとめたり。

とにかく俺のイメージした日本人そのもので。責任感の強い人間だった、そんなシンに俺はいつの日からかあこがれていた。本人は人前に立ちたくないと言っていたがこいつにはその素質が十分にあったと誰もが思っていただろう。半面友人付き合いが苦手で友達は少なかったが。いい奴だった。転校して質問攻めに遭い、困っていた幼い俺に親切にしてくれた本当にいい奴だった。

今では無精ひげを生やし、ろくに手入れされていない髪。オンボロなマントにTシャツ。部屋は埃っぽく、いつでも薄汚れたカーテンにより日差しが遮断されいつでも薄暗い不気味な部屋。亡くなった曾祖父の部屋のような。いや、そっちのほうが綺麗か。まあとにかくこいつはすっかりヘタレてだらしない。

 そんなシンが唐突に声を出した。

「なぁリオン、俺に仕事だろ?どんな仕事だ?」

そういうシンに「ああ、そうだよ。”国王直々に”お前に頼みだとさ」変わらぬ調子で説明した。俺ができるのお前に対する態度を変えないことだけだ。俺はあの人の代わりにはなれないうえになりたくない。俺には一緒に頑張ることはできても支えることはできない。

なぁ、シン。俺も頑張るから頑張ってこいなんて無責任か。


~アルステート城~

 後日。リオンに言い渡された時間に城を訪れた。

城下町というだけあって街を見下ろすように建てられている城。この世界、「ユビキタス」で一番街を繁栄させ、最高の権力を持った身分の根城アルステート城。城主が優しいせいかいつも国民は笑顔で働いている。

ここ、アルステート王国は世界の中心。ここを中心にひし形上に国が八つ存在している。北のフロストパエーゼ、北東のボレディーゴ、東のゼランデュ、南東のファトアリー、南のウルトゥテイア―、南西のリュシオルエタ、西のノトスバラット、北西のエンスタート。さらに、アルステートの上下にも国がある。下にエレステート。現在はこの九ヶ国で世界は回っている。なお、前世界では様々な大陸に分かれていたが今となっては一つの大きな大陸になっている。端の国より外側が海になっていて無駄に船を走らせることもなくなった。もちろん、地球は丸いので西のノトスバラットから東のゼランデュに船で行ける。前時代の飛行機などの乗り物も開発されたが、前時代の人々が燃料などの資源について頭を悩ませたことから、少数だけ生産されたがあまり運用されていない。代わりに馬などの動物を用いて移動することがほとんどだ。また、最近の調査で分かったことだがどうも地球が前時代に比べかなり縮小しているようだ。

 つり橋を渡り、警備兵に話を通されているのかすんなり通され、召使の案内で中庭を通りいくつかの大きな扉とくぐり、ひときわ目立つ扉の前に立たされる。

「シン様。どうぞ中へ国王がお待ちしています」

「ありがとうございます」

どうも緊張してしまう。静寂と緊張感が支配するナイフのような空気。吸っているだけで喉から出血してしまいそうだ。

「失礼する!」

扉をゆっくり開け、進んでいく。豪華な装飾に左右両端に佇む槍を持った兵と不愛想な召使、いつ見ても眉間にしわが寄ってる家臣。いつ来ても落ち着かない。昔、それこそ小学生時代は何度も来てはイタズラして怒られていたはずなのに。不思議だ。

 王の御前までたどり着き、跪き「国王よ、お呼びでしょうか?」となれない言葉遣いで話す。

「おお、シンよ。まずは呼び出したことを詫びよう」

「いえ、私は国王に仕えるものとして当然で有ります」

跪き、国王を見上げる。ザ・王様ってイメージよりもかけ離れている塩顔だけど、頭に乗った王冠が王様という権威を表している。昔とは違う雰囲気。冷酷で残酷とはかけ離れた奴なのにな。無理しちゃって。いや、無理してるのは俺か。ちょっとでも気を抜けば倒れてしまいそうだ。

「国王…か。そうシンから言われると慣れないな。下がれ。私はシンと二人で話がしたい」

そんな俺を気遣ってか身振りでも兵と召使い、家臣を下がらせる。

「久しぶりだな、シン。楽にしてくれ」

立ち上がり、友人の顔を見る。向こうも顔を見せてきて雰囲気が学生時代に戻る。こっちのほうがお前らしい。

「ひさしぶりか?」

「ああ、約3か月ぶりだ相変わらず顔色が悪いぞ?シン」

「そんなお前は少しやせたか?ユウキ」

自分の体を見渡しニヤッと笑う。冗談でもこんな国王はいやだな。ガタイの良い筋肉モリモリマッチョマンの変態国王様とか兵士が泣くわ。少なくとも俺が兵なら職務をサボる。

「忙しすぎてわからなかったよ」

 なんて冗談交じりに会話を始め、昔話を少しした後。俺が落ち着いたのを感じ取ったユウキは急に真剣になって話始める。王の雰囲気というより、一人の人間としてのプレッシャー。

「シン。今回呼んだのは頼みがあるからで」

「おう、ユウキの頼みならできる限りは聞くぞ?あ、愛より重たいものは箸と酒しか持てねぇけどな」

微笑した後ユウキは見せたいものがあると俺を国王自慢の寝室に連れて行った。そういう意味か?と思ったがこいつにそんな趣味はないはずだ。多分。おそらく。きっと。そうであってほしい。

国王の寝室と言うだけあって無駄に広い。そのうえ、毎日掃除されているせいか埃一つ見当たらない。あとはこいつの趣味でゲームやフィギュアなどの私物が多い。こんな国王は嫌だ。

なんてここに訪れるたび思っていることを再度確認しているところ。

キングサイズのベッドの上に子供が寝息を立てていた。女の子だ。

「おい、お前、隠し子でも作ったのか?」

「違う!勘違いするなシン、これ……いや、この子は、保護したんだ。そしたら、アズマさんにこっぴどく叱られてな」

 アズマさんはロング銀髪眼鏡のメイドさん。ユウキの小さいころからお世話になっているかなり美人な女性の使用人で、俺も何度か会っては一緒に怒られたことや、ユウキの愚痴を聞かされたこともある。いつも落ち着いているせいか年がかなり離れているイメージだが実はわずか三歳差だったことは衝撃すぎて今でも忘れられない。

「いや、お前がお人よしなのはわかるがなんで人さらいなんか」

「いや、さらってないって。俺がたまに庶民的な服を着て城下町を歩くのは知っているだろう?」

「あ、ああ。あの知らない人がみるとホントに庶民にしか見えないやつな」

確かにユウキは何度か城下町で遊んだり散歩して現実逃避している。本人曰く「民を知ることも国王の務めだ」と言ってはいるが、実際は俺と変わらず質の悪い酒を飲んでは酒場のおっさんと戯れ、吐いては飲みまた吐いている。そして帰ってはアズマさんにこっぴどく叱られる。なぜか俺含めて。

「この前この子を道端で倒れているところを見かけてな。声をかけても返事がなくてどうしたらいいかわからなくてアズマさんに頼って回復したはいいんだけれど。ほら、よく見てくれ」

こいつの話で夢中になってよく見ていなかった少女に目をやる。

10歳くらいだろうか。肩ぐらいの髪に幼いながらも整った顔立ちだが、綺麗な肌にいくつもの包帯が巻かれ目を逸らしたくなる。が気づく。

「ってやっぱり誘か…おいこれ…このペンダント」

少女の胸には服装とは不釣り合いなほど綺麗な空色の宝石。装飾されているわけではないこの宝石には見覚えがあった。

「そう怖い顔するなシン。偶然だ。別にお前の…」

「ああすまん。偶然だよな。一応確認するがアイツ親威ってわけでもないよな」

「わからないが、おそらく可能性は低いだろう」

こいつの思惑がわかった気がする。

「お前まさか」

渋い顔して目を伏せていたユウキに聞く。

「この子を俺に預けると?」


~アルステート城下町端~

「おいおい、それで断ってきたのかよ」

「悪いかよ、いつまでも忘れられないんだよ。いや忘れたくないだけだ」

「だったらなおさら」

 結局俺は断ってきてリオンといつもの酒場で飲んでいる。

「嫌なんだよ、一緒にいてあいつのことを思い出すのが」

「それ、あとあと胸糞悪くならないか?」

半分も焼酎の入ったはグラスを飲み干して伏せる。

「いいんだよ、それで。マスター。同じやつ」

同じグラスで、同じものが準備される。

「あー、マスター。いつものじゃなくて、海野伊蔵を。二つロックで」

「おい!いいのか?海野伊蔵と言えば市販されている酒ではトップクラスの焼酎。頭文字をとってU3と呼ばれるうまい焼酎に入る焼酎の中で最高だと言われている一品だぞ?」

そのうえ俺のと言いかけたところでグラスが運ばれて、リオンはニヤッと笑う。

「こいつがお前の好物なのは知ったうえで、今日は付き合うよ。今日は俺のおごりだ。飲め」

瞬間。そう、その言葉を待っていた。いつもは遠慮していたが今日ならばと言わんばかりに口が動く。

「マスター!さきいかと、からすみ、あとホタルイカの塩辛。これ飲み終わったら次は極上の一滴で」

リオンは財布を確認しながら赤い顔に若干の青い汗をにじませていた。

「ほんと現金な奴…というか!思ったが今回も、俺のおごりか!」

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