97話「悪の秘技! 『修羅外道』!!」
「大阪中に中継されてるから黙ってなさい! はしたないわよ!」
「あ~~! ジャマミは出てくんな~~!!」
「その名前は止めて!!」
「あたしはナッセちゃんと話ししたいのっ! すっこんでてっ!」
モニター越しで、ヤマミとエレナの二人はギャーギャー言い争いしてしまう。
誰もが唖然。ナッセは恥ずかしすぎて簡易ベッドにうつ伏せだ。
仰向けで倒れているレンスは、懐から抜き出した薬を口に落として飲み込む。
全身を光が包み込むと、さっきまでがウソのように平然と立ち上がる。
未だ言い争うエレナの背中を睨み、憤りが胸中に湧き、ビキビキと額のシワが険しくなる。
「あのメスガキ……!」
バイオネエさんも自分も、女性という生き物が大嫌いだ!
小学生の頃から、女であれば先生にも暴力を振るった。
気に入らない女は、監禁し、暴力で黙らせ、無気力に陥らせるたびに快感を覚えた。
趣くままに多くの女性を次々と袋叩きしていたら、怒った大人たちが卑怯にも創作士を呼び出してまで取り押さえてきた。
そのまま籍を抜かれ、家族や親族からも縁を切られ、バイオネエさんともども閉鎖病棟に入れられて暮らす事になった。
そこでは自由を許されず、暴力も通用しない。どん底で真っ暗闇な所……。
だがある日、開いたドアから後光のように、とある男二人を神々しく照らした。
「やぁ、職員皆殺しにして迎えにきたよ!」
「おお!! 君ら好みやん! 今夜付き合ってくれへんっ?」
オカマサとドラゴリラだった。
その時から、バイオネエさんとも一緒に心がときめいた。
あの二人と出会ってから、本当の人生が始まったのだ!
パンダと化したバイオは「ぐ……! 女のクセに!」と焦燥していた。
リョーコと交戦中だったが、共に満身創痍。
「スラッシュ・スレイヤァー!!」
リョーコは斧を横に大きく振るい、広大な三日月の刃を飛ばす。
バイオは憤って「クソアマがァァァァ!!」と両腕を振り下ろして地面に打ち伏せた。それは道路に大きな亀裂を刻み、土砂と破片を巻き上げた。
「もう一丁……」
気付けばリョーコが間合いを詰めていた、瞬時に漲ってくる膨大なオーラ。バイオは血眼で見開く。しまっ……!
「クラッシュ・バスタ────ッッ!!!」
「がッッ!!?」
強烈な渾身の一撃がバイオの胸に炸裂!
弾けるような衝撃で轟音を鳴り響かせ、深々と振動と激痛がバイオの全身を走った。滝のように吐血が溢れる。
「がはあぁっ!!」
バイオはビルに突っ込んで、衝撃波の噴火が破片を散らした。やがてビル全体がガラガラと瓦解する。
リョーコは「ふう……」と息を切らす。額から右気味に血が垂れていて顎まで伝っている。至る所に汚れと傷。服も少しボロボロだ。
「って! ちょっ!?」
レンスが不穏な気配で立ち上がってる事に気付いた。
エレナのカウンターを喰らって倒れたはずなのに、平然としている……。
マイシが叫んだ『瞬間全回復の劇薬』で、ハッとする。
「まさか……!?」
バガアッ!
瓦礫を吹き飛ばして、バイオが平然と起き上がってきた。
怒りを滲ませている形相。熊とパンダの二人。エレナもそれに気付き、振り向く。
「やってくれたわねェ……!」
「レンス! もう『修羅外道』やるわよ!」
「ええ……、バイオネエさん!」
ビキッ、何か軋む音が聞こえた。
なんとバイオとレンスの額からツノがメリメリ伸びてきた。牙剥き出しの口から涎が垂れる。全身の毛が逆立ち、徐々に赤みを帯びていく……。
二人の威圧が膨れ上がると共に地響きが大きくなっていく。ゴゴゴゴ!
「陵辱タァァァーイムッ!!!」
ズァオッ、二人から轟音を伴う烈風が放射され、煙幕と一緒に破片が流されていく。
ビリビリと体に響き渡る威圧で、リョーコとエレナは戦慄していく。冷や汗が吹き出る……。
熊の手とパンダの手に凝縮された炎のオーラが明々と滾る。ゴゴゴ!
「バーニング・オーバー・ダブルクローッ!!」
瞬時にリョーコとエレナへ迫り、バイオとレンス二人はオーラで描く爪の軌跡が幾重も交錯してリョーコとエレナを引き裂き続けた。
「ぐああっ!」「きゃああ!!」
二人を遥か遠くにまで吹っ飛ばす。何軒ものビルをガンガンガン突き抜けて、向こう側で煙幕が爆発のように噴き上げた。ドズウウゥン!
バイオとレンスは「フー! フー!」興奮気味の形相で息を切らす。
そして彼らの真正面から一直線と抉れた地面が向こう側まで続いている。あまりの威力に誰もが唖然とする。
「ぬう……、あれはッ!?」フクダリウスが冷や汗で唸る。
それを横目でモリッカは「知ってるんですかー?」と聞く。
何故かヨネ校長が口を開く。
「まさか……『修羅外道』!?」
「ウム! 悪党のみが成せる禁じ手って事かの……」
モリッカは目をキラキラさせて「へー! どんなどんなー?」とワクワクする。
「普通の人は基礎能力を常時一割から三割しか使っておらぬ。じゃが、意図的に三割以上の基礎能力を発揮できるのが『修羅外道』じゃよ……!」
「そうだ。身体能力、オーラ出力、魔法の出力が、爆発的に跳ね上がるのだ!!」
モリッカは「うわー! すっごいですっ!」と感嘆する。
「そ、そうなのかぞ!?」
「あァ……、ジダ公が急激に強くなったろ? ソレだァ……。ほんッと、よく勝てたわァ!」ヘヘッ!
治療を受けながら仰向けになっているナッセの頭を、アクトが上機嫌で撫でた。
聞いていたヤマミも息を呑む。ゴクリ……。
仰々しく恐ろしい形相のままバイオとレンスは「かはァ……」と口から湯気を漏らす。
更にビキビキと体毛の上からでも筋が見えるほど浮かび上がる。
「ほほあぁ────ッ!!!!」
天に向かって咆哮を上げ、全身から嵐のようなオーラを噴き上げた。
地面が激しく震え、破片が浮き上がっていく。ゴゴゴゴゴゴ!!
しかし血塗れながらもリョーコとエレナは煙幕の中から、雄々しく歩んできていた。
「……今度はこちらもエーテル全開よッ!!」ゴオッ!
なんとリョーコの全身から噴き上げたオーラは眩く輝いていた。オーラと魔法エネルギーが同時に混ざって放出されているのだ。
そしてエレナの身体の金属は魔法金属と化していた。
「新たにお披露目っ! これが魔法金属エレナちゃんよっ!!」
スミレもヤマミも目を丸くしている。
前からエーテルを放出できていたのだが、今回は少し違う。金属化に魔法力を混ぜる事で魔法金属に進化させたのだ。
心が熱く昂ぶるままに、オレは応援と拳を振り上げた。
「がんばれー!! エレナちゃーん!! リョーコォ!!」
エレナはその声援を聞いて、気持ちがこれ以上になく燃え上がっていく。
好きな人に応援された、それだけで嬉しさで爆発するほど心身ともに活気が漲って、それが放出されるエーテルを更に膨大なものに増幅させていく。
「なんだァ~!!? そんなものォ~!!」
バイオとレンスは目にも留まらぬ超高速で地を蹴った。
しかしリョーコとエレナはギン、と見切った。
オーラが凝縮された爪の一撃が振るわれるが、リョーコは「いっせーの!」とエーテルを爆発的に放出して斧を振るい、同時にエレナも回し蹴りを見舞う。
ガガァン!!
落雷のような衝撃音が響くほど互いの一撃がぶつかり合い、地響きと共に衝撃波が吹き荒れた。
バイオとレンスは見開き「くっ!」と汗を垂らす。
「はああああああああ!!!!」
四人は激しい攻防の応酬を繰り返し、ズガガガガガガガガと打撃音が鳴り響いた。
その凄まじい一進一退の激突で、烈風が煙幕を押し出すように周囲に吹き荒れていく。
ズズーン、ズー……ン! 地響きが断続的に伝い、ビルと残骸が揺れる。
「そ、そんなの……!」
「あ、ありえないッ…………!」
奮起したリョーコとエレナが互角に戦ってくる事が、バイオとレンスには到底信じられなかった。
小さな女の体のどこから凄まじい力が捻り出せるのか甚だ疑問だ。
今まで女性を一方的に惨たらしくなぶり続けてきて、抵抗も無意味なほどに非力だと見下し続けた。
なのに、目の前の女子二人は信じられないパワーを奮ってくる。
「な、なんなのよ!? 女のクセしてっ!!」
「女だからよっ!!」
リョーコとエレナは怒号で言い返した。
「あたしは大好きなナッセに応援してもらえた!! 認めてもらえた!! だから超絶嬉しいもんっ!!」
「こっちは恋してるわけじゃないけど、同じチームメイトだからねっ!
応援されちゃあ、絶対負けられないよっ!!」
リョーコは「いっせーのぉ!」と凄まじく迸るエーテルを斧に凝縮させて、周囲に衝撃波が吹き荒れた。
斧を振り下ろし前転宙返りを繰り返して、回転ノコギリのような超高速回転にまで加速して、バイオに襲いかかる。
「女ごときがァ!! いい気になってんじゃねーぞォ!!!」
怒りのままに凝縮させたオーラの手で叩き落とそうとするが、逆に引き裂かれてしまう。「ぐああ!?」と血まみれの手を引く。
ギャガガガガガ! 火花を散らして、バイオの頭に回転攻撃が衝突!
ヨーヨーのようにギャガガッギャガガッと、バイオの頭上を回転攻撃で徹底的に攻め続けた。バイオはたまらず「ぐおおおっ!!」と苦悶しながら後退していく。
トドメと、リョーコは上空を舞いながら超高速乱回転で加速させ続け、力を集約させた最後の一撃をバイオの頭上に叩き込む。
「ローリング・デストロイヤァーッ!!」
ズガガガァン!!
バイオの頭を地面に沈め、大きなクレーターを形成するほど陥没。破片と土砂が噴き上げられた。
軽やかに上空を舞うエレナは前転宙返りでクルクルと降下していく。
レンスは見開き、冷や汗をかく。
「エレナちゃん・ムーンサルトヒールキックゥゥー!!!」
強力なエーテル帯びるかかと落としが、弧を描きながら輝く軌跡を描き、レンスの頭上をかち割らんと振り下ろされた。
ガゴォン!!!
頭上を打たれたレンスの足元の地面が大きくクレーターに陥没し、アスファルトの岩盤が捲れ上がっていき、土砂の津波が周囲に吹き荒れた。
「ぐわあぁぁぁッッ!!!」
レンスのツノをへし折り、頭上から鮮血がドバッと溢れた。
あとがき雑談w
クッキー「今回の禁じ手スキルはー」
アリエル「『修羅外道』よぉ~」
アテナ「以下解説でーすw」
『修羅外道』
普通の人は身体能力、オーラと魔法の出力など、基礎能力を常時10%から30%しか使っていない。
それを意図的に30%以上高めるのだぞ。
悪意でもって相手を徹底的に叩き潰す事のみ考える残虐な精神性でなければ、発動は叶わない。
ちなみに禁じ手たる所以は、己への負担が重過ぎる事だ。
次話『マミエの怒り爆発!?』