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95話「三大奥義の一つ『無限なる回転』!」

 ナッセはヤマミの胸元を背もたれにして身を預けている。そして簡易クッションの上で正座しているヤマミの両腕がナッセの胴体を囲むように抱き、両手で緑色の暖かい光を灯している。

 ──いつの間にか覚えていた回復魔法。


《左手で傷の治療を、右手で体力の回復を、いつもながらヤマミは器用だね》


 ナッセとヤマミの側でちょこんと佇むウニャンは尻尾を振っていた。


 本来なら傷か体力かどちらか一つしか回復に注げない。されどヤマミは二つ同時に別効力の回復魔法を発動して可能にしていた。

 これは僧侶(プリースト)系統の上位クラスでなければ、不可能なほどの精神力と精密さ。

 ただ覚えたて故に、全快するまで時間はかかっていた。


《やはり分霊(スクナビコナ)を会得できる素質だけあって、大したものだよ》


 突っ立っているアクトはもちろん、ナッセとヤマミはモニターを見上げて、各々の戦況を観ていた。

 オレはキリッと見上げているが、顔は耳まで火照(ほて)っていた。


 うん……柔らかい……。このままいたいな。ふう…………。




「ウドドオオオオォォォォ!!!」


 うどん魔人は無数の極太の触手を無差別に振り回して破壊の限りを尽くし、建物が発泡スチロールのように簡単に砕かれてゆく。破片が飛び、烈風が荒れ、煙幕が流れる。


 コハクは真剣な眼差しで、幾重も振り回される触手を足場にトントンと駆け抜けていた。

 ────脳裏にコマエモンとの会話が再生される。



「恥を忍んでコハク殿……。彼を、マガタ殿の……、介錯(かいしゃく)を頼むっ!」


 すでに限界を超え、満身創痍で足を止めたコマエモンは身を震わせながら、頭を下げて懇願(こんがん)してきた。


 コマエモンにとって他人に頼み事をするなど、ありえなかった。

 されど狂ってしまったマー坊、マガタをこれ以上苦しませぬ為にも、力及ばぬ自分に代わって介錯して欲しいと強き想いが、孤高のプライドを上回ったのだ。


「分かりました。任せてください」


 その心情を汲み取って、コハクは頷く。



 ──安請け合いしたつもりはない。頼まれる筋合いもない。

 だけど、どうしてかな?


 以前の僕なら、恐らく引き受けなかったでしょうね……。キリッ!


 コハクの背後から無数のビームが続々と追い越し、眼前の触手をことごとく弾いていく。

 なおもノーヴェンは全力を賭して無数のメガネでビームを連射して、コハクの支援を行っていた。残りエネルギー量を気にせず、ひたすらと滝のようにビームを連射し続ける。ドドドド!


(トラップ)カードオープン! 【封印の聖なる鎖(ホーリー・チェーン)】と【呪縛の六芒星カース・オブ・シックススター】二枚を同時に発動だZE!!」


 ミコトは複数のカードを発動し、うどん魔人を縛り付けるように鎖が絡みついて縛り付け更に複数の魔法陣を重ねるようにガッシリ拘束。


 ズズン! 地面に縛り付けるように圧力が増した。


 されどうどん魔人は「ウドオオオオオッ!!」と暴れ、大地がビリビリ震え上がり拘束が解けそうになるもミコトは歯を食いしばって踏ん張る。

 それでも鎖が一つ一つとちぎれていく。



「コハク殿ッ!」「今デースッ!!」「(クロス)った(きずな)で闇を切り裂け!!」


 ノーヴェンとミコトとコマエモンは揃って叫んだ!!

 その声援を受け、コハクはキリッと心身ともに引き締め、うどん魔人へと迫る!


 僕もナッセのように……!



 するとドクンと体に何か鼓動が走る。

 何を思ったのかコハクはギン、と鋭い視線を見せると共に上空へ飛ぶ。


「な、何を……!?」


 ノーヴェンたちは見上げ、その行動に疑問に思った。しかし!

 なんと真っ暗になった空に三日月が輝いた!!


 いや、コハクが前転宙返りで紅蓮の槍を振り回した故の、軌跡によるもの!


 ビリビリ……、どことなく高圧的な黒い威圧が膨れ上がっていく。次第に台風襲来のように大地が震え上がり、建物がギシギシ揺れる。破片が螺旋を描いて吹き飛ぶ。三日月を中心に荒々しい風の渦がゴゴゴゴゴ、と唸りを上げながら激しさを増していく。


 ただの技ではない!?

 思わずヨネ校長はゾクッとして立ち上がる。汗が頬を伝う。


「あ、あれは……!? 三大奥義のうち一つッ…………!」



 ドクン! コハクは自分に眠る血が高揚し、長髪がやや放射状に逆立つ。

 なおも前転宙返りを繰り返し、それに伴って周囲を螺旋状に描くオーラの流れが荒々しく渦を巻く!

 更に更に増幅を繰り返し、驚天動地と周囲を震わせる威光は恐ろしく増していく。


「はあああああああッ!!!」


 コハクは殺意漲る眼光を煌めかす。台風規模の旋風を撒き散らしながらうどん魔人の頭上へ三日月一閃が強烈に炸裂!!


 ドッッ!!!


 うどん魔人の顔が豪快に破裂し、全身全てが木っ端微塵に散った。そして中からマー坊が姿を現し、地面へ落下していく。


「一撃で!!? な、なんて……威力だ……!?」


 誰もがその威力に驚愕した。



 嵐は静けさを取り戻し、落ち着いていった。そして夕日に変貌して、橙に滲んでいく空。

 ノーヴェン、ミコトに囲まれ、コマエモンに抱かれるマー坊は「ありがとう」と安らかに涙して笑み、事切れる────。



「済まぬ…………!」


 コマエモンは堪えきれず涙を流し、肩を震わせながら頭を下げて会釈した。

 ノーヴェンもミコトも黙り込む。


 コハクは表情を歪ませながら跪いた状態で「ぐうっ」と呻く。はぁはぁ、荒い息をする。

 紅蓮の槍は亀裂が走っていて、所々欠けている。次第に崩れ、ボシュンと掻き消えた。さっきの大技に耐えられなかったのだろう。


「それより…………」


 マー坊こと、マガタともついさっき会ったばかりだというのに、コマエモンは往年の友人のように死を悲しんでいた。彼らを見ていて、コハクはなぜ胸中がじんと悲しげな気持ちが満ちているのかも、不思議に思った。

 それぞれ、身内でもなければ、友人でもないのだ。しかも会話も何もほとんどない。


 争いを繰り返す人間が嫌いなのは変わらない。


 だが、なぜ自分は彼らの心情と状況に悲しんでいるのだろう……?



 そして、この悲劇を引き起こしたオカマサとドラゴリラに対して、強い怒りもまた沸騰するように湧き上がっていた。それはマグマのように赤黒く熱く煮え滾って……。

 コハクは唇を噛み、顔に怒りを滲ませる。


 絶対に許さない!!


 すると肩に温かい手がポンと触れた。



「コハク殿……、かたじけない! そしてありがとう…………」


 未だ涙ぐんでいるコマエモンの柔らかい笑顔。コハクは見開く。気付けばノーヴェンもミコトも爽やかな笑顔で囲んできていた。

 なんだか心が温かくなっていく。ホッとしたような、安心したような、心地良い気持ち……。

 まるで心が通じ合った仲間のように…………。


 コハクはしっとり笑顔で首を振る。


「同じ学友です。当たり前じゃないですか……」

「ははは。違いない」


 しかしコハクの腕は(しび)れを残し、激痛に(さいな)まされたまま動かない。




 ──── 大規模侵略三日目。午後五時五十二分。


 ただいまカイ斗、ジダ公、コータロに続き、マー坊を撃破!



 未だ立ち上がっていたヨネ校長は「フッ」と冷や汗で笑む。


 コハクが放ったアレは、間違いなく三大奥義の一つ『無限なる回転インフィニティ・スピン』だ。

 かつてコハクの故郷で、その奥義を振るって数々の敵を沈めてきた闇の帝王……。


 その闇の帝王の名は『ラヴィカース』。


 彼が放つ奥義は、オーラを渦に巻いて延々と相乗効果を生み出す事で威力を高めて放つ一撃必殺の『無双(ムソウ)弧月花(コゲツカ)』。それをコハクが未完成ながら再現したのだ。

 元々、コハクはラヴィカースを血統にする子孫。


 闇の帝王としての血がそうさせても不思議ではなかった……。




「す、すげぇ!!」


 目の当たりにした奥義のカッコよさと威力に衝撃を受けてなんか痺れた。まるで『賢者の秘法(アルス・マグナ)』にも勝るとも劣らぬ奥義だ!


 嵐吹きすさび、漆黒の威圧を纏い、そして三日月の巨大な刃が敵を刈り取る!

 何よりもコハク自身に何かが取り憑いたように、皇帝だか帝王だかそんな感じの威厳ある風貌に豹変して、魔人をも一刀両断した!


「アレ! オレもやってみたい!!」

「体壊すから止めなさい!」


 ハイテンションに燃えるオレを、ぴしゃりと(たしな)めるヤマミ。


 ヤマミは、あれがナッセの本来の性格なのだと密かに察した。

 いつもテンション低いから、それが地だと思っていた。だが本当はノリノリで明るい性格なんじゃないか、と。



「ただ今、医療班現着ッ!! 遅くなって申し訳ありませんッ!」


「例え、戦闘で激しく傷つこうとも、振られて傷心しようとも、課金で大爆死しようとも、我々はあなたの心身を救ってみせましょう!」

「うおおおおん! 失恋は言うなよぉぉぉお!」

「あ、うーっす! よろよろ!」「では治療を開始します」


 なんと、僧侶(プリースト)含む医療チームが五人やってきた。彼らの衣服は白で統一され、赤いYマークがシンボルになっている。戦闘スキル持ちが二人、医学をメインにするのが二人、そして回復系や浄化系スキル持ちの僧侶(プリースト)で組まれている。

 それぞれ単体でも最低限、回復系魔法や解毒などのスキルは持っているが、専門となる分野は各々得意なスキルで分担していく感じだ。



「ああ……、このままでいたいぞ…………」


 ジト目で口をブスーと(すぼ)める、いつもの低テンションのナッセ。

 ヤマミは顔を赤らめて「もう! でもさっさと全快しなきゃね」と、そのまま医療班に押し付けた。ボスーン!



「俺もいる事、忘れんなよォ……」アクトは引きつった。

あとがき雑談w


クッキー「ついに三大奥義の二つ目が判明!?」

アリエル「残る最後の奥義は一体なんでしょうねぇ~~!?」


無限なる回転インフィニティ・スピン

 概要としては、力場を回転状にして威力を高めていく感じ。

 使い手によって解釈が違い、それぞれ独自の奥義として開発されていった。だが、闇の帝王ラヴィカースはその中でも完成度が高かった。


 実は三大奥義の中でも割と会得が容易だったりする。その為か使い手は多い。

 あと、解釈それぞれ違ってても某肉漫画みたいに天罰ビームとか来ませんw


ヤマミ(ずっと一緒にいたかったのかな……?//////)

ナッセ(もっと温もりを感じていたかったぞ……/////)


アクト「もげろリア充ァ……w」



 次話『エレナちゃんは戦いも恋も諦めないッ!!』

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