94話「ドロドロ関係! 多角形修羅場!」
力尽きているナッセに寄り添うヤマミの前に、今回の戦争を引き起こした黒幕がついに姿を現した。
事もあろうか、エンカウントして荒廃した世界に引きずり込んで本性を現したのは、かつてタネ坊とキンタを名乗っていた二人組だった。モンスター化に堕ちながらも知性と理性を失う事なく、通常通りに言動する彼らは人間とほぼ変わらなかったぞ。
だが、人造人間として造り出し、そして仲間でもあるはずのジダ公を躊躇いもなく殺した。しかもかつて仲間だったナッセに対しても感慨もなく、あまつさえ弱っている所を狙って殺そうとして来た卑劣漢だった。
その冷酷な真の黒幕とは、博水オカマサと馬淵ドラゴリラの二人組ぞ……!
「せっかくの獲物をッ……!」
忌々しそうにオカマサは目を細め、歯軋り。
「ま、まさか!? エンカウント世界に入れる手段などあらへん! つまり最初っからナッセたちの側にいたとか? そんなんないわ~~!」
「糞が……!」
「大方、そんな事だろうと思って様子見してたからなァ……。やっぱオメェ、最後までクズ野郎だわ」
アクトは肩に刀を乗せて、怒りの形相で睨み据えていた。
本当に頼もしい! 経験豊富で先を見据えていた!
オレたちが何も考えず全力を尽くして戦っている内にも、アクトはちゃんと戦争の流れを読んでいて黒幕の存在を見抜いたのだ。こんな凄い人とは……!
「そんなこたどうでもええ! あんさん、確かワイの弟コータロと戦ってたんじゃあらへんっ??」
アクトは不敵に笑み、肩に乗せた刀でトントン叩く。
ビルの上に立つアクトに対し、コータロは「いちいち邪魔せんやが! さっさ死ねいっ!!」と全身から銃身を放射状に生やし、背中から二連大砲が形成され、連鎖する発砲音を鳴り響かせ数千もの弾幕が一斉にアクトへと襲いかかる!
ドガアアアァァァアン!!
轟音を伴って大空を大爆発が赤々と広がっていった。濛々と爆煙が漂い、遅れて烈風が吹き荒れた。
それを見てコータロは「けはーっはっはっは!!」と大笑い。すると瞬時に懐へ飛び込んでくるアクトが視界に現れた。
「あァ? あんなん程度で俺を倒せる思ってんのかァ……」
「な!?」
夜叉の如し、アクトが振るう紅蓮の刀がコータロを遥か下に叩き落とし、道路を陥没させて粉塵を巻き上げた。たまらずコータロは「ガハッ!」と吐血。頭半分砕かれ上目遣いのまま痙攣しながら動きは止まっていく。
────圧倒的瞬殺! そしてコータロ絶命!!
「すぐ終わったなァ……。おかげでナッセの戦いを観戦できる時間が賄えたぜ!」
「んなアホな…………!?」
ドラゴリラは目を丸くして、動揺を露わに後しざりしていく。
コータロは自身をサイボーグに改造して、夕夏家の刻印により無尽蔵の弾幕を放てる最凶最悪の大量殺戮兵器へと身を変えた。
それをいともたやすく倒してしまうなど信じられない。しかも一撃で!
するとオカマサは「フ……、フッフッフ」と怪しく笑い出す。
「やれやれ、糞餓鬼を殺す楽しみはお預けかい……。だが人造人間の秘密は本人である彼らも知らん。この俺と相棒しか知らぬ秘密兵器があるのだからなッ!」
「せや! あれがあったわ~~! ゲームのラスボスを参考にして作られたあの究極完全体をッ!!」
「そういうことだ! せいぜい残り余生を楽しむ事だよ」
二人は「ひひひ」と薄ら笑みを浮かべ、地面へズブズブ沈んでいく。
「ち、ちょっと待ってくれぞ!! ほ、本当にそれが本音なのか? オレたちと一緒に学院へ通ってた爽やかな態度と額の輝きはウソだったのかぞッ!?」
オカマサは訝しげな視線を見せてくる。
「この期に及んで甘ちゃん思考かい? 心底虫唾の走る糞餓鬼と馴れ合うなど反吐が出る! 俺はドラゴリラと二人で漢臭く燃えていきたいんだよ!」
「せやで! あんさんが割って入るトコなどあらへんのや~!」
オカマサは悪辣に唾を吐き、ドラゴリラもバイバイ手を振りながら、二人一緒に地面へ沈み消えていった。
すると荒廃した世界は黒い円の収縮と共に消え去って、元通り通常の世界へ戻っていった。
かつての学友に冷たくあしらわれて、気分が重く沈む……。
さっきまでの悪意ある言動は芝居だと思いたかった。
人造人間を欺くために敵のフリをしていると思いたかった。
だけど……、彼らはしれっと冷たい言葉を口にし、あまつさえ弱ったオレたちを殺そうとしてきた。おぞましい現実。信じたくなかった。なのにっ……!
「私がいる!」
気分が沈んで真っ暗闇に覆われていると錯覚している時に、暖かい光が見えた気がした。ヤマミだ。悲しそうで目尻に涙が僅かに滲んできていた。
力が抜けて膝がカクッと落ちそうになると、ヤマミが咄嗟に抱きついて支えてきた。温かいぬくもりを感じる。
「ナッセ! 私がいるからっ!!」
「うん……」
これほどヤマミが愛しいとは思わなかった。キュン!
思わずヤマミへ抱きついて、飢えるようにそのぬくもりにすがった。
意外な積極性にヤマミも目を丸くしたが、頬を赤くして抱き返した。そんな二人の相思相愛の抱擁に、アクトはとニヤリ笑む。
「目の前でやってくれるなァ……。さすがはリア充ナッセェ!」
「聞いてくれ!! 今回の事件はタネ坊とキンタが関与しているんだ!!」
毅然とヤマミと共にモニター越しで、真相を語った。
タネ坊とキンタは実は偽名で、本来はオカマサとドラゴリラが本名だという事も、人造人間は彼らの発案だという事も、そしてジダ公は彼らに殺された事も……。
当然、同じ学友であった生徒たちにも動揺が走った。しかし!
「オレが連れ戻す!! きっと不可能かも知れない……。けど、やらずに後悔はしたくない!」
普通なら「そんな事できるわけない!」と大多数が否定するだろう。
だが奥義を食らったジダ公が友好的になったのも、誰もがモニター越しで見てきた。彼にはどこか不思議な力があってならなかった。
「へっ! ナッセらしいし」
マイシは心地よく笑む。
本当はゴン蔵と戦うまでは、自分の命を投げ打って夕夏家へ特攻しようと思っていた。だが、ゴン蔵と戦っている内に考えを改めた。今思えば、考えを改めて良かったと思った。
同じ剣士として、ナッセと一緒に戦いたいと衝動に駆られたからだ。
そしてその先を生きたいと思った。
ナッセと共に歩んで、将来どうなるのか興味が湧いてきていた。
「その為に、勝って生き残ってやるっしょっ!!」
悠然と剣を振り、戦意漲らせた笑みをマイシは見せた。
それに対してケン治は不機嫌そうに表情は影に沈んでいた。ズズ……!
あのジダ公が敵であるナッセに心を開いたのが、ケン治にとって不愉快だったからだ。
ドズゥゥゥ……ンッ!!
建物間を烈風が吹き抜けていく。咆哮と共にビリビリ大気と地面が震える。
「ウドオオオォォォォン!!」
うどん魔人が高らかに吠え、ぐにょぐにょ触手を全方位に伸ばしていた。それぞれの触手は手当たり次第振り回して建物をことごとく薙ぎ散らしていく。破片が飛び交う。
コハクは俊敏に足場を飛び回り、腕を振って複数の紅蓮の槍に命令を下す。
「九十九紅蓮・二十閃槍“爆嵐”!!」
ドドドドドドドドドドドド!!!
雨のように降り注ぐ槍は着弾するや否や爆裂を起こす。爆炎が連鎖しうどん魔人は「ウドオオオオ!!」と悲鳴なのか咆哮なのか分からん叫びを上げる。
太い触手がコハクを押し潰さんと迫る。
シュパン!! コマエモンが横切って、触手を細切れに散らす。
ミコトが「【火炎星】を発動DA!!」と空から降ってきた火炎球がうどん魔人にドゴォンと爆炎散らして直撃。
ノーヴェンは冷静に見守っていた。複数のメガネを浮かせたまま待機。
「ナッセらしいデース! しかしタネ坊とキンタが首謀者トハ……」
「ふむ!」
「オレは許される事ではないZE!! これまで多くの命が奪われてきたんだZO!」
未だ納得できず、ミコトは拳に怒りのオーラを宿らし、吠える。
コハクは周囲に無数の紅蓮の槍を周回させたまま、ナッセが映るモニターを見上げた。
「さてナッセ君。実現できるか、お手並み拝見でしょうか」キリッ!
建物があちこち傾いていって軒並み崩されていく。ズズ……ン! ズズズ……!
二人の筋肉質の大男が「オホホォ────ッ」とよく分からん叫びをあげて、太い腕で大きな手で張り手を放つ。その剛力が一件のビルに直撃。蜘蛛の巣のように亀裂が走りメキメキと破片を散らし、広がった衝撃でコンクリート造の支柱や壁を砕き、ガラガラと崩れ落ちていく。
彼らは我瑠羅バイオと我瑠羅レンス。
「恋する乙女はっ、時に銀の意志でっ、火の中水の中突き進むものよっ!」
エレナは地面を爆発させ、超高速突進しながら、レンスの顔面、肩、胸、みぞおち、太ももと、前蹴りによる一瞬連撃で射抜く。ドドドドドッと、背中を突き抜けるような鋭い衝撃でレンスは「グハァッ!」と吹っ飛ばされ、バイオを巻き込んでビルに激突して豪快に大破させた。ドガァッ!
「ど~だっ! これがエレナちゃん進撃!! 五連脚~~!!」
えへん、と腰に手首を当てて胸を張るエレナちゃん。
「えぇえ!? 今の、ナッセの真似ぇ!?」
「最終的にあたしとナッセちゃんで夫婦進撃やっちゃるから~~~~!」
「ナッセにはヤマミいるし、ってかそれで諦めたんじゃなかったっけー?」
リョーコはジト目で見やる。しかしエレナはか弱きヒロインを演じるように身をくねらして、物憂げな顔で首を振る。
「恋ってのはね……、するもんじゃなくて落ちるものなのっ! 例えナッセちゃんとジャマミが恋仲であろうともっ!
あたしはぜったいぜ~ったい諦められないよっ!!
なぜならっ、前世の前世よりず~っと前のビッグバン前よりずぅ~っと前から赤い糸で繋がってるくらい、ナッセちゃんを大大の大~好きだからっ!!」
キラーン、と目を輝かせエレナはガッツポーズで愛の情熱を語った。
なぜ『恋は盲目』なのか、分かる気がするわ……。とリョーコはジト目で呆れ果てていた。
近くで隠れて傍観していたマミエは無表情ながらイラッとした。
あとがき雑談w
クッキー「コータロさんw あっけなーw」
アリエル「アクトが相手じゃねぇ~w」
『馬淵コータロ(錬金術士)』
白衣を纏う長身の痩せた男。猫背で前傾体勢。飄々したような顔。タレ目には白目と黒目が反転している。顎ヒゲとモミアゲが一体化。アゴがシャクレたブサイク面。額には黒くなっている角が三つ。なぜか不釣り合いのベレー帽をかぶっている。
生物学で研究して人造人間やクローンを造り出すのが本職。本来は前線へ赴いて戦うタイプではない。
威力値55000
クッキー「今回のカードはこれっ!」
【火炎星】魔法カード
自分の墓地の火属性モンスター1体を除外して発動できる。その除外したモンスターのレベル数値分だけ相手ライフにダメージを与える。
【灼熱星】魔法カード
自分の墓地の火属性モンスターを任意の数だけ除外して発動できる。その除外したモンスターの合計レベル数値分だけ相手ライフにダメージを与える。
【煉獄星】魔法カード
地球を恒星に変える。
アリエル「直接ダメージを狙うバーンデッキに合いそうねぇ~w」
次話『ついにコハクが奥義を繰り出す!?』