82話「チート能力! 血脈の覚醒者!?」
ヨネ校長は指を鳴らして、教室の黒板を反転させてモニターに切り替えた。なぜか教壇も変形して小さいモニターやら数種のスイッチやら機器が顕わになる。
まるでSFのような世界だ。ヨネ校長は教壇前の椅子に座り込んでキーボードを叩く。タタタン!
「あらあらまぁ~、そんな機能が~~?」
スミレも驚きの機能だった。
モニターはレーダーとして方眼線でびっしり敷き詰められ、周辺の地図を示している。そして赤い点がたくさん散開するように動いていて、青い点がそれを押し留めるような形でこちらを防衛している。
「このレーダーは学院によって数十キロもの広範囲の『察知』になっておる。赤い点は敵。青い点は味方。緑の点は創作士ではない一般人。今のところ警戒区域には一般人はいないようじゃな」
「イエス……。それでは、外側の青い点は創作士センターからの派遣ですネ」
「うむ。被害を出さぬよう、外側の配置をお願いしておる」
ノーヴェンは怪訝に、一つの緑の点を見やる。
案の定、外側に向かう人造人間たちは意外と多い。それを大阪駅付近で緑の点が大勢の赤点を消失させていた。
緑の点は一般人の判定デスが、それが人造人間をやっつけている事になってマス。
だがそれは、創作士センターに登録していないからこそ一般人として判定されてるに過ぎまセーン。つまり創作士でありながら、未登録のはぐれ者デース……。
「ふむ、何者でしょうかな?」
「……確かに気になりマスが、動きからして味方とみていいデース」
「それは助かる」
大阪駅や線路付近にも創作士を何人か配置しているが、その中でも緑の創作士がダントツで敵を片付けている。
もちろん大阪駅という交通の要となる施設を守るのは大事だ。
緑の創作士はそれを分かっているようだ。
しかしノーヴェンは怪訝そうに目を細め、汗を垂らす。
「数百もの人造人間を一瞬に葬る未登録の創作士……。一体何者デース…………」
「あいつ……、何者だ?」
大阪駅の周辺にいた三人チームの創作士は唖然としていた。
二階くらいの大阪駅手前の建物の上で黒マフラーの女が一人立っていた。黒いフードで顔を半分隠し、全身をも隠す。
「大阪駅ぶっこわすんやー!!」
「へいへいへい!! なんでもかんでも壊せ! 壊せー!!」
「あのクソアマ! 邪魔やーん!!」
「いてこましたろ~~!!」
数百人ものハス太が高層ビルの間から、大軍でドドドドッと溢れ出した。
創作士たちも、その大勢に怯む。しかし黒マフラーの女は動じない。スッと横に右腕を伸ばす。すると女の足元の影から紫混じりの混濁した黒い人型が無数這い出てくる。
その黒い人型はデフォルメした感じのちっこい小人。顔は無表情のヤマミっぽい感じで、白い肌以外は紫混じりの漆黒のシルエット。
その小人たちはユラユラ踊りながら黒マフラーの女を周回する。
「あれは……『分霊』?」
「不気味だな。あんな奴、大阪の創作士にいたか?」
「ひゃっは~~!! メス女は汚物や~~!! 消毒したるわ~~~~!!」
大勢のハス太が喜々と黒マフラーの女へ殺到。
しかし黒マフラーの女が掌を前方に突き出すと、大勢の小人は一斉に地面へダイブ。ドボボボン!
這うように地形を伝播する小人たちは散開していって、それぞれハス太へ飛び付き、紫混じりの黒炎に変質してゴゴウッと燃え上がった。
「ぐああああああ!!!」
次々と黒炎に包まれて、もがきながら横たわっていく。跡形もなく轟々燃やし尽くすと黒炎も一緒に消えた。
「な、な、なんやぁ!?」
黒マフラーの女は手を突き出したまま、次々と『分霊』を連射。地面、壁、建物を伝播して大勢のハス太を黒炎で燃やし尽くし続けた。
オナラで空を飛んでいたハス太たちも、高い建物へ伝播した小人が飛び出して撃墜していく。
黒マフラーの女は粛々と『分霊』を繰り出し続け、ことごとくハス太たちを黒炎に散らしていった。
燃えては消えて、燃えては消えて、燃えては消えて、まるで花火のように次々と繰り返し続けていた。
ゴオッ、ゴゴウ、ゴゴッ、ゴウッ、ゴゴゴ、ゴウッ……!
「つ……強ぇえ……」
「俺らの出番ねぇな…………」
「あんなに連射してて疲れないの?」
何百発も平気で連射し続ける黒マフラーの女に、創作士の誰もがおののいていく。
本当に味方なのか? と疑う創作士もいたが、言い出す人は一人もいなかった。
ともあれ、放っておいてるだけで勝手に敵を殲滅してくれるからだ。
「もしかして『血脈の覚醒者』じゃないの?」
三角帽子をかぶった紫のロングヘアの女魔法使い創作士はそう呟く。
「それ、なんですか?」
「おう! お前、登録されたばかりの新米だったな。よし、暇なので教えてやろう」
聞いてくる新米の槍士に、大剣を背負う剣士のオッサンはニッと笑う。
「暇……。そりゃ、あいつが全部片付けてくれるもんね」
黒マフラーの女を見て、女魔法使いはヤレヤレと首を振る。
「『血脈の覚醒者』は他の創作士とは違う、特別な創作士だ。なにかトラウマなどを背負った時に発症する事がある。例えば不条理に目の前で親を殺されたとかかな……。
そのショックにより防衛本能として特殊な能力が発現される。
それはオーラのように鍛え込んで放出するのでもなく、魔法のように詠唱や儀式を行って発動するのでもない。まるで本能のように自然に使える能力だ。むしろ生態か」
新米槍士は「ええ、それズルいじゃないっすか?」と引く。
「そう。だからバーチャルサバイバルへは参加禁止になっている」
「ですよねー」
剣士オッサンは腕を組む。
「とはいえ『血脈の覚醒者』は内気な人間が多い。積極的に戦う事はあまりしない。トラウマも関係してるかもしれないがな」
「積極的って、あのロリがいたよねー?」
新米槍士は「あのロリ?」と首を傾げる。
剣士オッサンは「ああ、いたいた」と言い、女魔法使いは頷く。
「エレナちゃんだったかな。最近バーチャルサバイバルへ参加しようとしていた。以前は登録されていたらしいが、登録確認後に取り消しになったな」
「なんで、なんでーって喚いてたけどねー」
「そりゃ体を金属化ってだけでも充分強いだろ? 武器防具いらねーんだぜ?」
新米は「金属化……?」と素っ頓狂。
オッサンは「あれ攻撃魔法弾くからな。めっちゃズルい!」と鼻息を立てて憤慨する。
ハス太たちが「ホノビの嵐やー!!」と火炎球を嵐のように弾幕を張るが、エレナはそのまま真っ直ぐ突っ込む。
ドゴオオオォォォォン!!!
獰猛に灼熱の炎が高々と燃え上がる。が、銀色に煌くメタリックなエレナは平然と突き抜けてきて、ハス太たちは「な!?」と驚愕。
「エレナちゃんスピンキッーク!!!」
エレナは逆立ちして、開脚した両足をギュルルッと高速回転させる。旋風が渦巻くほどの凄まじい回転蹴りで周囲のハス太たちは薙ぎ散らされていく。ドガガガガッ!!
「こ、こいつ!! 全然効かへ~~ん!!」
バキッ! 蹴り飛ばされたハス太はビルを突き抜けた。
オッサンは「あれは例外」とエレナの事を一笑。
積極的な『血脈の覚醒者』なんて滅多にいないからだ。異世界転生者と聞いた事あるが、彼らにとっては噂の範疇だ。
「いいか? バーチャルサバイバルへ参加できないのは『血脈の覚醒者』や、マイシのように『魔獣の種』や『妖精の種』などによって人外の力に目覚めた者だけだ。
理由は単純。個体として強すぎるからだ。故に公平な勝負を乱すものとして禁じられている」
新米槍士は「へー」と相槌を打つ。
「黒マフラーの女も『血脈の覚醒者』なら、あの強さも分かるわね」
黒マフラーの女を周回する漆黒の小人の群衆。盆踊りのように踊って踊って、地面にダイブしてありとあらゆる障害物も伝播でスイスイ潜り抜けて目標まで達していく。そして黒炎が目標だけを焼き尽くす。
どれくらいMPがあるのか計り知れないが、恐ろしく膨大だろう。
数百もの大挙してくるハス太たちを一人残らず撃墜して、大阪駅に一歩も踏み込ませていない。
それでも黒マフラー女は慢心もせず、一環の作業のように粛々と撃退し続けていく。
ゴゴゴ……! 黒炎が不気味に踊る。
「大阪駅の破壊はまだやぜかッ!?」
ドン、と机を叩くコータロ。苛立ちが顔に現れている。
クラッシュセブンの面々は静かに、レーダーとなっているモニターや、いくつかの戦場の映像を眺めている。
「まず大阪駅の破壊から始めて交通を断ち、学院を中心に大規模破壊活動を行う。大阪を壊滅させた後、ゴン蔵やハス太たちで住民票ごと乗っ取る。そこから時間をかけて日本全土を自分が造った男だけで支配する……だったか?」
ジダ公はフッと笑う。コータロは「何が可笑しい!」と叫ぶ。
「随分幼稚だな。そこまで自分の願望を叶えたいか?」
「幼稚やがと? ……黙れ!!」
ドン、と拳で机を叩く。
なぜかコータロの前に熱々のうどんをドンと差し出すマー坊。コータロとマー坊は真顔でしばし視線を合わせる。
「冷えない内に召し上がるどん……」
「空気読むやがぜ!! このうどん野郎!!」
「それは光栄。褒め言葉だどん……」フッ!
したり顔で笑むマー坊、自らの席へ戻る。他のクラッシュセブンは汗を垂らす。
「ほっほっほ。大阪駅は後回しにしなさい。とりあえず学院の制圧が先でしょう?」
「とは言え、あの黒マフラー女に動きを読まれると厄介だから、数を減らしてハス太たちを向かわせ続けて陽動するカイ」
「話を勝手に進めんやがぜ!! 司令官はワレやが!」
ギャーギャー騒ぐコータロにも意を介さず、カイ斗とケン治は話を進めていた。
ジダ公はそんな作戦会議にも興味もなく「フン!」と、とある戦場のモニターを眺めている。
「おおお!!!」
ナッセは光の剣を振るって、数十人ものハス太を宙に舞わせていく。
ジダ公は鋭い眼光を見せ、以前会った時とは覇気が違うなと感じ取った。体が疼く。一方的ななぶり殺しになるにせよ、互角の接戦になるにせよ、彼と戦いたいと衝動が湧いていた。
またしてもうどんは冷えた。
あとがき雑談w
リョーコ「はいはいw あたしも解説ねーw」
ナツミ「……理解するは大事」(ジト目褐色金髪クール)
『血脈の覚醒者』
精神的ショックを受けるなどを切っ掛けに発症する能力者。
鍛えたりするなどで得られる通常のオーラや魔法と違い、直接的にスキルを発揮できる。
このスキルは精神体から直接発動するため『魔法』に部類されるものの、魔法を封じるスキルでは絶対に封じられないなど違いがある。
通常のオーラや魔法のスキルと違い、個々の性格に反映された能力がより顕在化する。
その為、初めてでも本能的に発動できて効果もある程度把握している。
「元々あった身体能力」のように使える感覚らしい。
基本的に防衛するための能力。これは精神ショックを受けた人間が自らを守るために力を行使するからである。
その為か侵略や強奪など、攻撃的な事に消極的。
悪人に『血脈の覚醒者』が存在しないのは二つ理由がある。
ドス黒く汚れた精神では、精神ショックを受けてもさほど刺激にならない。
そして後天的に悪人になった場合、自動的に自害や自爆を誘発してしまう事が多い。元々防衛本能からくる能力のため、危険因子であれば自分であろうがなんであろうが例外ではないらしい……。
とある血脈の覚醒者の勇者の報告によると、もう一人の自分がいる感じらしい。
つまり能力自体が“もう一人の自分”とも意味に取れる。
個々によるが、いずれも反則的な能力のため一般創作士が対戦するバーチャルサバイバルへの参加が認められていない。
無理に参加しようとしても、ブザーが鳴って弾かれる仕様になっている。
そもそも血脈の覚醒者に消極的な性格の人が多いので、参加するケースは滅多にない。
活発的なエレナちゃんが例外すぎる……。
リョーコ「このナツミちゃんもそうなのよーw」えへんw
ナツミ「…………重量をあまり感じないだけで大した事ない」
ナツミはズッシリ重そうな両手斧を片手で軽々と肩に乗せる。ドスン!
彼女にとっては、普通の人間で言えば傘よりも軽い感覚とのこと。
次話『ナッセたちの活躍!! 入り乱れの交戦!』