79話「必殺の剣ビームを取得だぞ!」
海の中にいるかのように、青々とした風景がグラデーションで広がっていて美しく彩るサンゴ礁のような大地。そこでウニャンとナッセとヤマミがいた。
ここは魔女クッキーことウニャンの作り出した亜空間だった。
『空間結界』
時空間魔法の一つで、自分が万能になれる固有世界を創作展開する。非常に高度な創作で、師匠いわく使い手は滅多にいない、らしいぞ。
ここでなら、現実世界に被害が及ばないので実戦や実技形式の修行をするには最適だぞ。
「おし! いつもの秘密特訓だなー!」
「ええ! こちらは万端よ!」
ヤマミと一緒に得物を手に身構える。
ウニャンは二足で立ち、ウニメイスを手にしていた。その得物はデフォルメされたように太いトゲトゲで放射状に、中心部にはつぶらな目の可愛い顔が付いている。
それを左右斜めに二振り、ブォンブォン!
「剣モード!」
掲げたウニメイスの先端がニョキッと伸びていって刀身へと変化。
今度は遥か向こうに大岩がボコッと突き出てきた。的のために出したっぽい。ウニャンの世界だから、自由に何かを生み出せるなぞ。
「今度は剣と大岩……? 剣で斬り合うんじゃなくて??」
首を傾げていたら、ウニャンは首を振ってくる。
「本来、こういうのは得意じゃないんだけどね……。でも、剣士としてこれは会得した方がいいかなって思ったから教えるよー」
掲げたままのウニメイスソードに光子が次々と収束。刀身が輝き始めた。
ウニャンはそれを振り下ろし、その切っ先から光線が勢いよく放たれた。ドッ!
ドゴォォォン!!
向こうの大岩が木っ端微塵に掻き消えた。
「基本名称『刀剣波』。早い話、剣ビームだね」
ヤマミと一緒に唖然とする。ノリノリのウニャンはウニメイスをブンブン振る。
つまりアレだ。要するに漫画やゲームではありふれた剣ビームをリアルで再現できるようになれ、という事らしい。うっわぁ……。
「ちょっと! ナッセ君にしては引いてない!?
でもね、これは『大爆裂魔法』や『賢者の秘法』で威力を押し上げる事もできるんだ」
「そ、そんな事しなくてもオレには剣を飛ばす『衛星』ってのがあるぞ」
「火力も速射性もあって、割と使い勝手が良いよー?」
何故かウニャンは勧めるのを止めない。
「ってか、今更なんで?」
「遠距離攻撃に頼っただけの剣士になって欲しくなかったからね。これまでそういうタイプを見てきたんだ」
「……それ剣士って言うのかな?」
オレのツッコミに、ヤマミもうんうん頷く。
「ささ! ナッセ君もやってみよう!!」
ウニャンに背中をポンと押され、今度は自分で実践する事になった。やばい緊張する……。
星屑を散らし光の剣を形成し、それを掲げる。
キューン、と光子を集めていく。
「ス、スターライト・刀剣波────ッ!!!」
ウニャンがしたように振り下ろして、切っ先からエネルギー波を解き放つ。しかしボシュンと手前で拡散して霧散。その反動で尻餅をつく。ドスン!
「いてて……!」
あれ? 失敗した……!?
もう一度やっても発砲直後で波動が霧散してしまう。バシュッ!
「で、できないぞっ!?」ガーン!?
「いえ、できる方が不思議だと思うけど……?」
汗を垂らすヤマミの言葉に、「だよね」と納得してしまう。
「うーにん。かなり重症レベルで思い込んでるね……。普通剣からはビームは出ないって。
だから無意識に拒絶して撃てなくなっているんだ」
「そ、そういうものなのかぞ?」
「あと『刀剣波』は基本名称だからね。必殺技として自分だけのネーミングをつけるといい。スターライト・ソードビームとかね。これも課題として出しとくよ」
なんか変な宿題を押し付けられたぞ。
イメージの確立と、それを押し上げる得意口上も必要とかなんとかで!
いや、モリッカ辺りが似たような事してたけどね。
分かる、分かるんだけど……、うーむ!
まじかる大爆裂……。
ま、まじかるソードビーム…………!? いやいや! 思わず首を振る。
今日は、どのようにしても回数を重ねても成功には至らなかった。割とショックだぞ……。
次はいつものの特訓。
オレとヤマミでウニャン一人を相手に実戦形式の訓練だ。数時間も粘るように戦い続けるものだ。疲労してもウニャンが治療してくれるので、何度でも挑戦できていた。
急激にレベルアップしていくのが自分でも分かるぞ。
「いつも一緒に心霊の会話ありがと。今日はおやすみね」
「ああ。おやすみ。またしようなー」
「うん!」
絨毯が敷かれたマンションの廊下で、ヤマミは柔らかい笑顔で手を振ってくれる。隣の部屋に入っていくのを見送っていると、チラッと彼女の目と合う。ドキッとする。
なんか向こうも頬を染めて、そそくさと引っ込んでドアが閉まる。バタン!
胸が高鳴っていく。なんだろう、この気持ち……?? ドキドキ!
明かりを消してベッドに寝転がると、側でウニャンが丸まる。
「思い込みで使えないってどういう事なんだろう?
いや、剣からビーム出ないのが普通って思い込むと、撃てないって理屈が分からないぞ……」
「タネ坊。彼は誠実で、非常に効率的な戦い方をする優秀な創作士」
「う、うん……?」
え? 何で、唐突にタネ坊を??
「彼はちゃんと暗殺者としての能力と成長傾向を常識的に把握して、厳しい鍛錬を積んでいる」
そ、そういえば、初めて会った時は歴戦の雰囲気が出ていたなぁ。
エンカウントした時、キンタと一緒にモンスターをことごとく倒して行ったんだよな。すげー滑らかだった。
「でも、ナッセ君はそのタネ坊をランキングバトルの試合で倒せたでしょ?」
「え、あ! うん……」
殺陣進撃を放ってくる時の彼らは殺意を放ち、身も竦むほどの威圧だった。
でも落ち着いて剣を振るったら、割と簡単に倒せた印象がしたぞ。
「彼は本当に努力家。でもそれだけ」
「それだけ……?」
「そう! 彼は固定観念に囚われて、自ら発想力を狭めてしまった」
それはどういう……?
「タネ坊はかなり頭が堅いんだよ。ナッセ君も彼ほどではないにしろ、堅いよ」
「う……!」
「もし固定観念に沿うなら、剣より槍だね。リーチがあって叩けば剣より威力が高い。更に言えば銃火器をメインに据えた方が一番強い事になる」
「あ、そっか! 銃の方が威力もリーチも速射性も優れているもんね」
「その通り! その理屈でいくと、創作士は全員銃を持ってる事になる。でもそうなってないのはなぜ?」
コハクは分裂する槍を自由自在に操って色々な技を繰り出す。モリッカはオーラと魔法力を融合させたエーテルに加え、魔法を自ら宿す『形態』での肉弾戦メイン。マイシは圧倒的な竜の力を纏って炸裂剣を振るう。
ノーヴェンだってメガネを媒介に多種多様の能力を発揮していたぞ。
アクトだって、剣一本なのにすげー隙がなくて、かなり強かった! きっと本気出してない!
銃を持って立ち向かえ、言われても勝てそうにない。
きっと確実に防いできたり、瞬殺してきたりしそう。そんなイメージしかない。
大体、洞窟でのガンナードッグの銃撃をリョーコは全身のオーラで普通に耐え切っていたし……。
ああ、そうか!
だからタネ坊はいくら努力しても、固定観念に囚われていたから強くなれなかったのかぞ。
妙に簡単に倒せたのも、ひとえに彼の頑固さゆえなのかも……。
もし、機関銃やランチャーを具現化されたとしても瞬殺できる自信はある。なんか負けるのが有り得ないみたいな……?
あの銃火器って、一見すれば恐ろしい武器なんだよな。
でも負ける気がしないってのも不思議だぞ……。
「自由な発想で……、固定観念を上回る?」
ウニャンは「うむ!」と頷く。
「創作士とは、自分の自由な発想でありとあらゆる可能性を切り開いていく者! 固定観念に囚われず、自分の可能性を信じて、歩むべき道を自ら創り出して突き進む者!」
師匠のこの口上は初めてではない。以前から何回も嫌というほど聞かされている。
けれど、この時ほど頭に響いてきた言葉はなかった。
創作士はただの戦闘員ではない!
自分の可能性を自ら広げて、試行錯誤しながら成長していく者!
「これまでも、そしてこれからも聞かせるよ! 驕らず、初心忘るべからず、という意味でもね」
「うん、ありがとう……。師匠……」
「今日はもうおやすみ」
にっこり微笑むウニャンの顔を見ながら、安らかなまどろみに意識を任せていった……。
その翌日。海の中にいるような亜空間。ウニャンの側でヤマミは静かに座っている。
遠くの大岩を見据える。光の剣を携えて、上へ掲げる。光子を刀身に収束。その時、自分はアニメやゲームの主人公になったつもりで、自分のイメージを頭に描いていた。
「おおおッ!! スターライト・キャノンッ!!」
気合いを漲らせて、剣を振り下ろす。その際に収束させたエネルギーの波動を切っ先から噴き出すイメージで解き放つ。
すると光線が真っ直ぐ伸びていって、視界の先の遠くの大岩に風穴をあけた。
ズゴッ!
「や……、やったぞ!!」
スタスタとウニャンは歩み寄る。にっこりしている。
「まだ威力や精度に難があるけど、最初はそんなものかな。何度も磨いていって鍛え上げていって、必殺の技へと昇華していくのがこれからの課題だね」
「うん!」
なんだか充実した気持ちで胸がドキドキしてきた。
新しい可能性が広がって、これまで狭かった道が大草原のように明るく広々と見渡せるイメージになって感無量していく。
「わぁ! これが創作士……!」
そんなナッセの様子に、ヤマミは胸が躍るように目を丸くした。
ナッセが明るく笑んだ。それは初めてだった。
これまで沈んでたり、硬い表情だったり、ぎこちなさがあった。だけど今は違う!
目を輝かせて、柔らかい笑みを見せている。眩しいほどに美しい。
それがナッセ本来の笑顔……。ドキッ!
「今の見た? ……ん? ヤマミ? 顔赤い……?」
「え? ええ!? う、ううん! だ、大丈夫だから!」
あわあわ、赤面して取り乱すヤマミ。その頬が美しくピンクに染まってて、恥じらう仕草も相まって可愛らしい。
なんだか胸がキュンとしてくる。
ボッと顔が熱くなってきた? なんだろう? この昂揚する気持ち……?
ドキドキ……!
初々しくナッセとヤマミは赤面したまま、互いに顔を背ける。
それを見てウニャンは満足気に笑んだ。うふふ。
《青春だね~~! そうそう、これをまた見たかったんだ!》
あとがき雑談w
同じくしてリョーコもスミレとエレナと秘密特訓~。
仮想対戦センターで独自特訓を繰り返していたみたいだぞ。
スミレ「おつかれ~! はいジュース~w」
リョーコ「いいわ。自分のがあるから」ゴキュゴキュ!
スミレ「チッ!」(邪険な顔で舌打ち)
エレナ「???」
なんと惚れ薬を混ぜて、リョーコに飲まそうとしていたのだw
しかし感情の起伏を敏感に感じ取れるようになったリョーコは事前に見抜けたのだったw
スミレ「うおお~! リョーコの処女欲しいぜ~!」(渇望)
エレナ「最近、スミレちゃんおかしくないッ??」
次話『突然の刺客!? こいつはかなりの強敵だぞッ!!』