76話「孤立! やさぐれ竜マイシ!」
ゴン蔵の放った巨大な光球が、マイシの視界に入る。眩い閃光が全てを覆う。
ドオオオオォォォンッ!!!
周囲のビルを巻き込んで、赤々と爆発球が広がってゆく。
それを見下ろすゴン蔵はティラノサウルス形態のまま、不敵に笑んでいた。
見渡す限り田んぼで見渡せる田舎。広々としていて疎らの家、生い茂る緑、そして山。
車もあまり通らぬアスファルトの道路。側に自然の水路が沿っている。透き通った水流にメダカが泳いでいるのが窺える。
それを一人で歩く女の子がいた。年頃は十才未満。腰に刀を差している。くせっ毛の赤髪のショートヘア。しかし強気なツリ目は相変わらず。ムスッとしたような表情。
道路に一点の黒い点。それはあっという間に広がって辺りを荒廃した世界に変わる。
ヘドロに汚れた水路と田んぼ。枯れた草木。朽ち果てかける家。混濁した暗い空……。
しかし女の子はいつもの通りと歩き続けていた。
「ピピ────ッ!!」
なんと大きなカタツムリのモンスターがのそのそと現れる。上位種のハイパークミーンだ。
一匹いるだけでも並の創作士では手に負えないモンスターの一つだ。それらが六匹。一斉に女の子へ囲むように襲いかかる。
「かあっ!!」
女の子は払うように両腕を広げ全身から灼熱のオーラを爆裂させ、ハイパークミーンを粉々に吹っ飛ばす。
小学生の時点でも、既に高い戦闘力を誇っていた。
「マイシ、お前が妹じゃなければ良かったのに……!」
家に帰ると、兄から忌々しげにそう言われた。
マイシと呼ばれた十にも満たない女の子は黙って通り過ぎる。兄は高校生間近の中学生。創作士としてもかなりの腕前なのだが、妹であるマイシに対してどこか冷たい。
マイシは自分の部屋に着くと、背負っていたランドセルを放り投げて畳の上に仰向けで転がる。
「ったく聞き飽きたし」
家族内に限らず、学校でも耳が痛いほど聞いてきた。
最初の頃は生意気だとイジめてくる男の子もいたが、怪我するほど返り討ちにして以来静かだ。友達だった他の女の子も恐れて避ける。担任の先生ですら腫れ物を扱うようによそよそしい。
「いなければいいのにー!」
すぐ黙ったが、聞こえたその一言が衝撃だった。それが彼らの本音かし……。
「ご、ごはん……できたよ」
恐る恐ると末妹が障子から顔半分覗き込んできていた。マイシはため息をついた。
家族団らんでテーブルで囲むが、黙々と食べるのみ。ピリピリしている。そんな空気にもマイシはうんざりしていた。
「暴れなかっただろうな?」
「恐れて誰も近づいてこないし」
「そうか……」
父との会話も、こんな感じだし。
「不満だろうが、大人しくすることだ。お前はそれでも女の子だからな」
「フン!」
父は厳かにたしなめてくるだけで、褒めてくれた事は一度もない。
創作士としても父はかなりの腕前だったが、それでさえマイシには勝てない。手合わせした事があったが、一太刀浴びせると父は吹っ飛んで壁に身を打ち付けて大怪我。病院送りになった。それ以降は一度も手合わせしていない。
誰もが恐れをなして、本気でぶつかろうとしなかった。
だが本気でぶつかり合える相手が欲しかった。
こんな自分を認めて欲しかった。
褒めちぎって欲しかった。
そんな渇望を胸に、ひたすら静かに過ごすしかなかった。
中学生になっても、高校生になっても、相変わらず隠遁したような生活は変わらなかった。
全力で暴れられるのはエンカウントしてモンスターと出くわした時だけ。
高校卒業後、親から無情にも勘当された。
いつかは来ると思っていた。むしろ清々した。ようやく窮屈な暮らしから解き放たれるのだと!
アニメーター学院に入学してはっちゃけたのか、自己紹介で自らを誇示して言い放った。
「あたいは龍史マイシ! 剣士として、世界一を目指してるし! 同じ剣士なら負けないし! そこんとこヨロシクだし!!」
強気に笑んで、腰から剣を引き抜き白刃を煌めかせた。
気になるのはキリッとしたコハク、ちょっとサイコっぽいモリッカ、そして赤い仮面のフクダリウス辺りだし。今までに感じた事のない威圧が秘められているっしょ。後はザコ。
ヤマミ、スミレ、ノーヴェン、エレナ辺りもそこそこ強い気配が感じられるけど、大した差はないっしょ。
あと、銀髪のチビはビビってたから眼中ナシ!
張り合える相手さえ現れれば、それでよかったし!
「ねぇ、お前も剣士なんだよな? ちょっと俺ら付き合わない?」
夕日で橙に染まってる最中、帰る時にぞろぞろとマイシに群がる男衆。
「君、強気なとこ気に入ったよ……」
角刈りで小太りで少し背が低い。おっさん顔でドヤ顔っぽい男。毛深さを感じさせる。
達矢イワシロー。クラスは剣士。
そいつは聞いてもいないのにベラベラ喋りだす。どうでもいい事を聞かされる。コイツは自慢げに言ってるだろうが、ただただ不快なだけだ。
自分は女によくモテる。ハーレムを楽しんでる。自分は神と同じ崇高なレジェンドである。エッチでハーレムものの漫画やアニメを事細かく聞かされる。
なんか銀髪のチビや斧女子に恨み節があったのか、ネチネチ愚痴っていた。
ほとんど自分語りだ。正直言ってウザい。
他の男衆はマシンガントークだ、と面白がる。
その時、エンカウントが発生。闇の世界へ反転されると、男衆はマイシの手足を押さえつけてきた。
下卑たドヤ顔のイワシローはナイフをひけらかし、反射光で煌めいて見せる。じゅるりと唇を舐める舌。
「最近ね、白髪チビのせいで腹立っているんだよ。だから大人しくした方がいいよ……。フフ」
「待ちきれねぇ! ヤっちまおうぜ!!」
「ひゃははははは!!!」
男衆の下卑た笑い声が不快に劈く。いずれも額にツノを生やしていた。
現実世界と切り離されたエンカウント世界でなら、好き勝手にできるんだろうし。
だから激怒したし! あんたらはあたいの逆鱗に触れたし!!
ドガドガドガガガッ!! 荒ぶる爆裂の連鎖が巻き起こった。
周囲の建物は瓦礫と化し、ほぼ平らになっていた。煙幕が立ち込め、横たわる男衆。立ってるのは殺気立ってるマイシ一人のみ。
「うう……」
血塗れで呻くイワシローの胸元を強く足蹴。「がっ」と激痛に声を上げる。
「弱ぇえくせに群れただけで、イキってるのが一番ムカつくし!!」
「た、助けてくれぇ……」
その命乞いも癪に障る。さっきまで女一人を連れ込んで集団で暴行しようとした癖に、今更助けてくれとか情けなさを取り越して侮蔑する。
「あんた、神と同じってたしモテるっしょ?」
「た……頼む……! 助けて……くれぇ…………。なんでも言う事……聞くから……」
「じゃあ今すぐ死ねし!!」
マイシは憎悪を吐き出すように言う。イワシローは青ざめ目を丸くする。
「そ、それだけは……」
「は? なんでも言うこと聞くって言ってたっしょ?」
「し、執事になってあげるよ……。そしたら夜慰めてあげるよ……。へへ……」
嫌悪を催し、混濁する憎悪を含めた剣でイワシローを突き刺す。ドスッ!
「うげっ!」
痙攣し、事切れたイワシローは煙となって風に流れていった……。
それから後日、教室でキンタは落ち着きなくうろたえていた。親友のタネ坊もそれに感傷していた。
「イワシローさん最近来ないやん? ああ……心配や……」
「そうだな。俺も探索に付き合おう。城路君を家に送り出してから、夜に探そう」
「……せやな」
俯くキンタ。どうやら友人関係だったし。
「なぁに、また会えるさ。きっとどこかでいつものマシンガントークかましてるさ」
ポジティブに励ますタネ坊にキンタも安心したのか明るくなる。
「は、はは……。せやなぁ。ひょっこり戻ってきそうやわ~」
バーカ! 戻ってくるわけないし!
本当は女一人を暴行しようとしていたクズだとは知らないし。いや同じクズだし、どうせ同じ考えっしょ。
マイシは素知らぬ顔で背けた。プイ!
なんか、また剣士が絡んできた。
「俺様は世界最強の剣士、健多呂タカハツ。いずれは警官創作士となって国の平和を守る男だ! タカハハハハ!!」
頭はパンチパーマ。表情は目を見開いていて怒ってるような形相。強面も度が過ぎている顔だ。
「俺様の女になれ!! これは絶対の命令だ!!」
「断るし!!!」
マイシの怒気の入った返しに、タカハツは「うっ!」と逆に怖気づく。
「な、なにを~~!! 女の分際で俺様に逆らうってか~~!!? ああ?」
怒り狂ったそいつは頭から牛のような一対のツノを生やす。エンカウントが空間が広がって荒廃した世界に切り替わる。
タカハツが欲情のままに飛びかかってくるのを、マイシは嫌悪の眼差しで見据える。
容赦のない破壊が蹂躙し爆音が鳴り響き、地響きと共にあちこち建造物が崩れ落ちていく。
クレーターでへこんでいる壁を背に項垂れるタカハツ。服もボロボロで血塗れだ。
マイシは殺意の眼差しで見下ろし、剣の切っ先を彼に向けていた。
「逆らったら何だし?」
「う……うう……、た、助けてくれぇ…………」
自分が苦しくなったら決まって命乞いだ。そこに誇りなんて感じさせない。
これまで会ってきた剣士は形だけで、失望させるものばかり……。
「くたばれし!!!」
憤怒の炎を滾らせた感情で突き刺す。鮮血が飛び散る。
こうして同期で残ってる剣士は自分を除けば、城路ナッセ一人だけになっていた。
最初の自己紹介で笑いものになってたから歯牙にもかけないザコだと思っていた。どうせ最初に逃げ出すだろうと高を括っていた。見た目も性格も弱っちいし。
だが見方を覆したのは、狂戦士を相手に、一人で戦うひたむきなナッセを見たからだった。
他の剣士には見られない真っ直ぐな戦い方と類稀なる根性。まるで漫画のキャラのようだった。
ついつい見とれて最後まで行方を見守ってしまった。
思わず手に汗を握り、昂ぶるように燃え上がっていた自分にも嫌悪した。
────そんなの絶対認めないし!!
「アンタ、さっさと剣士辞めろし! でないと五日後、潰しに行くし!」
だからこそ巨大な女王人形を粉砕した後、ムカつくそいつに宣戦布告したのだった。
あとがき雑談w
ナッセ「小学生のマイシ強くねぇ?w」
ヤマミ「ハイパークミーン6匹瞬殺してる時点で充分強いわよ!」
『小学生の龍史マイシ(剣士)』
くせっ毛の赤髪のショートヘア。赤いワンピース。赤いランドセル。十歳以下。
周りから怖がられて孤独の身。グレている。
早くも竜の力を覚醒させている天才児。
威力値30000
『龍史ガンイ(槍士)』
マイシの兄。高校生間近の中学生。体格は大きく、筋肉モリモリ。14歳。
槍の扱いは天才級で、他の創作士にも一目置かれている。
自分より強い妹のマイシに嫉妬している。
威力値8700
『龍史イシロウ(侍)』
マイシの父。厳格で融通が利かない不器用な性格。42歳。
怪我を負わされた事については気にしていないが、娘の今後の将来を案じていた。
人脈は広く、高名な創作士として知られている。
威力値16000
『龍史ナガレ(暗殺者)』
マイシの妹。内気で人見知り。実は強い姉に憧れている。九歳以下。
凄い才能はあるらしいが……?
威力値1200
キンタ「ここからはワイの自慢の友達やで~! 造ったんやけどw」
『達矢イワシロー(剣士)』
角刈りで小太りで少し背が低い。おっさん顔でドヤ顔っぽい男。毛深い。1歳未満。
自分語りでドンドン話していくマシンガントーク。
キンタの友達だが、実は秘密があるらしい?
威力値7600
『健多呂タカハツ(剣士)』
頭はパンチパーマ。表情は目を見開いていて怒ってるような形相。強面も度が過ぎている顔だ。1歳未満。
警官創作士となって国の平和を守ると嘯いている。
キンタの友達だが、実は秘密があるらしい?
威力値13500
次話『マイシ復活!? さぁ反撃開始!!』