73話「最悪! クローン工場とハス太軍団!」
午前一時の深夜は都市といえど、騒音は控えめになっていた。
月夜を上空に、高層ビルなどが建ち並ぶ。その中のマンション一軒は窓のほとんどが暗くなっていて静寂している。それを眺める黒マフラーの女。
彼女はビルのアンテナの上で佇んでいた。
「よォ……。こんな夜更けに、女性一人は危ねェぜ?」
黒マフラーの女は自分の立つビルの頂上を見下ろす。天然パーマの黒髪、ジャンパーを着込んだ一人の男。アクトだ。しかし女はなんの反応も示さない。
「反応ねェのは傷つくぞォ……。ヤマミ!」
顔を半分覆う黒いフードを剥ぎ取る女。しかし、その露わになった顔はヤマミではなかった。アクトは見開く。
黒髪に違いないが額で半分け、ツインテール。メガネを掛けていて、ツリ目の凛々しい表情。首にはチョーカー。
「ヤマミ? 人違いでしょ?」
「あァ……。別人だったのかァ」
アクトは不気味ににっこり微笑む。
とある地方の田舎で聳える工場。深夜であるにも関わらず、窓の明かりはついていて稼働しているのが窺える。そんな折、ドガァッ壁をぶち破って爆発が溢れ、あちこちボンボン爆発が噴き出す。
工場内部で火の手があちこち燃え盛っていて、作業員が逃げ惑っていた。逆にコンパチ面の男達は急いで集合していく。
「私は工場長の崇肥ヌモウ! なぜ荒らしてくるんだッ!?」
金髪坊主、額に二つのツノ、フレームなしのメガネをかけた四十過ぎの太ったオッサンは不機嫌に、目の前の女子を見る。
女子は赤髪のセミロングの、不敵に笑うマイシ。だが激しい怒りが顔に表れていた。
「ここから血の臭いがする。やはり、夕夏家のおぞましい研究の隠れ家といった所だし」
「に、臭いで気付くとは……!?」
「ここは潰す! 死にたくないなら、さっさと逃げろし!!」
「……そ、そうはいかん! オカマサ……いや、夕夏家は我々に重要な仕事を任された。例え人の道外れた事をしようとも、自分の生活や家族のために犠牲は多少必要! それこそ日本の国益の為だ!! 邪魔するな!!!」
工場長は憎々しげにマイシを睨み、ナイフを手に震える。
「じゃあまず、お前が犠牲になるし!」ゴゴゴゴ!
殺気立つマイシは剣を手に、全身から竜を象るオーラが燃え上がって周囲を震わせていく。その剣幕に工場長は「ひぃい」と腰を抜かしそうになる。
すると工場長の後ろからシュバッと複数の人影が飛び出す。スタタッと裸足が降り立つ。全員黄緑色の半裸の男。ズボンは緑色で簡素的だ。
ニカッと笑う。ひょうきんな表情をした顔。ハゲの頭には片方だけツノが生えている。
「ワイらはあらゆる遺伝子を組み替えられたクローンや」
「最強最悪の遺伝子やね」
「そらそうや。ってかハゲなのも治して欲しいわー」
涙目でツルツルの頭を撫でる。他のハス太も「うんうん」頷く。
「あひゃっひゃっひゃっひゃ」
おどけるように彼らは笑い合う。
「……多くの人間を犠牲にして生まれたし?」
「へへっ! そうやね百人以上とちゃうんか?」
「そうそう、ワイらは数人分の人間の力を持っているんやー」
「ほな見さらせ!」
その内の一人が、ただの腕力だけでその辺の重そうな装置を軽々と持ち上げる。ベキベキッっと固定した金具やチューブが剥がれていく。
「ほらよ!」
マイシの方へと投げつけるが、ひと振りの炸裂剣でバカッと砕かれる。破片が四散する最中、マイシは険悪な表情で見据える。しばしの沈黙。
「ああ。ワイらをどう呼ぶか困っとるやね?」
「あ、そうか! それは不便やな~!」
「いつも呼び合っとるじゃがな、ワイらは」
「ハス太なんや!!」
「俺、ハス太Aな!」
「ちょっと待つんや! Aはワイやろ?」
「あんさんはF」
「おいおい、それ言うたらあんたFってワイ思ってたわ!」
「なんやて~~!?」
「喧嘩売るか? あぁ??」
「ってか統一しろよな~~~~!」
ボコボコ喧嘩し合うハス太達を尻目に、一人のハス太が涙目で頭を抱えた。
なんか勝手に漫才するハス太集団。工場長はぽかんとする。見た目とは裏腹に愉快な関西弁のクローンの男。だが、オーラも魔法も使わず数トンもの物質を軽々と持ち上げられる膂力を持っている。
そうこうしている内に、コンパチ男がズラッと周囲を取り囲む。ハス太たちも拳を見せ、赤い刻印が灯る。ニカッ!
工場長は「おお!」と安心の笑みを浮かべる。
ゴゴゴ、と鳴動を起こしながら凄まじいオーラが共鳴し合ってハス太集団に注がれる。
砂埃を周囲に吹き荒れ、膨大なオーラを纏うハス太達は据わった目で不敵に笑む。
「あんさん、ハズレくじ引きよったなぁ……」
「せやせや! 今日が命日やね!」
「へいへー!! この怪力に膨大なオーラでプラスすると無敵なんや!」
「ワイらハス太軍団のTUEEEEE無双開幕やー!!」
士気高揚と、嵐のような迸るオーラを纏いながら、床を爆発させて一気に瞬速で飛びかかるハス太集団。
「消えろし!」
ドガッ、と強烈なひと振り一発の炸裂剣が衝撃波を撒き散らし、ハス太全てを四方に吹っ飛ばす。
それぞれ壁をバリリンとぶち破っていった。そのまま勢いよく飛んで遥か遠くへと弧を描く。落下時にグチャグチャッと全身を地面に打ち付けて横たわる。断続的に痙攣すると、次第に動かなくなっていく。
「ひ、ひいいいい!!!」
工場長とコンパチ男達は震え上がった。あの最強クローン軍団をたったの一撃で一蹴されるなんて思ってもみなかったからだ。圧倒的すぎる……。
ガッと踏み鳴らすマイシに、工場長は「ヒッ」と声を上げる。
「ハズレくじに命日……、誰のこと言ってるし?」
「や、やめろォ……!」
「じゃあ、なぜクローンなんか作り出したし?」
コンパチ男達は秘密漏洩をさせまいと、玉砕覚悟で一斉にマイシへと襲いかかる。だが、マイシは据わった目で見やる。
工場の屋根を突き破って爆風が轟く。ボー……ン!
────死屍累々。辺り一面、装置も何もかも破壊し尽くされ火の手が上がっている。コンパチ男たちがあちこちで横たわり、工場長はガタガタ震え尻餅をついていて失禁。床を濡れる。
マイシは威圧を振りまきながら悠々と歩み寄る。ゴゴゴ!
「い、遺伝子操作できれば、見た目も良く、病気にもならず、四肢欠損も再生でき、あらゆるウイルスを跳ね除け、更に素晴らしい膂力を持つ最強の人類が誕生する!
それで世界を制圧し、宇宙にも進出するという夕夏家の野望なんだっ!
あと魔王化なんだかモンスター化なんだかを克服とか色々言ってたが、そこまで詳しく知らんっ!」
「最強の人類……? さっきのアホどもがそれかし!?」
苛立ちのままに刀を床に突き立てた。工場長は尻餅をついたまま後退りする。
「た、頼む!! どうか命だけは助けてくれいっ! 私には妻と子供二人がいるんだ!!」
「じゃあ、質問するから正直に言えし! そうすれば見逃す事も考えるっしょ!」
「は、はい! なんなりと!」
こくこく頷く。
「行方不明事件に便乗して、何人さらって来たし?」
核心を突かれ、工場長は顔面汗タラタラする。煌くマイシの剣が喉元に近づく。ヒッ!
「……せ、正確には数えてはいない。だ、だが、この村は廃村にするつもりで、お、行う予定だ。そうなったら次の村へ移る。私の家族も一緒に引っ越す。だが……それは我れらが工場……いや、夕夏家のどこの企業でも、お、同じ事をやっているんだ……。
既に多くの村が消えている。わ、私は……悪くないぞ!!」
マイシはカッと激情が湧き上がる。だが、内心ギュッと抑える。
「ではさらった人をどんな風にするし?」
「か……髪の毛など一部を採集する。遺伝子解析の為だ。その後は私の慰……クローン人間の練習台や研究の実験台にして、遺体は完全焼却して証拠隠滅している。
万が一、生き残りが逃げたらクリーンなオカ……夕夏家にあらぬ疑いが向けられるからだ。そうなったら私共々家族処刑される。頼む! この事は誰にも言わないでくれ!!」
「……分かったし」
「ほ、ホントか!? わ、私は……また別の村へ行く! 頼む! 見て見ぬふりしてくれいっ!」
「また繰り返すし?」
マイシは訝しげな顔を見せる。
「当たり前だ!! それが私の仕事だ!! この工場が壊れたのは惜しいがな!
この事は誰にも言うんじゃあない! いいな!?」
また同じ事やろうとしている工場長に吐き気を催す。
「へっ、見逃すかどうか考えただけだ! やっぱ見逃さない事に決めたし!」
ニッと笑う。それを察した工場長は見開いて「だ、騙したな!!」と吠える。
スラッと刀を振り上げるマイシに工場長は顔を真っ青に萎縮。
「ま、待て!! そ、そうだ! 言い値で用心棒に雇ってやろう!! 夕夏家なら、いくらでも出せる! いくら欲しい?」
「サイッテーのクズだし…………!」
湧き上がる怒りで、眼光が殺意に鋭く煌く。
それでも工場長は見苦しく「待て! 四首領の夕夏家に逆らってなんの得がある?」「私を殺せばただではすまんぞ!」「いや頼む! 助けてくれ!!」「こんな事はもうしない! は、反省する!」「だっ、だから止め……」と涙目で口上を並べ立てる。
「地獄へ落ちろしッ!」
無情に炸裂剣を振り下ろし、工場長ヌモウをドガァッと爆裂に包む。
残骸となった工場は、燃え盛る灼熱の海に沈んでいた。ゴオオオオオオ……。
それを背景に、マイシは静かな怒りを孕む表情で歩き去っていった。
「……四首領だろうが、夕夏家は全部潰すし!!!」ギリッ!
あとがき雑談w
ナッセ「知らないトコで色々やってるなぁ……」
ヤマミ「ほとんど学校に来ないし」
リョーコ「ってか、サボり多くなってきてない??」
『工場長の崇肥ヌモウ(ただの人間)』
金髪坊主、額に二つのツノ、フレームなしのメガネをかけた四十過ぎの太ったオッサン。
実験の為になら村を滅ぼしてもなんの罪悪も持たない最低野郎。
妻子はいるが、同じムジナ。
威力値230
『ハス太』
全員黄緑色の半裸の男。ズボンは緑色で簡素的だ。
ニカッと笑う。ひょうきんな表情をした顔。ハゲの頭には片方だけツノが生えている。
多くの人間を犠牲に作り出された人造人間。
スペックは並外れて高いが、作中では有象無象のザコ扱い。
威力値6000
威力値18000(『刻印』使用時)
コハク「主人公そっちのけで、マイシが突っ走りますか……」(ため息)
エレナ「むしろマイシのTUEEEEE展開ッ!? いいなー!」
コハク「……なんで僕だけの展開ないんでしょうかね?」(ため息)
モリッカ「ケヒャッヒャッヒャ! どんな気持ち? どんな気持ちー?」
コハク「……いい加減にしないと刺しますよ!」イラッ!
次話『留守にしていた社長が襲撃!?』