71話「怒れる竜! マイシの逆鱗!」
ゴトン、ゴトン、荒廃した電車は延々と夜景を窓に映し、走行を続けている。そんな車体の中で二人は対峙していた。
「夕夏家第八子、夕夏キュリア! 剣士だ!! 忘れられなくしてやるッ!!」
頭に血が昇ったこの男もまた夕夏家の一人。
立派な黒いスーツを着た色白で痩せぎすの男。耳を隠すように伸ばしたロン毛。目はねっとりしたタレ目で卑しい感じが窺える。そしてシルクハットをやや前傾に被っている。
そして背後に、同じ顔をしたコンパチ面の数十人の男が並んでいる。
キュリアの手の甲の『刻印』が灯ると、コンパチ面の男達の『刻印』も共鳴して灯り出す。
溢れるほどの凄まじいオーラは電撃を迸って、主であるキュリアを覆う。
「相変わらず他力本願かし」
赤髪セミロングに強気なツリ目。セーラー服のような洋服でスカート。腰には刀を収めた鞘を差している。
一見華奢な美女だが、内に秘めるドラゴンによる威圧のせいで弱々しく見えない。
「く……ははははは!! 貴様の目は節穴か!? 俺様の方が強くなったんだぜ? 気配で分かるだろ? え?」
「節穴って……、人のこと言えないし」
相変わらずマイシは呆れた顔で肩を落とす。
「この時の為に、俺はせっせと勧誘を続けて本部長まで昇進したのだーっ!!」
キュリアを中心に、ズァオッと砂埃が四方八方に吹き荒れた。煽りを食ってガタガタと電車が揺れる。
尋常じゃないオーラ量と質。並の創作士なら、恐怖に打ち震える程だろう。
しかしマイシは平然だ。髪の毛とスカートが風に揺れる。
「今ここで決着をつけるのもいいが、もし惚れ直して俺の妻になると誓うのなら不問にしておいてやる」
「雑魚じゃ話にならないし」
「な、なに~~~~!?」
それでもマイシは剣を抜こうともせず、両手をぶら下げたまま突っ立ってるだけだ。
そんな余裕な態度にキュリアはカチンときていた。
「この俺を見くびるなよォォォ!!!!」
キュリアは怒りのままに剣を振るうと、扇状に光線が放たれた。ドドドン、と爆発が広がって何両もの車体を木っ端微塵に吹き飛ばす。
「うおりゃああああああ!!!」
それでも狂ったように剣を振り続け、何度も何度も爆発を撒き散らして周囲の線路や高架橋をも巻き込んで破壊しつくしていった。
乗っていた半壊した車体も、崩れた高架橋から転がっていって爆発を巻き起こした。
線路が並ぶ高架橋の上に降り立ち、キュリアは「はぁはぁ」と息を切らす。やがて口元を釣り上げてニヤと笑みを浮かべる。
「へっへっへ! 無理して強がるから、てめぇの人生を台無しにしてしまうんだ! ざまぁみろ!!」
「そんな戦法もクソもない剣が、あたしに通用するかし!」
「な!?」
後ろへ振り向けば、いつの間にかコンパチ面の集団が山のように積まれ、マイシは余裕と手をパンパン払っていた。
汗タラタラで「ぬぐぐ……」と唸るキュリア。
「バカめ!!! 本部長となった俺にそんな弱点はねぇ!!」
赤い刻印の手を高らかに上げると、倒れているコンパチ面の男たちからオーラがキュリアへ吸い込まれていった。そして再びドンッと周囲に煙幕を巻き上がらせ、凄まじい鳴動がゴゴゴゴと絶えず辺りを震わせ続けている。
「いざとなれば、駒どもの命と引き換えに俺一人の戦闘力を更に爆上げできるのだーっ!! はははははっ!!」
「全く……この男は…………!」
吐き気がするクズに、マイシは苦い顔を見せた。
やはり剣士として誇りなど、キュリアにはない。あるのはただ我欲のままに暴力を振るって自分を誇示する小物らしいプライド。
相反するように脳裏にナッセが浮かぶ。彼は力負けしていようとも立ち向かってきて、引き分けに持ち込んでこれた。子供っぽい見た目と言動をしているが、その芯の強さは戦ってみて初めて思い知った。
彼こそ、自分が認めた剣士だし!!
「それに比べ、あんたは剣士の風上に置けねぇし!!」ギロッ!
怒りを顕わに、全身から燃え上がるような激しいオーラが噴き上げた。ボンッと、一気に周囲へ広々と煙幕が吹き荒れた。なおも吹き荒れる旋風が高架橋を揺らし、線路の岩礫が舞い散っていく。
ビリビリ……、キュリアは畏怖した顔で上半身を反り返っている。
「な、何をたわけ……」
シュッと瞬時に間合いを詰めるマイシに、キュリアは目を丸くした。速い!
竜の爪が振り下ろされるように炸裂剣がキュリアの剣を破裂させて叩き割った。返す剣でキュリアを斬り上げる。炸裂剣が二連発、ババン!
「ぐああー!」
キュリアは勢いよく数百メートル吹っ飛び、ズザザザザザと砂利の上を長らく滑って無様に転がった。
既に服はボロボロで至る所で血が流れ、満身創痍でうつ伏せ。周りに煙幕が立ち込める。
マイシがスタッと近くに降り立つ。
「勧誘しただけで何したし? 強引な手法で人を洗脳してコマにして、楽ばっかしてるてめぇに負ける道理ないし!」
「が……がっ!」
震えながら上半身を起こすキュリア。
いかに膨大なオーラで守られているとは言え、マイシの二撃だけでもうボロボロだ。
この事にキュリアは思い知り、冷や汗いっぱいでガタガタと戦意喪失していた。
「あたしは異世界にまで赴き、強敵だったナッセと死闘をしてきたし! あいつも死に物狂いで戦ってくれたし!」
「あ……あぁ……!」
「少しでも根性みせろしッ!」
横たわるキュリアをドカッと蹴り上げる。
ゴロゴロンッと転がされたキュリアは次第に涙を溢し、怯えた顔に引きつっていく。
「ま、待て!! マイシ! 俺を見逃してくれー!! 見逃してくれれば、お前の竜の力の秘密を教えてやる!!」
「竜の力……? それが何の秘密だと言うし!?」
マイシは怪訝な顔を見せる。キュリアはヨロヨロと立ち上がり、垂れている腕を手で押さえる。
「生まれつきで備わったと思ってるようだが、違う!」
「な、何だとし……!?」
「俺達、夕夏家は国内でも企業等を幅広く展開している。過疎っている田舎の地方にもだ! だがその実は、実験するために拠点を置くためなのだ!」
自分の自慢のように笑みを浮かべるキュリア。それに対してマイシは動揺を見せつつあった。
「ドラゴン種の『魔獣の種』を、お前の村の人全員に植え付けたのだ!」
「なにっ!?」
「魔獣の種は割と簡単に手に入る。しかしそれを摂取したとしても目覚める人は極希。ほとんどは一生を終えるまで普通の人間として過ごす。だ、だからこそだ!!
田舎村に奉仕するていで、村中の人間に摂取させた。その中で、お前一人だけがその力を覚醒させる事ができた! 多数の中で一人さえ覚醒さえできればいい! それこそが夕夏家、そして総統のヤミザキ様の狙いなのだっ!」
マイシは稲光が迸ったように強い衝撃を受け、呆然とした。
「貴様のようにドラゴンの力を発揮できる類稀なる素質のものを、実験台にして総統ヤミザキ様は自身の更なる進化を追い求めておられるのだ!!」
「ヤ……ヤミザキが!!」
ふわりと宙に浮くキュリア。不敵に笑んで上昇を続ける。
「だが、貴様ら村の人はヤミザキ様を裏切ってお前を逃がした!! 故にヤミザキ様が直々に滅ぼしたのだ!! 行ってみるがいい!! 既に荒野と化しているがなっ!! はーっはっはっはっ!!!」
とある田舎の立派な屋敷。
周囲は田んぼで敷き詰められている。その中で大きな土地で広い庭に大きな木々が目立つ。木造の古い家。昔から代々伝わってきたであろう歴史のある名家である。
玄関と門の間の『渡り廊下』と呼ばれる場所で家族の人が向き合っていた。
マイシを前に、両親は厳しい顔をしていた。兄も妹も怪訝な表情をしている。
「お前は目に余るほど素行が悪い。確かに類稀なる才能を持ってるだろうが、ここに置いておくわけにはいかん。入学の手続きはしておいたから好きにするがいい。今日をもってお前とは縁を切る。二度とこの地を踏むな!」
「ハ! 望むところだし!」
冷めた目で侮蔑を含むように言い放ち、纏めておいた荷物を背に抱え踵を返す。
その後は忘れた事にして大阪で学院生活を送っていたのだ。だが、キュリアから知らされた事実にショックを受けた。
夕夏家に実験台にされる前に、親によって自分は逃がされたのだと……。
脳裏に両親と兄と妹の顔が浮かぶ。全身を震わせ、燃えるような激情が湧き上がってくる。
「まぁ、告げ口をしたのは俺様なんだけどな! へへっ! じゃあなー!!」
そのまま夜空へ飛び去っていくキュリア。しかしマイシはキッと睨む。背中から竜の翼を象るオーラを羽ばたかせ地面を爆発させて、その勢いで急上昇。
一気に迫るマイシの気迫に、キュリアは「ひっ!」と恐怖に見開いていく。
まるで逆鱗に触れられて怒り狂う竜が、アギトを開けて襲いくるかのようだった。
「てめぇ!! ぶっ殺すしッ!!!」
怒りのままにマイシは荒ぶる竜のオーラによる剣でキュリアを滅多打ち。怒り狂う竜のなぶり殺しにも等しいほど、激しい剣戟が荒れ狂う。
繰り返される『炸裂剣』はドドドド、と空で連鎖し続け、鳴り止む事がなかった。
キュリアの腕、足、腰、背中、肩、バキボキと骨を砕かれ、なおも嵐のような剣戟は止まない。
「ぐぎゃあああああああああ!!!!」
夜空に激怒の爆裂花火が四方八方に轟いていった。ゴゴォォォ……ンッ!!
静まり返る夜空。岩山の上でマイシは龍を象るオーラを纏い、剣をぶら下げたまま途方に暮れる。
沸騰するように怒りが沸いてきて歯軋り。ギリ……!
苛立ち気に剣を振って、離れた隣側の岩山を爆裂で粉々に砕く。ドォンッ!
「夕夏家総統……ヤミザキ! 絶対に許さないしッ!!」
あとがき雑談w
マイシ「ちっ! こんなザコどうでもいいだろし」
『夕夏家第八子キュリア(剣士)』
夕夏家総統ヤミザキの息子の一人。
スーツを着た色白で痩せぎすの男。だが目元はねっとり卑しい。21歳。
部下や見下している人間をなんとも思っていない残忍な野郎。
刀剣波(剣ビーム)をぶっぱなす脳筋。何故か空を飛べる。
煽るようにベラベラ喋った為、マイシの逆鱗に触れて汚い花火になった。
威力値5500(単体)
威力値22000(『刻印』使用時)
威力値32000(『刻印』で部下生け贄時)
ナッセ「うひゃ~! 数値だけ言ったらリッチより強いのかぞ?」
ヤマミ「こいつ嫌い!」
マミエ「嫌い!」
性格が悪く、弱い者には威張り散らして強い者には媚びへつらう。
あと女癖が悪くセクハラもする。
風俗によく通い、お気に入り数人と重婚しようとしてたらしい。
なので夕夏家の中でも嫌われ者だったようだぞ……。
次話『ヤミザキが世界の中でも大物だとナッセは知って……!?』