70話「夕夏家への反乱! 序曲!」
バチバチ、荒ぶる電撃を纏う青く輝くモリッカ。
「行きますよ!!」
フッと掻き消え、瞬時にコハクの背後に現れるモリッカ。しかし三本の真紅の槍が俊敏に交錯、モリッカの突き出す拳を阻む。ガギィッ!
まるで槍それぞれが意志を持ったかのようにコハクを守ったのだ。
ガァン! 破裂するように衝撃波を散らし、モリッカとコハク双方は離れた。
「言ってませんでしたが、この槍は自分そのものでもあるんですよ」キリッ!
「くっそー! だが次はッ!」
今度は雷が如くの瞬間移動のような超高速フットワークで、コハクの周囲にモリッカが数人映る。
身を屈めて警戒するコハクの周囲を、数十の真紅の槍がギュルルッと高速で周回。
一斉に周囲のモリッカが襲いかかるように、格闘の弾幕が囲んでくる。しかし真紅の槍も迎え撃つようにそれぞれが躍り出る。
「はああああああああッ!!」
コハクは槍を、モリッカは拳を振るい、二人は燃えるような裂帛の気合を発して火花を散らす。
ズガガガガガガガガガガ!!!
四方八方からの拳と、数十本もの槍の弾幕が激しくぶつかり合い、その激突で地面の床が抉れていって地響きが大きくなっていく。
コハク自身もキリッと槍を振るい、あらゆる格闘の打撃を弾いていく。
真紅の槍がいくつか砕け散っていくが、わらわら増殖を続けていくので尽きない。
ズゴーン、ドゴーン、バゴーン!
衝撃波の爆発があちこち連鎖するように炸裂して、周囲を巻き込みつつ破壊し尽くしていった。
《ほぼ互角だね。多分引き分けで終わるんじゃないかな?》
オレはヤマミと共に見入っていた。
増殖し続ける槍を従え迎え撃つコハクと、稲光が如し瞬足で格闘戦を繰り広げるモリッカ。それぞれ自分の得意な戦いでせめぎ合っている。
コハクの槍がモリッカの頬を叩けば、今度はモリッカの蹴りがコハクの顎をど突く。
一進一退、お互い傷つきながらも負けじと、己の気合いを奮って激突を繰り返していた。
「思ったより強ぇえんだな……」
「そうね」
そういえばマイシともこんな風に熱く激しくぶつかりあったっけなぁ……。
今頃、何してるのかなぞ?
ドッ! ドッ! ドッ! ドッ! ドッ! ドドッ!
あちこち衝撃波の爆発が立て続けに連鎖し続け、その度に破片を散らす。
ズドッ、と大きな衝撃の噴火を噴き上げると、二人は離れるようにクルクルと宙返りして共に着地。ぜぇぜぇはぁはぁ、服もボロボロで血筋が流れている。二人とも満身創痍で肩を上下させて息を切らしていた。
激戦の余韻と、今だ旋風が渦巻く。
「へへへ! さっすがコハクさんですよ!」
「認めたくないですが……、あなたの強さは本物ですね」キリッ!
モリッカは杖を手に、後ろへ引き下がるたびに「ま~じ~か~る~」と伸ばしたような言葉を発する。杖の先っぽに光子が収束し、稲光が迸って大地を揺らしていく。ゴゴゴゴ!
「む……! ならば『九十九紅蓮』! 特攻形態ッ!!」キリッ!
コハクは何十本もの槍を大量増殖させ、重ね合うように次々と融合させていって一つの巨大な槍へとメキメキと変貌させていく。その槍の周囲を、数十本の槍が周回し続けている。
「大爆裂ゥゥゥゥ!!!!」
「九十九紅蓮・五十閃槍“一斉ノ穿”!!」
モリッカの杖から扇状に広がる莫大な雷の奔流が迸り、それに対してコハクは宙に浮く巨大な槍を高速で撃ち出した。ドッ!!
互い渾身の技がぶつかり合い、天を衝くように爆発球が轟音を立てて膨らみ上がっていく。ズゴォォォンッ!!
亜空間全体を大きく揺るがしながら、尚も驚天動地な衝突は荒れ狂っていく。全ての施設が粉々に散らされ、人工的な湖の水が吹き飛ばされ、木々が薙ぎ散らされ、衝撃波の津波が幾重も周囲を吹き荒れて破片が舞い散った。
ドドドドド!!!
ゴッ! 稲光と共に、荒ぶる閃光が溢れ出してモニターは真っ白に染まる。
観客は唖然と成り行きを見守る。解説も歓声もその時はしばし止まっていた。ズズ……ン!
《やっぱり引き分けだったね》
対戦申請ルームでげんなりしているコハクとウキウキ満足気なモリッカに、神妙な顔で向き合っていた。その後ろでヤマミとウニャンが見守る。
「ナッさん、僕と対戦しましょう!」
「あ、抜けがけはダメです! 僕が先ッ!」キリッ!
再び火花を散らして、張り合い始める二人。ギギギ、互いに力比べして競り合う。
「……どっちとも対戦するから、オレの頼みを聞いてくれないかぞ?」
コハクとモリッカは互いに顔を引っ張り合ったまま、キョトンと振り向く。
三日月が煌く夜空を雲が通り過ぎていく。
ガッ! 月明かりに隠れた路地裏の影で打撃音が響く。
「き、貴様…………! ぐうっ……」
ドサッと、横たわるコンパチ面した男が白目をひん剥く。側で何人かが倒れている。
残った同じ姿をしているコンパチ男達は歯軋りして、目の前の漆黒のマフラーの人を睨みつける。
「この夕夏家に楯突くとは! いい度胸だな!!」
「何者かは知らんが邪魔はさせんぞ!!」
「生きて帰れると思うなよ!?」
男達は迸るオーラで共鳴し合って、地を揺るがすほど圧倒的な威圧を発揮していく。ゴゴゴゴ!
全身を覆い隠す漆黒のフード。そして首を巻く黒いマフラーの両端が翼のように浮いている。
目元は見えないが口元の顔周りだけは窺える。細くて美しい肌からして女性っぽい。
「夕夏家はいずれ潰える! それだけは確定された史実よ……」
フードの影から覗く鋭い双眸。その目に燃えるような青い炎が灯る。
そして背中から二対の漆黒の羽がブワッと浮く。禍々しい羽の紋様はやや渦巻き状で蒼く灯っている。あたかも悪魔のような不気味な威圧感……。ズズズズ……!
そんな異様な雰囲気に、男達は「ヒッ」と見開いて畏怖していく。
「ぐあああああああああああ!!!」男達の悲鳴が夜空に劈いた。
あちこち横たわる男達。立っているのは漆黒マフラー女一人のみ。
しゃがみこんで、倒れている男の手の甲の赤い『刻印』を指で触れる。赤を黒で塗り潰すように侵食させると、散り散りと剥がれて消えていく。シュウウウ……。
その作業を全員に済ませると、どこからかブワッと渦巻く黒い花吹雪がマフラーの女を覆い隠すように包み、徐々に収縮していって痕跡一つ残さず消えた。ズズッ!
それを建物の細い隙間の影から見届けていた男が、スッと月明かりに歩き出す。その男はアクトだった。片目を瞑ったまま、しばし考え事。
「やはり……アイツかァ……!?」
一方、木々が等間隔に並び花畑も整備された広大な庭。イルミネーションで煌びやかに彩っていた。そして巨大な洋風の大屋敷。
その一つの大きな広間。豪勢な骨董品が飾られ、壁画がでかでかと掲げられている。そこで貴族風に黒い紳士服を着ている長身の男が、不満そうに険しい表情を浮かべた。
彼は夕夏家全ての総統である夕夏ヤミザキ。手の甲を眺める。一際立派な赤い『刻印』が怪しく灯る。
「何者かは知らんが、我が駒を消していく不届き者がいるようだな。しかも、どういう方法かは知らんが『刻印』の除去までできるというのか……?」
以前から、こういう不穏な暗躍は察していた。
最初は数人消すだけで気に留めなかったが、器となるナッセを後継者にしようと思った矢先に何故か活動的になってきた。
この一晩だけでも四桁もの我が駒が消えているのだ。
今日までのトータルで数万人は消されている。ここまで大量に始末してくるのは異常だ。なにかしら執念深い雰囲気。まるで夕夏家を抹殺せんとする殺気の刃が連想される。
「妙なのは、我が夕夏家の内情に詳しい事か……」
イルミネーション輝く広大な庭を大窓から眺めつつ、ヤミザキは顰めっ面して内心苛立っていた。
まるで掴み所のない影に潜む悪魔のように、正体が一切掴めないからだ。
一方、荒廃した世界での電車の中。薄暗いながらも電灯がいくつか灯っていて、中には点滅しているのもある。ガラスは割れていて、あちこち傷んでいて、所々破損していたり煤けたりしている。しかし何故かガタンゴトンと走り続けていた。
「へっへっへ! 久しぶりだな!」
「会いたくなかったし……」
憮然とマイシは目の前の男を睨みつける。
スーツを着た色白で痩せぎすの男。だが目元はねっとり卑しい。背後のコンパチ面の数十人の男が並んでいる。手の甲の『刻印』を見せると赤く灯る。
大きく迸るオーラが男に注がれ、辺りを揺るがすほどの圧倒的な奔流が吹き荒れた。ゴゴゴ!
「はーっはっはっは!! 今度は四十人も抱え持つ本部長に昇格したんだぜ!? 前に俺の誘いを断った事を今度こそ後悔させてやる!」
マイシは呆れるように溜め息をつく。
「っていうか、誰だし?」
男はカッと頭に血が昇る。全身を震わせて、ギリギリと歯軋りし血眼で睨みつける。腰から剣をシュバッと抜き放つ。
「夕夏家第八子、夕夏キュリア! 剣士だ!! 忘れられなくしてやるッ!!」
あとがき雑談w
コンパチ男A「刻印消された……!」
コンパチ男B「なので、総統様から解雇宣告されちゃった……!」
コンパチ男C「よし! ハローワーク行こう!!」
ハローワーク職員「なに、最近多いんだけど?? 同じ顔の人多すぎィ!」
万人単位で無職になったコンパチ男が就活に励んでいるという。
刻印の支配から解放されたので、コンパチ男はそれぞれ時間経過と共に個性を出し始めて容姿に差が出てきた。
幸い、悪人の行方不明が多くて、その枠を埋める為に入る事ができた。
偏向報道が多かったテレビ局は公平になり、安月給でブラック環境のアニメーターの待遇も改善された。バラエティ番組も途端に面白くなってきた。
ブラック企業は良識のある親族が社長に相続し、コンパチ男を受け入れてホワイト企業化。
何もなかったコンパチ男が消費に貢献して、経済が回るようになった。
元コンパチ男「朝日本新聞でーす!」
ナッセ「おつかれさまー! 公平な記事をありがとう!」
次話『キュリアは哀れ汚い花火に!?』