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68話「楽観に笑うモリッカの背景!」

 娯楽施設の前で破片が散乱していて、煙幕が漂う。


「あっはっはっは!!!」


 楽観に笑い、モリッカは両拳を振り上げていた。

 しょっぱなからコハクをソロ対戦に引きずり込み、更に問答無用の先制攻撃で殴り飛ばした。あまりにも奔放すぎて、ナッセ達はおろか観客までも唖然としてしまっていた。



 魔道士(マジシャン)モリッカ。


 元々はそんな自由奔放な性格ではなかった。意外にもナッセのように内気で引っ込み思案だった。

 そして彼の家系は『特召喚』と言う、通常の召喚魔法と異なる特殊な能力だった。普通は『円環(サークル)』を用いて魔法陣を展開して召喚する。

 しかし和久(ワキュウ)家は()()()()()()()()()で召喚できる家系能力を持っていた。


 当時、和久(ワキュウ)モリッカはアニマンガー学院入学前から、洞窟(ダンジョン)探索を繰り返していた。


「うう……、嫌だなぁ……」


 モリッカは三人いる仲間を先頭に、後方でオドオドと控えている。

 集団でつるむのが好きじゃなかった彼が、こうして危険な洞窟(ダンジョン)探索に駆り出されていたのは家系としての修行であった。つまり親から嫌々やらされていた。


「おい! モリッカ! 毎回ビビってんじゃねぇ」

「大丈夫ですよ。私達がいるんですから」

「今度も頼もしい支援を頼むぞ! 和久(ワキュウ)殿!」


 大柄な大江オオエゴウキ。恵まれた体格で、オーラ量が多くて筋力倍増できる戦士(ファイター)|。得物はハンマー。

 黄瀬(キセ)ミナコ。小柄ではあるが、豊富な防御系と回復系魔法を持つ優秀な僧侶(プリースト)

 高身長の木崎(キザキ)ヒロヒコ。一見一本槍が得物だが、仕込み多節棍で分割して多彩な攻撃が繰り出せる槍士(ランサー)

 いずれも親によって選定されたメンバー。

 バランスよく臨機応変に戦える創作士(クリエイター)で組まれていて、若き和久(ワキュウ)家の次男を育てるために洞窟(ダンジョン)探索へ依頼したのだ。


 洞窟(ダンジョン)はやはり奇妙な構造。各フロアごとに角度がそれぞれズレたまま、箱型のフロア同士が繋がっている。

 周りをレンガで積み重ねた人工的な洞窟(ダンジョン)で、所々コケや草が無作為に生えている。フロアによっては下水道のように整備された川が流れている。


「来るぞ!!」


 下位種クミーン数匹と、上位種ハイクミーンが二体。

 ゴウキは筋肉を隆起させ、自慢のハンマーでクミーンをことごとく叩き潰す。殻による突進攻撃をミナコの魔法障壁で阻み、ヒロヒコの多節棍でハイクミーンの動きを止め、ゴウキのハンマーで数度叩き潰す。ほどなく絶命。


「妖狐コンセット!!」

「あいよ!」


 ボン、と煙を散らし狐の様相をした子供みたいな召喚獣がモリッカの側に現れ、電撃を辺りに見舞って数匹のクミーンを黒焦げにした。

 激怒したハイクミーンが襲いかかってきて、モリッカは焦る。

 ヒロヒコが多節棍で絡ませて辛うじて動きを止める。


「今の内だ!」

「は、はい!!」


 今度は雪ダルマを模した召喚獣が煙と共に現れ、吐いた吹雪がハイクミーンを氷塊に閉じ込めた。



「……和久(ワキュウ)家って、本当にズルいよな。家系かなんだか知らんが、自分で取得した訳でもないのに楽してやがる」

「ゴウキ殿! 言い過ぎだぞ!」


 通路を歩いている時、ゴウキは不満そうに愚痴り、それをヒロヒコがたしなめる。モリッカは萎縮し俯く。言葉を発さない彼にゴウキは訝しげに舌打ちする。


「家系に頼りきりになるなよ! てめぇ自身強くなれねぇだろうが!」


 モリッカにとって、その言葉は馬鹿にされてる以外なんでもなかった。当時、ネガティブ思考で悪く捉えがちなのも少なくない。だが、内気であった彼は言い返す度胸などなく、黙り込むしかなかった。そしてそれは不満を溜め込む事になる。ギリ……。

 それを察したヒロヒコは心配になっていた。


和久(ワキュウ)殿。悪く思わないでくだされ、ゴウキ殿は不器用ゆえ選ぶ言葉が少なすぎてな……」

「いえ、興味ありませんから」

 目を逸らす。


 事実、興味は何もない。()りに合わない仲間と洞窟(ダンジョン)探索、何もかも苦行でしかない。

 それでも着々と洞窟(ダンジョン)の奥へと進んでいき、幾度(いくど)かのレベルアップで各々の実力は向上していった。


 そんな折────!



 ゾクッ! 先頭を歩いていたゴウキは怯み、顔を真っ青にした。

 ミナコもヒロヒコも顔を真っ青に全身を悪寒で震えていた。冷や汗が伝う。


「いけない! この威圧(オーラ)は危険よ!!」


 咄嗟にミナコはモリッカ一人に暖かい光の膜を覆わせた。本来は敵の魔法攻撃などを緩和するためのものだった。


「な、何があったんですか??」


 ただならぬ全員の挙動に、モリッカは一気に不安が高まった。心音が高鳴っていく。

 ズズ……!

 気付いた。彼らが異常に震え上がる原因を!


 とある大広間。通気口みたいな小さな穴が四つ壁に並んでいる。そこから影のような黒いイバラが(うごめ)いていた。怖気走るように触手がゆらゆら辺りを這っているようだった。

 触れもしないのに、絶望に陥れる絶対的な恐怖がモリッカ達を覆う。そして全員の体を異常に重くした。


「ここはマズい! はよ離れろ!!」

「いや、後ろも!!」


 後ろの通路の通気口からも黒い触手が漏れていた。いつの間にか前後(ふさ)がれていた。

 恐怖で凍えている間、数秒が数時間にも感じられた。いつ収まるか分からない圧迫感。モリッカもガクガク震え、膝をついた。


「おい! モリッカ!! 家系持ちの癖して、だらしねぇぞ!!」

「あ……ああ…………!」


 震えたままモリッカは顔を真っ青に茫然自失。どんな言葉も耳に入らない。

 チッとゴウキは舌打ち。


「おい! 皆聞け!!」

「は……はい!」

「うむ!」


 ミナコとヒロヒコは頷く。ゴウキは震えながらも言葉を続ける。


「……モリッカは置いていく!!」



 その言葉にモリッカは頭が真っ白になった。

 いつかそうなるかもしれないと不安になっていた事が現実になった。この言葉が心に大きく叩き込まれた。恐怖が故か、一気にドス黒い感情が吹き出す。


「なんなんですか! ゴウキさんって、いつも腹立つ事ばっか言うんですか!? ふざけないでくださいッ!!」


 しかしゴウキは笑んでいた。


「へっ! いっぱし減らず口が聞けるなら、一人ででも帰れるな?」


 モリッカは絶句した。ゴウキ、ミナコ、ヒロヒコは共に笑んでいた。

 そして「じゃあな」と背中を見せて引き返して()()()()()()()()()()()()()()()()駆けていった。

 ヒロヒコが『刻印(エンチャント)』を記した多節棍で通路を開けるように包囲結界を張る。それでも黒いイバラの触手は結界を(むしば)む。ヒロヒコは呻きながら必死に維持に力を注ぐ。

 ミナコはモリッカを守るように障壁を敷いて、同時にゴウキとヒロヒコに防御魔法をかけ続けながら、ショック死してしまいそうな凍える威圧に耐え続けていた。

 精神を()り減らして耐える二人を尻目に、ゴウキはハンマーを手に振りかぶった。


「おらあああああああああっ!!!」


 ゴウキは力尽きるまで通気口を塞ぐように、何度もガンガン叩き続けていた。

 体を(むしば)んでくる触手にも負けずゴウキは必死にハンマーを振り続けていた。


 膝をついて(うずくま)る頃には通気口は瓦礫の山で塞がっていた。しかしミナコもヒロヒコも横たわっていて息絶えていた。


「ゴ、ゴウキ……さん!」


 ようやく立てたモリッカはゴウキの元へ駆け寄る。すると息も絶え絶えにゴウキは優しく笑んでいた。


「……無事か?」

「う、うん!」

「それなら……良かった…………」


 モリッカは全身を震わせ、涙が溢れる。


「おめぇはよ……我慢しすぎて暗く閉じこもっている……。ちったぁ……物事明るく見ろや……。和久(ワキュウ)家に縛られて不満だろうがな、モリッカはモリッカだ……。おめぇは……自分らしく生きろ…………」


 力を振り絞った大きな手がモリッカの肩に置かれる。そんな優しい笑顔のゴウキの顔を見ていて、熱い涙が頬を伝い足元に滴り落ちる。


「もう我慢する事は……ない……。自分を……自由に開放して……や…………」


 肩に置いていた大きな手が、ゆっくりずり落ちていく。



「あああああああああああああああああああ!!!!!」


 大粒の涙を散らしてモリッカは天井へ向かって泣き叫び続けた。それは次第に「あははははは」と笑い声に変わっていく。ずっとずっと涙を流しながら明るく笑い続けていた。



 それからというものの、別人になったかのように陽気になったモリッカは一人だけで帰って来れた。その異様な様子に和久(ワキュウ)家の家族も怪訝(けげん)だった。


「ただいまー!!」


 明るくブンブン手を振ってくるモリッカ。


「あいつらはどうした! まさかお前逃げ……」

「僕を助けてみーんな死んだ! だからその分まで僕は生きるんですっ!!」


 これまで文句も言わず大人しくて素直だと思っていた次男が、まるで壊れたように「あはははは」と無邪気に笑いだした。家族の誰もが絶句した。

 だが、変わったのはそれだけじゃなかった。



「まじかる大爆裂~~ッ!!!」


 モリッカは突き出した杖から、大地を抉るほどの巨大な奔流(ほんりゅう)を放ち、眼前のモンスター達を光の彼方に消し飛ばす。

 空を覆うほどの大爆発が広がり、周囲に余波を吹き荒れさせ、辺りの地形を蹂躙し尽くした。


 もう容赦しなくなった彼の挙動と、異常すぎる強さに、和久(ワキュウ)家の父はワナワナと恐怖に震えた。唾を飲み込む。


「い……一体!? 洞窟(ダンジョン)で……何があった!? こ……、こんな…………!」

「あっはははは! 爽快です! 爽快ですよ!」



 いじめっ子も、絡んできた不良も、襲いくる相手ならことごとく叩き潰した。

 もはや内気で遠慮しがちな彼はもういなかった。誰もが恐れる魔道士(マジシャン)として、地元では避けられる存在となってしまう。

 しかも家系能力である『特召喚』を全く使わなくなってしまった。


 家族はそんなモリッカに耐えかね、アニマンガー学院へ入学させる名目で追い出した。

 しかし本人は全く気にすることなく受け入れ、自由奔放に(おもむ)くまま、これからを楽しもうとしている。




「さぁ、コハクさん!! 楽しみましょう!」


 まるで知ってるかのように、瓦礫に向かって明るい笑顔を向けた。

 するとバガァンと破片を吹き飛ばし、悠然(ゆうぜん)と立っているコハクが姿を現した。



「殴られて分かりました。あなたにそういう背景があったのですね」


 コハクの目には、モリッカの後ろにゴウキ、ミナコ、ヒロヒコが映っているように見えた。

あとがき雑談w


モリッカ「あっはっはw では紹介しますよーw」


大江(オオエ)ゴウキ』(戦士(ファイター)

 大柄な体格でオーラ総量が多い。眉毛がなく厳つい顔。短めの緑髪が逆立っている。33歳。

 得意のハンマーで敵を叩き潰す。

 口は悪いが性根は優しい。家系に縛られるモリッカを心配していた。

 ラッシュスタンプ:ハンマーで徹底的に叩きまくる。

 トマホークスタンプ:投擲して叩いた後、手元に戻ってくる。

 威力値6600


黄瀬(キセ)ミナコ』(僧侶(プリースト)

 小柄な女性。金髪のポニーテールで黄色い衣服を纏う。24歳。

 パーティーの生存率を上げるために、防御系魔法と回復系魔法をメインに特化している。

 ガーディアンウォール:魔法障壁を張って敵の攻撃を弾く。

 威力値1400


木崎(キザキ)ヒロヒコ』(槍士(ランサー)

 192cmと高身長。優男。ロン毛の紫色の髪で細目。真面目。29歳。

 結界形成の『刻印』を内蔵する仕込み多節棍の槍。特注品。

 スラストレイン:連続突きで敵を蜂の巣にする。

 ムーンラインスラッシュ:長い槍で横薙ぎする。三日月のような弧を描く。

 スネイクホールド:多節棍に分割して敵を巻きついて動きを止める。

 セーフティ・ボックス:いかなる攻撃も弾くほど頑強な結界を張る。威圧にも耐えられる。

 威力値5400


和久(ワキュウ)モリッカ(当時)』(魔道士(マジシャン)

 アホ毛がまだ立っていない素朴な黒髪。大人しい内気な少年。本音を出せず、家族の言うなりになっていた。

 魔法陣要らずで特召喚ができる家系能力持ち。

 妖狐コンセット:電撃攻撃する。対象と自分の位置を入れ替える。実は奥の手がある。

 雪男スノマルン:雪だるまのような精霊。吹雪を吐く。

 魔禍医者:死神の鎌を持つひねくれた少年の容姿。回復魔法などが得意。

 威力値2700


モリッカ「みんな遊ぼーよー! ねー!!」



 次話『モリッカとコハクの真剣勝負!! 白熱する戦い!』

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