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67話「天然なモリッカに、天才コハク災難!」

「帰る途中、いつも寄り道してたでしょ? ……一緒に行かない?」


 アニマンガー学院からの帰宅の際、ヤマミは柔らかい顔でそう言ってきた。彼女の肩でウニャンがニッコリ微笑んでいた。


 ……もちろん戸惑った。

 だが、これまで思っていた生徒会長みたいなイメージは、今のヤマミにはなかった。


 本当はシャープペンの芯を買ってからまっすぐ帰る予定だった。

 とは言え、本当は色々寄り道したかったりする。

 アニフレンズ寄ってグッズや漫画を物色したり、まんじだらけ店でレアモノ眺めたりして帰るのも一つの楽しみだった。

 リョーコとだったら一緒に行った事もある。しかしヤマミとは初めてだった。


 これまでのイメージのままなら、叱られそうだと萎縮(いしゅく)して、まっすぐ帰っていただろう。


「じ、じゃあ……アニフレンズって店、寄っていい?」

「ええ、行きましょ」


 コクッと頷くヤマミに新鮮さが窺える。ほんのり頬が赤い。

 うおお、可愛い……。




 アニフレンズ! 色々なアニメグッズがてんこ盛りで、オタクならワクワクする店だぞ。


 推しキャラのグッズや気になる漫画や文庫を漁るのはもちろん、画材も売っているので漫画やイラスト制作にも困らない!

 ヤマミは目を丸くする。今まで見た事がなかったらしく、全てが新鮮に見えた。

 可愛い女性や美男子など、目を奪われるビジュアルのキャラのグッズも並んでいる。どれを買うか迷うほど種類が豊富だ。


「……いつもここに?」

「あ、うん。リョーコと一緒に行ったりしてたぞ」


 ヤマミはその辺の本を手に取る。

 いつもの小難しい厚い本や、堅苦しい啓発系やビジネス系とかじゃなく、明るくて気軽に読めそうなイラストが描かれている表紙。躍動感があり感情豊かなキャラからして、楽しそうなのが見て取れる。


「初めて……」


 あちこち見回ったりしていると、ヤマミは無垢(むく)な子供のように絶え間なくキョロキョロしていた。

 全てが新鮮なんだろうかぞ?


「それ買うの?」

「うん」


 買うのは少年漫画のコミック数冊、週刊雑誌、コピックと地味なラインナップだ。

 第一、好きな推しキャラがマイナー作品に多い感じなのでグッズがないのもあるが、家でかさばるのも困るから控えているのもある。

 ヤマミに冷めた目で引かれないかと、心配してるからじゃないぞ。たぶん……。


《もう美少女(エキドナ)のフィギュア見られてるから、今更と思うけどね》


 ヤマミの肩でぐっすりくつろいでいるウニャン。



「じゃあ私も」


 オレに(なら)うのか、棚に並んでいる少年漫画のコミックにあちこち目移りしている。彼女にとって初めての買い物なのだろうか? なんかむず(がゆ)いものがあるなぁ……。


「初めてなら、これがいいかな」


 ヤマミに差し出したのは『くろうに刀心伝(とうしんでん)』という明治浪漫譚(ろまんたん)の少年漫画だ。美形の侍が主人公で、悪漢をカッコよくこらしめる物語で、女性読者も多い。必殺技も迫力満点なシーンも多いので男性読者にもウケがいい。

 買うまで列に並んでいる間、興奮したように落ち着かないヤマミの挙動が可愛くて、なんかウキウキしてきた。どうか夢でありませんように……。



「コハクさん……!?」


 ヤマミの声で、並んでいる列にいるコハクが訝しげに振り向く。こちらを見るやいなや「げ!」と声を漏らす。しかもカゴにとある美少女の推しグッズがたくさん入っていた。


「まさか、けいお……」

「黙ってくれませんか?」ゴゴ……!

 なんか威圧が……。

「う、うん」


「それテレビの宣伝でちらっと見た事がある。『けいおと』の田中(タナカ)リッツってカチューシャのキャラね」

「や、ヤマミさぁんっ!!」


 うろたえるコハク。あわあわする彼の姿は初めて見た。

 いつもは冷静沈着のイケメンで、人を寄り付かせさせない威圧感があった。天才の創作士(クリエイター)で、誰もその実力を見た事がない。

 そしてアニメ漫画に全く興味を持たないエリートって感じだったぞ。


 まさか興味持ってて、事もあろうかと田中(タナカ)リッツってキャラのグッズを買い漁っているとは……。



 薄暗くなった外、アニフレンズの出入り口の前で、ヤマミと一緒にコハクと向かい合っていた。

 見られたくないものを見られて「はぁ……」と落ち込むように項垂(うなだ)れるコハク。


「好きだったんですね……。田中(タナカ)リッツ」

「ち、違いますよ……。アニマンガー学院で仮の授業に勤しむフリをする為の参考です」


 キリッと澄ました顔に戻してコハクは言い張る。が、頬に焦りの汗が垂れている。


「今日の課題って草木の描写じゃない? それにキャラの参考にするなら、女性キャラ一人だけを買うのっておかしくない?」


 しかしヤマミはズバズバ言ってしまう。糾弾というよりも天然みたいだ。やっぱ真面目な性格は相変わらずだなぁ。

 コハクの方も胸にグサグサ刺さったみたいで、顔を引きつらせていた。



「それはそれとして」キリッ!

「あ、逃げた」

「……刺しますよ?」


 なんか引きつったような顔で槍出してきたので黙る事にした。


「近くに仮想対戦(バーチャルサバイバル)センターがあります。ナッセ君。あなたに非公開でソロ対戦を申し込みたい」

「く、口封じ…………?」

 マジ顔でゴクリと唾を飲み込む。

「なぜ、そう勘違いするかな……? 今ここで刺してもいいんですよ?」

 再びコハクは引きつった顔で、煌く槍の切っ先を突きつけて凄んでくる。あわわ……。


 しかしその槍を下ろしてくれた。



「単純にあなたと腕試ししたかったのです」


 冷静な表情で向き合ってくる。その真剣な目からして、根は真面目なんだなって窺える。

 キリッとしてるけど、本当は「けいおと」の田中(タナカ)リッツスキーなオタクさんなんだよな……。グッズの量からして、たぶん重度の…………。


 バサッ!


 なんとナッセと同じように、両端が翼のように浮いている黒いマフラーを首に巻き、黒いフードで顔と全身を覆い隠す怪しげな人が、ナッセ達を通り過ぎた。

 ただならぬ気配に、ヤマミは目を丸くして咄嗟に振り向く。バッ!


 しかし、最初っからいなかったかのように忽然(こつぜん)と消えていた。木の葉が舞う。ヒュウウ……。


「どうしたんだぞ?」

「ううん」


 首を傾げるナッセに、ヤマミは首を振った。……あれは気のせい?

 しかしウニャンは意味ありげな沈黙で先を見据えていた。


《ナッセ君の近くを通りたいほど、孤独に耐え兼ねていたんだね》



 夕日が沈み、更に暗くなった都市風景に混ざって梅田の仮想対戦(バーチャルサバイバル)センターの看板がライトアップされてるのが見えた。

 オレとヤマミはコハクの後をついて行って、入場する。ここでも多くの創作士(クリエイター)がワイワイガヤガヤ賑わっていた。


 日本橋のトコも多かったけど、梅田も相当多いぞ。大阪駅経由で色んな人が寄ってくるからなのだろうか?


「ナッさーん!!」


 明るい声に気付けば、なんと無邪気なモリッカがブンブン元気よく手を振っていた。

 おお! いつぞやの大爆裂の自称魔道士(マジシャン)じゃないかぞ……。ってかナッさんって……。


「テレビで見てましたよ! 凄いじゃないですか!! 賢者の秘法(アルス・マグナ)ってカッコ良くて強いですよね! どうやってできるんですかぁ?

 今から対戦しましょうよ! ワクワクしますね! あ、そうそうスポーツドリンクどうぞ!!」


 ぐいぐい食ってかかるように迫り来るモリッカ。強引にスポーツドリンクを手渡されて、戸惑うしかなかった。相変わらずマイペースな人だなぞ……。


「待ちなさい! 先客は僕ですよ!」キリッ!

「ほえ?」

 凛々しく振舞うコハクに肩を掴まれ、モリッカは振り向く。


「ナッセ君との対戦は……」

 モリッカ、目をキラキラさせてにじり寄る。それにうろたえるコハク。


「わぁ!! あのミステリアスで謎のイケメン槍士(ランサー)コハク!! その実力を知る者は少ない!

 それすっごく気になりますよー!! 僕も一度は対戦してみたかったんです! ぜひぜひ対戦しましょう!!」


 今度はコハクにぐいぐい迫る。その勢いにコハクも焦りかける。が、断ずるように掌をビシッと差し出す。

「だが、断わ……「今から行こ、行こ、行っこー!! あ、ナッさんもヤマミンも観戦してってくださいねー!!」


 話を聞かず、モリッカはコハクの腕をグイグイ引っ張って対戦申請ルームへ引きずり込んでいく。

 その間、コハクは「ちょっ! ま、待て! は、話を聞けー!」と取り乱して慌てるが、謎の怪力に引っ張られて「ああぁぁ~~~~!」と絶叫に変わっていった。


 それを見てホッとした。

 コハクがいなかったら引きずり込まれてたのかもしれない。そう、彼は犠牲になったのだ……。犠牲の犠牲にな。許せ……! コハクェ!


 それにコハクと対戦するのも気が進まなかったぞ。対戦自体好きじゃないし……。



「おおーっと!! あの天才創作士(クリエイター)槍士(ランサー)コハクと、魔道士(マジシャン)モリッカのA級同士のソロ対戦始まるようです!!」


 サングラスをかけた、全身タイツ男がマイクを握ってくるくる踊る。

 観戦客は「わあああああ」と歓声を上げていた。それに混じって、オレとヤマミは汗を垂らしつつ座っていた。一方、ウニャンは呑気に寝息を立てていた。


 映るモニターには、広大な遊園地っぽい亜空間。どうやらユニバーサルスタジオなんとかだぞ。色々な娯楽施設と絶叫マシーンなどがたくさんある。見てるだけでも遊びに行きたくなるところだぞ。

 そこで二人が対峙していた。

 ヒュウウウ、風が二人の間を吹き抜けていく。


 なんでこうなった! という風に呆けるコハクと、ウキウキワクワクで腕をブンブン振って落ち着かないモリッカが対峙。

 コハクはキッと顔を引き締め、凛々しく仁王立ち。フッと余裕に笑んで目を瞑る。


「すぐに終わら……「せんせーパーンチ!!」ひゃっほい!


 バキャッ! なんとノリノリなモリッカが空気を読まず、殴りかかった。

「ごはぁ!」

 間抜けな顔でコハクは勢いよく吹っ飛ばされ、ズガァンと破片を散らして建物に激突。ガラガラと瓦解してきた破片に埋もれていく。



「やりましたよ!! へっへー!」


 子供のように無邪気に喜ぶモリッカに、観客は唖然……。

「えぇ……」

 オレとヤマミはジト目で引いていた。


 こいつ、相手が口上述べてる時や変身中とかでも攻撃しそうだぞ。

あとがき雑談w


ヤマミ「ナッセと似たマフラーの人とは……?」ゴクリ!

ナッセ「お! 作者の念話が来たぞー」


 コハクは最初、天才にありがちなクールでシリアスなキャラとして一貫しようと思いましたが、これでは完璧超人みたいになっちゃう~!

 って事で、ちょい崩して面白い部分を入れて設定を少々変えましたw


コハク「……それであのオタク設定ですか」

ナッセ「オレもフィギュアとか持ってるけどね」


 実はコハク一味が学院をジャックするイベントとかあったそうだ。


コハク「えっ!? 僕がメインの!?」


 コハクをボスとして、コハク四天王と呼ばれる四人の精鋭がいて、同じ異世界人。それぞれ異なる精霊具を持っていて苦戦必至の強敵。

 数々の罠を設置できる精霊具とかで多くの生徒たちが捕らえられたり、動きを止められたりと、少数でジャックできる戦闘力があったとか?


 で、最後に待ち受けるコハクはマイシも真っ青の強さでナッセも苦戦したけど、最後に分かり合えるようになるって締めでしたw


コハク「い、今からでも間に合わなくも……」ヒクヒク


 間に合いませんw 諦めて普通に仲間になっててくださいw

 どうせ四天王の設定まだ作ってませんしw


コハク「僕がメインの輝かしいイベントがぁぁぁーッ!!」(絶叫)



 次話『モリッカの過去とは……? 笑顔の裏の悲しき過去』

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