66話「二人で踏み出す、最初の第一歩!」
「糞餓鬼が!! 俺らと友達になりたいだぁ?」
殺気立ってタネ坊は醜悪な形相で怒鳴りつけてくる。更にキンタも追い打ちをかけるように不機嫌そうに顔を歪ませ見下してくる。
二人して殺伐とした雰囲気でこちらを圧迫してくる。
「タネ坊はワイの親友や。あんさん如きが割って入ろうなんざ、一万年早いわ」
「フッ! その通りだ! キンタ、さすが俺の相棒だぜっ!」
「へっへへへ!」「ははは!」
オレには絶対見せないノリノリな笑顔を見せ合うタネ坊とキンタ。心底楽しそうだ。
だが、不穏に二人の全身が黒に染まりツノが生える。ズズ……!
ハッと飛び起きると、そこは自分の部屋。カーテンの隙間から日差しが微かに出ている。
なんだか嫌な気持ちが渦巻いている……。
夢とは言え、寝覚めが悪い。やはり二人が逮捕された昨晩の影響かぞ?
気分が晴れぬまま朝飯を済ませ、通学の準備を済ませていく。その頃にドアにノックがかかる。
「おはよう。ぐっすり眠れたかしら?」
部屋の前で待っていたヤマミがやんわりと聞いてきた。肩にはウニャンが乗っている。
しばし呆然していたが「あ、おはよう。今出るから」と返すと「うん」と微かに笑んで頷いてくれた。
……うーむ。「さっさと行くわよ」と生徒会長っぽく言いそうだったのに意外だなぞ?
明るい日差しが暖かい、高架橋に沿う路地。電車が通り過ぎる音がする。オレはいつもののようにヤマミと並んで歩いていた。
「そういえばスミレちゃんと一緒に引っ越ししてきたんだよな?」
「ううん。私の引っ越しを手伝ってくれただけ」
ヤマミは首を振る。
「そっかー」
「スミレちゃんね。リョーコのマンションに引っ越ししたわ」
「え? なんで?」
「さぁ?」
ヤマミはのんきそうに首を傾げる。
そういえばスミレちゃんは何かとリョーコに執着してる感じするなぞ? 考え過ぎかな……?
つーか、ヤマミってそんな話しやすいキャラだったっけ? ごく自然に話してしまうぞ?
いつものアニマンガー学院。教室で生徒達は一心不乱に漫画の描き方を学んでいた。
ヤマミと一緒に並んで、原稿用紙に描き描きしていた。
チラチラとタネ坊とキンタがいた席を見やる。やはりいない。そりゃそうだ。昨晩逮捕されたからなぁ。
「あ、シャーペン出ねぇぞ……」
カチカチ後ろのスイッチを押しても、先端から芯が出てこない。空振りする感覚がする。……困ったなぞ。
「はいこれ」
「え?」
ヤマミは芯のケースを差し出していた。
不思議な感覚だ。リョーコも気軽に話しかけてくれたり引っ張ってくれたりしてたけど、ヤマミも案外取っ付きやすいなぞ。
生徒会長っぽいと勝手にイメージしてたけど、全然違ったみたいだ。やっぱいつも着ている制服みたいな服のせいでそういうイメージが刷り込まれてるかも……。
「あ、ありがとう。ごめん」
「気にしない」
ふっと、軽めに微笑んでくる。なんか気持ちがぽわぽわしてくるぞ……。そして暗く落ち込んだ気分が、少し晴れた気がした。
「芯持ってないみたいだから、帰りに買っていきましょ」
「う、うん」
なんか顔が火照ってくる……。
後ろの方で「うう~~~~」って、唸り声するけど、課題上手くいってない人もいるのかぞ?
「ジャマミ~~~~!!!」うが~~!!
昼飯の時間になると、エレナちゃんが食ってかかろうとしていた。しかし、にっこにっこなスミレに羽交い締めされて止められている。ヤマミは冷めた顔。その寸前で、届かないエレナの手がバタバタしていた。
「何を怒ってるの?」
「ジャマミ~~!! ナッセちゃんの側へ引っ越ししたなんてズルいッ!! やっぱ横取りするのか~~!」
「別に……」
しかしサラッと後ろ髪をかきあげ、こっちに「行きましょ」と振ってくる。
結局、オレはヤマミ、リョーコとスミレとエレナで二組並んでレストランへ路地を歩いていた。
その間もエレナは「むむ~~!」と、目くじらを立てて膨れている。それに対しヤマミはツンと素っ気ない。
「なぁ? エレナちゃん……」
こちらが声をかけると、何故かパッと明るくなるエレナちゃん。「なになに~?」と満面の笑顔だ。
「どうしてオレの事、気になってるのかぞ? なんにもしてないし」
「ナッセちゃんってば、カワイイ顔で銀髪じゃん? 白馬の王子サマって感じだし」
ポッと頬を赤らめさせて、さり気なく流し目。いそいそと体を揺すっている。
「見た目だけで惚れたの? 呆れた」
ヤマミはジト目で溜め息をついている。
「いいじゃない! ジャマミには分からないよーだー!」
エレナちゃんは舌出して「べー」とか言う。それはそれで可愛いかな。
「ねー? ナッセってば、誰が気になるのー?」
リョーコがのんきに聞いてくる。なんかエレナちゃんが目をキラキラさせて顔突き出してくる。
もしかして恋バナってヤツかぞ? 面倒だなぞ……。
「いや、特に……」
しばしの沈黙。ヤマミは少し冷めた目。エレナちゃんは不満げに頬を膨らます。
何を言えば良かったのか分からずにいたら、ウニャンが「空気読めてないよね……」とか呟いてきた。テレパシーで言ってくれよ。みんな聞いてるぞ。
すると不意に地面から黒い円が広がる。やがて荒廃した世界に移転させられる。
「来る!」
咄嗟に身構えて臨戦態勢に入る。
「タネタネタネタネターネ、タネタネタネタネターネ!」
なんと二本のツノを生やしたドングリみたいな顔の身長が低いゴブリンっぽいモンスターが数十体。そしてハゲているゴリラが数体。
その見慣れた顔にドクンと動揺が走る。汗が頬を伝う。
「タネ坊とキンタ!!?」思わず叫ぶ。
「いいえ! タネ坊に似た新種のゴブリンと、ドラゴリラに似た獣族モンスターよ! もう単なるモンスターとして複製されてるだけ」
オレの肩にぽんと優しく手を置いて、ヤマミが諭してくる。
しかしそれでも気が沈む……。
最後話せたのが最低な事だったとしても、最初は親切に世話してくれた。フクダリウスや特上位種を相手にしてる時だって助けてくれた。なのに、この仕打ちはあんまりだ……。
「……本当に戻せないんだな?」
《妖精王や女神レベルの浄化力ならともかく、人間では絶対に不可能だよ》
ウニャンは首を振る。
「だから「叶わない方がいい」って言ってたんだなぞ……」
内心落ち込むナッセの僅かな挙動を、ヤマミは見逃さなかった。
そしてウニャンが「妖精王、女神レベルの浄化力」を敢えて付け足している事も聞き逃さなかった。
……本来なら付け足す必要はない。
現存、妖精王と女神のアテは存在しないからだ。
ヤマミは昨夜の話で聞いた『妖精の種』を連想した。
「ターネタネタネ、タネェェェェェェェッ!!!」
「ウッホホ! ウホホォォォォォォ!!!」
吠えるタネ坊とキンタのなれ果てたモンスターに、もはや理性などない。敵意を剥き出しに大勢で襲いかかってくる。
哀れみと悲しみを胸に、アクトからの教訓を思い返す。
辛いからって戦う剣を捨ててはいけない! 敵は容赦なく襲いかかってくる。だから守るために戦わなければいけない。辛い記憶を刻まないために……!
今まで世話になった事を思い返して“ありがとう”と、感謝の気持ちを剣に込めて、ギュッと柄を握り締める。
「ナッセ! 行ける?」
「オレは大丈夫ぞ……!」
ヤマミと頷き合うと、戦意を漲らせて同時に駆け出した。
光の軌跡が数回弧を描き、タネ坊を数匹斬り伏せていく。ズザザザン!
ヤマミの火炎球がドラゴリラを三体巻き込んで呑み込み大爆発。ドガァッ!
「エレナちゃんヒールキックゥゥゥ!!!」
上空からエレナが金属化したカカトを振り下ろして、ドラゴリラの脳天を穿つ。ひしゃげて潰れ、地面にクレーターがズドォォンと破片を散らして広がっていく。
気付けば、リョーコも数匹のタネ坊を斬り伏せていて、ザクッと最後の一体を左右に両断している所だった。
「タ……タネタネ……タネェェェェェェェッ!!!」
一人生き残っていたタネ坊が憎々しげにこちらへ飛びかかる。そのドングリ頭とタラコ唇。特徴的なタネ坊の面影。初めて会った頃は誠実で親切だった。そして熱血漢でもあり努力家でもあった。人望もあった。
もしも、モンスターになどならなかったなら、彼はキンタと一緒に夢を叶えただろうか……?
「ナッセェ!!!」ヤマミの声が飛ぶ。
断腸の思いで柄を握り締め、襲いかかるタネ坊に向かって「うおお!!」と光の剣を振るう。鋭く煌く軌跡がタネ坊の顔を上下に裂く。ザンッ!
ボボボボシュン、横たわった全てのモンスターは煙となって虚空へ流れてゆく……。
「さようなら…………」
遥か遠くの空を見上げ、悲哀に暮れるように呟いた。
すると後ろから暖かくて柔らかく包み込んでくる両手、そして背中に張り付く温もり。ヤマミがギュッと優しく抱擁してくれる。
途端に堰を切ったように悲しい気持ちが溢れ出して、目から止めどもない熱い涙がこぼれた。
ひっくひっく、嗚咽していると「大丈夫、大丈夫……」となだめてくれる。
耐えられず、ヤマミへ振り向いて抱きついて、気持ちを吐き出すように「うわぁ~~~~!!」と泣き叫んだ。
その間、頭を優しく撫でてくれて、気持ちが少しずつ安らいでいった。
「もう大丈夫……!」
それを見てエレナちゃんは悲しげに俯く。
見た目だけでカッコいいだとか、銀髪だから王子サマだとか、勝手に自分でイメージを押し付けていたのが恥ずかしくなってきた。
だが、それ以上にジャマミなんかにいいトコ取られた悔しさが強くなってきた。
「ぐぬう……! なんか寝取られた気分ッ…………!」
プルプル震えるエレナ。それを微笑むスミレが頭を撫でた。よしよし~。
そしてリョーコは察した。
普通なら内気なナッセは独りで閉じこもって感情を押し殺していた。誰にも悲しみを見せず、見栄えだけ取り繕って平気な顔をしたフリを続ける。そんな孤独は意外と辛い。
あんまり笑ってくれないのも、押し殺している証拠だろう。
でも、こうして感情をあらわに泣き叫ぶナッセを見た事がない。それだけヤマミが信頼できる相手だからなのかも知れない。短い間に何があったか知らないけど、結構親密そうだった。
「なーんだ、気になってる彼女いるじゃん!」
リョーコは安堵して笑んだ。
ウニャンはそれらを眺めて、安心して肩の力を抜く。
《まずは二人で踏み出す“最初の第一歩”って所かな?》
あとがき雑談w
リョーコ「最初はあたしヒロインっぽく出てたけどねー」がっくし
スミレ「落ち込む事ないよ~w」にっこりw
リョーコ「げげっ! 抱きつかないでー!」
ナッセ「なんか離れていったなぁ……。スミレと仲良しになったもんな」
ヤマミ「別に彼女ってワケじゃないでしょ?」
エレナ「ジャマミもね!」あっかんべー!
ナッセに抱きつくエレナに、ヤマミは憤慨して引き離そうとぐぎぎ!
ナッセ「なんだかなぁw みんな仲いいなぁw」
リョーコ「こっちは違うよー!! 助けてぇー!」
スミレ「観念しなよw オレたちは運命の共同体だぜ~w」
ガッシとスミレに抱きつかれてリョーコ涙目。えーんw
次話『コハクついに登場! (`・ω・´)キリッ!』