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65話「ヤマミの決意!」

 ズズズズ……!

 漆黒のリングを背に、山のように(そび)える巨大な黒い人型の化物。周囲に針地獄が大陸レベルで広がっていて、串刺しにされた大勢の人間がぶら下がっていた。ポタポタ滴る血。地面は赤く広がっていく。


 リィン、リィン、リィン、リィン、リィン、リィン、リィン、リィン!


 周囲に奇妙な空間が広がり、不穏な音が木霊(こだま)する。魔王種は特上位種。精神生命体(アストラル)ゆえに周囲にイメージを領域として具現化できる力を持つ。


「グハハハハハハハハハァ」


 哄笑(こうしょう)を上げ、波紋のように周囲に衝撃波の津波を放ち、建造物や木々もろもろ粉々に薙ぎ散らしていく。その圧倒的な破壊、まるで天変地異級だ。

 ヤマミは呆然と膝をついたまま動かない。その顔に絶望で染まっていた。

 側でウニャンが佇む。


「人格崩壊を起こし、絶望と破壊衝動のみが残った精神生命体(アストラル)。そして無限大となったMP(マジックプール)で全てのモノに破壊を撒き散らす『魔王種』。

 こうやって一代限りの『魔王』は誕生していくんだ」


 ウニャンの説明にも、呆然としたままのヤマミ。



 他の大陸から海を渡って、飛んできた創作士(クリエイター)達が大勢集まってきていた。それぞれリングを手の上に浮かせ、魔王へ目指していた。その数、数十万。

 各々の創作士(クリエイター)はリングを媒介(ばいかい)に剣を生み出し、または扇、槍、召喚獣、などなど、臨戦態勢に整えていく。

 どうやら、この星の『創作士(クリエイター)』はリングを使って色々な効力を生み出すようだ。


 ドドドドドドドドン!


 魔王の周囲にあちこち爆発球が連鎖していく。

 襲いくるトゲを斬り散らす剣士(セイバー)。魔法で弾幕を張る魔道士(マジシャン)。それでも堪えない魔王は「ヌウウウ」と唸り、振り上げた巨大な拳を振り回す。

 周囲を竜巻のような衝撃波が吹き荒び、流れる破片と共に「うわあああああ」と、何百人もの命を散らしていく。


 それでも絶対的な力を持つ魔王を打ち倒さんと、創作士(クリエイター)は決死の思いを胸に秘めて飛びかかる。



「どうしてなの……!」


 ヤマミの声は震えている。ウニャンはその肩に乗る。


「これは有り得たかもしれない我々の未来」

「有り得たかも……?」

「『運命の鍵』保有者はワタシやナッセ君だけではない。この宇宙だけでも多くいる。そして魔王化してしまうのがほとんどだ」


「なんでなの!!」


 (せき)を切って吐き出す。ヤマミは悲壮な顔で涙が頬を伝う。

 聞きたくなかった現実。どうしようもない現実。救えない現実。それらを目の前に突きつけられて彼女はもう限界だった。



「こんな時に言いにくいけど……、ワタシは“元”保有者だよ」


 ヤマミはしばしして目を丸くして、肩に乗っているウニャンへゆっくり振り向く。


「今は……持ってないの……?」

「うん。とっくの昔に」


 (うつむ)くヤマミ。表情は影に覆われて(うかが)えない。


「まだ曖昧だから確定できないんだけど、ワタシも命を削って『運命の鍵』を使ったり、死んでループしたりしていた。でも、創世界で世界消滅を防ぐためにみんなの力を借りて使えた。後は創世界の『(コア)』に捧げて元保有者になったんだ」

「なに……それ……」


 雲を(つか)むような話だ。言われた通り曖昧だ。この話が本当なら、保有者は全員創世界へ行って『(コア)』に捧げなければいけなくなる。

 ってか創世界どこ!? どうやって行くの!?


「当時創世界は枯れかけていたんで、ワタシの『運命の鍵』を捧げて復活させた。従って、もう捧げる事はできない。これはお母……大創世神様のお墨付きだね」

「じゃあ、どうすればいいのッ!!」


 ヤマミは肩からウニャンを剥ぎ取り、首を絞めるような感じでカクカク揺さぶる。


「うっぷ……、や、やめて……! ちょっ……」

「答えなさい! 今ナッセが助かる方法を!」

「か、確定してたらとっくにやってるよ。でも、出来ないからこうして()()()ループ中のナッセ君に(ほどこ)していたんだ」


 力なくウニャンを降ろす。しばし(たたず)む二人の背景で、魔王と創作士(クリエイター)達の戦いが未だ繰り広げられている。


「何をしたの?」



 すると周りの風景が真っ暗になる。キャラ紹介のように色々なナッセがアップから収縮して奥行きへと消えていく。最初は黒髪のナッセ。次第に銀髪の比率が増えていって縞々(しましま)になって、やがて銀髪に逆転していく。


「ナッセ君を()()()弟子にして封印式の『刻印(エンチャント)』を施し、そして創作士(クリエイター)としての力の使い方を教えた。増大していくMP(マジックプール)に体が耐えられるように妖精種(フェアリー・シード)も植えた」


 どのナッセも『刻印(エンチャント)』を手の甲に記していた。得物はいずれも魔法による具現化系で、増大していくMP(マジックプール)を前提にしていた。

 槍だったり、弓だったり、魔法だったり、ループを繰り返した分だけ、色々なクラスや技能を会得していたようだ。


「更にループをリスタートに変えて負担を減らしたりもした」

「リスタート?」


 今度は鍵を針にした時計。そして周囲は不定形なトンネルのような時空間の風景。

 螺旋階段のように並ぶ時字(インデックス)を針は追いかけるようにグルグル下っていく。流れるようにナッセの思い出の映像を映す吹き出しが上昇していく。


「ループだと因子(いんし)が重なりすぎるから、リスタートでバッドエンド世界を裏の世界に残す事で因子(いんし)を分散させた。早い話、現世に並行世界(パラレルワールド)を裏の世界にして現存させているようなものだよ」


 ヤマミはハッと思い返す。

 ナッセの部屋にある三体の同じフィギュア。元々持っているナッセの所有物が一体目、エンカウント世界から持ってきたボロボロのが二体目、そして異世界でアクトから貰ったのが三体目。

 その内の二体は滅んだ世界から持ってきた同一のフィギュアだ。


「エンカウント世界は……、やっぱりかつて滅んだこの世界だったのね……」

「何故かモンスターの住処(すみか)になってるようだけどね。この原因も大体推測つくけど」


 ウニャンは前足で額をかき、それをペロペロ舐める。


 その間も、鍵は時字(インデックス)の螺旋階段に沿ってグルグル下っている。

 今度はあらゆるナッセがエキドナを買ったり、眺めたり、(ほこり)を払ったりしている映像が流れる。

 最後に何故かアクトがドヤ顔のまま徐々に拡大しつつ迫って来る。


「アクトの存在もまたリスタートの結果ね」

「うん。ループだったら“過去へ戻って、また別の並行世界(パラレルワールド)に分岐させる”だけだからね。同一に二つの並行世界(パラレルワールド)が繋がる事は有り得ない。よってループだと前の世界からアクトは来れない。リスタートでアクトが味方になってくれたのは僥倖(ぎょうこう)だね」

「そうね……」


 だからアクトは“地球は滅んだ”って言い張ってたのね……。

 この難解な量子力学(りょうしりきがく)。きっとナッセはこんがらがると思う。この役目、私がやるしかない!


 ヤマミはそう決意して気持ちを引き締めた。



「だけど……、正直言って今回が最後だよ」


 引き裂くような仰々(ぎょうぎょう)しい音が流れ、真っ赤な背景をバックに黒いシルエットの人間がもがきながら天へ向かって口を開けるシーンが映った。そのシルエットはナッセにも見えた。

 思わずヤマミは萎縮(いしゅく)

 黒いシルエットがボコボコと異形な姿に膨れ上がっていく。それはおぞましく想像したくないシーンだ。


「もう限界ギリギリで、一回でも死んだり、鍵を使ったりすれば『魔王化』してしまう。下手に延命させた分、きっと『大魔王級』になるかもしれない」


 背景に、天を衝くような黒いシルエットの魔王。周囲に奇妙な風景と音を広げ「グオオオオオ!!」と咆哮を上げる。

 口から黒い波動を吐き出し、大地を裂きながら扇状に広がっていく。そして核にも等しい大爆発が溢れ、世界崩壊のように大地の破片がゴゴゴッと巻き上がり、唐突(とうとつ)に真っ暗な背景に切り替わり音は途絶えた。


「……こうなったのもワタシの責任だよ」


 (うつむ)くウニャン。きっと彼女も試行錯誤(しこうさくご)していたのだろう。

 クッキー様とは違う解決方法を見つけ出さない限り、所有者に未来はない。



「────救ってみせる! 何が何でも!!」


 ヤマミはスッと立ち上がり、キッと真剣な表情に引き締めた。その目に燃えるような紫色の炎が灯る。



 ウニャンはそんなヤマミを見上げる。

 喋って正解だったのか自分でも分からない。だが現状、協力者は欲しい状況だ。自分ネコだけど、ネコの手も借りたい気持ちだ。

 しかしヤマミは真面目な人間。どんな決意したのか分からない。一人で背負い込むかも知れない。それが心配だった。


 するとヤマミはしゃがみ込んで、ウニャンの両肩に手を置く。


「……もし、あなたに言われなかったら一人で背負い込んでいたかもしれない。お願い! 私も弟子にして! そして上手くできるコミュケーション教えて!」

「それなら歓迎だよ」


 ウニャンもニッコリ。


「まず言っておこうと思う」

「なに?」

「ナッセ君はきっとヤマミの事を生徒会長みたいなイメージで見てると思う」


 ヤマミはがっくり頭を垂れ、肩を落とした。




 朝、ヤマミはベッドの上でパチッと目を覚ます。上半身を起こす。側でウニャンが丸くなって眠っている。

 見渡すと、カーテンのわずかな隙間から斜光が漏れている。壁に沿って並ぶ高貴な家具。薄暗い部屋が視界に入る。外からの電車やなんかの騒音。ヤマミはしばし口を結び、布団を握り締めた。


 カーテンを広げて部屋を明るくした後、机に向かって座り込んで新しいノートを広げた。



『魔王化の概要(がいよう)

(慢性的に因子(いんし)が溜まる系)

 ・死んでループを繰り返し続ける。

 ・願いを叶え続ける。

 ・誰にも頼らず、独りで背負い続ける。

(相乗効果で因子(いんし)が即座に溜まる系)

 ・絶望に(おちい)って全てを諦めた時。

 ・カルマホーンが生えてモンスター化した時。

 ・自分に挿して「MP(マジックプール)を減らす」「魔王化しない」「鍵を消去」など、矛盾する願いを叶えた時。


 これまで観測してきたウニャンから聞いた『魔王化』の原因を忘れないように書き留めたのだった。

 その他の概要(がいよう)も書いていく。しばしして書き切ると「よし!」と頷く。

 ハッと気付く。几帳面に書かれたノートを見て、後頭部に汗をかく。


「……生徒会長って思われても仕方ないわね」


 ベッドで丸くなっているウニャンの耳がピクピク跳ねる。

あとがき雑談w


運命の鍵「私は『運命の鍵』。契約して魔法少女になってよ!」


ナッセ「えー、嫌だ。オレ男だし」

運命の鍵「えーい!! 実力行使だー!!」

ナッセ「ちょっ!! うわああああああ!!!」


 とある夜。


運命の鍵「今夜、魔族たちが徘徊してる! 頼むぞ!」

なっせ「任せて!! ワタシ頑張る!! 変身ッ!」


 運命の鍵を杖に、ヒラヒラスカートに煌びやかなピンクの衣装。銀髪が長いロングとなって波打つ。

 体のラインも少女そのもので、僅かな胸の膨らみにキュッとしたウェストに若々しい未成熟な尻。

 しかも股のアソコがないっ!!


なっせ「魔法少女なっせ参上!!」ばーん!


ヤマミ「撮影しますわよ!」

運命の鍵「相変わらずやなー! さぁ魔族を倒してカード回収やー!」

なっせ「ふえええ!! 途中からなんか変わってるよー!!」


『コレクションガール・なっせ』ばばーん!



 翌朝、ナッセは飛び起きた。冷や汗タラタラ。

 思わずアソコを探った。朝立ちしていて機能は正常だ。


ナッセ「ハッ! 夢か……。それにしても生々しいぞ……」



 次話『ナッセの悲しみを包む、ヤマミの優しさ』

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