63話「ナッセの『刻印』の秘密……?」
神妙に見てくるヤマミ。
テーブルの上に『刻印』の全貌が記されている紙が置いてあった。これを見て、ヤマミは「逆にナッセの力を抑えている」と見抜いてしまう。
「ど、どういうことだぞ?」
「一見、あなたを強化する『刻印』に見えるけど、実際は一般人レベルにまで出力を抑えた状態で、強化系を任意で発動できるようにしている感じね」
「い……一般人レベルに!?」
ヤマミは頷く。
「なぜ……? というか、分かるのかぞ?」
ヤマミは刻印の紙に視線を落とし、紋様のある部分に人差し指で触れる。そこには六芒星のマークが書かれていて、それを囲む円環が三重。その円環の間に意味不明な記号で並べられている。見た目的に、かなり厳重そうだった。
「異世界の記号はある程度分かるの。夕夏家にはそういう文献もあるから……」
「じゃあ、この六芒星は何かぞ?」
「六芒星は異世界では神聖なる象徴。この世界のケルトY字架のように教会のシンボルになっている。そして大きな力を行使するのに、魔法陣として用いられる事が多い」
「でも、なぜオレにそんな仕掛けを……!? い、一体どういう事だぞ??」
「落ち着いて聞いて」
ヤマミの手が肩に触れてきて、暖かいぬくもりを感じる。
「……この封印式はあなたの為!」
「オレのため?」
「そう! 元々あなたのMPはとてつもなく膨大。それに比例して威力を決める魔力も総じて高くなる。それ故に高すぎる威力で出力してしまう。その反動では自らの体を壊しかねない。
……リッチ戦で私が三発放っただけで傷んでしまったでしょう?」
ハッと思い出す。あの時、ヤマミと赤い刻印で繋げて、自分のMPから供給していた事を……。
下級魔法ですら、上級魔法を上回る火力でリッチすら圧倒した。
しかしヤマミはその度に傷ついてしまった。
「そ、それでか……」
「ええ。あの時の私にはナッセの『刻印』はないでしょ? つまり、それが本来あなたの一〇〇%の状態だったのよ」
「でも……、どうして傷んでしまったんだ……?」
怪訝に眉を潜めた。
「攻撃力が高ければ高いほど、それに比例した反動が自分にも返る。あなた、拳銃のように生身で戦車並の大砲を撃てる?」
「あっ……!」
そういう事かぞ……。拳銃やライフルのような小さな兵器ならともかく、戦車の大砲は大きくて威力が高い。頑丈な装甲車でないと、砲撃の反動に耐えられない。戦艦もそうだ。主砲は高火力で当たれば敵の戦艦を沈めたりできる。それ故に戦艦も頑丈に大きく作られている。
「あなたは生身で戦艦級の主砲を持ってるようなものよ」
自分の背中に戦艦の主砲を背負ってるイメージが浮かぶ。撃とうもんなら自分が吹っ飛ぶ。というか全身がバラバラになるかも知れない。
「それに、この補助強化魔法の発動陣。攻撃力と守備力が同時に発動されるようになってる。素早さと守備力もね。これは反動に耐えられるように守備力アップをセットにしている。あなたの為を思って組まれてる……」
「し、師匠が…………?」
ウニャンの方へ振り向く。すると首を傾げ、にっこり笑ってくる。
「ヤマミもなかなか理解できてる。やはり見せて正解だった。……そう、ナッセが傷つかないように組んできたんだ」
「…………師匠」
「ワタシも若い頃は無茶してたんだ。だからこその経験だよ」
なんかじーんって感動するぞ……。
「全くこれだから、お前は青クセェんだよ!」
ドガッ! 唐突にドアが蹴破られて、飛び出した二つの団子!
なんとタネ坊とキンタだった!?
悪党のようにニヤリと笑む。淀んだ険悪な目線。今まで見てきた彼らとは正反対だ。それに額には妙なツノが二本生えていた。
「話は聞かせてもらった! ……全く陳腐なこったぜ!」
「それがこの『刻印』やね!」
あっと言う間に刻印の紙を奪い取り、ビリビリに引き裂いた。
「はははは! これで貴様は、ただの糞餓──……」
嘲る二団子へ、軽めに跳躍しながら煌めく剣を振り下ろす────!
「スターライト・ちょいフォール!」
ガゴォン! 脳天を叩く衝撃音が部屋に響いた。
ヒモで手足を縛り付けられた二団子は頭上にコブを作ってグルグル目を回している。ふうと息をつくナッセ。
「そんな簡単に『刻印』外せたら封印した意味ないだろ。これ複製だぞ」
「本人? 偽者? それにしても、このツノは……?」
日本橋のインチキ店長の時と同じだ。あん時、モンスター化して襲ってきたんだっけ?
まさかタネ坊とキンタにも生えてくるなんて……! そんなの信じられない! これが生えると誰でもワルになってしまうのか!?
《それはカルマホーンだね》
振り向くとウニャンがスタスタと歩み寄ってくる。
「カルマホーン?」
《罪悪を抱かないほど強い邪な心を持つと、身体に反映するツノだよ。改心も反省もしなければ徐々に身も心もモンスターになってしまう。性質が悪い事に、ツノが生えると影響を受けて性格も悪くなっていくんだ》
絶句して言葉を失う。どことなく薄ら寒い気がする。ブルッ!
「な、なぁ、師匠……。因果操作とやらで、この奇襲をなかった事にして、タネ坊とキンタを元のいい人に戻せないかぞ?」
「できなくもないけど、それは叶えない方がいい」
しれっと言い切るウニャン。冷たい印象を受けそうになる。でもなんか理由が……?
怪訝なヤマミは「どうして?」と聞く。
「この『因果操作』はれきっとしたチートだよ。だからこれまで、他の方法でもできそうなレベルで使ってたんだ。
でも例えば“夕夏家は元から優しい家族だった”とか“ナッセは過剰な出力にも耐えられる身体だった”とか都合の良すぎる大きな因果操作だと、必ず恐ろしい副作用が出てくる。
それに人間は悲しい事にチートへ簡単に依存してしまう。なんでも叶えてしまうからね。便利に慣れすぎると、ろくな事にならないよ」
「それも経験から?」
ウニャンは「まぁね」と、後ろ足で首元を掻く。
「やはりか! この卑怯者がぁ!」
振り向くと、タネ坊が忌々しそうに睨んでいた。キンタも同じく軽蔑してるように表情を歪ませていた。
……なんかカルマホーンが異様に伸びてないか?
「だから糞餓鬼は、痛みも苦労も知らず、努力も必要なく強くなれたわけだ! はははっ! だよなぁ?
必死に努力している俺が馬鹿みたいじゃないか!
いい気味かい? こんな報われない熱血漢が面白いか? え? オイ!」
「お前らええやん。そうやってズルできるやね~。努力しなくても順調な人生歩めてさ~。
ナッセ、ヤマミをチートで惚れさせたんだろ? そんなん、おもろうないわ~!」ペッ!
オレの部屋で唾を吐き捨てないで欲しいぞ…………。
怒りで沸いたヤマミはツカツカと歩み寄り、タネ坊とキンタの頭をガツンとぶつけ合った。星を散らしてグルグル目を回す。そしてササッと携帯で通報。テキパキと伝え「はい、これでいいわ」とサラッと後ろ髪をかきあげて不敵に笑う。
その剣幕にビビってしまう。こ、こえ~~……。
「ワタシはチートを世直しに使って失敗した事があったんだ。
良かれと思って悪を全部駆逐して、政を為し、人々の悩み事を全部叶えてあげたんだ。すると誰彼もワタシ頼みで、何にもしなくなってしまった。成長も進化もそこで止まった。やむなく歴史をリセットせざるを得なかったんだ……。
だから人類が自分で成長する為には、こういう哀れなチートには頼らない方がいい」
どことなくウニャンは俯いている気がする。
師匠には師匠なりの苦労もあり、チートがなんたるかを知っているようだった。
今まで因果操作に頼らず、わざわざ身を張って修行や勉学をつけてくれたのも師匠だ。厳しくて逃げ出したくなる事もあったけど、親身になって叱ったり慰めてきたりしてくれた。話もしてくれたし、愚痴も聞いてくれた。
それにヤマミとのコミュニケーションにも、わざわざ口でフォローしてくれた。
「……いつも世話してくれて、ありがとう!」
温かい気持ちで胸を満たし、ウニャンをぎゅっと抱擁した。ヤマミも微笑む。
マンション前で、パトカーがサイレンを鳴らして停まっていた。ウ~ウ~!
警察官は、手錠をかけられ未だ暴れるタネ坊とキンタを押し込むように連行していた。
「ちくしょう! 糞が!! 糞餓鬼の刻印は簡単に外せるから、その隙を狙って始末しろって言ったの誰だよ!!」
「せや! ついでに高く吹っかけて儲けたろ思うたのにぃ~~!」
ギャーギャー騒ぐ二人に、なんかすうっと冷めてきたぞ。
窓から眺めていたが、そっとカーテンを閉めた。
「……前はあんな酷い人じゃなかったのに!」
「人間には醜い本性もある。だけどそれで人間を、自分を、悪く考えないで欲しい」
「うん、分かったよ……」
少し悲しげに、肩に乗っているウニャンへ頷く。
ヤマミも、その師弟関係になにか込み上げるものがあった。
因果操作では絶対作れないものがある。それは人と人の『絆』。それは付き合った時間だけ積み重ねて出来上がるものだから……。
「……失敗しました」
サイレン鳴らすパトカーを遠目に、電柱の影で携帯を耳に怪しげな男がボソッと。
その男は無表情で、顔付きは『夕夏家第二陣』のマミエに従っていた二人と同じだった。
「あ、そうですか。最初っから噛ませ犬でしたか。はい、分かりました。今日のところは引き上げですね。はい」
すうっと、闇へと溶け込むように去っていった……。
誰もが寝静まる深夜。お嬢様特有とも思える綺麗に整った部屋で、表情を険しくしたヤマミはウニャンを見据えていた。
《二人で話したい事って、何かな?》
「簡潔に聞くわ。ナッセの異常なまでに多いMPは何が原因なの?」
ウニャンは不気味なまでに沈黙を守っていた。
あとがき雑談w
ウニャン「ねぇ、ワタシと契約して魔法少女になってよ!」
タネ坊「じゃあ願いを叶える事も可能かな?」
キンタ「せや!」
ウニャン「一つだけならなんでも叶えてあげるよ」
タネ坊「まず俺とキンタが主人公で俺TUEEEEEで活躍する話にしてくれないかい?」
キンタ「せやせや!!」
ウニャン「それは無理だ……。神を超える願いは叶えられない。ではサラバだ……」
なんとウニャンは光に包まれて、上空へ飛び上がった後、七つのウニとなって四方八方にバシューンと散ってしまった。
タネ坊「……あんの糞猫、エスケープしやがった!」
キンタ「せやせやせや……」
次話『ナッセに隠された危険な因子とは!? 衝撃的な事実判明!?』