62話「初々しいナッセとヤマミ!?」
「お、おはよう……」
朝っぱらからノックしてきたので、ドアを開けたらヤマミがいた。黒髪姫カットの生徒会長っぽい感じで、表情は硬い。
「おはよう。そろそろだけど、いい?」
「う、うん……、ちょい支度してるトコ」
「早くして」
不機嫌でもなさそうだけど、笑いかけもしない。うう……。
ドアを閉めて、せっせとショルダーバッグに教材を詰める。マフラーを首に回し、ショルダーバッグを肩にかける。ウニャンもピョンと肩に乗ってくる。
カーテンを閉めて部屋は薄暗くなる。忘れ物がないか周りを見渡し「よし!」と頷くとドアを開ける。
やはり無表情っぽくヤマミが待っていた。
これがリョーコなら明るく笑顔で「ささ、早く行こー!」って言ってくれるのになぁ。
「待たせたなぞ」
「じゃあ、さっさと行きましょう」
スタスタと一緒に階段降りて玄関を出る。明るい朝日で外の世界は明るい。眩しいな。
ヤマミの方を見ると表情は崩していない。こちらに気付いて振り向いてくる。一瞬目を丸くすると、すぐさま落ち着き「なに?」と一言。言葉が詰まる。
そ、そーいや……。ヤマミと一緒に通学とか初めてだぞ。
リョーコだったら自然とノリノリな気分で通学してたのにな。そういやアイツ、一足先にスミレちゃんと一緒に行くって携帯で言ってたな。こういう時に限って……!
なんか気まずいぞ。リョーコと一緒だったら、気が軽くなるのに……。
そう考えている間にも、ヤマミと一緒に無言で騒がしい大阪の町並みを歩いていく。淡々と一緒に歩くだけで気が重い。どう話を切り出せばいいのか分からない。それに彼女はリョーコと違って自分から話してこない。呆れられているのかもしれない。
《硬すぎだね……》
「え?」
肩に寝そべるウニャンのテレパシーに、つい声を漏らす。ヤマミも、ふとこちらを振り向く。
《あんたら割と硬い性格だよね。根が真面目だから、お互い受身になってしまってるんだ。リョーコは奔放な性格だからいいけど、ヤマミはそうもいかないからね。大丈夫。なにか話しかけてごらん?》
「あ、あの……。仮想対戦センターごめん。一緒が良かったかな?」
「気にしない」
うわぁ……。しらっとしてる?
《そうじゃない! なぜ謝罪から切り出すかな? つか趣味とか好きな食べ物とかそういうので!》
「う、うん。 じゃあ……週刊少年漫画見てる?」
「いいえ」
やっぱ素っ気ない……。
《そう見えるだけ。ヤマミも初めてで緊張してるんだ。彼女もどう返せばいいか内心葛藤してる》
「そうなのかぞ?」
「ってか、ナッセ君もヤマミも奥手だよね。話しかけたい事たくさんあるのに、嫌われたくなくて黙ってしまう」
「うん……」
「そ、そうなの?」
ヤマミの驚いた声で、ハッと気づいた。ウニャンの最後のセリフ、声に出してる!
「ナッセ君も緊張してるし、人付き合いが上手くないだけだからね。別に嫌いになったからじゃないんだ」
「ち、ちょっ!」
「そうなんだ……」
なんだか顔が柔らかくなって見えた。安心してるのかなぞ?
すると黒い円がすうっと周りの景色に広がっていく。思わず緊張する。エンカウントだ!
二人はそれぞれ臨戦対戦を取る。ナッセは星屑とともに光の剣を生み出し『刻印』が灯る。ヤマミは挙手し、火炎の塊を『衛星』で浮かべる。
《こういう時は自然なのにねぇ……》
ウニャンが見守る最中、ナッセの煌く剣戟がスライムを数匹切り裂き、ヤマミの火炎球がカタツムリ型のクミーン数匹を爆発に巻き込む。ドォン!
ここら辺は下級下位種しか出てこない。エンカウントの回数が多くなったとはいえ、出現モンスターは相変わらずだ。荒廃した世界は収縮して、元通りの光景に広がっていく。
ふうっと息をつくナッセ。手の甲の『刻印』が薄ら消えていくのをヤマミは眺めていた。
「ナッセ……。あなたのその『刻印』は自分の身体能力を強化するよね?」
「え? ああ……うん」
「良かったら、帰宅後にあなたの部屋で『刻印』を見せてくれない?」
《いい機会だ。見せてあげなよ》
肩に乗っているウニャンの方を見る。耳を跳ね、尻尾を揺らす。別に企業秘密ということじゃないらしい。
元々は師匠が作り出したもので、それをオレが少々弄って改造したりしてたんだよな。
師匠は「とりあえず入門的なものから教えたわ。でもいずれ上級編までマスターしてもらうから」とか言ってたっけな……。
「いいぞ。気になる?」
「ええ。それに……」
なんか頬を赤くして、目を逸らす。
《初めて男の子の部屋に入るんだ。恥ずかしがってるけど、内心興味津々っぽいね》
「ええっ! オレの部屋!?」
「……嫌だった?」
なんか落ち込みそうになってる。やばい!
「いやビックリしただけ! 今までそういうのなかったぞ。リョーコですら……」
「うんうん。ナッセ君は照れてるだけ。さぁさぁ、遠慮なく入るといい」
「ちょっ! ウニャン~~!」
催促するウニャンに、赤面して腕を振って慌てる。それを見てヤマミは和やかに口元が笑む。
学校で授業受けていたら、あっという間に時間が過ぎていった。そして夕日が世界を赤く滲むように染めていく。
「おう! ナッセまただし」
「またねー!」
「では道中お気をつけてくだサーイ!」
マイシは不良っぽく、おおらかに手を挙げ去っていく。リョーコは相変わらず明るく手を振るが、直後にスミレに背中から抱きつかれて「ちょっと~」と困惑する。そのまま別の路地へ引きずり込まれていく。
ノーヴェンはミコトとコマエモンと一緒に去っていく。
そして取り残されたナッセとヤマミ。これも初めてだった。
いつもはリョーコと一緒にアニフレンズって店行くか、一緒に帰るか、だったんだけどなぁ……。
「帰ろっか」
「ええ……」
来た時よりは軟化した気がする。
ヤマミと一緒に黙々と高架橋沿いに通路を歩いていく。時々電車が通り過ぎる音が響いてくる。夕日で広がっていく影が涼しい。
「週刊少年漫画……、いつも読むの?」
切り出すヤマミ。きっと勇気出してるかも……?
「うん。気になってる連載漫画を読んでるぞ。読んだ事ない?」
「…………男の子が読む雑誌でしょう?」
「リョーコも学院内の女子も読んでるけどなー」
「そうなの。じゃあ部屋で読ませてもらえる?」
「もちろんだぞ」
なんか気分が高揚していく。リョーコとはまた違った初々しい感じがするぞ。
マンションに着く頃、夕日は沈みかけて更に薄暗くなっている。玄関を通り、郵便箱を確認して、そして部屋へ向かう。緊張する。自分の部屋に女子を入れるのはこれが初めてだぞ。ドキドキ……。
電灯を付け、明るくした。
「うわぁ……」
初めての男の子の部屋に、ヤマミは感嘆。目を丸くし、ときめく。
少し乱雑した雑誌。プラモが二個、美少女フィギュアが三体、サイドボードの上に飾られている。TVボードに乗せたテレビにはゲーム機が繋がれ、側でゲームソフトが積まれている。
ベッドの布団は乱れて端がぶら下がっていた。
テーブルの上には筆記用具とノート。
「な、なんか恥ずかしいけどぞ……」
「ううん。これが男の子の部屋だって感じね」
オレより先に足を歩んで、まじまじと部屋を見渡す。足元の週刊雑誌を見やる。それを手にしてページを開く。リョーコと話題にしていた『NINJA』も載っている。どの作品も戦いのシーンばかり目立つ。美少女のちょいエッチな恋愛漫画も混ざってある。
《ね? 大丈夫だったでしょ?》
「そ、そうかな?」
気恥ずかしく思って、いそいそと床に散らかしている本を片付ける。
「どの作品、読んでるの?」
「ええと……『NINJA』『オンピース』『トレジャーXトレジャー』『グルメ』『金魂』『うなぎボックス』この辺りかな……?」
「全部読んでるわけじゃないのね……」
「まぁ…………」
まだ突っ立ったまま雑誌読んでる。最初はパラパラめくってたのが、今度はじっくり読んでるようだ。
「す、座っていいよ」
「あ、うん……」
やはり緊張してたんだろうか? そそうのないように丁寧に乙女座りに床に下ろしていく。
待つのも緊張するし、こちらも適当に読むか。
《飲み物用意しておくといいよ》
「あ、そうだった!」
慌てて立ち、冷蔵庫から取り出したジュースを二つのコップに注いで、それをテーブルにコトンと置く。
「どうぞ」
「あ、ありがとう……」
「うん」
まだ緊張してる。オレもだが……。
喉が渇いていたかヤマミはコップを手に取って、ぐいっと飲み干す。凛とした仕草だったが、なんだか可愛い。なんか不思議と色気を感じる。
今まで生徒会長のように見ていたけど、今は違って見えているぞ……?
「あ、それじゃ本題に入る?」
ドギマギと雑誌をテーブルに置き、ヤマミは切り出す。
「オレの『刻印』が気になるんだっけ?」
「ええ……」
「今は収縮しているけど、紙に広げるぞ」
テーブルに紙を広げ、右手を置く。『刻印』が浮かび上がり、左手の指で紙に移動させると、細かく文字の羅列と紋様が展開される。中心部に星型
マークが大きく表示されていて、囲む円に重なる小さい星型マークが三つ点在。上には太陽のマークが小さく点在。
「……補助強化魔法の発動陣も組み込まれている。それと星の数は四つで、三段階まで武器強化が可能。太陽は大剣形成。そしてこれは『盾』のプログラムね」
「よく知ってるな。まるで刻印博士だ……」
「そうでもないわ。魔法陣を組む『円環』の勉強もしてたから」
某漫画のネタ迷言を気にせず、さらっと普通に返答。知らないだけかもしれない。流されて虚しいぞ……。
「やはりね…………」
「え?」
なんかヤマミの視線が鋭い。すうっとひと呼吸すると、こちらへ神妙な顔で振り向く。
「これ、あなたの力を強化する為じゃない! 逆に抑える為よ……!」
そう言われ「えっ……?」と戸惑いを漏らす。
後ろで無表情のウニャンが佇み、その不気味な沈黙がただならぬ気配を醸し出す。
あとがき雑談w
ウニャン「ねぇ、ワタシと契約して魔法少女になってよ!」
ヤマミ「じゃあお願いするわ」
ウニャン「え? まぁいいけど……」
ヤマミ「その代わりひとつだけ願いを叶えてもらうって設定ある?」
ウニャン「……できなくもないけどね(汗)」
ヤマミ「じゃあ並行世界全てのナッセが欲しい!!」
ウニャン「え? ええ? えええええ? む、無茶だ!!
その願いは────そんなのが叶うとすれば、それは神の所業なんてレベルじゃあない!」
ヤマミ「さぁ叶えて!! ウニャン!!」
ウニャン「ワケが分からないよ!!(マジで)」
ナッセたち「引き裂かれるううううう!!!」
翌朝、ウニャンは飛び起きた。冷や汗タラタラ。
ウニャン「ハッ! 夢か……。それにしても生々しい……」
次話『ナッセの『刻印』の秘密とは??』