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61話「邪な角カルマホーン!」

     挿絵(By みてみん)


 施設内の静かなトイレ。一人、鏡を見つめている男がいた。

 白衣を着た痩せた細身のおじさん。色白で頬骨が浮き出ている顔立ちでメガネを掛けた虚ろな目。……そして何故かハンチングキャップを前傾にかぶっていた。


 彼はアニマンガー学院に在籍(ざいせき)している藻乃柿(モノガキ)ブンショウだ。


「理解したくないが……、私は『悪』という事か?」


 帽子を取ると、右眉上の額に(とが)った角が生えていた。左眉の上にも小さな角がある。

 それを目の辺りにして藻乃柿(モノガキ)は震えだす。


 この角が生え出すと、いずれモンスターになる。

 何度も角を切り落としても、何事もなかったかのように再生する。それに口を開けば、(とが)った牙が並び始めているのが見える。身体そのものの作りが変化しているのだ。

 皮肉な事に、そのおかげか病状の悪化が緩やかになっていた。吐血など発作の頻度も減っている。


「少々気に入らんが……、死期が延びるのは幸いか…………」



 今、世界規模で大きな行方不明事件が起きている。その大半が極悪人だ。ほとんどのテレビ局や新聞社が休止になっているのは、それに入り込んでいた悪意を持つ敵国の工作員が全員失踪(しっそう)したからだろうか?


 ブラック企業とも言われている会社や店も次々と閉めていった。暴力団はほぼ壊滅寸前だ。カルト宗教なんて権力を持った教祖や幹部や過激派の信者がいなくなったために、空中分解が始まっている。


 無法地帯の国に至っては、ほぼゴーストタウンだ。もう国として機能していない。

 独裁国家は、支配しているボスや幹部がいなくなったおかげで、「革命だ、革命だ」と民が騒ぎ出し政府も止められない状態になっている。


 ……何故『悪人』を中心に失踪(しっそう)していくのか、理由は未だ不明。何故だ?



 それにエンカウント率が急激に上がっている。

 一日に二回三回だったのが、今では五回以上は珍しくない。


 この余波で、何も知らなかった一般人が『創作士(クリエイター)』に目覚めて、能力を得ていく。今じゃ、未開地の土人まで能力者だ。


 どこまで『空想(ファンタジー)』は加速するんだ……!?



「……私がやっている事は間違いではない! 間違ってないんだ……!」


 そう自分に言い聞かせるように(つぶや)き、帽子をかぶってトイレを後にする。




 アニマンガー学院の裏施設では、大きな地下室がある。

 そこでは何ヶ月もかけて綿密(めんみつ)に描かれた巨大な魔法陣があった。複雑で入り組んだ文字が羅列(られつ)している。それを囲むように石柱が等間隔に並んでいて、その上を光る宝石が浮いている。


「おい!! ダメなのか!?」

「ええ。どういう訳か、効果が通じないようです……」

「何故だ! この図式で合ってるはずだ!!」


 藻乃柿(モノガキ)苛立(いらだ)っていた。


 この『円環(サークル)』と呼ばれる魔法陣は召喚形式。地球の『星獣』を復活させる為に必要なものは完璧に揃っていた。計画通りにいくなら、魔法陣から星獣の顔が浮き出てくるはずなのだ。そして徐々に全身を形成していく。そうなった時は周囲の封印用の鎖で拘束(こうそく)して、星獣の力を抽出(ちゅうしゅつ)するつもりだ。


 星獣は星のエネルギーが凝縮されていて、抽出(ちゅうしゅつ)できれば人類は数万年単位で資源に困らない。

 これさえ成功できれば、人類の未来は一転する。明るい未来が待っているのだ。


「なんとか成功させろ! もはや時間がない!!」

「む、無理です!! 拒絶されていて……」

「拒絶だと!? 星ごときにそんな意思があるのか!?」


「コミュケーションが取れるとは思えないのですが……、何度も召喚周波で揺さぶっても嫌がる周波で返してきます」


 ダン、テーブルを殴る。

「無理矢理できないのか? なんとかしろ!! 私には時間がないんだ!! この無能が!」


 作業員は(うつむ)く。藻乃柿(モノガキ)のえらい剣幕で、疑心や萎縮で暗い雰囲気だ。



「……ほう? 拒絶されているんですか?」


 藻乃柿(モノガキ)は睨みながら振り向く。コハクだ。嬉しそうに笑んでいる。


「なにがおかしい?」ギロッ!

「無能無能、叫んでも周りは同調しませんよ。そんな様子じゃ手懐(てなづ)けられそうにないですねぇ」

「貴様……!」

「似合わない帽子ですね」


 ハッと帽子に手をかける藻乃柿(モノガキ)。屈辱だ。こんな奴に事情を知られるとは!


「カルマホーン。悪意を持ち、平気で罪を犯し、(がん)として悔い改めない人間に生える角。貴方にはお似合いですね」


 バキッと激情任せにコハクを殴る。息を切らす藻乃柿(モノガキ)を、コハクは冷淡に見下す。

「生まれ故郷の地球に拒絶されるとは随分(ずいぶん)嫌われたものですね。せいぜい無駄に足掻(あが)いてくださいよ」フッ!

 鼻で笑い、(きびす)を返して去っていく。


 ぐぎぎ、歯軋(はぎし)りする藻乃柿(モノガキ)(はらわた)()えくり(かえ)ったまま見送る。今コハクを殴っても殺しても、意味がない。



藻乃柿(モノガキ)先生、約束の時間です」

 別の職員が現れ、告知してきた。


「来たか……。私は行く。その間に作業を続けろ!」

「は、はい……」


 藻乃柿(モノガキ)がいなくなると、作業員はホッと胸をなで下ろした。




 真っ白の会議室。テーブルが囲んでいて等間隔に椅子(いす)が並べられている。

 すると、突然何もない所で烈風が巻き起こり、テーブルも椅子もそれに流されて、部屋の隅っこへガラガラと追いやられる。

「く……!」

 烈風を前に藻乃柿(モノガキ)は腕で顔をかばい続けている。汗を垂らす。


 烈風の中心部に黒い渦が生まれ、ズゥンと重々しく拡大化する。

 その中から、貴族風に黒いマントを羽織った紳士服を着た長身の男。威圧感みなぎる重厚な表情から鋭い眼光を見せる。ギン!


「……夕夏(ユウカ)ヤミザキッ!!」

「お迎えご苦労。会うのは久々かな」


 白衣を着込んでいる優男の藻乃柿(モノガキ)と、ヤミザキは対峙し、睨み合う。


「……私は忙しいんだ! 用事は手短にしろ!」

随分(ずいぶん)荒れているな。その様子だと、(はかど)ってないのかな?」


 夕夏(ユウカ)ヤミザキは(いぶか)しげに不機嫌だ。そして彼の額には片角が生えている。藻乃柿(モノガキ)はそれがカルマホーンだと察した。


「私としても時間に猶予を与えてやったのだよ? せっかく多額の投資をしてやったのに、一つも成果を上げられぬとは……」

「この点については申し訳ありません。ですが、必ずや星獣を復活させてみせる」

「そうしてもらわなければ困りますな」

「お互い時間がないのは分かっている。身体の変調は何よりも自分で分かってるからな」


「……私は、いい『器』を見つける事ができた。

 膨大(ぼうだい)MP(マジックプール)を持ち、竜の剣士(セイバー)とやりあえるほどの戦闘力。そして何よりも若い体。見た目も才能も申し分にない。懸念する事は一点あるが、これをメインの器に決定づけた」

「カルマホーンは心から現れている。体を替えた所で生えない保証はないぞ?」

「そこも気になってはいるが、まず問題ない……」


 何故かヤミザキはカルマホーンに対して悠長だ。気に障る。


「星獣を復活させたら、まず体を浄化させてもらう。できるはずだ」


「それが叶った暁に、約束通りあなたの器も用意して差し上げましょう。病魔もない健全な身体を……」

「ふん。『刻印(エンチャント)』付きでは御免(ごめん)(こうむ)る」

「そんな心配は無用だ。約束は守る。それが資産家の余裕というものだよ」


 二人立ったまま、腹の探り合いのような感じで睨み合う。互いに完全に信用していないようだ。


「一人、あなたの生徒をいただけますかな?」

「目当ての器か?」

「ええ……。我が娘を介して知ったのですよ。正に理想通りの器がね!」


「マイシか? それともコハクか? フクダリウスか??」

城路(ジョウジ)ナッセ君だ!」


 ドクン、藻乃柿(モノガキ)は衝撃を受ける。


「……あんなゴミか? いくらでも差し上げてやる。最も行方不明だがな」

「それが、帰ってきたぞ。我が娘と一緒にな」

「何ッ!?」


「しかも、面白い事に我が娘がナッセを連れて我に楯突(たてつ)くつもりだ」


 嬉しそうに笑むヤミザキ。

 一体全体何が起きているんだ? 藻乃柿(モノガキ)は頭の整理が追いつかず少し混乱している。


 ナッセだと!? 夕夏(ユウカ)ヤミザキが目にかけるほどの『器』だと!?


 奴がそうと(さだ)めたら、外さない。そういう男だ。


 そうやって数百年も生きながらえてきた。ここまできて目利(めき)きが外れるなど有り得ない。何か確信があってヤミザキは言い出したのだ。

 そして夕夏(ユウカ)家は厄介な『刻印(エンチャント)』の力で、巨大な力を誇る家系。まるで一つの軍事国家だ。そこをナッセ達が楯突(たてつ)くのは自殺行為だ。


「では、私は彼らを歓迎するための準備をしていきましょう」

「ふん! 今すぐにでもやればいいじゃないか」


 するとヤミザキは困った顔を見せて肩を(すく)める。


「そうしたいのは山々だ。ふむ、テレビは観ておらんな?」

「……何!?」

仮想対戦(バーチャルサバイバル)センターで城路(ジョウジ)ナッセ君がチーム戦で大活躍していた。そのおかげで一躍有名人になってしまい、こちらとしては手が出せないかな……」


「消すわけではないだろう? 体を奪うだけだ」


「そんな単純な話ではない。急に城路(ジョウジ)ナッセ君が夕夏(ユウカ)家の総統(そうとう)になったら不自然だろう? じっくり長い時間をかけて、彼を後継者(こうけいしゃ)として夕夏(ユウカ)家に迎え入れなければならん!」

「そんなもの後回しで、城路(ジョウジ)君のフリすればいいだけの話だろう?」


「……お前はよく「見る目がない」と言われないかね?」

「なんだとォッ!? 貴様ァ!!」


 藻乃柿(モノガキ)は声を荒らげた。


「周りの者に違和感を感じさせる。特に我が娘ヤマミはその異変に敏感(びんかん)のはずだ。……ごく自然に、かつ思い通りに手に入れるのに、長い時間すら惜しむものか!」


 どこか執念深いと思わせられる表情に、藻乃柿(モノガキ)は息を呑む。

 だからこそ、彼は数百年も時間をかけて夕夏(ユウカ)家を軍事国家レベルの巨大な組織へと大きくしていったのだろうか……?


「期待できる成果を楽しみに待っているぞ…………」


 そう言うなり、ヤミザキは手の甲を見せるように上げ、赤い『刻印(エンチャント)』が浮かび上がる。赤く輝き、膨大(ぼうだい)なエネルギーが溢れ出した。ゴゴゴゴ、凄まじい地鳴りを呼び、ヤミザキを纏うオーラが稲光を(ともな)って荒れ狂う。

 夕夏(ユウカ)家全員のエネルギーが、主人であるヤミザキに集約しているのだ。


 指を鳴らすと、虚空に黒い渦が広がる。ヤミザキはその中へ吸い込まれ、渦と共に消え去った。



 高度な時空間魔法を展開して、遥か遠くの自分の屋敷まで渡ったのだろう。それにしても圧倒的なエネルギー量だった。

 個人が持てるエネルギー量を遥かに超えていて、世界でも有数の実力を持つ創作士(クリエイター)でも敵わないだろう。

 いや、そんなものがなくても彼単体で充分強い……。


「……これが四首領(ヨンドン)の一人ヤミザキ……か!」


 緊張から解放され、藻乃柿(モノガキ)はガクッと腰を落とす。

あとがき雑談w


ナッセ「初登場となるヤミザキ!! あれがヤマミのお父さん!?」

ヤマミ「……ええ」


ウニャン「実はリメイクして、登場シーンなど大幅に変えたよ」


ナッセ「え? リメイク??」

ヤマミ「何言ってるの?」

ウニャン「四次元以上の次元を認識できない生き物は不便だね」



 単に中ボスとして設定されたヤミザキだったが、だんだん話が大きくなって存在感が増した為に急遽ポジションを変更しました。

 本当は次の次の章で夕夏家屋敷へ殴り込んで、仲間たちと協力して戦い抜き、ナッセは新しい力に目覚めてヤミザキと直接対決して、2、3話程度で終わる予定でした。

 いやはや長編書いていると大変ですw



 次話『ナッセとヤマミが初デート!? どきどきw』

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