60話「勝利の余韻! 充実した日曜日」
「『賢者の秘法』が使える剣士だなんて、前代未聞だァ────ッ!!!」
ナッセが光の雫をかき集め、自らの剣に宝玉を宿して銀河を纏うシーンがモニターで映っている。観客もそれに「ウオオオオ!」と歓声を上げていた。
先ほどの試合が再びリプレイされて、それについて解説会が開かれていた。
「三大奥義と言われる、その一つが『賢者の秘法』ですが、これは元々、錬金術士が会得するS級高等魔法系スキルですよ」
「そうそう! これ、超超超~高難易度会得スキルなんですよ~~!? 現在の錬金術士ですら、会得している創作士は世界中で二、三人いるかどうかですよ~~?」
黄緑色のショートヘアで童顔の黒スーツ女子はノリノリでマイクを振るう。超レアスキルと聞いて目を輝かさずにいられない性格のようだった。
「そうですじゃ。会得するまで、数十年かかると言われてますからね。若い上に剣士で『賢者の秘法』会得者ってのは初めてですよ。よっぽど腕のいい創作士を師匠にしているかもしれませんね」
褐色肌の顎鬚オジサンは「はっはっは」と上機嫌に笑う。
対戦申請ルームで、ナッセ達は神妙に静まり返っていた。リョーコの後ろで、顔を青くして震えている夕夏マミエ。そしてノーヴェン達とフクダリウスもまた神妙な顔で黙りこくる。
しかし『夕夏家第二陣』のメンバーである二人の男はいなかった。終わった時には既に姿をくらましていた。恐らく夕夏家へと帰って報告しに行ったのかもしれない。
「……夕夏家は総統ただ一人によって『刻印』で呪縛している一族。その娘であるマミエちゃんは負ける事さえ許されない恐怖で戦ってたのよ……」
「そうだったのですカ…………」
リョーコの説明に、ノーヴェンは項垂れている。
事情を知らず、勝手にナッセへ対抗意識を燃やしていた事を恥じていた。
「デハ、ユーもヤマミさんから色々聞いてたのですネ?」
「うん」
頷く。するとノーヴェンは申し訳なさそうな顔で頭を下げる。
「スミマセン! そうと知らず、勝手な私情で腹を立っていましター!」
「え、それはいいよ」
「ミーはヤマミさんが何故浮かない顔ばかりしていたのか理解しようしなかったのに、ナッセ君はちゃんと理解して彼女と心を通じ合わせましター。……これでは恋路の邪魔などできはしまセーン!」
「ちょっ! 恋だとか、そういうのは……」
なんか思い込んだら直進しそうな性格っぽいなぁ。頭良いのに、割と頑固で……。
ってか恋かぁ……。考えた事なかったぞ…………。
「それはいい。早くここから出た方がいいぞ。夕夏家から刺客が来ないとも限らん」
「うむ。拙者も『探知』張り巡らしているが、まだ気配はない。今が好機かと」
フクダリウスとコマエモンは周囲を警戒しているのか、鋭い視線をしていた。
ミコトは「え? ええ? それ怖いじゃないですか……」と、元のおどおどした引っ込み思案な性格に戻っていた。
ノーヴェンが「待ってくだサイ」と、制止の掌を差し出し、キランとメガネを煌めかす。
「不自然に仮想対戦センターを抜け出すと、向こうに怪しまれマース。なので……」
ワアアアアアアアアア!!
「ナッセェ! あの奥義は凄かったぜ! また見せてくれよな──!!」
「リョーコ!! 実は強かったんだな! 酷い事言ってゴメンよ」
「アクト! 俺はお前に憧れた!! 弟子にしてくれ!」
なんとワイワイみんなで集まって、オレ達は喝采を浴びていた。更に後続のノーヴェン達もマミエもフクダリウスも一緒にたたえてもらっていた。ゆっくり歩きながら出入り口へと向かう。
誰もが、歓喜に満ちていて興奮が冷めやらぬ状態だ。オレは慣れない笑顔で手を振っている。逆にリョーコは両手を振って喜んでいた。
って言うか、こういう風にしてもらうのは好きじゃないなぞ……。
でもこれこそノーヴェンの策なんだよな。
彼が言うに「大多数の喝采を浴びて、知名度を逆に上げて堂々と帰るのデス。例え刺客がこの場にいても手は出せまセーン。後は普通に帰っても大丈夫デース」とのこと。
先回りして刺客がマミエやナッセを付け狙っていたとしても、知名度が高い相手に迂闊に手が出せない。また帰り道でどうにかすれば大事になる。例え急にいなくなったら当然大騒ぎになる。
そうなったら夕夏家としては好ましくない。スキャンダルになって騒ぎが大きくなると名家に傷が付く。故に今日で居合わせても襲撃せず、様子見せざるを得ない。
しばらく数日は機会を窺うだろう……、だとか。
「また来いよな────!!!」
出入り口でも、創作士達が明るく手を振って、見送ってくれている。なんだか浮ついてしまいそうだ。
でも、みんなに認められるってのも悪くないかもしれないぞ……。
その後、焼肉屋でワイワイ盛り上がって楽しんだら、それぞれ解散した。
「おう! 帰り道ァ、気をつけろよ」
海老江駅前でアクトは背中を向けて、手を振りながら去っていく。
それを寂しげに見送る。そんなオレにリョーコは微笑みをヒョイと覗かせた。
「なんか無理に誘ってゴメンね」
「ううん。楽しくなってきたから、こういうのも悪くないかなと」
なんだか照れくさく思う。嫌々だったのに、参加してみたら意外と楽しかった。それについてはリョーコに感謝したいぞ。
「さ、一緒に帰ろー!」
さりげなくリョーコはマミエの手を握って、こちらと一緒に歩きだした。
「……ってか、マンションまで連れて行くのかぞ?」
「うん。マミエちゃん帰りたくないって。……コンパチ男の二人が帰っていったから、恐ろしい父に報告でしょ? それで叱られるだけじゃ済まさない。きっと折檻レベルで虐待されそう」
「こわい。帰りたくない」
フルフル首を振るマミエは真っ青で震えている。もしかしたら前からそういう酷い目に合っていたのかもしれない。酷い父親だぞ……。
でも、まさかリョーコのマンションに暮らす気じゃないだろうな?
「オレはナッセ。よろしくな」
手を差し出すと、キッと睨んできたマミエはその手を払う。フシャー威嚇されてるみたいだぞ。
なんか懐いてるのリョーコだけかよ……。
見た目、ヤマミに似てるのにな。
はぁ、と溜息をつくナッセの肩に、ウニャンは寝そべったまま寝息を立てていた。
「遅かったわね……」
「朝帰りしないだけでもいっか~!」
なんと自分のマンションの玄関前で、腕を組んだヤマミと明るい笑顔のスミレがいた。
「ええー?? なんか用あった? こんな遅くに……?」
リョーコと途中で別れて、独り寂しく帰路についたと思ったら……。まさかのヤマミが迎えてくれるとは!
こうして見ると生徒会長が門限を厳しく取り締まってる感じに見えるなぞ。
なんか小言でも言われそう。ってかなんでオレのマンション前にいるんだろう?
「悪いけど、あなたのマンションに引越ししたわ。あなたの部屋すぐ側にね」
ヤマミはクールっぽく、さらっとロングの黒髪をかき上げる。
なんと言うか、どう思えばいいか……分からないぞ。なんで連絡もなく引越ししてんだぞ?
「元々ね~、ヤマミちゃんはナッセちゃんと一緒になりたくてね~~。連絡しなかったのはサプライズ的な~? でも本当は笑顔で迎えたかったのよね~」
「い、いいえ! れ、例の作戦のために側にいる必要があっただけっ!」
恥ずかしそうに赤らめている気もする。
「そんなこと言っててもね~~、ホントはウキウキして引越し張り切ってたよ~~!」
「よ、余計な事言わない!」
ビシッと、スミレの額にチョップをかます。
どことなくヤマミは頬を赤らめている気がした。少し目を泳がせた後、「そういう事だから、よろしくお願い」と踵を返して歩き去る。それを眺めていると、彼女は数歩で足を止める。
「来なさい! まだ話したいから部屋に来て!」
なんで付いてこないのよ? って言いたげな不満顔で振り向いてきた。
ニコニコなスミレが「観念しちゃいなさい~」と背中をぐいぐい押してくる。観念して、一緒にマンションへ入っていった。
ヤマミの部屋へ入らせてもらったら、きちんと整った部屋で綺麗だぞ。キラキラしてる。
テレビで録画しながらオレ達『スター新撰組』の活躍を観戦してたらしく、不満そうに「前もって言ってくれればチームとして参加してたのに!」と愚痴られた。リョーコに強引に誘われたと言ったら渋々と納得してくれた。
なぜかスミレがほくそ笑んで「お先におやすみ~」と去っていったが、何だったんだアレ?
二人きりで『心霊の会話』を行った後、自分の部屋へ戻る事にした。通路で顔を見合わせている時、なんかヤマミは切なさそうな顔していた。独りは寂しいのかな?
「おやすみ。また明日な」
「うん。おやすみ。また明日ね……」
バイバイと手を振り合う。
パタン! ドアを閉めると、恐ろしく静かで薄暗い自分の部屋が、寂しげに見えた。
ぼんやり薄い明かりを付け、疲れた体を仰向けにベッドへ倒れた。ウニャンも側で丸くなって眠りこける。
「なんだか騒がしい日曜日だったなぞ…………」
目を瞑ると、仮想対戦センターでの戦いが頭に流れてきた。あれだけ破天荒な連戦を繰り返せば嫌でも脳裏に焼き付いてしまう。
親しいリョーコとアクトと一緒に、個性的な創作士との連戦。更に同じ同級生のフクダリウスやノーヴェン達とも激しい接戦を繰り広げた。その末に必殺の奥義でスカッとした勝利を収めた。
それをワクワクと楽しく思えるのが不思議だ。参加する前は嫌々だったのにな……。
そして、ノーヴェン達とも仲間になれた。今後の夕夏家対策にも協力してくれるそうだ。これほど頼もしくて心強い味方がいてくれると、なんだか心が震えて歓喜が溢れてくるぞ。
最後にヤマミが側へ引っ越してくれた事には驚いたが、なんだか心が躍った気がした。
「へへ。明日が楽しみってのも、変かなぞ…………」
柔らかいベッドの上で感無量した余韻に浸りながら、意識は沈んでいった。
あとがき雑談w
ナッセ「なんか手紙来てたけど読むね」
ヤマミ「ええ」
~作者より~
これで『バーチャルサバイバル・ランキングバトル』編は終わりですw
早く畳んでしまいましたが、本当は色々な創作士を出して対戦して見たかったです。
今回は大阪地区で終わらせましたが全国、世界と大会の規模を広げて書いてみたいとも思ってました。
それはまた別の機会に……。(多分書かないかもですがw)
ナッセ「世界大会かぁ。これスピンオフで書かなきゃ無理なレベルぞ」
ヤマミ「そうね。こっち別の目的で話進んでるもの」
スミレ「そうよね~~w うふふw」
リョーコ「なんかゾクッときた!?」ゾクゾクッ
次話『ついにヤマミの親父が登場!?』