58話「オレの大切な仲間だ!」
ついに「ゲームセット」と宣言され、観客は静まり返った。
一時、モニターが真っ白になり「Now Loading」と表示されて、グルグルと回るマークが出る。誰もが息を飲む。
そして勝者の顔が二つ、パッと画面に映し出された。
「こ、これは……!? ナッセとリョーコ!!?」
実況者の驚いた声に、目を丸くしてどよめく観客。一体何が、と状況が飲み込めない。
「アクトさんはフクダリウスさんと相打ちになって脱落。つまり、タイムアップまでに生き残ったのは『スター新撰組』の二人のみと言う事ですか?」
「えぇ──ッ!? ナッセって、インテリスリーに完っ璧負けたじゃないですかぁ────!?」
「普通そう思うよね……」
オジサンは顎鬚をさする。
「生中継ではモニターに出してこそいませんが、全ての戦闘は最後まで記録される仕様。ただいま、リプレイしまーす!!」
オオオオ!! 歓声が沸く。
足を痛め、満身創痍のナッセへノーヴェン、ミコト、コマエモンが攻撃の挙動を行う。メガネビームの嵐が、居合い切りの一閃が、ミコトの白龍の光線が一斉に覆い被さって、ナッセを光の彼方に……!
ドガガァン!!
「ああっと!! ナッセ! 為すすべもなく、集中砲火を浴びたァ────!!」
記録されていた実況の声が響き渡った。
「そうです! ここからです!!」
爆煙が立ち込めて濛々と広がる。ノーヴェン達は油断なく身構えていた。
ようやく煙幕が晴れた時、亀甲のように繋ぎ合わせた光の盾がナッセの前に浮いていた。だが所々欠けていて破片がポロポロと崩れ落ちていた。
「くっ! はぁ……はぁ……」
ナッセ自身も煙に包まれていて、防ぎきれなかった事を示唆していた。より一層、血塗れで破けた服に血が滲んでいる。よろめきつつもナッセは垂れていた頭を上げる。片目を瞑り、苦しそうな顔をしていた。
コマエモンは鋭い眼光で前に出る。
「……目の前にいる、それは自分と同じ人間と思うな。ドラゴンを相手にしてると思え!」
「イエス……」
ノーヴェンは唇を噛む。
先ほどの一斉攻撃は並の人間なら確実に棺桶化するほどの攻撃力。いくら頑丈な盾を張っても、致命傷は逃れられない。それにも関わらず、ナッセという男は大ダメージで済んでいるのだ。
「手負いの虎ならぬ、手負いの竜ですカ……」
ノーヴェン、コマエモン、ミコトは再び攻撃を繰り出す。ノーヴェンのメガネビームの嵐が吹き荒れる。しかし、オレは「くっ!」と眼前に新しく盾を張り、片足で跳ねて地上を穿つビームの雨を潜り抜けていた。
「フッ!」
コマエモンの飛ばす斬撃が盾を横一文字に裂く。それに苦い顔をする。
ミコトの白龍が、稲光迸る光弾を乱射。大地を蹂躙するように爆発球が幾重も穿つ。
ズドドドドドドドドン!!
「ぐああああ!!!」
避けきれず、四方八方から爆発球を浴び続け、破けた服の破片が散る。
ドサリと地面に沈み、うつ伏せになったまま動かない。ドクドクと地面に鮮血が広がる。
「フン! ユーは良くやりましタ……。ここまで攻撃を受けて五体満足とは……、大した防御力デス」
無数のメガネが囲み、グルグルと周回。明るく輝き、発射手前。
コマエモンも黙祷するように目を瞑り、ミコトも「終わったZE!」と立てた親指を下に向けて不敵に笑む。そしてノーヴェンも上機嫌に口角を上げる。
「それに懲りたら、もうヤマミさんに馴れ馴れしく近付かないで欲しいデース! 彼女は名門の夕夏家の長女であり、身分の高いお嬢様。そもそも生まれ育ちも全く違いマス! ユーとは身分相応ではないのデース!」
それを聞いて指をピクッと動かす。
「…………名門の……夕夏家?」
「そうデース! 有名な資産家デス。国内で多くの企業を展開し、多くの親戚で囲んでいる大御所。同じ資産家であるミーはともかく、一般人のユーには到底届かぬ高嶺の花デース! 故に下賎なユーの事など、穢らわしい存在と思ってマース!」
ハハハハハ、とノーヴェンは見下すように嘲笑う。
沸き上がってくる激情でグッと剣を握り、力を振り絞って立ち上がろうと奮起。ポタポタ、血が滴り落ちる。垂れていた頭を上げると、歯を食いしばってギンと鋭い眼光を見せた。
コマエモンもミコトも見開く。
「バ……バカな!? もはや立てぬ程の重傷のはず…………」
汗を垂らし、おののく。
痛めた片足と共に、二の足で立つナッセ。血塗れの体は震えている。激しく息を切らすも、眼光は一層険しい。
「ええい!! 一斉掃射デース!!」
周回していたメガネは一斉にビームを浴びせかけようとした。
その前に、鬼気迫る形相で太陽の剣を一周するように振り回し、包囲していたメガネの群集をボボボボボンと爆破した。その余波で旋風が荒れ狂い、周りの木々がバサバサ騒ぐ。
「クッ! まだ……そんな力が!?」
ノーヴェンは腕で顔を庇い、吹き荒れる風を凌ぎつつ脅威を感じた。ビリビリ……!
「おまえは……、ヤマミの何も分かっちゃいない!」
ノーヴェンはピクッと眉を跳ねる。
オレはあの時を思い返す。まだヤマミ達と異世界にいた頃だ。
「……地球のと違うわね」
「うん」
ヤマミと一緒に夜空を見上げていた。星々煌く異世界の夜空……。
自分の世界と同じように、遠い所に恒星があってそれを周回する惑星とかあるのかなぁ?
自分の世界でも太陽系外の星とか行った事ないけど、ここでもこの恒星系外の星にも見たことのないような世界が広がってるのかな? と、想像が膨らんでくる。
「ロープスレイ星」
ヤマミは呟く。この星の名前なのだろうか……。
「何層もの地殻と大気で重なっている不思議な惑星。ここは一番上の上層地殻で『ヘヴンプレート』。その次の下の中層地殻は『ガイアプレート』。その更に下層地殻は『ヘルズプレート』で海が存在している。日の当たり範囲が違うため、下層ほど冷えるって聞くわね……」
「へー! そういう星なんだ」
「ええ。しかも地球の直径は約一万二〇〇〇キロ。ここは七万四五〇〇キロ。約六倍の大きさよ。だから地平線が向こうまで遠いわけね」
なるほど……、だから遠い大陸まで見渡せたのか。
これもエレナちゃんの部屋にあった本でも読んだんだろうか? ヤマミって勉強家だなぁ……。
「でも、まさか異世界へ行けるとは、夢にも思わなかったぞ」
「ええ。私も同意見よ……」
「ここの異世界も広いけど、もっと更に別の世界とかあるんかなぁ……?」
「行ってみたいの?」
頷く。
「……できればな。学院卒業したら、まずこの異世界を旅したいかな」
笑む自分。ここに立っているだけでも感涙ものだ。この世界のオレの知らない驚くべき事も多いはずだ。色々な都市や町もあって、風習とか文化とか、そして見た事のないような情景とか、多種多様な種族がどんな風に暮らしてるとか、キリがないほど夢が広がっていく。
「……そうね。私も叶えたい『夢』がある」
「ヤマミの『夢』?」
ふふ、とヤマミは俯きがちに軽く笑う。だが悲しそうな目をしている。
「あなたと比べればちっぽけだけど、私にとっては大きな試練。それなくしては私の自由は有り得ない」
「自由……」
「夕夏家との決別。そしてこの『刻印』の廃止! 私には名誉も地位も金も要らない!!」
ヤマミのただならぬ決意を宿す眼光が見えた。彼女にとって人生を左右するものなのだろう。
「いや! 小さくねぇ……。人生を変えるほどの『夢』だ。スミレやリョーコはもちろん、オレも手伝うぞ」
「そんな……」
だが、オレは快く笑ってみせる。
「みんなで、異世界を旅してみたいってのもあるんだ」
「みんなで……?」
「楽しそうだろ?」
なんでか自分は明るく笑えた。異世界の地へ踏み入れて浮き足立っているからかもしれない。
けど、こうワクワクしてくるのは止まらないんだ。
一人で行くより、みんなでワイワイやりながら色々な所を巡って駄弁って行くほうが絶対楽しい。共有できる友がいると冒険しがいがある。
「まぁ、そんな急は無理かもだけどぞ」
「私も行きたい……」
くるりとこちらへ先回りして立ちはだかる。黒い瞳を潤ませ、口を噛んでいる。まだ家系に束縛されているカゴの中の鳥に見えた。
「私だって……、ナッセと一緒に広い世界へ行きたい!!」
星々煌く夜空の下で、涙ぐむヤマミは堪らずナッセの胸へ飛び込んだ。
その時の吐露したヤマミの切ない想いを思い出し、じんと込み上げる熱き感情が沸く。そして凝視するようにノーヴェンを睨み据える。それに気圧されそうになるノーヴェン。
「ヤマミは……、本当は自由になりたかったんだぞ! 名誉も地位も金も欲しくなんかない!」
「ナニ!?」
見開くノーヴェン。
「彼女は……、ヤマミは! オレ達とも変わらない普通の人間だぞ!!」
「……ク! お、思い上がるなデス! ユーごときが高潔なヤマミさんと釣り合えると思うナ! ヤマミさんはいずれ跡を継いで夕夏家のトップとして君臨する気高きお嬢様なのデェェ──ス!」
「やっぱり、おまえはヤマミの何も分かってないッ!!」
彼の驕った言葉に、怒りを込めて怒鳴り返す。
ノーヴェンはますます不機嫌に表情を歪める。彼にとってナッセの言い分は身の程知らずでクソガキのような減らず口に聞こえていた。そんな思い上がりに怒りを募らし、徹底的に叩きのめそうと激情を走らせる。
「知った風を聞くなデス! そんなにヤマミさんを好きで好きでたまらないのですカ────ッ!!」
「あァ……? 好き? 好きかどうかなんて、オレは恋愛の何も知らんぞ!」
ドスを利かせたナッセの声に、ノーヴェンは気圧される。息を呑み汗を垂らす。今まで弱気そうなチビだった彼とは到底思えない。
「で、では……恋愛とかそういうのでなければ、ヤマミさんはユーにとって何なのですカ!?」
「オレの大切な仲間だ!!」
昂ぶる激情を吐き出すように、迫真な顔で力強く告げた!
あとがき雑談w
ナッセ「今回もモブの創作士紹介だぞー!」
リョーコ「作者としては、本当はもっと色々な創作士を出して、大会風に盛り上げたかったらしいね」
リョーコに「スラッシュスレイヤー」で建物ごと斬り裂かれた三人。
『卜部カント』(狩猟者)
標準成人そのものの体格。黒髪モヒカン。ひねた性格。いつも歯を食い縛るような厳つい顔。用心深い。23歳。
近接はナイフで、中距離と遠距離は弓で戦う。スナイパーにも切り替えれる。
短剣即撃ち:近接でナイフを高速で連射する。
天網:『衛星』で速度がバラバラの無数の矢を撃って弾幕を張る。
手足全身狙撃:大きな弓を手足で引き、ドリル状の大きな矢を撃つ。貫通性が高く鋼鉄の壁も射抜く。
威力値9500
『中宮ケイトウ』(弓兵)
やや長身。天然パーマで銀髪イケメン。26歳。
用心しすぎて「~かもしれない」を想像しすぎる。怒ったり、調子に乗ったりすると思考放棄して先走る。前後で性格が極端に変わるのでチーム内でも混乱が多い。
主に『衛星』による光の矢による弾幕を得意とする。『軌道』と『炸裂』を同時に付加して撃つ事が多い。
スナイパーに切り替えると『増幅』目一杯溜めて一気呵成で撃つ。
威力値10500
『康辺アリサ』(遊撃士)
青髪のショート。丸い目でキュート。アホ毛が三本。ポンチョを着ている。20歳。
金に目がない。慎重な性格。リーダーやっているが苦労人。
手裏剣や剣で近接、弓で中距離と遠距離と、器用なオールライダー。
決裂貫:オーラを込めた剣で渾身の突き。
閃光烈火:増幅した後に放つ一閃。盾ごと斬り裂くほど。
旋風:螺旋状に軌道を設定して手裏剣を無数放つ。
時雨砂塵:空へ矢を放った後に分割を繰り返して無数の矢を降らせる。
隠燕:自分か味方の弾幕に紛れて放つ一撃必殺の狙撃。奥の手。
威力値8600
次話『ついに決着!! 奥義炸裂!!』