57話「リョーコの新技炸裂!!」
次々と大岩が飛んでくるが、リョーコは「せいやあああッ」と斧を振るう。
バガァッ! バカン! バギャン! バゴ! バカァァン!
ことごとく大岩を粉々に粉砕し続け、突き進むリョーコの勢いは衰えない。そのまま少女へと間合いは縮んでいく。
「く……!」
少女は焦りが募り、ひたすら『衛星』の大岩を撃ちまくっていた。
後方で少女にオーラを供給し続ける二人の男も全身に汗を滲ませ、辛そうな顔で息を切らしていく。少女もそれを察して、汗を垂らす。二人の貯蔵していた莫大なオーラが底をつこうとしているようだった……。
負ける……許さない!! 名門、夕夏家……、自分……優秀、一度の敗北、絶対許されない!!
少女は唇を噛む。頭の中には、畏怖すべき父上が焼きついていた。
とてつもなく巨大で、凍えるような冷徹な威圧で震え上がらせるほどの厳格な父。
「夕夏マミエ。お前は長女ヤマミとは違って、秀でた才能を持っている。そして我が後継者と共に、より多くの優秀な子孫を産む“道具”として生きよ! それこそがお前にとって誇らしい定めと知れ!」
「はい……! 仰せのままに……」
少女ことマミエは虚ろな目で跪いて、頭を垂れる。
幼少より、無駄な時間を排除した英才教育を徹底的に施され、夕夏家内の同世代の子供の中で頂点に立てた最優秀の娘。自分の持つ秀でた才能と出産能力は父上の為にある。
それが次女『夕夏マミエ』としての定められた人生でもあり、運命!
父上こそが夕夏家全ての総統!!
敗北すれば、総統を裏切るのと同義!!
故に裏切る事となれば、自分は捨てられる定め!!!
「うあああああああああ!!!!」
死に物狂いで、少女ことマミエは絶叫しながら合掌。するとパキパキと周囲を煌くダイヤモンドでドーム状に形成。巨大で強靭で頑丈な最高硬度として、リョーコの前を阻むように高々と聳えた! ガキィィン!
「いっせーのォ……!」
リョーコは引いた斧にオーラを収束し、大地が震えるほど激しく迸る。
地を蹴って「クラッシュ!」と一声、全身全霊で斧を振りかぶって振り下ろす!!
「バスタァ────ッ!!!!」
ガアァァァアン!!!
大気が震えるほど衝撃音が響き、大地は竦んだように超振動で揺れる。
切羽詰るマミエ。しかしリョーコの全力の一撃はダイヤモンドの表面をクレーターに凹ませ、破片を飛び散らすだけに終わってしまった。しかもクレーターは収縮して元通りに再生されてしまう。
「はぁ……はぁ……! く……、くっ、砕かれて……たまるか!!」
「あんたにもそういう感情はあるのね。人形みたいに無表情だったから心配してたわよ?」
斧をぶら下げ、リョーコは笑む。マミエは悔しそうに歯軋りする。
「じき、時間切れ……!! もう五分……ない! 我々生き残れる!」
「……そこに引き篭って逃げる気?」
「逃げ……じゃない!! 戦略的篭城戦……! この脳筋が……ッ!」
ふー、ふー、と興奮したままマミエはリョーコを憎々しげに睨みつける。
「ふーん。脳筋ね。そこは否定しない」
「な……なんで自分と……互角!? お前……、どこか名家の人!?」
リョーコは首を振って笑む。
「ううん。別に、普通の家庭に生まれた、ただの娘だよ」
「それ嘘……! この二個の貯蔵庫からっぽになりそう……、それほどの突破力……ありえない!!」
二個の貯蔵庫と言い切ったマミエの言葉に怪訝に眉を潜めたが、それは後ろの二人の事だと察した。彼女にとって後ろの二人は道具でしかないのだと。恐らく溜め込んだオーラを少女マミエに供給して、これまで驚異的な力を振るってきたのだろう。
それでもリョーコは自分の力だけで、追い詰めてきたんだとも察した。
そして脳裏にナッセ達が浮かび、今の自分の力は自力では得られなかったとも再認識する。
「最初は鈍重で地味な『戦士』として、あたしは負けてばっかりだった」
「な……なに!?」
「ナッセ達と会わなければ、今もずっと弱い創作士のままだったのかもしれない」
「ナッセェ……!?」
マミエは歯軋りする。
「うん。そう。きっかけはナッセだった。その後、ヤマミ達とも出会って洞窟探索で色々教えてもらって、ここまで強くなれた」
マミエはヤマミという姉の名前が出た事で見開く。
「ヤマミ! ……姉を通じてナッセ知った。同行してた、お前!?」
「姉さん?」
「父上……、姉落ちこぼれ言った!! 姉……人材捜索係!」
自分の姉すら貶めるマミエに、呆れるリョーコ。
「姉さんですら、あんたにとって道具なの?」
「道具!! 自分も道具! 全ては……夕夏家……父上の為!!」
「哀れだね」
溜息つかれて、マミエは激情をあらわに「うるさい! うるさい!」と叫ぶ。
「低俗な庶民……お前、夕夏家分からない!! 時間切れで負ける!」
肩を竦ませ、リョーコは鼻で笑う。そんな態度にマミエはピクッと眉を跳ねる。
「何が……おかしい!!」
「あんたもナッセと出会ったら、もしかしたら変われるかも……」
「ナッセ大嫌い!! だが父上、お気に入り……大事な跡取り! だから……!」
「道具にするって言うの? ……あたし許さないから!」
怒るリョーコに、マミエはゾクッと震えを覚える。同じ畏怖だが、父上とはまた違う感じがした。その違いが何なのか分からない。汗が頬を伝う。
「あとね、あんたも道具じゃない! 可愛い女の子だよ!」
マミエはその言葉を聞いて、胸に得体のしれない感情が湧き上がってくる。これまで凍えるような監獄に入れられて、それが当たり前の世界だと思っていた。けど、何故だか『可愛い女の子』と言われた途端、ジワッと暖かみが沸いた。
「か……かわいい女の子…………?」
「あんたの家でどういう教育されたか知らないけど、あんたは道具じゃない! あたし達と変わらない女の子!」
「う……! 道具……じゃない!? 自分……女の子…………?」
言われた事のない単語に、マミエは胸が締め付けられるような痛みを覚え片目をつむる。
「まずは、あなたを女の子にしてあげる!」
リョーコは斧を引き「いっせーの……」とオーラを再び荒ぶらせ、激しく放射状に迸らせる。震える大地で、マミエは恐れを抱く。だが、ダイヤモンドのドームで囲んでいる。先ほどの一撃すら跳ね除けたではないか、そう思い返し落ち着きを取り戻す。
「無理! 破れ……ない!! お前、終わる!!」
「ううん、終わらせない! だって、同じ女の子として“友達”になりたいから!!」
気丈に笑むリョーコ。
ドクン、マミエは見開く。友達という言葉に、また心がかき乱され、凍てつく暗き世界に日射しが射し込んだようなイメージが湧く。どうしようもなく温かい感情が溢れ出してくる。
気付いたら頬が温かい。何か液体が目から流れているようだ。
「待ってて! 今行く!」
リョーコは全力疾走で駆け出し、オーラ漲る斧を振りかぶる。それは標的と程遠い位置で振り下ろし、空を切って空振る。マミエは「焦って失敗……?」と思い込む。
しかし、ぐるんとリョーコは前転回転して、超高速回転へと加速していった。まるで回転ノコギリのようにオーラの渦を纏っての突進だ!
ギュオオオオオオオオオ!!!
そのままダイヤモンドのドームへドスン、とのしかかるように衝突!!
火花を散らし、ガガガガガガガガと振動音を鳴り響かせながら削り続ける! マミエは見開く!
懸命にダイヤモンド障壁の修復に全オーラを注ぎ「うぐぐ!」と唸り続ける。それでもリョーコの超高速回転斬りは更に勢いを増すばかりで、もはや止められない。
「うっ!」「ぐ!」
なんと二人の男は発作が起きたように、ビクンと身を仰け反らし白目で口から泡を吹いて、糸が切れた人形のように地面に倒れる。小刻みに痙攣すると次第に止まっていく。そして光の爆発。後に二つの棺桶が転がる。
「な……!?」
マミエは半顔で見開く。貯蔵庫の二人は底をついてゼロになったのだ。
途端に一人だけになった自分に恐怖が沸く。残った力もあと僅か。もはや止める手立てはもうない。その絶望感でマミエは顔を真っ青に、体を震わせた。
「あ……ぁ……ああ!」
ピシピシッとダイヤモンドに亀裂が広がり、小さな破片が零れ落ちていく。その隙間から日射しが木洩れ出てくる。マミエは見開いた。
バッキャアアアアアン!!
ついにリョーコの全身全霊の高速回転斬りが、ダイヤモンドのドームを木っ端微塵に砕き散らす!!
極限の緊迫か、マミエの視界はスローのようにゆっくりに見えていく。
その最中、必死になっているリョーコが斧を振るっている。その背後から後光のような日射しも相俟って、神々しく見えてしまった。
まさしくその姿に『戦乙女』を見て、感嘆が沸くように涙が溢れる。
「ローリング・デストロイヤァ────ッ!!」
リョーコはそう叫び、超高速回転の一撃をマミエ近くの大地に打ち込む!
ガガァン!
その強烈な衝撃で土砂の噴火を噴き上げ、爆音と共に広々と広範囲に破片と土砂が飛び散った。それに煽られてマミエは宙を舞う。ふわりとフードと髪が揺れる。
「う……!」
そんな…………、負け……!? 優秀な……自分が…………!!
落ちてきたマミエを片手で受け止め、リョーコはふらりとよろめく。しかしザッと踏み止まって立ち堪える。ぐったりしているマミエを胸元に引き寄せ、誇らしく斧を天に掲げる。そのボロボロになった刃先を煌めかす。
そして満身創痍ながらもリョーコはニッと笑んで見せた。
「うおおおおおおおお!!!! リョーコ、新たな新技で『夕夏家第二陣』を撃破ァ────ッ!!!」
ドワアアアアアアアアアア!!! 大歓声が音響して観戦席を劈く!
自分が思い描く誇らしい戦士の姿を娘に見て、リョーコの父は目尻から涙が溢れ、頬を伝っていく。
「リョーコ……、強くなったな! もう、俺以上の立派な戦士だ!!」
ぐしぐし腕で涙を拭って、満面な笑顔を見せた。
ピッと、音が鳴る。なんとモニター画面上部のタイム数字がゼロになっていた。
「おっと! ここで時間切れだ────!! ゲ────ムセットォ!!」
あとがき雑談w
ナッセ「この人たちも紹介するね」
リョーコ「あっさり倒したけど、普通だったら強敵だったかも」
『佐川ガクト』(暗殺者)
黒装束の中背中肉の男。実は栗色の髪のイケメン。彼女持ち。25歳。
チーム共通の『瞬足の術』でスピードを上げてかく乱しながら戦う。
威力値3600
『天蘇シロウ』(槍士)
黒装束の長身の男。緑のツーブロックのフツメン。21歳。
チーム共通の『瞬足の術』でスピードを上げてかく乱しながら戦う。
威力値3400
『大和タイゾウ』(侍)
黒装束のやや体格が大きい。若いのに強面。リーダー格。27歳。
舌を噛みまちた!
チーム共通の『瞬足の術』でスピードを上げてかく乱しながら戦う。
威力値4700
ナッセにあっさり斬り伏せられた三人。
『神谷トウジロウ』(剣士)
金髪ツンツンのややイケメン寄り。カッコつける。ヘッドホンを首にかけている。28歳。
鈍感で恋愛に疎い。自分がモテる事に気付いていない。
二段斬り、三段突き、居合一閃撃、瞬連斬(8連)など攻撃スキルが豊富。
威力値8400
『出屋敷マリ』(魔道士)
ピンクのロング。美乳タレ目のソバカス。長身がコンプレックス。31歳。
同メンバーのトウジロウが好き。鈍いので気付いてもらえないのがモヤモヤ。コウタの好意に気付いてもいないので鈍いのは自分も。
水系、雷系、風系の攻撃魔法が得意。『衛星』による追尾弾を主に好む。割と接近用の攻撃魔法で斬り伏せるのも得意。
威力値7200
『赤川コウタ』(騎手)
金髪アフロ。低身長。タレ目。実は同メンバーのマリが好き。24歳。
大型犬を召喚して騎乗する。マリを意識して『衛星』での雷系、風系魔法も使う。
威力値7600
次話『え? うそ!? ナッセは負けた??』