56話「父の激励! 頑張れリョーコ!!」
ナッセと出会う前からリョーコは『バーチャルサバイバル・ランキングバトル』に参加していた。
その頃は初々しく胸に理想と夢を抱いて、目をキラキラさせて入っていった。
勝ち上がっていくたびに強くなっていって、仲間も増えて、目指していた『斧女子』の確立。そして華やかなアイドルみたいに、誰もが憧れるような女子になれるかもと胸を膨らませていた。
でも現実は甘くなかった。
ソロ対戦で、ストローを杖にする太った『魔道士』に、リョーコは斧を手に駆け寄る。
「戦士って遅いね。バブルプレッシャー!!」
泡の『衛星』で弾幕を張られ、リョーコは「ひえぇ」と逃げ場を失い四方八方から爆撃される。ボボボーン!
サメに身を変える『蛮族』との対戦でも、獰猛な牙を剥き出しにガシガシ突進を続ける相手に、リョーコは斧一つではどうにもならず、ガブリと噛み砕かれて光の爆発。
「弱ぇーな。もっと頑張れよなぁ……」
「行くぜ!! 役立たずの斧戦士ちゃん!」
長身の甲冑剣士が二刀流の剣で突進。リョーコは斧で応戦。ガギギンと斬り合いするが、あっさり通り過ぎざまに胴を斬り裂かれ光の爆発。
……ほとんど連戦連敗。
今度はチーム組もうと募集をかけた。最初は乗り気で女性パーティーに入らせてもらってチーム戦デビュー。でも、すぐやられてしまう事が多くて足手まとい。それで追放された。何度か別のチームに入らせてもらえたが、徐々に敬遠されていって孤立。
数週で誰も見向きもしなくなった。
唯一参加が可能なソロ対戦を繰り返しても、相手にとって格好の練習台。結果は散々だった。
重い足取りで仮想対戦センターを後に帰路につく事も多かった。
「よし! 次こそがんばろう!」
それでも彼女は明るくめげず、挑戦を繰り返した。その度にトボトボ帰る事も多かった。
年のせいか感情が枯れた顔の親父と、大人しめの母とテーブルで囲んで晩飯。
黙々と箸で食物を口に入れていた。リョーコは沈んだ気持ちでご飯を眺める。
「……斧を得物にするのは止めた方がいいんじゃないか? 親父も帰りに行ってるけど中々勝てないからね。今や気晴らし程度で行ってるよ」
「うん。分かってる。分かってるけど……」
「あんた、だんだん暗くなっているから心配だよ」母も心配そうだ。
親父は箸を置く。
「夢を抱くなら誰でもできる。けどな、その夢を叶えられる人は僅か一握り。リョーコ、お前はまだ若い。斧にこだわりたいのは分かるが、たまに得物を変えて試すのもいいだろう?
戦士は他のクラスと比べて、一番数多くの武器を扱えるクラスだからね……」
「でもお親父さん、今もずっと斧一本でやってるでしょ?」
親父は見開く。
「小さい頃から言ってたでしょ? 戦士は鈍重で地味で人気がないかもだけど、それでも誰かの為に体を張って戦える誇らしいクラスだって!」
「そりゃ……そうだけども」
親父は後頭部を掻く。
「だからあたしは戦士の象徴たる斧で『斧女子』を広めて、多くの人に「戦士」の良さを知ってもらいたいの!」
そのひたむきな娘の言葉に、親父も母も驚く。彼女は親の背中を見て育ってきたのだ。それを察して、しばし沈黙する。
母は親父と顔を合わせ、頷き合う。そして資料を渡してくる。スッ……。
「アニマンガー学院!?」
「表向きはアニメや漫画を描く勉強をする専門学校だが、実態は創作士養成所だ。そこで見聞を広める良い機会になるかも知れない」
「学費は出しておくから心配しないで」
「あ、ありがとう! 大好きよ! お父さん! お母さん!」
リョーコは明るい笑顔を見せた。その顔に親父と母も顔を綻ばせた。
その後は知ってる通り、慣れないエンカウント戦でナッセと出会った。そこから彼女の運命は変わってく。
ヤマミ、スミレ、マイシ、アクトと、色々な人と触れ合って心身共に成長できた。
そして────!
今やAランク層の頂上対決! リョーコは斧一つで、相手チームと対峙していた。
『夕夏家第二陣』
得体の知れない不気味なチーム。
無表情の少女と、後ろの量産型みたいな二人の男。それぞれ手の甲に赤い『刻印』を浮かび上がらせると、共鳴し合うように凄まじいオーラが吹き荒れていく。地響きが大きくなってくる。少女はそれを自身に集めて尋常じゃないオーラを纏う。
これまで負けてきた相手よりも、ずっとずっと強い相手。でも、負ける気がしない!
自分の後ろにナッセとアクトがいる。これまで追放してきたチームとは違う。いつも付き合ってくれて、共に笑い合えた『大切な仲間』!
脳裏にナッセが浮かび、滾る気持ちと共に斧を握る手に力が入る。
「さぁ、いくわよ!!」
ゴオオッ、全身から漲るオーラと共に地を蹴った。少女はすかさず合掌した。
「おおーっと!! ついにリョーコと『夕夏家第二陣』との戦いが始まった────ッ!!」
仕事から帰って、気晴らしに仮想対戦センターへ立ち寄ったリョーコの親父は、そのマイクの声に見開いた。慌てて観戦ルームへと急ぎに急ぎで駆けていく。
「ああっと! そこでリョーコ閉じ込められた!」「尚も大地は蠢き続ける!」「リョーコはここまでなのか!?」
なおも戦いの実況が続けられ、歓声が音響する。
バッと観戦ルームに入ると、モニターに驚き見開いた。
トゲトゲの剣山のような巨大な岩山が所狭しと聳えていた。その真ん中から亀裂が走る。ピシシッ!
ドバァァァン!!
岩山の中から、土砂を撒き散らしながら斧を突き出したまま飛び出るリョーコ。
思わず、親父は「リョーコ!?」と声を上げる。
無表情の少女は合掌し、周囲からボコボコと無数の大岩が『衛星』として浮かび、ぐるぐると周回。勢いをつけてリョーコへ放たれる。しかしリョーコは「せい! せいっ! せいやっ!!」と掛け声で斧を振るって、ことごとく大岩を木っ端微塵に砕き散らしていく。
その様子に親父も心から熱いものが沸き上がってくる。
「いっせーの……!」
リョーコが斧を後ろへ引きオーラをそこに収束、徐々に荒ぶって激しく迸る。地を揺るがすほど勢いは更に増していく。
汗を垂らす少女は合掌して、すかさず前へ掌を突き出す。
ゴゴゴ、分厚い巨大な岩壁が土砂を噴き上げながら生え出す。そして周囲の木々を押し退け三枚並んで重々しくズズン、と高く聳えた!!
「な、な、なんと!!? この大掛かりな防御壁は初めて見ました────ッッ!!」
観客はどよめく。
こんなの絶対破れないだろ──!! と誰もが思った。だが、目の前の光景はそれを裏切った。
「クラッシュ・バスタァ────ッ!!!」
リョーコは掛け声と共に全身全霊、荒ぶるオーラ纏う斧を振り下ろした!
ズガガガァァァン!!!
次々と三枚の岩壁をぶち貫いて、破片を散らし土煙を引き連れながら、リョーコと共に斧が少女へ迫る。無表情だった少女は初めて見開く。切羽詰って、即座に合掌して眼前に岩の大壁を無理矢理生やす。ボコッ!
突然の、斧と大壁の超接近激突!!
ズゴォォォォオン!!!
大壁を木っ端微塵に砕き散らし、派手に破片が四散。その衝撃でリョーコと少女は互いが離れるように弾き飛ばされた。周囲に吹き荒れる旋風は遠くの木々を騒がせ、大地を震わせる。
しかし二人とも平然と宙返りして着地。余韻の土煙が足元を流れる。そしてリョーコと少女は息を切らし、しばし対峙したまま見つめ合う。
この天上とも思えるレベルの戦いに、親父は驚き固まっていた。
「おおおおおお!!! 先ほどのフクダリウスとアクトの死闘にも負けない戦いぶりになってきました────ッ!!」
実況の全身タイツはマイクを手にぴょーんと飛び上がった。
「まさかリョーコさんがここまで強くなっていたとは、驚嘆です!!」
「ええ!! 前から何度か見てましたけど、これ別人じゃないですかー!? すっごく強くなってますよー!!?」
解説係の二人も興奮している様子。観客も「わあああああああ!!!」と歓声を上げた。
「リョーコ!!」「リョ──コォ!!」「リョーコちゃん!」「頑張れリョーコ!!」「いいぞリョーコ!!」
親父は呆然とする。夢でも見ているのかと思うほど、自分の娘のコールを聴き続けていた。
本当にモニターに映っているのは自分の娘なのか? 目を疑うが、挙動や癖は完全に自分の娘そのもの。他人の空似でも、そっくりさんでもない。紛れもなく本物の自分の娘!!
産まれた時から、大きくなるまでのリョーコをずっと見てきた親父にはそれが分かる!
親父はふるふると体を震わせ、激しい感激の気持ちで溢れかえった。
ゴゴゴゴゴゴゴォォォォ!!!!!
尚も大地の隆起、大岩の飛散、無数の尖った岩山、大規模で大地は暴れまわった!
それでも負けじと、斧一つでリョーコは飛び回りながら岩をことごとく豪快に砕いていく。そして徐々に少女へ距離を詰めていく。
周囲に『衛星』の大岩を周回させたまま、少女は初めて表情を歪めて「くっ!」と呻く。
ここまで大掛かりな地の魔法を常時で発動し続けて、絶えぬ猛攻をかけているのにリョーコ一人抑えられないでいるのだ。
これまでの普通の創作士なら一溜りもなかったはず。大抵は早めに決着がつく。なのに……!
「これ……が! 戦士…………!? うそ……??」
さすがの無表情だった少女も、つい声を漏らす。
バガァン!!
リョーコは目の前の大岩を木っ端微塵に砕き散らす。その顔に雄々しい表情が見て取れる。
「やあああ────ッ!!」
斧一つでオーラを纏いながら、襲いくる岩石を砕きながら少女へ間合いを詰めていく。
少女は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。
その果敢な彼女の勇姿に親父は震え立つ。これまで枯れていた感情が全動員で湧き上がる。これが収まらずにいられるか!
活気蘇った親父の顔に輝く目が宿る。
「リョーコォ!!! 頑張れ──!! 親父は見ているぞ────ッ!!!!」
拳を振り上げて、あらん限りに叫んだ!!
あとがき雑談w
アクト「あァ……、モブ創作士の紹介だァ」
『宝松ミズオ(魔道士)』
水系魔法が得意な魔道士。ストローが杖がわりの武器。34歳。
太ったおっさん。茶髪カールで鼻が風船のよう。
戦い方としては『炸裂弾』の泡を使って包囲網で詰んでくる。
威力値2300
『海紫カミヤ(蛮族)』
目付きが悪いヤクザみたいな感じで顔の右側に傷が走っている。ハゲ。45歳。
サメに身を変えて、その高い攻撃力で敵を噛み砕く脳筋。
威力値5200
『桜瀬シュウ』(剣士)
長身の甲冑剣士。西洋剣の二刀流。体格に恵まれている。アゴが長い。23歳。
二刀流の剣で敵を斬り裂く。
威力値2000
『小野寺トウジ』(戦士)
リョーコの父。体格はそこそこ。中年でヒゲを生やしている。誠実。56歳。
斧を使うこだわりを持っている。
仕事の帰りに仮想対戦センターへたまに寄る。
威力値8700
『小野寺リョーコ(当時)』(戦士)
トウジの娘。体格や資質に恵まれているのだが活かしきれていない。16歳。
金髪おかっぱ。巨乳。
斧女子を普及させるのが夢。斧がこだわりの武器。
威力値4300
アクト「威力値が万を越える創作士はエリートレベルらしいなァ。ほとんどはそれ以下のが大多数って話だァ……」
フクダリウス「それに威力値だけ高くても、絶対ではない」
ミコト「そうだZE! 数値が絶対のカードゲームじゃないからNA!」ドン!
次話『リョーコの新技炸裂!? それは一体!?』