49話「スター新撰組! 剣に心を込めて!」
大阪駅前で、魔法陣が淡く輝く。バシュッと光の輪が幾重も上昇すると中から三人が現れた。
ナッセ、リョーコ、アクトの三人は、歴史上の新撰組が着てたというダンダラ羽織を装備していた。しかもピンク色。背中には「誠」の一文字。
観戦席では疎らな観戦客。ランクが低いバトルには、あまり人が来ないようだ。
「おおーっと! ソロ参加していたリョーコが、初顔二人を連れて『スター新撰組』として参戦しに来ましたーッ!!」
「リョーコさんは斧にこだわりを持っていた戦士。でもこれといって戦績は良くなかったですね」
ずっしり腰を据えた、褐色肌の横幅な体格の戦士風オジサン。顎鬚をさすっている。
「初顔の二人については?」
もう一人の解説役は、黄緑色のショートヘアで童顔の黒スーツ女子。
「チビのナッセ君とおっさんのアクトさん……。ただの数合わせでなければいいですけどね。なにしろ二人もここでは戦績がないもので」
「……うっわ! やられ役としてでも盛り上がって欲しいですー!!」
解説役の二人はあれこれ言いたい放題だ。
自分のピンク色のダンダラ羽織を見下ろして、リョーコに不満顔を向ける。
「なぜピンクなんだぞ……?」
「ごめん! 後で一人ずつ色変えられるから!!」
リョーコは合掌してテヘペロ。多分一度やりたかったんだろうか……。
「……まるで本物みたいだなァ。異世界の反転世界みたいにそっくりコピーしてるのか?」
アクトは見渡す。人の気配は驚くほどしない。普段なら大阪駅は多くの人で埋もれるほどだというのに、嫌に静かだ。
「ど、どうするんだ??」
初めての対戦で戸惑うしかない。しかし静かな大阪駅を前に立ち往生しても仕方ない。
「『察知』だ!」
「う、うん!」
アクトの一言で、オレは意識を周囲に張り巡らせた。
洞窟でよくヤマミ達がやっていたスキル。自分の周囲にある質感等を把握する。それによって死角にいる敵などを見抜く事ができる。
ヤマミいわく、見えない神経を周囲に広げて手当たり次第触れまくる感覚らしい。
さわさわ、駅の内部で三人が走ってきているのが手に取れる。
「あ、三人がこちらに!!」
「正解だァ!! 心の準備はいいかァ?」
駅へ突入し、広々とした通路に改札口。一人もいないと不気味に静かだ。するとエスカレーターからドタドタ降りてくる三人。全員、忍者っぽい全身黒装束だ。
堂々とこちらへ来ると、腕を組んで仁王立ち。
「我ら『黒闇の影人』チーム!!!」
オレ達はポカンと立ち尽くす。
「右の影、佐川ガクト!! 暗殺者でニン!」ビシッと右へ腕を向けてポーズ。
「中央の影、天蘇シロウ!! 槍士じゃい!」ビシッと上へ拳を突き上げてポーズ。
「左の影、大和タイゾウ!! 侍でぢっ!」ガリッ!
……しゃがみこんで震える。なんか舌を噛んだようだぞ。
「ごめん! 今のナシ! ナシ!」他の二人が焦って両手を振る。
同じように繰り返し、最後に左の人が涙目ながらきっちりポーズと口上を決め!
「三人揃って裏社会に忍ぶ! 我らが『黒闇の影人』!!!」
ドドーン! 何故か後ろでカラフルな爆煙が噴き上がった。
しばし沈黙の間。
チーム名を二回言ってたけど突っ込まないでおこう。っていうか全然忍んでねぇし……。
三人の忍者は揃って両手を重ね、印を結ぶポーズを取る。すると両足がシャカシャカ高速で左右に動き始めた。すると漫画のような高速脚みたいなのになって、ゆらゆら小刻みに左右往復。
「瞬足の術でニン!」「瞬足の術じゃい!」「瞬足の術ぢっ!」ガリッ!
また左の人が舌を噛んでしゃがみこんで「あー! おー!」と痛がる。他の二人も「だ、大丈夫じゃか?」と気遣っている。
「…………なぁ? ランキングバトルって、こういうものなのかぞ?」
「ううん。……変わった人もいるから」
リョーコは苦笑いしている。
また同じように口上を言わせてもらって、高速脚を再度発動してもらった。シャカシャカ~!
「参るでござるッ!!!」
タイゾウの叫びを合図に、三人はバッビューンと疾風のように周囲を駆け抜けていく。ビュンビュン縦横無尽と駆け回り続ける。
「出ました!! 『黒闇の影人』の瞬足が発動!! 意外と速い!!」
「……初心者には捉えられない速さですね」
「これは『スター新撰組』落ちたなー! せめて粘って欲しいぞー!」
「そこのチビ、覚悟でござる!!」
超高速で駆けながら煌く刀を振りかぶるタイゾウに応戦すべき、光の剣を振るう。まずは最初の肩ならしのための斬り合いといった所だ。
しかし互いの剣が交差するやいなや、タイゾウは刀ごとすり抜けるように通り過ぎていった。空振りした感を覚え、「くっ!」と焦り、慌てて後ろへ振り向き──!
が、タイゾウの上半身と下半身が分かれて床に転がっていた。刀も二つに割れていた。
「……え?」思わず固まる。
「くっ! ……我が人生、無ねっ」ゴリッ! また噛んだ……。
周囲を光礫が舞い、タイゾウは慌てて両腕をばたつかせ「ま、待った! やり直……」
ドン! 光の爆発が起き、和式の白い棺桶が転がった。シュウウ……。
「げえ!! た、タイゾウがやられたんじゃい!!」
「フフフ……、タイゾウなど我ら『黒闇の影人』の中で最強ニン……。うん、やばくないか? これ?」
二人は冷や汗タラタラ青ざめていた。
なにしろ初っ端から一撃で、最強のエースが脱落したのだ。
しかし、斬った本人であるナッセの方が青ざめて愕然としていた。
「あ……あぁ……」
ガタガタ体が竦んで動けなくなる。力が抜けて、両膝を地面につく。剣の柄を取り落とし、カランと床に転がる。
手応えほとんどなく斬ってしまった。そ……そんな簡単に人が斬れるなんて……!
フクダリウスやマイシは全然斬れなかったのに? なぜ??
「落ち着け! これは仮想空間だァ……」
ポンと背中を優しく叩いてくる。いつの間にか、ぐったりしている忍者二人を肩に抱えて、アクトはニッと笑っていた。
ドドン! 二人の忍者はあえなく棺桶化。ゴロンと床に転がされた。
「な、な、なんとぉ────!!!! まさかの瞬殺!?」
どよめく観客。
「チビとおっさんがあっさり斬ってしまいましたね?」
「う……ううむ。ナッセ君のあれは、恐らく貫通剣といった所だろう……」
「か、貫通剣ってー!?」
「他のスキルを捨て、全てのオーラを注ぎ込んで恐ろしい程の硬度と切れ味に研ぎ澄ます完全特化型。切り結ぶ事すら許さず一撃の下で斬り伏せる……。白兵戦において無敵。いわゆる初見殺しですが、そうと知っても遠距離で対処するしかないですね」
「わーすごい! ナッセ君、剣一本に命懸けてますねー!!」
「アクトさんも大きな体格に見合わず、素早くサクッと仕留めてましたし、これは期待の新人ではないでしょうか?」
「注目の一戦になりそうでーす! ってか、絶対なってくださいー!」
ノリノリの解説役の黒スーツの女子がマイクをブンブン振り回す。
わらわらと観客が増えてきていた。外の方でも対戦宣伝用の小さなモニターと放送があるため、それで集まってきた人もいるようだ。
初めての斬り合いで、たやすく人を斬ってしまったせいで萎縮していた。
「オメェはマイシと同等の力持ってんだ、もはやドラゴン並だァ……」
「そ……そんな……。オレにこんな力が……?」
自分の恐ろしい力に怯える。
「ちょっと言い過ぎじゃない!?」
慌ててリョーコが庇おうとするが、アクトに目線で諭されて黙り込む。
「怯えるな! その力は決して悪じゃねェ……!! 俺は数多の戦場で数多くの人間が死に絶えるのを見て来た」
ハッとアクトへ振り向く。
「……何かを守れない時もあった。何度も死ぬほど苦しんだ。何度も剣を捨てようと思った事か、数え切れねェ……! けどな、捨ててしまったら、今度は何にも出来ねぇぞ? 守る事も何もな!」
「そんな……辛い過去が……」
それを聞いて悲哀な表情で俯く。
「覚えときたくねェ記憶だがな、それでも俺は大切な人を、そしてテメェの魂を守る為に剣を今も握っている!」
アクトは決意の眼差しで刀をしっかり握っている拳をオレに突きつけた。大きくて頑丈な拳、そして幾多の戦場を潜り抜けた無骨な刀。そうと感じ取って、見開いていく。
「剣を……?」
「オメェはまだいい。まだ守れるモンが残ってる。俺みてぇにならねぇように、剣に心を込めて戦え!!」
「剣に心を……!?」
「戦争というモンは、いつでもどこでも起きる! そうなったら、敵兵は容赦なく襲いかかってくる!
そん時に、お前が守りたいもん守れる剣握ってねェと、俺より辛い記憶を刻むぞ!!」
戦争……。想像はしたくなかったが、教科書などでも凄惨な様子が伝わって来た。
敵国は侵略するために攻めてくる。だから殺すしか止められないかもしれない。話は聞いてくれないだろう。
もしそうなった時にリョーコやヤマミを守れず、殺されたらと思うと怖い。
「……ダメだ!! そんなん嫌だ! オレも……戦う!」
首を振り、キッと表情を引き締め、転がっていた剣の柄を握り締めた。
「よし! 立て!」
ニッと笑うアクトに促されて、オレは戦意を胸に宿し立ち上がる。
なんとなく心に重いもんが据えられて、これまでの恐れが嘘のように吹き飛んだ。
オレは……マイシと同等の力を持っている! 確実に守れる力が、この手にあるんだ!
「……この守りたい心! この剣に込める!!」
ガシッと剣を握り締め、光の剣を鋭く煌めかせて伸ばす。同時に眼光が目に鋭く宿った。
まだ僅かに震えているのをアクトは見抜いたが、ニッと笑う。
「もう大丈夫だァ……。まーだ震えてるが、これから慣れていきゃいい……」
「うん! そうね……」
リョーコもナッセの決意を感じ取り、どことなく心が引き締められる気がした。
ほどなくして、駅内で他チームと交戦!
ナッセの剣が鋭く煌く軌跡を描き、リョーコの斧が床ごと豪快に粉砕、アクトが紅蓮の刀を振るって叩き割る!
ガガァン! 一気呵成に残りのチームを襲撃! 猛撃! 大快進撃──ッ!!
「なんとォ────!!? 全ての相手チームを完全完璧完遂で撃破ァ────ッ!! 『スター新撰組』初陣初勝利だァ────ッ!!」
あとがき雑談w
タネ坊「久しぶりの出番だね」
キンタ「せやせや!」
タネ坊「さて、と概要の説明といこうかな……」
『バーチャルサバイバル・ランキングバトル』
世界中の創作士と仮想空間でバトルできる仮想対戦センター。
元々は軍の実戦訓練のために開発されたシステム。だが、世界中の創作士のレベルを上げるために一般用に一部システムを変更して普及させた。
【チーム作成と装飾について】
①基本的に三人、四人でチームを登録。(メンバー変更や補欠は有り)
三、四人チームで混合対戦もできるが、四人チームはポイント高め。
②チーム名のロゴも自由に作成でき、デコレーションも可能。
更にメンバーに共通のユニフォームを装着させる事ができ、カスタマイズも可能。ただし防御力などが上がる訳ではなく見た目だけである。
ちなみに装備固定のため、目くらましの為に剥ぎ取って相手の目を隠すという事はできない。
ダメージ受けて体や服が損傷を受けると、それに伴ってボロボロになっていく。
【分身死亡時の棺桶化について】
①メンバーに僧侶がいて蘇生可能な場合の為に、死体を残すシステムがあった。
②心無い人の死体蹴りもあって、棺桶化する事でそういう侮辱行為を防ぐ役目もしている。
最近では行方不明に伴ってマナーの悪い人が少なくなってしまった為、ほぼ形骸化。
③よく考えると死者蘇生できる創作士が存在しないので、魂が飛び出る昇天システムに変えるか協議中らしい。
④ちなみにナッセは気付いていなかったが、気絶させた場合は30カウントで棺桶化するシステムがある。気絶した人の上に数字が現れてカウントを取る。
気絶から覚めて反撃してきたり、再起可能になったりするので、これで倒した場合のポイントは高めとなっている。
このシステムは最近実装されたばかりで、以前は問答無用で棺桶化していた。
【分身の痛覚について】
①致死レベルのダメージを負った時には凄い違和感が身体にのしかかる感じで、激痛はない。
②普通にダメージを負った場合、最初は少し痛みを感じるが、後は違和感が残る感じで身体に在留する。
③軍のシステムの頃はまんま痛覚を再現していたらしい。
④最近では、現実と区別できるようにHPメーターを表示するべきか否か、協議中らしい……。
キンタ「自衛隊にいた頃はボロ負けで、ワイらビリケツだったんや」
タネ坊「そこ黙っててくれるかい? あ、違うんだ。これは己の手を晒すのを好まないのでワザと負けていたんだ……」
キンタ「せやせやw これも立派な戦略やでーw」
タネ坊「この対戦は互いの力を尽くして競い合う真剣勝負。手抜いて負けるなど許されぬ行為。そんな奴は糞野郎だ。くれぐれも気を付けてくれ」キリッ!
フクダリウス「おいブーメランになっているぞ?」
次話『なぜかノーヴェンがナッセに恨み?? なぜぇ??』