48話「A級の弓兵ノーヴェン!」
見るだけでよかったのに、リョーコの勢いに押されて『バーチャルサバイバル・ランキングバトル』へ参加させられ、三人組のチームとして登録されてしまったぞ。
リョーコ、アクト、ナッセで『スター新撰組』というチーム名で!
「かしこまりー! チーム名はいつでも変更できますが、頻繁に変更すると周りが混乱するので、そのままを推奨しますー!」
そう放送されるモニターで、リョーコはチーム名のロゴのデコレーションに夢中になっていた。
文字の大きさ、フォントはもちろん、カッコ良いもの、メカっぽいもの、愛らしいものなど豊富だ。更にリボン、剣、盾、三角帽子など多彩な装飾の取り付けも可能だぞ。
「あ、あの……」
「ちょっと待っててね! あっちで観戦してていいから~」
リョーコは目もくれない。子供のように無垢な目で夢中になっている。
なんか気が重いぞ……。例え断っても「え~~! やろうよ~!」とぐいぐい引っ張ってくるんだろうけどぞ。
「だとよ! あっちに観戦フロアあるぜ! 映画館みたいだな」
「……うん」
カスタマイズモニターに釘付けになっているリョーコを後に、フロアを見渡すと映画館のような重厚感がある空間だった。食堂はもちろん、映画館のように何室もシアターがあり、そこでは対戦中のフィールドを見る事ができる。
中に入ると大きなスクリーンとその周りに小さなスクリーンがいくつか。そしてその下は立体ホログラム映像の全体フィールド像が映っている。坂に沿って観戦席が段差をつけて連ねている。割と多くの人が歓声を上げていた。
「おおーっと! そこでノーヴェンのメガネビームの嵐だ──!!」
実況もあるのかぞ……。
「彼はアニマンガー学院の生徒で創作士。それに対して同じ生徒の創作士はそれに苦戦。それもそのはず、ノーヴェンはA級の『弓兵』で、このランキングでも上位陣だ。特記すべきはメガネを自律行動させての弾幕で押し切る戦法ですね」
解説まであるし!
ん? ノーヴェン!?
スクリーンを見ると、ノーヴェンが半裸マッチョで戦隊ポーズみたいにビシッと片足立ちポーズを取っていた。
インテリ眼鏡のように左右の端が上方に尖っていて、鼻が高く、細身の顔。上半身裸に見えたが、実は胸と肩にメガネレンズの鎧を着込んでいた。黒ズボンに腰のベルト。手足のガーダーは三つのメガネを鱗のように縦に連ねている。
周囲に無数のメガネが浮遊。『衛星』のように、くるくるノーヴェンの体を周回。
ビビビビッと無数のメガネからビームが放たれた。
「やバー、ニング!!」
「はよう避けるんやっ!」
既に満身創痍の二人は、慌てて互いに手を叩き合って連動し、退避体勢を取る。
あ……、タネ坊とキンタだ! 彼らも参加していたのかぞ。
幾重のメガネビームは屈折して建物を避けて、タネ坊とキンタへ襲いかかる。逃げ場を覆い尽くすように弾幕が敷かれていく。
「ぬあ~! 象ちゃんパーンチ!!!」
キンタは背後に巨象を召喚し、太い前足でパンチを繰り出す。しかしビームはクネッと寸前で曲線を描いてキンタへ襲いかかる。
ドドドドドン!! 光線の嵐を浴びて、象もろともゴリラ爆破四散!
「ああ!! 変幻自在のメガネビームがまたもや炸裂ゥー!!」
「キンタ!!!」
周囲に光礫が舞い、ドンと光の爆発。ごろんと棺桶が転がった。
それを見たタネ坊は「ちっ!」と苦い顔をする。
「ここにきて蛮族キンタ脱落!! エースの狂戦士フクダリウスも陥落していて、『無頼漢』チーム残りは暗殺者タネ坊一人のみ!!」
いつの間にか、フクダリウス堕ちてた!!!?
「他の二チームは既に脱落。フクダリウスの猛威で、一時『無頼漢』チームが優勢でしたが、ノーヴェン率いる『インテリスリー』によって攻略されてしまいましたね」
「フクダリウス一人と『インテリスリー』メンバー二人が相打ち。これで勝敗はついたも同然。難攻不落のエースさえいなくなれば、展開は楽になるからな」
「そんな事が……。がんばれ! タネ坊さん!」
拳を握って見守る。
持ち前の機敏と熱血で、必死にタネ坊はメガネビームの追跡をかわしていくが、徐々に詰みになっていく。横に避けようとすれば、待ち構えていた自律メガネがビーム。飛ぼうとすれば集中砲火。家の中へ壊して潜伏しようもんなら包囲して絨毯爆撃。
「く……くそっ!」
青ざめて絶句するタネ坊へビームの嵐が……!!
チュドドドドーン!!!
周囲の家の破片を散らして、高々と爆発が噴き上がる。
ドンと光の爆発、タネ坊の棺桶が転がった。
「……ユーの動きはお見通しデース! それではシーユーアゲイン!」
キメ顔の横で、立てた人差し指と薬指をビシッと振る。
「おおおお!!! パーフェクトゲーム!! またもや『インテリスリー』の詰みゲーが鮮やかに決まりましたーっ!!」
ビシッと、ノーヴェンが決めポーズを見せて、上方に黄金の立体文字で『WIN』と出た。紙吹雪が散って勝利を祝福。
唖然とする。あの強かったタネ坊とキンタがなすすべもなくやられた!?
途中からだったから、どういう展開だったのか解説以外に分からない。けど、ここまで圧倒的と感じられるのは衝撃だった……。
自己紹介の時も、彼はこう言っていた。
「ミーは芽鐘ノーヴェンなのデース。趣味は筋トレとメガネ収集デス。クラスは弓兵デェェース!
ミーのドリームは世界中のメガネコンプリートと多機能メガネの開発と、スポーツ・エンターテインメントHANZOのパーフェクトクリアデース!!」
なんかエセ外国人みたいな喋り方するのが印象的だったなぁ。でもまさか、あんなに強いなんて……。
《ワタシほどではないけど、日本でここまでコントロールできる『分霊』使いの創作士はいないね》
無数の自律メガネによるチームワークで敵を追い詰める。接近戦が得意なクラスからしてみれば、この上なくいやらしい。もし他の仲間の二人が撃破されても、彼一人で敵チームと渡り合えそうな気がする。
圧倒的パワーのマイシとはまた違った、圧倒的テクニシャンのノーヴェン。
例えるとマイシが剛速球の投手なら、ノーヴェンは多種多様の変化球を放る投手って感じかぞ……。
「うへぇ……、当たりたくないなぞ」
ジト目で引いてしまう。
「何言ってんだァ? こんな手応えのありそうヤツ、闘り甲斐あるだろ!!」
「そうそう! それまでにポイントをガンガン稼いで上位陣へ入らなきゃね~!」
リョーコがワクワクと楽しそうに拳をブンブン振り上げていた。
「ノリノリだなぁ……」
「あれ? 乗り気じゃないの?」素っ頓狂のリョーコ。
「気付くのおっそ!!」
今更かよと、ガクッと体勢を崩す。
「ゴメンね~~! でもマイシと互角に戦えるんだから、上位行けるかと思って!」
両手を合わせてテヘペロで謝るリョーコ。
とは言え、相手はモンスターとかじゃなくて実際の人間なんだよな。仮想とは言え殺し合いになるなぞ……。
マイシの時は約束もあって勢いでやったけど、これも殺し合いになってるんだよな。
本気でやっても傷つかなかったから、そのまま斬り付けてたけど……。
萎縮してガチガチになっているナッセをアクトは見やる。
「なに、大丈夫だ! 俺がついてる!」
ポンポンと肩を優しく叩いてくれる。それだけでなんだか解れた気がする。でもやっぱり……。
《アクト。ナッセの事は頼んだよ》
「あァ……。最初っから、そのつもりだァ」
対戦しに行く途中で、ウニャンとアクトは言葉を交わす。
アクトはナッセが対人の斬り合いに躊躇いがあるのを、既に見抜いていた。チームに参加できないウニャンもそれを察して、保護者役目を彼に任したのだ。
対戦申請ルームにはソファーとベッドがあり、横長のデスクとモニター。
負けて棺桶になった場合は、ここに戻ってモニターで続きを観戦できそうだぞ。
そして奥行きには魔法陣が四つ。ソロ、ダッグ、そしてチームは三人、四人まで組めるモードがそれぞれあるらしい。
「今までソロでやってたけど負けてばっかだったねー。総ポイントはゼロ」
モニターのリョーコのデータは六十五戦中八勝……。よく続けてられるなぁ。オレだったら辞めてたぞ。ってか、最後に参加してた時期は『洞窟』探索前か。今はかなり強くなっているから結果は変わりそうだぞ。
モニターには「対戦を募集」「対戦に参加」「対戦を指定」と三つあって、どちらか選ばないといけない。
『対戦を募集』好きなフィールドを選んで、他の対戦チームが揃うまで待機。
『対戦に参加』募集中の一覧から一つを選んで参加する。
『対戦を指定』登録されている相手かチームを指定して対戦するモード。もちろん同チームのメンバー同士で練習をする事もできる。
基本的にチーム戦は、一つのフィールドで四つのチームが対戦する。制限時間がゼロになるか、他の対戦チームを全滅させるとゲームセットだぞ。
「今は大阪地区で対戦だなァ」
「オッケー! フィールドは? ナッセ?」
「え? オレ?」
リョーコとアクトは頷く。
思わず緊張が走る。まさかの優先権!? ど、どうしよう!
「こ、これかな」
押したのは駅のフィールド! 大阪駅を基本にしているので内部はダンジョンのように入り組んでいる。
しばらく募集を待つと、三つのチームが空欄を埋めた。ピッ!
「よっし! 行くわよー!」
「おう!」
……俄然、やる気満々だなぞ。
奥行きの魔法陣へリョーコとアクトが入り込む。そしてこちらに振り向いて「来いよ」と片手を差し出す。思わず息を飲む。笑顔の二人。せっかく誘ってくれてる。
えーい、どうにでもなれ! そのまま魔法陣へと足を運び、パシュンと光の輪に包まれて意識が光の彼方へと飛んでいく……。
あとがき雑談w
スポーツ・エンターテインメントHANZOとは!?
ノーヴェン「自慢の肉体美が、極限にまで厳しいアスレチックをクリアしていく番組デース!」
ムキン「おう! ステージは全部で四つ!」
マッチオ「第一ステージで多くの参加者が振い落されるのだ!」
ニクミ「そうよ~! 第二はともかく、第三は指に全体重を預ける地獄の難関があって、それで全員脱落して番組が終わる事もあるのよね~」
サスケ「第四も上へ上へと時間までに登らなきゃいけない過酷さも見応えあり!」
ナッセ「最後の人ォ~!!」(絶対意識してるだろ!)
ちなみにノーヴェン以外のモブ筋肉マンは作中には出ませんw
この雑談のみの一発キャラですw
次話『初めての対人戦にナッセ萎縮……!?』
マイシ「あたしと対戦してたのはなんだったしッ!?」
フクダリウス「…………おい待て待て!? ワシとは??」