46話「謎の使い魔ウニャン?」
宿屋から、マイシとナッセが歩いてくるのをヤマミは見収める。
もう心配する要素はない。彼は呪縛から解き放たれた。後は……私だけ!
マイシと戦い、ナッセが意識を失ったままの晩────。
まだ部屋は真っ暗闇。時計は二時を指している。ナッセはベッドの上でぐっすり寝ていた。
ガチャリ……、ドアが開けられ隙間から光が差し込む。そこからヤマミが覗き込む。視線が泳ぎ、ナッセへと定める。
「……まだ起きないのね」
「うん」
「怪我はもう完治してるはずなのに」
「精神的負荷があったかもね~。かなり追い込まれてたし」
ボソボソ、ヤマミとスミレは小言でやりとり。
スミレは掌を上にして、魔法の明かりをボウッと浮かせる。音を立てないように二人はナッセへと近づく。
ぐっすりしている寝顔を見て、ヤマミは気が重く浮かない顔を見せる。
「スミレ……、また頼むわ」
「うん!」
ヤマミは布団からナッセの手を取り出す。リッチ戦で赤い『刻印』を刻み、力を借りた事があった。今は消えているが、水面下ではちゃんと刻まれている。発動させれば、また浮き上がるのだ。
ヤマミは歯を食いしばって執念深い形相を見せる。
これは呪いとも言える夕夏家の赤い『刻印』……。
絶対に消す事はできず、高レベルの破邪や浄化系魔法ですら解除できるかも分からない。
だが、ナッセに刻んだまま放って置くわけにはいかない。夕夏家こと、元凶の父とやり合うために不利な要素は排除したい。
だからこそ、徹夜覚悟で度々来ていたのだ。
まだ解除できた試しは無いけど、必ず!
そして私も自由になって、ナッセと一緒に!! そう強く願い、発動させた。
「…………え?」
ヤマミは目を丸くし、驚愕。スミレは首を傾げる。
────────消えてる!!?
一度、刻めば絶対に消えぬはずの呪われた『刻印』がキレイさっぱり無くなっている!?
いつ、どこで? 何が起きた? マイシとの戦いで消えた??
いえ違う!
激しい戦いで消えるならリッチ戦で消えてるはず! 一体どんな原因で……?
「どうしたの~?」
「……信じられない! 『刻印』が完全に消えてる!」
「え? うそ……!? まだ何もしてないよ~~?」
ヤマミは絶句し、体を震わせる。こんなのは前代未聞だからだ。
そしてへたり込む。
「────良かった!」
ヤマミは安心した笑みに落ち着いた。
どうやったか分からないけど、完全に消えているなら、夕夏家の呪縛に左右されずに済む。これで父と万全に戦える。
スミレは微笑み「それじゃ寝よっか~?」とヤマミの両肩に手を置く。
「ええ……」
不安の種を払拭できたヤマミは目尻の涙を指で拭う。
ヤマミとスミレは気付いてない。カーテンで閉められている寝室の出窓に、猫の影が映っていた事に……!
「ふふふ、もうそんな頃合いなんだね────」
澄み切った青空。大空に流れる白い雲。
木造の二階建ての宿屋。ナッセとマイシはエントランスと呼ばれる広い玄関から外へと歩みだし、目の前で待っていたヤマミ達を視界に入れる。
ヤマミ、スミレ、リョーコ、そしてエレナ。
何故だかヤマミはスッキリしたように微笑んでいる。……良い事でもあったのかな?
「朝飯はあっちで済ませましょう」
宿屋の近くに小さな食堂があり、ラーメン、ソバ、オムレツ、カレー、ハンバーグなど近代っぽいものが揃っていた。とても異世界の辺境の村とは思えない。
「大きな国だと、もっと食堂が多くて料理が充実してるんだよっ」
エレナは両腕を広げ、笑顔を向けてきた。
食べ終わった容器が並ぶテーブル。膨らんだ腹に満足し、コップの水を啜る。
「でも、これで……帰るんだよな」
なんつーか名残惜しい気がしたぞ。この村以外の、もっと広い所へ行きたいなぁ……。
「大丈夫。卒業後の目標にすればいいじゃない?」
「う、うん」
「ま、あたしは学院すっぽかしてもいいし! あんま実戦ないから、つまんないし」
マイシはヤレヤレと両手を広げ、首を振る。
「あんたね……」ジト目のヤマミ。
ジュースを飲みながら、足をブラブラするエレナ。なんで同行しているのか気になった。
「そういや、エレナちゃんはどうするんだっけ?」
「あたしも地球に帰る!! パパとママはおっけー言ってくれたー!!」
「そうなんだ」
「うんっ!」
見た目も素振りも完全に子供だよなぁ。でも戦闘力は前世から引き継がれててアクトすら慌てるほど高い。ヤマミとスミレが言うに、前より強くなってるとか? ん?
「あれ? アクトは……?」
ヤマミは深いため息をついた。
「がああああああああ!!!!! 寝坊したあああああああ!!!!」
ドカーン、と宿屋のエントランスを飛び出す。目をひん剥いてキョロキョロ見渡し、そのまま村の門の方へ走り出していった。
「お、おい!」
手を挙げて呼び止めようと声を出すが、届かない。
「何度もノックしたんだけど……、全然起きなかったから」
ヤマミはしれっとコーヒーを啜る。汗を垂らし呆然とする一同。
「それはそうと、帰るのにまた数日かかるわ。で、その休学した理由はどうする?」
「だよね~! コハクちゃんが内密に、ってたし~。洞窟で迷ってた~~って事にしましょ~」
「賛成!」
リョーコは拳を挙げる。エレナもそれに倣って拳を振り上げた。いえー!
「あ、ああ。ついでに、なんかの呪いでエレナちゃん若返ったとも付け足そうぞ」
「それ採用!」
ナッセの提案に、ヤマミも親指を立ててナイスアイデアと称える。
「はぁ、結局帰るのかし……!!」
テーブルに顔を乗せてふてくされるマイシに、ヤマミはジト目で頬に汗を掻く。
「うにゃーん!」
声がする方に一同は振り向くと、出窓の床板に、白猫が前足を立てて座り込んでいた。
一対のネコ耳がピンと立っている。つぶらな両目にふぐりの口。尻尾の先に、何故か浮いているリングがある。首にはデフォルメのウニをぶら下げた首輪。普通の猫とは思えない怪しげな風貌だ。
「し、師匠……?」
戸惑っていると、白猫は後ろ足で頬を掻いて《そうだよ》と念話で語りかけてきた。
ビクッと竦むヤマミ達。
唐突な登場は、また因果の組み換えなのだろうか?
《使い魔として扱っていいよ。ワタシはナッセに付き添うことにしたんだ。そろそろ修行つける頃合だと思ってね》
「ク、クッキー様って……動物にも変身できるの?」
《ワタシはクッキーの分身さ。ネコの形を取ってるだけだね》
「聞いた事がある! スタンバイスキルの一つ『分霊』を、師匠は得意としているんだった!」
「『分霊』!!?」
「うん! 魔法の弾丸を自らの分身に変える高等スキルだぞ。本体と精神がリンクしてて、視界と思考を共有してて、えっと……自分で動いて敵に特攻もかけられるぞ。大きさに応じてスペックが変わるけど基本的に本体と同じ能力を持ってる。だから協力して錬金技撃てる事もできるんだっけ!?」
《そのとおり!》
えっへん、白猫は尻尾を立ててドヤ顔する。
「ナッセもできるの?」
「それがさ……、難しいんだぞ。自分を分けるって感覚分からないし」
《ふふふ、君には難しいかな……。でも、この身体は弾丸じゃないからね。ホム……ゴーレム錬成を応用して『分霊』したんだ。だから誘爆もないし、ネコそのものさ。名前は『クッキー』で……》
「ウニャンだー!!」
エレナが目をキラキラさせて叫ぶ。一同はしばし沈黙し、一斉に頷く。
「……ウニャンで決まりね!」
「えへへ! あたしエレナ! ウニャンよろしくねー!」
「うにゃんヨロシク~!」
「おう! ウニャン!」マイシまで同調した。
《ちょっ……クッキーは? いやいやクッキーで!! ナッセ君、なんとか言ってやってくれない!?》
「師匠ごめんなさい! ウニャンでお願いします……。だって可愛いし」
ガーン、イカ耳にして絶句するウニャン。
「薄情者~~~~~~!!!」絶叫が響き渡った。おい、声に出してるぞ。
村の人達が集まっていて、わいわいがやがや。見送りに来ていたようだ。
「……元気でね」
エルフの職員は寂しげに微笑むが、ナッセは首を振る。
「きっとまた会える! オレ、この世界を冒険したいから!」
「ふふ、その時はまたここへ立ち寄ってね。私はエルフのソフィアよ」
「じゃあ、よろしくだぞ!」
颯爽とソフィアと握手した。
元気一杯のエレナはニコニコな両親と手を振り合っている。
「さて、別れは済ませたかな?」
ウニャンに振り向いてコクンと頷く。
ヤマミ達もナッセと並んで真剣な表情を見せる。ウニャンはキランと目を煌めかす。すると、目の前の空間に波紋が広がり、ズズズ……徐々に渦潮となっていって窪んだ奥行きが遠くなっていく。その奥行きの向こうがぽっかり空いて、そこは大阪の風景が広がっていた。
誰もが絶句する。一瞬の内に異世界と地球を繋げたからだ。
呆気に取られたソフィア。汗が頬を伝う。
「異世界同士を隔てるほど、遠くて深い空間をいとも容易く……?
あのネコ……、一体何者…………!?」
「ではまた!!」
オレ達は笑顔で手を振り、渦潮へと足を踏み入れた。ぐるぐると渦に乗って奥行きまで流れていった。みんなぐるぐる流れていくので、ちょっとしたジェットコースターだ。
「がああああああああ!!!! 待て待て待てェェェェッ!!!」
ドドドドドドッと全力疾走でアクトが渦潮へダイブし、ぐるぐる流れていった。最後にウニャンもぴょんと乗り込んでいった。
呆気に取られる村人たち。
ズズ……、渦が収縮し消えた。
「人騒がせなチキューだったな」
衛兵に、ソフィアは「ええ。久しぶりに騒がしかったですね」と嬉しそうに口角を上げた。楽しそうなワクワク感が湧いてきそう。
星々煌めかす妖精剣士。苛烈なる竜を纏う剣士。紅蓮の炎を操りし夜叉。金属化する転生少女。呪縛されし黒髪の魔法少女。奔放な癒し系闘僧。斧一本で突き進む斧女子。近い将来、更に人脈を広げ、この世界でその名を轟かせそうな気がする。
あとがき雑談w
ソフィア「田舎のギルドで職員やってます。ってかワープできるのかしら?」
エルフたちが数千人ザザッと馳せ参じた。
エルフA「できた人がいたと聞いて飛んできました!」
エルフB「魔力の高い我々ができぬのでは名折れ! 実現してみせます!」
エルフC「異世界転移! 異世界転移ー!! はよはよw」
大規模な魔法陣を広々と展開して、一斉に魔法力を流す。
魔法に長けたエルフが「う~んう~ん」踏ん張って頑張りの頑張り~!
ぼしゅ~~~ん!
一気に数千人のエルフが(´Д`;)でヘナヘナ~。
魔法力がゼロになったからだ。
ソフィア「えぇ……(汗)」
エルフA「起動すらできません!」
エルフB「そもそも異世界同士でワープとか無茶です!」
エルフC「数万人でも無理なんじゃないかな? これ」(´・ω・`)
ソフィア「ますます、あのネコ気になるわ……」
次話『仮想対戦編開幕~! メガネ変態紳士登場!?』