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45話「共に歩む二人の『剣士』!」

 白光に包まれた世界で、ナッセとマイシが重なっていた。お互い交差させている剣にピシピシと亀裂が走っていく。


 パキィィィン!!


 ナッセの銀河の剣(ギャラクシィセイバー)は杖もろとも砕け散り、そしてマイシの刀身も粉々になってしまった……。

 広々と破片が四散────。


「く……、ナッセェ……!」


 こんなヤツと互角とか認めるものか! マイシは嫌悪と屈辱にまみれ、目の前の男を睨もうとする。が、視界に広がるのは腕を左右に広げた穏やかな表情のナッセ。長く伸びたロングの銀髪が波打ち、淡く輝く瞳、背中からは白い羽が一対浮いている。

 軽やかに花吹雪がぶわっと舞い広がっていた。


 ふわりと暖かい抱擁(ほうよう)がマイシを包んだ。これまでされた事がなかった暖かい抱擁。背中にまで回してくる左右の腕と、体正面を覆いかぶさる男の胸。


「……もう(ひと)りじゃないぞ」


 包み込むような優しい言葉。


 その一言で解され、心を凍てつかせていた氷は剥がれ落ちていく。

 なぜだか、心の底から安心感が満ち溢れてくる。

 心に熱いものが込み上げ、視界が歪む。止めどもない温水が涙腺から溢れ、頬を伝う。


「ち、ちくしょう…………!」


 ナッセは優しい寝顔のような表情で、泣き溢れるマイシをいつまでも抱擁し続けていた。




 ────ナッセが目を覚ましたのは翌朝だった。


 相当、疲労していたらしくギルドの施設で回復カプセルの中で癒す事になった。マイシは特に怪我もなかった為、すぐ解放された。ただナッセは回復カプセルで全快したものの、目を覚まさないという事でエルフの職員の手配した宿(ホテル)で、ヤマミ達と一緒に夜を明かしたのだったぞ。



「……えっと、これ負けた事になるのかぞ?」


 汗タラタラでオレはベッドの上で正座していた。

 ヤマミ、リョーコは、どう答えればいいのか曇った顔をしていた。何故かスミレはニコニコしている。

「そりゃなァ、あいつ次第だろォ……」

 ソファーでくつろぐアクトは平然と、コーヒーを(すす)っている。


 バタン、ドアが乱暴に開かれた。思わずビクッと(すく)む。


 やはり、腰に手を当てて(いぶか)しげなマイシ。ずかずかと部屋に足を踏み入れていく。

 その剣幕に冷や汗タラタラでしどろもどろになる。


「もう元気だし?」

「あ、うん……」顔を逸らす。


 やっべー! 絶対に勝つとか言いながら、ずっと寝てたとか恥ずか死…………。



「あー、それなら良かったし! ……まぁ、その、勝負は引き分けだったし」


 マイシも恥ずかしながらで、目を泳がせながら言い慣れない事を述べていく。

 前までは攻撃的な態度だったのが、柔らかくなっている。なんとなくホッとした。


「って事で、勝負はまたおあずけだし! ……だから、その、まだ剣士(セイバー)続けていいし……」

「いいの?」

 安堵してか、正座を解いて四つん這いみたいに乗り出す。


「あ、ああ!」

「そっか……。でもオレ、先に意識失ったけど?」

「あれは勝敗の内に入らないし! 最後の一撃自体は相殺だし、そもそもお互いダメージ受けてなかったし……!」

「う、うん……。あ! 相打ちになっ引き分けた後、抱い」

 マイシがズイッと睨んだ顔を近づけて「あれは黙ってるしっ!」と脅す。

「え? 何を??」

 事情が分からないオレに()れながら、マイシは目を逸らし、口をもごもごする。


「は、ハグしてきた……事だ……」

「うん…………」


 そ、そーいえば、なんでオレ、マイシを抱いたんだろう?

 共に剣が砕け散って、自然とその行動になった。無我夢中だったし、今でも夢のような感じだ。だが、確かに覚えているのは胸に溢れ出てくる慈悲の温かい気持ち。



「すっごい大爆発が収まったら、気絶してるナッセちゃんを、泣きっ面のマイシちゃんが抱きついてたからね~~」

 と、あの後の事をスミレが暴露。

「バッ! 言うんじゃないしッ!! ってゆーか、あたし違うしッ!」

 耳まで真っ赤っかのマイシが振り向く。

「まさか、ナッセちゃんから~~??」

 あら、うふふと微笑むスミレと、ムキになって否定しまくるマイシ。呆れるリョーコ。なんか(なご)むなぁ……。



「本当、負けたのかと思ったわ……。でもマイシが引き分けと認めたなら、それはお墨付きね」


 とシレっと落ち着いたヤマミ。どことなく冷めた目をしてる気がする。


 更に続いて話されたのは、これまでの処理の事だった。ギルドの出入り口の器物破損は、決闘のパフォーマンスだとエルフの職員や付き添いの生徒が弁護してくれて、他の職員や冒険者も不問にしてくれた。


「今回は『約束していた決闘』として不問に致します。でも次からはギルドに申請(しんせい)してからにしなさい!」


 とか何とかでマイシも萎縮(いしゅく)して、これまでの非礼を詫びた。


「付き添いの生徒って、ヤマミ?」

 ヤマミは首を振る。



「僕です!」


 カツカツと部屋に入ってくる長身の男。長い紫の長髪で、爽やか系のイケメン。

「あ……、コハクさん!?」

「もし、粗暴なだけの品のない決闘であれば庇いませんでしたよ。あなたの奮闘に免じて全てを不問にして差し上げたまでの事です!」


 厳しい表情で見下ろされ、思わず身が(すく)む。


「あ、そうそう。条件として、僕の許可があるまでアニマンガー学院にはこの事は極秘にしてもらいますよ」

「は、はい……。ありがとうございます……」

 上目遣いでぺこぺこと頭を下げる。


 でもなんで内緒にするんだろう? 本当は不貞をしでかした事として報告するべきなんだけど?


「ヤマミさん達にもこの事は伝えています。今は明日まで、ゆっくり異世界で休暇を楽しんでください」


 澄ました笑顔で手を振り、部屋を後にしていった。バタンとドアが閉められた。

 オレはポカンとするしかなかった。



 等間隔で並ぶ窓から陽が差す廊下を、コハクは静かな表情で歩いていた。


「…………ナッセ君か」


 あの『賢者の秘法(アルス・マグナ)』を完成させた、初めての地球人。

 欲と血でまみれた闘争の歴史を築いてきた罪深い地球人の中では、前代未聞の人間。しかも僕ですら幼少の頃より心霊の会話(スピリチュアル)してきているのに、未だ実らず……。この差は一体何でしょうか……? 正直歯痒(はがゆ)いです。

 クッキー様の弟子と聞いているとは言え、これは素直に認めたくありませんね。


 ふう、と溜め息をつく。



 もしかしたら藻乃柿(モノガキ)ブンショウの企みを打ち破る為に、(ナッセ)の協力も必要となるかもしれない。


 地球産の星獣…………。


 その復活だけは必ず阻止せねばなりません! コハクは険しい表情で、鋭い眼光を見せた。




 この日、ナッセ達は村で和気藹々(わきあいあい)し、エレナとも遊んだりして盛り上がっていた。あっと言う間に日は暮れ、星々煌く夜空が覆った。

 オレはヤマミと一緒に(ぜん)を組んで、心霊の会話(スピリチュアル)(ふけ)っていた。やはりオレの周囲に蛍火が周回するように漂っていた。


「ありがとうな。ヤマミ」

「…………当然の事をしただけよ」


 実は、昨日の激しい戦いで意識を失ってて心霊の会話(スピリチュアル)をすっぽかしてしまったのだが、ヤマミが(ぜん)を組んで必死に訴えていたらしい。当然、まだ自然霊の言葉とかは聞こえないが、届いている事を信じて事の顛末(てんまつ)を伝えて、ナッセを庇ってたらしい。


「心霊たちもヤマミの言葉聞いてた。ちゃんと届いてた。そんでオレに伝えてくれた」

「そう。よかったわね」

 ヤマミは笑む。


「素敵な女性だねって、褒めてたぞ」


 ヤマミは微かに顔を逸らし、恥ずかしそうに頬を赤らめさせた。とくん、とくん、胸が波打つ。

 明るくて温かい(なご)やかな気持ち。しかし、不穏な闇が心ににじり寄ってくる。表情にも曇った感じが現れる。自分の手の甲を見る。


 自分を縛る夕夏(ユウカ)家の一族……。この『刻印(エンチャント)』が存在している限り、私は自由になりえない。



「ヤ、ヤマミ……?」


 ナッセの方を見て、心配させまいと微かに笑む。

 ──それでも『()()』は自分一人だけでは決して解決できない。やはり(ナッセ)の力も必要。


「ねぇ、頼みがあるけど聞いてくれる?」

「ん? なに?」

「地球へ帰った後────……」


 ヤマミの真摯な表情で、自分の抱えている事情の説明と頼みを打ち明ける。それをナッセは表情を引き締め、それを聞き届けて(うなず)く。


「ああ! もちろん!! オレだってヤマミと一緒にいたいよ!」

「ええ……、私もそのつもりよ」


 それは友としてなのか、それともあるいは──……?




 そして夜は明けた。


 明るい日差しがカーテンの僅かな隙間から差し込んでくる。それを一人の女性がバッと広げると、部屋は一気に明るくなった。そしてツカツカとベッドの方へ歩み寄り、乱暴に布団を剥ぐ。


「ひゃあ!」


 突然の事で身を縮めた。

 覚めた目で見ると、赤い髪のセミロング……マイシだ。仏頂面(ぶっちょうづら)で見下ろしている。


「起きるし! はよ地球へ帰る支度すませな。そろそろ出発の時間だし」

「え? ええ? あああああ!!!」


 時計を見ると、時分の針は七時半を指していた。慌てて飛び起きる。

 急いで着衣を着込んでいく。そして首にマフラーを巻く。息を吹き返すようにマフラーの両端が浮く。


「杖は──……」


 あ、そっか! マイシとの戦いで……!


 最強の技で撃ち合って、自分の杖が砕け散ったのを思い出した。

 するとマイシは剣の柄を差し出す。──と言っても、刀身のない柄だ。


「……やるし」

 マイシは気恥ずかしそうにそっぽを向く。


「え?」

「杖じゃ、剣の握りと違うし……、こっちの方がいいし……。その、まぁ……あんたとの激突で刀身失ったヤツだけど」


 柄を握って取る。先には(つば)だけ残っている。

 でも握りとしては、本物の剣として確かな感覚がする。杖とはまるで馴染みが違う。


「でも、マイシのは……」

「新調したし」


 マイシは腰につけている(さや)に収まった剣を見せびらかす。


「……『天竜の刀剣』。長らく愛用してきたけど、ナッセなら…………その、大切に使ってくれるかなと……思ったし」


 なんか温かい感情が込み上げてくる。じわっと嬉しさが胸に溢れる。


「ありがとう!! マイシ!」

「う、うるさい! ま、まだ決着ついてないから……! ライバルとして丸腰なのは不憫(ふびん)と思っただけだし……! か、勘違いするなし!!」


 頬を赤らめ、強気な顔をして照れを隠すマイシ。ナッセは杖のように剣の柄を腰に差し、すっきりした気持ちで溢れ、自信に満ちた笑みを見せる。


「そうだな! いつかまた勝負しようぞ!」

「ああ! もちろんだし!」


 オレの突き出した拳に、マイシもニッと笑んで拳で突き合わせた。お互いに「今度こそ負けないぞ」とばかりに笑い合う。へへっ!

 だがマイシの胸には、もう(わだかま)りはなかった。

 晴々とした気持ちで溢れていて、明るい笑顔に満ちた。



 二人は肩を並べたまま、宿(ホテル)を出て眩い陽の光を浴びる。

 そして同じ『剣士(セイバー)』として、これからの道を目指すかのように、二人は共に歩みだしたのだった。

あとがき雑談w


アリエル「食い散らかしちゃってぇ~」

クッキー「盛り上がったまま、夜通しで缶開けてたもんね」


 二人はそそくさと、散らかしたゴミを回収していく。

 上半身起こしたヤミロは「あいたた」と二日酔いの頭痛に顔をしかめていた。


アリエル「互いに相容れない者同士……、しょせん敵同士よぉ」

クッキー「ええ。今は水に流しとくけど、次は容赦しない!」


 切羽詰まった緊迫の空気。鋭い眼光を見せ合う二人だが……?


ヤミロ「やれやれまたか。まぁ、長い付き合いで分かってからなぁ……」

アリエル&クッキー「そこ黙らっしゃい!!」(怒)


 立つ鳥跡を濁さず! 綺麗にした所でバイバイと手を振って去っていく。


ヤミロ(これくらいできるなら、自分の部屋も綺麗にして欲しいぜ……)



 次話『妙な動物が現れる!? にゃにゃーんw』

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