43話「何度でも太陽は昇るぞ!」
マイシ自身の頭上に二つの角、背中に両翼、尻からは尻尾、手足には鋭い爪、剣は竜の頭部と小さな両翼、そして頭部の角のように刀身を覆って、全身のオーラは竜を象っていた。
獰猛に羽ばたくその姿、まさに大空を支配する覇者そのもの!
竜の爪が引き裂くように、オーラを纏った竜の剣が振り下ろされた。
咄嗟に太陽の剣をかざす。しかし、ガラスのように儚く砕け散り、破片が四散。
「ぐあ……!」
左肩から右脇まで斬り裂かれ、血飛沫が飛び散った。
「ナッセ!!!」ヤマミは叫ぶ!
おののくエレナ。青ざめるリョーコ。緊迫するスミレ。しかしアクトは冷静に見ていた。
ナッセはいつも致命傷を避けようと、後ろへ逸れる、もしくは退く。受身も取り、ダメージを最小限に抑える癖が身に染み付いている。やはり剣士になっても変わっていない。それを分かっていた。
「大丈夫だァ……。見た目ほどダメージはねぇ。普通の人なら肉片飛び散るがな」
マイシは何故か苦い顔をしていた。
血が飛び散り、落ちてゆくナッセを見下ろしたまま、自責の念を抱いていたようだった。
いつもカッとなるたびに相手が大怪我する。それで誰もが恐れ、しまいに近寄ってくれなくなる。
だが、しかしナッセの方はまだ目が活きていた。
なんの! オレは負けてねぇぞ────ッ!!
ぐるりと体勢を整え、下方に盾を生み出して足場にして踏み止まる。マイシは驚愕する。
「サンライトォ──」
すぐさま炸裂ジャンプで飛び上がり、抜刀するかのように再び太陽の大剣が煌めいて上昇する軌跡を描く。
「ライズゥーッ!!!」
気合を伴うその強烈な斬り上げが、マイシの顎を打ち上げた。
「が……!」
突然の衝撃でマイシは身を傾けた。
更に上昇していたオレは畳み掛けるように、上方の盾を逆さまの足場として、大剣を振り下ろしながら急降下。
「フォールッ!!!」
マイシは「くっ!」と剣をかざし、オレの渾身の一撃を受け止める。ビリビリ、交差した剣が震える。
「いっけぇぇぇえッ!!!」
力一杯振り下ろしきり、マイシの頭上に強烈な斬撃を見舞った。そのまま全体重を乗せて叩き落とし、地上で噴火のように土砂を噴き上げた。ドォン!
二人の影を煙幕が囲む。それでも屈んでいるマイシに然したるダメージは窺えない。やはり包んでいるオーラが阻んでいるせいで、衝撃は届かない。
ならば、と剣を正眼に構え、瞬足で駆け出した! ダッ!
「行くぞォ──!! 流星連撃!!」
マイシの目に夜空が広がり、ナッセの背後から襲いかかる流星が一筋、二筋、三筋、四筋、五筋、六筋、と軌跡を描く。
ドドドドドド!!!
六筋の軌跡を描く同時斬撃がマイシの全身を斬り刻む! 更に「うおおお!」と叫び、渾身の一撃で額を突いた!
「七連星!!!」
凄い勢いで吹っ飛んだマイシは後ろの家に突っ込み、ドガァッと木っ端微塵に大破。豪快に破片が散開。その衝撃で大地が震えた。
「ふう……、ふう、ふう」
汗を流し、前屈みの体勢で剣をぶら下げ気味に息をつく。
見据える先は、煙幕が立ち込める大破した家。しばしした後、煙幕が破裂し、大地が大きく揺れた。オーラの両翼を広げ、悠々と前進するマイシが姿を現した。真剣な表情で睨み据え、平然としていた。
「そんな……! ダメージを受けていないんなんてッ!」
絶句するヤマミ。恐ろしさのあまり身が震える。だがアクトは至って冷静だ。
「やっぱ強ぇな。今の本気だったんだぞ」
自嘲で、片目瞑って広角を上げる。しかしマイシは表情を崩さない。
「……これほど、圧倒的な差を思い知っても、剣士は続けるし?」
「悪いけど、続ける。その前に勝ってから認めてもらわないとな」
「なんでそこまで剣士を続けるし!?」
昂ぶるオーラを纏った竜の剣を突き出し、マイシは問う。
「……本当は魔道士に変えても良かったと思う。ヤマミ達から色々教えてもらったおかげで、別の戦い方も見つけた」
「ならなぜ?」
「……すぐ剣士を辞めます。こんなんじゃあ、他のクラスへ行ってもまた挫折しそうだろ? こんなこと恥ずかしくて師匠に顔向けできねぇぞ」
「ふん! 辞めてもらっても、バカにはしないし! ってゆーかさ、死んだら終わりだし……」
剣を下げ、視線を背ける。
その仕草に優しさを感じたような気がして、ホッとする。
けどゴメン。オレにはオレの矜持ってものがある。だから……!
騎士のように剣を眼前に構え、師匠の待つ遥か先を見据えるように、信念を眼光に宿す。
「剣士になったからには、最期までやり遂げたい!! 師匠だって、ずっと錬金術師で通ってきた!! だからオレもずっと剣士だ!!」
マイシは見開く。ナッセの真剣な表情と真っ直ぐな瞳に!
これまで関わってきた他の剣士と明らかに違う。今までの男は「剣を使うカッコいいクラス」「誰もやりたがる人気のクラス」「多くのパーティーから引く手数多」「英雄に剣士が多い」「女にモテやすいクラス」だからと言う下心満載の理由でなる事が多かった。
だから許せなかったし! だから腹が立ったし!! だから叩き潰してきたしッ!!!
剣士は、そんな下卑た欲望を満たすためにあるんじゃないし!
己の道を志し真っ直ぐ突き進むために、そして守りたい者のために正しく剣を振るう誇り高いクラス!!
「そんな誇らしい剣士など、いなくなったと思ってたし……」
寂しげな目線。感傷に浸るようにさえ見えた。そんなマイシの顔は初めてだ。だが、キッとこちらを睨みつけてくる。
「じゃあ、その言葉通りなら、今から死んでも後悔するなし!!」
マイシもビシッと片手で剣を構え、堂々と受けて立つ姿勢を見せた。目も真剣な眼差しだ。
ただの乱暴な女剣士ってワケじゃないみたいだぞ……。
そう察して笑む。
「ああ! マイシ、ありがとう!」
「なぜ礼を言うし?」
「……いやな、こうやってオレの話を聞いてくれた。その上でオレとの約束を最後までやり遂げようとする。そこに感謝があるぞ」
優しそうな安堵の笑みのナッセに、マイシは見開く。
今まで薄暗く、黒く、しめじめしていた自分の心に、日差しが木洩れでた気がした。
誰も、あたしを恐れ! 近寄らず! 逆に追い出し! 孤独に追いやってくる!!
もう信じられない! 誰も信じるものか! 頑なな他人を拒み、そして叩き潰す!
ずっとそうしてきた!!
「……あたしは孤高の剣士! 馴れ合いは不要!!」
殺気を漲らせ、纏うオーラが怒りに蠢く。痛いほどに大気がビリビリ響く。
何者をも拒絶し、更なる暴威で叩き潰す孤高の竜が如く、威圧が辺りを席巻した。
「行くしッ!!!」
「おう!」
マイシは地を蹴って、大地を爆破。飛沫を引き連れながら襲いかかってくる。竜の爪を連想する剣が振り下ろされる!
だが、対抗しようと「おおお!!」と炸裂剣を振るって迎え撃つ!
ドギャア!!
逆にオレの大剣が砕け散り、「ぐああ!」と吹っ飛ばされて地面をズザザザと滑る。が、くるりと体勢を捻って屈んだ体勢で着地。マイシが二撃を振るってくる!
「くっ!!」
すぐさま出す太陽の大剣が、また木っ端微塵に砕かれる。バゴォン!
「まだまだッ!!」
それでも必死に立ち向かおうと三度、大剣を生み出して振るう。
ドガァン! バギャン! ズギャアン! ドギャッ!!
何度も何度も何度も無残に砕かれ続けた!
その度にMPから供給して、生成し続けた。マイシはそれでも容赦なく一撃一撃の下でねじ伏せていく。
そんな一方的な展開に、ヤマミもスミレも苦い顔で見守るしかなかった。引き止めようにもマイシの猛攻には割って入れない。
それに、きっとナッセは「ダメだ!」と言いそうな気がした。
「うあああッ!!」
ズッシャアアン! 無様に地面を転がり、滑り、土を浴びる。
それでも息を切らしながらも、輝くような太陽の剣を生み出す。そんな『粘り』にマイシは戸惑い始めていた。
今まで、こんなに立ち向かってくる人はいなかった。
バッキャアアアン!!
圧倒的な竜の剣でナッセの大剣を容易に打ち砕く。
「ぐはぁ!!」
徐々に彼自身の体も傷つき、服が破け、泥で汚れ、薄汚くなっていく。無様でカッコ悪い。心無い人が見れば、指差して笑うだろう。
はぁ、はぁ、はぁ!
ナッセはヨロヨロと立ち上がり、燦然と輝く太陽の剣を携える。
「なぜ、逃げないし!!!!!」
吠えるマイシ!
「あったりまえだろ!! まだ約束終わってねぇぞ!!」
満身創痍ながらも、吠えて応えた。マイシは見開く。信じられない!
「たかが口約束だし!?」
誰だって、口約束であれば簡単に破る! 都合が悪くなればなかった事にしようとする!
これまでもそうだった!! そう裏切られた!! なのに!
「…………バカだし! 友達じゃないのに意地張るなしッ!!」
「はは! オレ、バカかもな!」
汚れた顔で笑ってみせる。呆気に取られるマイシ。
「どうしてだし……!?」悲哀にマイシの顔が歪む。
「オレな、前に約束破ったりして友達を失って後悔した事がある……」
「友達じゃないって言ってるし!」
マイシはカッとムキになる。孤独ゆえに、友達という言葉に拒絶反応があった。
「また、自分の都合で約束破るかもしれねぇ……。これから何度か後悔するかもしれない。けど、今はマイシとの約束は絶対に守りたい!!」
「別に破っていいし!」
「嫌だ!!」
「なぜだし!?」
「……マイシ! あんたはすっげぇ強くて、主人公みたいな能力持ってる。憧れるよな。オレ、カッコイイって思ってるぞ」
「はぁ?」
「勝てたら、そんなマイシと肩を並べる剣士になれるじゃないかぞ! そして一緒に剣士だ!」
へへ、と綻ばしていると、マイシは瞬間沸騰で激怒する。
「一緒とか無理!! 消えろしッ!!」
猛る竜のオーラを纏い、こちらへと覆い被さるように猛突進する! 全てを否定し、拒絶し、叩き潰す剣が振るわれる!
だが、見切るようにカッと見開く!
「そこッ!!」
大剣を振り、マイシの刀身の腹を打ち払った。逸れた竜の剣による余波は、オレの後方で大地を深く穿ち、岩盤を粉々に捲れ上げた。ズドォォォォン!!
地を揺るがし、烈風が吹き荒れ、岩礫が飛び交う。
しかし、オレの太陽の剣はまだ健在とばかりに煌めいていた。
それがなんだか嬉しくて堪らず、グッとガッツポーズを取った。
「やった!! 完璧に防いだぞ────ッ!!」
子供みたいに喜ぶナッセの姿に、マイシは呆気に取られる。
あとがき雑談w
クッキー「うにうにw やってるやってるw」
開いたノーパソのモニターでナッセとマイシの激戦が繰り広げられていた。
ガンガン派手に爆裂が連鎖していく音響。
手に汗を握るバトルに興奮!
クッキー「このミクロドローン作っといて良かったーw」
アリエル「ちょっとぉ~聞き捨てならないわぁ! 私のパクりじゃないぃ~!」
クッキー「なにおー! ……って、まさか同じのを?」
アリエル「えっ!?」
クッキー「え?」
思考が一致してた事に二人は沈黙……。
ヤミロ「ククク……結局身内なんだから仲良くやれや……」
次話『二人の死闘!! 一体どっちが勝つ!?』