42話「激烈な対決!! ナッセvsマイシ」
ここは異世界の辺境のリボナ村。平穏に過ごせる田舎だ。
だが、地球にいたはずの龍史マイシがこの村のギルドにまでやって来てナッセに因縁をつけに来たのだった。
わざわざギルドの扉を粉砕して、派手に登場したマイシ。
誰にも絶対負けないと自信満々で、尚も好戦的に笑む。彼女の目線は、小柄で優男の頼りのなさそうな風貌の銀髪の少年のみを見据えていた。
「剣士ナッセ! 約束通り、てめぇを潰すし!!」
マイシから、龍を象る巨大なオーラが荒々しく燃え上がっていた。
ヤマミもリョーコも戦慄で震え、スミレですら表情が強張っている。初めて面を向き合うと、また違った恐ろしさが分かる。エレナは怪訝な顔を見せている。
「ああ、待たせてすまん! ……だが、あんたとも戦って、オレが勝つ!!」
オレは戦意満々で不敵に笑ってみせたぞ。
マイシは、そんな自信満々のナッセに憮然としていく。
以前は顔を青くしてビビってたはずだ。恐怖に堪えかねて剣士を自ら辞退し、転職するなり退学するなり引っ込んでくれれば、それで良かった。こんな弱っちいチビの剣士など恥さらしであり、目障りなのだ。
一体、途中何があったか分からないが、気に入らないと募っていく。
「ああ!? あたしと戦う? てめぇ、マジか? 気でも触れたのかしっ?」
「なんで、いつも怖い顔するのかぞ?」
一触即発。マイシは怒りに満ちた顔で、オーラが更に荒々しく昂ぶる。足元から旋風が吹き荒れ、なおも床が小刻みに振動。
「ひ、ひええ」
「アイツ、やべぇ……」
恐れをなして、ギルドにいた冒険者達が次々と裏口から抜け出していく。
「ここじゃ迷惑かかるから、場所変えていい?」
マイシは睨み据えながら、こちらを指差す。
「……『標的探知』であんたを対象にしている。周囲を把握するだけの『探知』と違って、例え異世界で隔てようとも、足跡と位置をあたしは感知し続けるし! また逃げるなら、どこまでも追える! どのみち逃す気はないし! つかアンタが剣士を辞めるか死ぬまで追い詰めてやるしッ!!」
「いや、死に場所にするなら、もっといい場所があるかなと」
「ふん! ならいいし! 剣士辞める気がないなら、最期くらい自由に選ばしてやる」
剣を下ろし、燃え盛っていたオーラが静まっていく。
悪く受け取って飛びかかる事も想定していたけど、大丈夫そうだぞ。でも、なんというか爆発寸前の爆弾を持ってる気分で落ち着かないなぞ……。
ふう、と安堵するオレをよそに、エレナは気持ち悪そうに苦い顔を見せた。
「ダーリンを追っかけて、ここまで来るなんてキモいわね! 帰れー! このストーカ女ぁー!!」
エレナが拳を振り上げてキーキー喚く。
「あ……」
血の気を引いて青ざめた。
「今、ブチ殺すしッ!!!!」
激昂したマイシは、再び全身から燃え上がるオーラを噴き上げた。出入り口を大爆発させて瞬時に間合いを詰め、怒り任せに剣を振り下ろしてくる! くっ!
切羽詰まったエルフの職員は、咄嗟に杖を掲げて、足元から魔法陣を展開する。
ズガアアアァァァァァァアン!!!
ギルド内で凄まじい『炸裂』が大きく衝撃波を広げ、破片が四方八方に飛び散る。ギルドの扉、窓から煙幕が勢いよく噴出。ズズズ、村中が地震に揺れる。
吹き荒れる旋風にヤマミ達は腕で顔をかばって、踏ん張っていた。アクトは平然と突っ立っている。
「大丈夫だァ……。見ろよ」
ヤマミは瞑っていた目を開ける。煙幕が晴れ、なんとマイシの一撃を真っ向から受け止めていたナッセが視界に入る。
炸裂剣には炸裂剣。同じ基本スキルをぶつけ合って相殺していたようだ。
「あの特上位種を一撃で木っ端微塵にしたマイシの一撃を!?」
「ナッセもマイシと同じレベルに上がってたの?」
アクトはニッと笑む。
「今んとこ五分と五分だァ……」
「メチャメチャにブッ殺してやるしッ!!」
「なんでオレが……」
激怒のままにマイシは炸裂剣による乱れ打ちを繰り出す。
ズガガガガガガ!!
連鎖する爆破の剣閃を、慌てながらも同じ炸裂剣で必死に捌いていく。
木造の屋敷を傾けさせるほど、炸裂剣の剣戟による爆破の連鎖が広がってゆく。木造の壁からあちこち爆破が噴き出て穴を開けていく。
ボォン! ボンボン! ボォォン!!
下の支えを失っていき、少しずつギルドは傾きながら瓦解していく。
「逃げて! 潰れるわ!!」
ヤマミ達は咄嗟に空いた穴から外へ抜け出す。エルフの職員も、別の穴から抜け出す。
爆発事故のように、木造の屋敷から爆風があちこち噴きながら建物を崩していく。
それを呆気に取られたように見守るヤマミ達。
数多の木片が落ち、崩れようとしてる部屋で、マイシとオレは真剣な表情で「うおおおお!!」と駆け出し、互いの剣を激しくぶつけ合う。刹那、閃光が溢れる!
ズゴオオォォォォン!!
木造の屋敷が木っ端微塵に破裂、四方八方に爆炎が飛び散る。吹き荒ぶ嵐が周囲を蹂躙。激しい地響きが地面を伝う。
「きゃああ!!」
円形の盾で阻んでいるとはいえ、余波は荒々しく吹き荒れ破片が乗ってくる。まるで台風の最中にいるみたいだ。ヤマミはビリビリと響く衝撃に「くっ!」と呻きながら、ナッセの安否を案じていた。
ボン! 未だ爆炎と煙幕で包まれている屋敷跡の左右から何かが飛び出してきた。マイシとナッセはくるくると宙返りし、互いに同じタイミングで着地。
燃え盛るギルドの残骸を挟んで、見据え合う二人の鋭い視線。
ヒュウウ……、余波の影響で吹く風が流れて、二人の髪が舞う。
「あ~~! ギルドぶっ壊しちまったぞ……!」
我に返って、目の前のギルドの残骸に青ざめ、額に手を当てて項垂れる。
マイシはただ沈黙している。
「大丈夫よ! 擬似の反転世界を創って転移したから!」
エルフの職員がそう告げた。
……反転世界? エンカウント世界? 見た目、パッと変わらないけど、そう言えばヤマミ達以外に人の気配がしない。見渡しても人の影すら見えない。
「あの女みたいに血気盛んな人が暴れだしてもいいように、こういう緊急魔法があるのよ。ここは反転世界。見た目こそ、普通の世界と変わらないくらいコピーされてるから、どんなに破壊されても元の世界に影響はないわ」
「すまん。こんな事になっちゃって……」
「いいわよ。もうこんな刺激的な事はないだろうって思ってたのにね……、昔を思い出すわ」
一体、どんな過去があったんだろう? エルフの職員はしみじみとしてるみたいだ。
んぐーんぐー、エレナは後ろからスミレに口を塞がれて手足をバタバタさせていた。スミレは相変わらずにこにこしている。どうやら任してても大丈夫だぞ。
ヤマミの生み出した円形の盾がスミレ達を守ってくれている。いざとなればアクトが守ってくれるだろう。準備は万端。心配は何もない。
心置きなく戦える、と安堵に笑む。
もう逃げる気はない! それが彼女への約束! 戦って勝って、剣士を続ける事を認めてもらう!
「よし! 行くかぞ!!」
マイシへと剣を正眼に構えて、気を引き締めた。そんな彼の様子に、マイシは憎々しげにギリッと歯軋りする。
彼女の目には、ナッセが友達と一緒に和気藹々しているように見えていた。
見ているとたまらなく胸が痛い。やるせない怒りが沸いてくる。煮え滾る激情に抗うことなく、自らの力にするように受け入れた。
「かあああああああああッ!!!!」
吠え猛るマイシの全身から、更に荒ぶる膨大なオーラが噴き上げられた。それは地面を揺るがし、木々や家が震え上がる。吹き荒れる旋風。それでもオレは剣で身構えたまま見据える。頬から汗が伝う。
マイシを覆うオーラの濃度が増し、頭上から角を象るオーラが尖がり、手足には爪が伸びてるように象り、尻から尻尾が象られる。ボン、ボォン、オーラの表面からプロミネンスのように息吹が常時繰り返されている。
ズズズ、蠢くオーラがマイシの剣にまとわりつき、鍔の部分に龍の頭部を象るオーラが滞る。凝縮された濃密なオーラによる剣だ。
ビュッ! 軽くひと振り。
ビュゴオオオオオオッ!!!
凄まじい烈風がこちらにまで吹き荒ぶ。ビリビリ……、気圧されそうになる。
恐ろしいまでのマイシの莫大なオーラが敵意を持って、こちらを喰い破らんと牙を剥いているようだ。
「凄いぞ……! まるで小さなドラゴンみたいだ…………!」
拳の三つ星に囲まれた大きな星が太陽の『印』に変化。光の剣は太陽の剣と大剣に変貌。周囲に余波が吹き荒れていく。
自分もまた、己に昂ぶる激情が沸いてくるのを感じる。
絶対に負けられない! 師匠は、それよりもっと強い敵と何度も戦ってくぐり抜けたんだぞ!!
「……全力で跡形もなく潰すしッ!」
そう言うと、マイシは地を蹴ってドォンと大爆発が広がった。彼女が駆け抜けた軌道上は抉れ、飛沫を噴き上げ、瞬きの間にナッセへ迫る。
更に速い!! ヤマミ達は見開く。
脳裏に竜の鋭く大きな爪が握りつぶそうとするイメージが沸いて、ゾクッとした。
受け止めず、炸裂ダッシュで後ろに大きく飛び退く。
ゴオォォン!!
マイシの振り下ろした剣が、大地を深く穿つ。周囲の岩盤が捲れ、土砂と岩礫が巻き上げられ、粉塵をキノコ雲のように高々と噴き上げた。そのあまりにも大きすぎる威力が村ごと大地を揺るがす。ハッと背後に殺気を感じる。マイシが既に回り込んでいた。
「あああああ!!!」
容赦なく薙ぎ振るうマイシの剣。しかし空を切る。それだけでもズゴゴと周囲に衝撃波を巻き起こした。更に向こうの一軒の家が破裂。ドゴォン!
オレは遥か上空へ飛び上がって、盾を足場に立ち止まる。
「もうあんたに逃げ場はないし!」
なんとマイシの背中から一対の竜の翼を象ったオーラが左右に広がった。
ヤマミは驚愕した。
「なんですって!? まるでオーラが生き物のように!?」
マイシの背中から伸びたオーラの翼が羽ばたくと、地面を爆発させ急上昇。あっという間にこちらへ近接。狂気に笑むマイシは濃密な龍の剣を振り下ろす。竜の爪が引っ掻くが如く、鋭い軌跡を描く。
バキャン!!
咄嗟にかざした太陽の剣が木っ端微塵に砕け散り、左肩から右脇まで斬り裂かれ、血飛沫が舞う。
「ぐあ……!」
あとがき雑談w
アリエル「へぇ~面白そうな戦いになってるわねぇ~w」
ヤミロ「マイシの威力値は40000以上。対してナッセは24000……」
アリエル「でもこれで発展途上なんだからぁ、驚かされるわよねぇ」
ヤミロ「どおりでナッセたちの急成長も不自然なわけだぜ……」
アリエル「ふふふ、交差点作った甲斐があったわぁ~」
ヤミロ「ケッ! 悪趣味だぜ。気持ちわりぃ……」
なんか邪悪なフォースから生き残ったら、反動で急成長するとか云々。
理由は『六十九話「異世界の固有魔法!? 『精霊具』」』でコハクが説明していて伏線回収済み。
アリエル「これからもっと盛り上がるわぁ……」(わくわく)
超超精密魔導機器ドローンでその戦闘撮影中!
その大きさはウイルスなみのミクロサイズで、鳥系なみの超解像度で撮影可能で、最大三百マッハで移動可能で、更に時空間魔法でワープ可能で、超頑丈でどんな衝撃にも耐えうるハイスペックで、記録容量が最大で連続撮影で半年程の時間分!
でも非売品です……。
ヤミロ「そんなんアリか……」(呆れ)
次話『完全なナッセの劣勢! しかし何度でも立ち上がるぞ!!』