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38話「よくある異世界転生かぞ?」

「エレナは生きていた……!?」


 その事実に目を丸くする。だが、ヤマミと言い争っている彼女は、幼くなっているものの特徴的なピンクの髪と顔立ちはエレナ本人そのものだ。



 入学当日でぶつかったのが最初の出会いだった。そして……。


「あたしは桃園(モモゾノ)エレナ。クラスは格闘僧(モンク)よ。遠慮なく話しかけてね~」


 学院で自己紹介していた彼女は、ピンクの髪のポニーテール。いくつかバッジを付けたTシャツにデニムという軽快なファッション。スタイルも良く、胸も割と大きい。サバサバしていて明るそうな性格だった。何気にこちらをチラッと見る事があった。

 しかし、リッチも人が悪いよな。殺したとか言ってたけど、逃げられてるじゃないかぞ。



「でも、エレナちゃん転生とか言ってなかった~?」

 スミレの言葉に思わず振り向く。そういや「あなたも転生したの?」とか言われてたような……。


「あ、そうそう! あたし転生したみたいなのよー!」

「ちょっと! どういうことなの?」

 ヤマミはエレナの両肩を揺する。痛いよ、と払い除けるエレナ。

 キャミソールのズレた片方の肩紐を直すと、神妙な顔でこちらを一望。



「……あたしもね、異世界転生って想像上のものだと思ってた。けど、自分の身に起きて分かった。あの『洞窟(ダンジョン)』でリッチに殺されて意識が途絶えたの。でも、気付いたらここの子供になってた」

「エレナ……」

「エレナちゃん……」


 するとエレナは明るく微笑む。

「でも、こうしてここで人生をやり直せただけでも幸運(ラッキー)と思わなきゃね! さぁ、これでリッチにリベンジできるわ!」

 と、やる気満々で拳を鳴らす。


 素っ頓狂になるナッセ達。


「…………リッチはもう倒したわよ?」

「え?」

 エレナは目を点にする。



 キッチンを備える台所で、ダイニングテーブルにエレナを含むナッセ達が席についていた。


「か~~!! 人生の目標失ったわ~~!」

 頭を抱えて後ろへ反り返るエレナ。

 ナッセ達が洞窟(ダンジョン)を進んだ事とリッチを倒した事を話したら、このリアクションだ。


「何度もここ抜け出して、封鎖されてる洞窟(ダンジョン)に殴り込もうとすると衛兵達が邪魔してくるのよね~! 全く余計な事してくれたわ。おかげで先取られたけど」

 ブツブツとジト目で机に顔を乗せる。


「止めてくれた衛兵は随分いい仕事してたわね……」

「ジャマミみたいにね」

「それ止めて!」

「い~や~だ~!! べ~~だ!」

 あかんべーするエレナ。


 ……だからか、衛兵を見るなり怒ってたのは。

 確かにヤマミの言う通り、一人で突っ走る性格のようだぞ。他人がそうしようとするのを見て、自分がやってた事が恥ずかしく思えた。


「でもね、もう一つ目標があるから全然構わないんだけどね」


 エレナはニヤッと怪しげに笑う。席を立ち、スタタタと駆け寄ってくるとこちらの腕に抱きつく。

 ヤマミ達は見開く。


「愛しのナッセちゃんと一緒に、世界を駆け回る壮大な夢がね!」


 にしし、と小悪魔的に笑う。

 すると有無を言わさずヤマミのチョップがエレナの額に炸裂。


「いたぁ!! それ止めなさいよねっ!」涙目のエレナ。

「あんた、いい加減にしなさい! どれだけ心配した事か! あと離れなさい!」

「いちいち余計なお世話だっての! だからジャマミなのよ~!」

「あんた!!」

「恋路は邪魔させないから~~! ぶ~」


 再び言い争い始める。確かにスミレの言ってた通り、よくぶつかるなぁ。



「でも、ちょっと待ってよ! 異世界転生したら赤子から?」

 リョーコが待ったをかける。


「うん。ここで生まれ育ったの。記憶が完全に蘇ったのは大体十歳頃かな?」

「それなんだけど、あたし達はそんな年月経ってから探しに来たわけじゃないよね?」

「……あ!」


 そう言えば、学院に入学してからそんなに日数は経ってない。ましてや数年すらかけていない。

 エレナも入学してから洞窟(ダンジョン)に挑戦して死んで、ここで生まれ育ったと言うならば少なくとも十年以上経たなければならない。時系列に矛盾が出ているのだ。


「どうりで若すぎると思ったわ」

 素っ頓狂でエレナは口走る。何か思い出したのか「待っててね」と、LDKの居間を出ていく。トタタタ……。


「ここはオレ達の世界よりも、時間の流れが早いのかぞ?」

「え~~?」

「でも、確かに……」



「それは不正解ね」


 あらぬ方向から声が聞こえ、ナッセ達は振り向いた。

 大窓を背に、いつの間にか一人の女性が不敵な面構えで立っていたのだ。頭上はデフォルメされた太い刺を生やすウニ頭で、水色のロング。オフショルダーっぽいワンピース。


     挿絵(By みてみん)


「し、師匠!!?」

「ええ? こ、この人が……ウニ魔女クッキー様!!?」

 ヤマミも呆気に取られている。


「はろぉ! みなさん弟子がお世話になって礼を言うわ」

 手を振り優しく笑んでくる。ペロッと唇を舐める。ペタペタ足跡をつけて歩み寄る。


「ってか、師匠……。土足なんだけど?」

「ああ。失敬」

 履いていたハイヒールがパッと消える。足跡も一緒に消えていた。思わず見開く。


因果(いんが)を組み替えて『最初っから裸足(はだし)だった』事にしたよ」


 呆然とするナッセ達。

 クッキーはそのまま、ダイニングテーブルの一つの椅子に腰をかけた。元々、五つしかなかった椅子が何故か六つになっていた。


「という訳で、こんな風に“因果が組み替えられて”エレナちゃんは転生されてるの」

「い、いや……、師匠。ちょっとよく分からないんだが?」

「ああ、前に時空間の話したのに分からない? しょうがないか。最初の私もそうだったし……」


量子力学(りょうしりきがく)……」

 汗をかくヤマミの(つぶや)き。クッキーはそれに微笑む。


「そう、量子世界(りょうしせかい)に関与する事象(じしょう)でね、エレナちゃんも『初めっからここで生まれ育った』事になってるんだよね」

「よく分からないぞ……」

「あたしも」

 リョーコもうんうん頷く。


「さてさて、ここは異世界なのになんで電柱とか自動販売機とかあるんだろうと、違和感なかったかな? 機械と魔導具とで違いはあるのだけれども機能は全く同じ」

「あ……!」

 そういえば! 異世界らしからぬ物が存在しているのにも不自然だった。



「この異世界とあなた達の世界が融合しかけている為、色々と混ざってきたりするんだよね」


 ちょっと待って! なんか凄いネタバレされた気がする!

 よく分からない事ばっかだけど!!


「元々、この世界に電柱とか自動販売機とか現代のものは存在してなかった」

「え?」


「……そんな! ありえない! 我々の世界から技術が流れたんじゃない!?」

 ヤマミはバンと立ち上がる。



「理解されないだろうけど言っておくよ! 『“結果”が先に生まれて、後から“過程”が組み込まれる』という事象(じしょう)もあるってね。……あ、時間だわ。またね」


 パッと、椅子ごと魔女クッキーは痕跡(こんせき)残さず消えた。



 しばし呆けるナッセ達。頬を汗が伝う。

 あまりにも突拍子(とっぴょうし)で理解が追いつかない。だが、なんとなく脳に深く染み込むような言葉ばかりだった。

 結果が先に生まれて? 後から過程が?


「普通は……“過程”を経て“結果”が生まれるのが当たり前。でも……、その逆って有り得ないわ……」


 ヤマミは片手で額に当てて、苦悩する。


「もし魔女さんが言ってた通りにするとね~~、この異世界とあたしたちの世界が合体する影響で文化とか混ざってきて~~、そのせいで言語とか普通に通じ合ってて、死んだはずのエレナちゃんも異世界バージョンとして存在しているって事だよね~~?」

「なるほど……よく分からん」

「ちょっと待って! エレナが死ななかったら、異世界のエレナと二人になったって事?」


「いいえ! 死んだからこそ、異世界のエレナが存在するのよ! まだ生きていたら、異世界のエレナはいなかった」

 ヤマミは震えている。なんとか理解しようとしているのが窺える。


「まるでシュレティンガーの猫ねぇ~~」


「シュレティンガーの猫……?」

「そ! 半分の確率で即死する毒薬を仕込んだ箱に猫を入れるの。しばらくしてから観測するまで、死んでいる結果と生きている結果が同時に存在していて、観測した時にどちらかが形となって、もう片方は消えるの~。そういう理論だよ~」


 なんかスミレちゃんって何気に難しい事知ってるなぁ。



「きっと、この異世界にもね~、異世界転生したナッセちゃんやヤマミちゃんも裏で存在してて、今のあなた達が死んじゃったら入れ替わるかもね~~」


 ふふふ、と怪しげに笑うスミレ。思わずゾクッとする。

 た、確かに……、この言い方がしっくりくる気がするぞ。もしリッチに全滅させられてたら、今頃この異世界の人間となっていたのかも……。

 未だに鳥肌がぞわぞわ立っているのが分かる。


「なになに? 皆どうしたの??」


 再びやってきたエレナは不思議そうに首を傾げた。




 一方その頃、旅人が行き交う獣道。その途中で休憩を取れる広場があり、自動販売機とコンクリート造のトイレが設置されている。

 木々が並び、近くに美しい湖がキラキラと反射光を放つ。

 その背景に、(かす)んで見える浮遊大陸が荘厳(そうごん)と浮かんでいて、絶景の一つでもあった。


 通り過ぎる旅人が、奇妙なものを見るような視線を送る。その先に、木の影でホームレスっぽい男が(たたず)む。

 下に(わら)のような絨毯(じゅうたん)()き、リュックやビンを側に置き、あぐらをかいてモシャモシャとパンを食っていた。


「ったくワケわかんねー世界だなァ! なぜか段々と魔法具バージョンの現代っぽいの増えてるし、誰も気付かねェとか……!」


 肌は少し黒い。麦わら帽子をかぶる、天然のパーマの黒髪。

 体格はがっしりしていて座っていても、なお背は高い印象を与える。そして垂れ目はギラギラしている。


「あ、あの……。チキューの方ですね? 大丈夫ですか?」


 商人っぽい中年の小太りおっさんが、水筒を手に声をかけていた。天然パーマの男はギロっと見上げる。


「なにがチキューだァ? 地球人と言えよ! 俺ァ、()()()()()()()()()()だからよォ!!」


 例え、生き残りが自分一人だとしても、地球人として誇らしく思う。そんな真っ直ぐな目をしていた。

あとがき雑談w


ナッセ「久しぶりに師匠に会えたと思ったら……、下記の通りになりました」


 あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ!


『師匠クッキーが唐突に現れたと思ったら、椅子も増えていた。と、思ったら突然消えた』


 な……なにを言っているのかわからねーと思うが、おれも何を見ていたのかわからなかった……。

 頭がどうにかなりそうだった……。


 催眠術だとか、超スピードだとか、時間停止だとか……、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ!

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……!


ヤマミ「まさしくそうだわ……」

ナッセ「ジョ○ョネタでよくあるポルナレフの名言を流用したぞ」



 次話『ナッセを知る謎の男が強襲!?』

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