37話「ついにキター! 異世界移転!!」
ナッセ、ヤマミ、スミレ、リョーコは洞窟最終フロアの出入り口を潜り、視界に広がる眩い光を目指す。
バシャン、水面から出るように波紋を立てて四人は抜け出した。すると目の前には、四方を塞ぐように木々が囲んでいた。
「なにこれ!? 邪魔~~!」
リョーコは斧を手に、切り倒そうと振り上げる。すると察したのか木々は根を這わせて左右に避けていった。同時に木々の前に立てていたであろう立て札が地面へ引っ込んでいってしまった。
「……え? なんだ、今の?」
「見て!」
不思議そうに見下ろすオレの肩を叩いて、ヤマミは先を指さした。顔を上げると、視界に広がる世界が見渡せた。
澄み切った青空に白い雲。足元から広がる黄緑の草原。あちこち木々や岩山が立っている。緩やかな段差があるせいか、曲線を描く地平線が何段もあった。
そして陸の端からは、海の代わりに隙間が覗く雲海が下に広がっていた。隙間からは下の大陸が窺えた。
更に向こうの大きな浮遊大陸が広がっていて、周囲に郡島が高低バラバラで浮かんでいる。
立っているこの大地も浮遊大陸。……まるで天空の世界だ。
こんな情景、日本はおろか地球のどこに行っても見られない。
気のせいか、地平線が遥か遠くまで見渡せて、いくつか大きな浮遊大陸が薄ら見えているようだった。そして不可解にも、遥か向こうに塔みたいなものが薄らとあり、上を見ても天辺が見えず、まるで宇宙へ続いているかのように見えた。
「こ、これが……外界!?」
「いわゆる異世界!? 小説とか漫画とかでよく見かけてたけど……」
「すっご~~、ひろ~~い!!」
なんか胸が躍る気がする。こんな広い世界が、地球以外にも存在していたのかと思うと、ロマンが広がるぞ。
「……エレナも、本当は行きたかったのかな」
聞こえた小声でヤマミヘ振り向くと、顔は悲しげだ。
「じゃあ、代わりに見届けよう!」
ヤマミは「ええ……」と頷く。
「あそこ! 村があるみたい!!」
「じゃあ、そこ行きましょう~!」
リョーコとスミレが見る先に、小さな家が集まっている集落が見えた。
ど、どんな人がいるんだろう? 自分と同じ人間だといいけど……。
つか言葉とか通じるのかな?
ナッセ達は広大な草原を歩いていく。雲の影がゆっくりと通り過ぎていく。暖かい日差し。気持ちよい風が撫でてくる。初めて踏みしめる異世界の大地。洞窟で色々あったけど、なんだか感無量だ。来てよかった。
村にたどり着くまで一時間半もかかったが、新鮮な情景でそれすら気にしなかった。
木製の門の前で衛兵が二人立っていた。オレ達と変わらない人間だぞ。身なりも、中世にありふれた鎧ではなく、マントを羽織った制服の軽装だった。側に小さな一軒の建物がある。門番の屯所……だろうか?
「だ、大丈夫かぞ?」
足を止め萎縮するオレの背中を、ヤマミはパンと叩く。
「……行ってみないと分からないでしょ」
「行こ行こ~~!」
スミレは笑顔でナッセの背中を押して進み始める。ちょ、待ってくれ!
「む! 見かけない顔だな?」
「何処のものか?」
あ、言葉普通に通じてるぞ……。
二人の衛兵が寄ってくる。屯所には頬杖をついている衛兵が、こちらをボーッと見ている。
「ははぁ、お前らチキューか? 他にも洞窟があったのか?」
「あの岩山の洞窟から……」
遠い向こうの、草原段差上の突き出てる小さな岩山を指す。
「あそこから……? 封鎖されてる所じゃないか!?」
「おいおい、チキューじゃあリッチは倒せんだろ?」
チキュー? なんか地球を知っているみたいだなぞ……。他にも同じく来てた人がいたのかな?
「いえ。私達は地球から洞窟へ入り、そのリッチを倒して来ました」
ヤマミは慎ましく述べる。側でスミレはにっこにこ。
「ええええええ!!?」
なんか衛兵すっごいビックリ飛び上がってるみたいだぞ。二人は非常にうろたえて「嘘だろ?」「でも……」「洞窟あそこしかないだろ?」とか言い合っている。
ナッセ達はきょとんと立ち尽くす。スミレだけは満面の笑顔だ。
もしかしてリッチが陣取っていたせいで、洞窟通れないから木々で塞いでいたんだろうか?
多分、地面へ引っ込んだ立て札も「入るな危険!」とか書かれてそう。
「鑑定士だ! 鑑定士!!」
慌ただしくなってきた。どうやらリッチを倒した事が彼らにとって大事だったんだろうか?
「うーっす! まぁ、ゆっくりしてけや」
屯所で待たされるオレ達は、頬杖ついている衛兵にそう言われた。
中は交番のように簡素で、机と、接客用のテーブル。そして奥には畳が敷き詰められた部屋とキッチンがある。……畳? 異世界に畳があるのは違和感あるなぁ。
ドタドタと衛兵が、初老の鑑定士を引き連れてやって来た。
「……ええ! 間違いありません! この者は中級特上位種のリッチを倒しております!」
「おお……!!」「マジか!?」
鑑定士にじっと見つめられたかと思ったら、このように衛兵にそう説明した。
どうやら何を倒したのかまで分かるようだ。
それから地球側の異世界の人間。創作士としてセンターに登録。名前と年齢。これまでの功績。色々と説明していた。鑑定士ってそんな事まで調べられるんかな……?
「はっはっは!! あんさん若いのにすげぇな! こんな小さい村だが、歓迎するぜ!」
「おう! ゆっくりしていけよー!!」
なんか大らかだなぞ。……ともかく村へ入れて良かった。
木製の門を潜ると、のどかな田舎の村が広がっていた。電柱とか自動販売機とか、異世界らしからぬものが、あちこちあるけどぞ……。
と言うか、道脇に街灯が立ってるぞ。
……なんか現代と混ざってねぇ?
「魔導具がそんなに珍しいか?」
オレたちの様子に、衛兵がかんらかんら笑っている。
聞くに、純粋な機械ではなく魔法陣でプログラムされた機械(?)らしい。つまり自動販売機は飲み物が入っているだけの箱って事だ。
でも自動販売機には飲み物を冷凍する魔法陣があり、お金を入れて任意のボタンを押す事で飲み物を転移する魔法陣がある、そんな構造っぽい。
「……なぁ。こいつらって、あいつの知り合いじゃね?」
「あ、ああ……。ナッセにヤマミ、スミレだろ? ここまで名前が一致していると、妄言じゃなかったって事に……」
「え? どうしたんだぞ?」
衛兵の二人はこちらを見る。なにかワケありのように見える。
「お前らナッセ、ヤマミ、スミレだろ?」
「そ、そうだけどぞ?」
「そうだよ~~!」
「鑑定士で名前を知ったのね……。でも、何か関係あるの?」
ぽりぽり後頭部を掻く衛兵。
「……やっぱ話すよか、会わせた方が早いわ。これ」
「そうだな。そうした方が大人しくしてくれるかもしれん。あ、リッチ、もういねぇわ……」
「はぁ?」
訝しげに首を傾げた。
衛兵の一人に連れられて、ナッセ達四人は街路を歩く。平らな地面で歩きやすい。
気付いたのだが、見かける人間は自分と同じ姿をしているのも多いが、中には獣の耳や尻尾を生やしている人間もいた。マジで獣人が見れるなんて夢にも思わなかった。
「こんにゃ~~!」
「こんにちは」
子供の猫の獣人が笑顔で手を振っている。尻尾の先端が揺れている。なんて可愛いんだ……。
「あ、本物のエルフいる~~!!」
リョーコの言葉に振り向くと、横に尖っている耳の美しい人間が歩いていた。白い肌で細身。ツンとしたような表情。服はローブを着ている。成人男性のようだがヒゲあとも窺えないほど中性的だ。
こちらを見るなり、ペコリと会釈。思わず挨拶し返す。
地面をちらほら影が横切っているので、見上げればホウキに乗っている人が飛び交っていた。
マジでオレ達はファンタジーの世界へ迷い込んだようだぞ……。夢じゃないよな?
「ははは! 初めてか? そりゃそうだろうな。俺もおめぇらを見るの初めてだわ」
「そ、そうなんですか?」
「遠くの大国じゃあ、チキューがたくさんいるらしいな」
……オレ達の他にもいるのか!?
大国か。行ってみたいなぞ。ってかチキューって、まるで一つの種族みたいな括りにされてるなぞ。エルフとかドワーフとかと同じみたいな……。
「ついたぜ。っても人違いかも知れないけどな」
衛兵の足が止まっている。そこには一軒の家があった。二階建てで、白壁に赤い屋根。洋風の家だ。この村ではありふれた建築造形だが、不自然なくらい立派だ。
玄関ですら、雨宿りができるように引っ込んだ空間があり、下は段差があるポーチ。その奥に長方形のドアがあって、電灯もあって、もろ近代じゃねぇかぞ……。
ピンポーン!
衛兵がドアの横にある玄関チャイムを鳴らす。
いやいや、異世界にチャイムあるんかい!! 元いた世界と変わんないじゃないか。
「……ここ本当に異世界?」
「いや知らん。オレも聞きたいぞ」
「そうよね………」
やはりヤマミも困惑しているようだ。
リョーコは素っ頓狂。スミレは何故か微笑んでいる。にこにこ。
ここが実は地球のどっかの地域か、それとも現実のようなゲームの世界とか、夢をぶち壊すようなものじゃないだろうな?
それくらい魔導具が精巧って事かぞ?
バタンとドアが開くと、一人の少女が現れた。
歳は十二歳ぐらいで、ピンク色のポニーテール。ツリ目でハキハキしてそうな顔。橙色のキャミソール。とても可愛らしい女の子だ。どっかで会ったような……?
「何よ! またガラックぅ!? ちゃんと留守してるもん!」
なんか衛兵と知り合いのようで、顔を見るなりプンプンと頬を膨らまして怒る。が、衛兵の後ろにいたオレ達に視線を移すと、ゆっくり見開く。
「あんた!! ナッセちゃん??」
スタタタと裸足で走り寄り、こちらの手を掴む。
「あんたもここに転生してきたの?? うわ~~近くにいたんなら、来て欲しかったよ~~!」
嬉しそうにブンブン掴んでる手を上下させる。
「エレナ!!」
ヤマミの叫ぶ声に、ピンクの少女は「げっ! ジャマミ!!」と苦い顔で竦んだ。
静かな怒りを表すように、ヤマミは冷めた表情でツカツカとエレナの方へ歩み寄り、チョップを額にかます。ぺしっ!
「いたぁい!! ジャマミ~、何すんのっ!!」
「……ジャマミはやめてって、何度も言ってるでしょう!」
「あ~、やっぱか。じゃあ後はよろしくな」
衛兵は背中を向けて、手を振りながら去っていく。
し、しかし……、生きていたのかぞ……!?
ヤマミとギャーギャー言い争う、ピンクのポニーテールの可愛らしい女の子。紛う事なきエレナ本人だった。前と会った時より、かなり幼い気もするけどぞ……。
あとがき雑談w
ヤマミ「ナッセ! 他の魔法についても話すわ」(うきうき嬉しいw)
ナッセ「どんなどんなー?」(わくわく)
『氷魔法(ヒェラ系)』
ヒェラ、ヒェピラァ、ヒェタワーズの基本三段階。
元々は『雹之矢』『雹之氷柱』『雹之氷河塔』が旧名称。
氷の魔法は火の魔法の次に、水魔法と共に開発された。主に食料の保存などが目的だったが、攻撃魔法としても開発された。
壁を作ったり、足場を作ったり奪ったり、火器の無効化など、と戦略に幅が出るため第一次、第二次世界大戦では多用された。
『水魔法(ミズッポ系)』
ミズッポ、ミズバブル、ミズプラッシュの基本三段階。
元々は『水之砲』『水之瀑震』『水之大瀑布』が旧名称。
最初は川や海などの液体を操作する目的で開発された。しかし空中の水分を集めたり、魔法力で具現化したりと、汎用性を上げていった。
熱くなった体を冷やしたり、一時的な飲料にしたり、汚れを押し流したり、用途は多い。
攻撃系として激しく撃ち出すものもあるが殺傷力はなく、敵の殺生よりも無力化を目的として主に使われる。
ヤマミ「……って事なの」
ナッセ「歴史があるんだなぁ。さすがヤマミだなぞ」
ヤマミ「そ、そうでもないわ////」(舞い上がるほど嬉しいw)
スミレ「ニヤ……計画通り……w」(悪人面)
リョーコ「え~んたすけてよぉ……」
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