36話「光と闇、それぞれの終幕!」
洞窟は様々なフロアで繋ぎ足されてあり、角度もそれぞれ違う。そこでは多種多様のモンスターが出現する不思議な所だ。だが、まだ謎が多く不可解な点もある。
それ故に、あちこちから冒険者や創作士達が探索しに来るのも、今では当たり前になってきていた。
「いつ来ても、おかしな所だよなぁ!」
「でも油断しないで!」
「……来る!」
三人組の冒険者がいた。剣を引き抜く茶髪の少年。斧を正眼に構える少女。そして格闘に構える、感情が乏しそうな黒肌のチビ。
目の前にゾンビ数体と共に、骸骨を模したような黒い衣を纏うボスらしきモンスターが一体現れる。
カカカッ! また復活できたぞ!! これで、あの憎っくき銀髪のガキに復讐してやる!
「行くぞ!!」
茶髪の少年は剣に魔力を込め、白く輝く。そして「レヴ・ブレード!!」と叫び、ゾンビを切り裂く。
少女は豪快に斧を打ち下ろし、大地を広範囲に割って周囲のゾンビを撃滅。黒肌のチビも身軽な動きで拳を叩き込んでゾンビを次々木っ端微塵に砕く。
少年が突っ込んでくる。再び白く輝く剣を振りかぶって────!
その時、黒い衣を纏う骸骨は見開いた。その少年がナッセとかぶったのだ。殺意こもる彼の姿が脳裏に焼き付いていた。あの恐怖が蘇る。思わず体が萎縮し、硬直!
「レヴ・ブレード!!!」
少年の振るった白刃の剣によって、黒い衣の骸骨は斬り裂かれた。
なんか奇妙な木から再生してはぁ、はぁ、と息を切らす黒衣の骸骨。手を見る。さっきより小さくなっている。
──まさか! 生き返るたびに弱体化しているのか!? 有り得ない!
今まで、有象無象の冒険者を嘲り蹂躙してきたのだ!
だから、この儂にそのような事があってはならない! ならないんだァ!!
こうなったのも全てあの銀髪のガキのせいだ!! 絶対に斬り刻んでやるッ!
怨恨を抱き、再び洞窟へ舞い戻って二人組に立ちはだかる。
「あ? アンデッド系か? ──攻殻・装着!」
周囲から欠片が収束されて、背の高い黒髪の青年の体に張り付く。体のラインに沿うように張り付いているそれは鋼の輝きを発していた。そして筋肉の部位ごとに輪郭が走っており、関節の動きを阻害しない作りになっている。
鎧を纏う地属性の魔法だろうか? そしてただならぬ威光を放つ剣を引き抜く。
「お前は下がっていろ!」
「う、うん!」
臆病そうな少女は頷く。
カカカッ! 今度は二人組か! 足手纏いの女の子なら、実質一人!
まずはその男を血祭りにあげた後、その女を儂のオモチャにしてやる!
黒髪の青年は駆け出すと、一瞬にしてゾンビ共を上下に両断していた。黒衣の骸骨はその光景に見開く。また銀髪のガキが連想される。体が硬直し始めた。
何故だ!? 何故、儂は止まる? あれが怖いというのか??
「お前で最後だ!」
冷徹な顔で青年は剣を振り下ろし、黒衣の骸骨は斬り裂かれた。
ぐあああああああああ!!!
洞窟内を、真紅に染まったロングヘアーの女性と小動物が並んで歩いていた。
どう見ても冒険者に見えないのだが、女性からはただならぬ威圧が発せられている。
「今度ヘマしたら、たぬき鍋にしてやるから!」
「この可愛いたぬきを食べるなんて、とんでもない!」ぷんぷん!
小動物はたぬきで、二足歩行していた。二人は喧嘩しながらも、仲の良さを振りまいていた。
あんな小娘と家畜なぞ、儂が──!
「はい! 弱体化スキル発動! 対象のモンスターは極限貧弱化よ!」
「たぬき奥義! 狸突猛進!!」
黒衣の骸骨は細々と貧弱になり、たぬきの体当たりで簡単に吹っ飛ばされる。
「さて、ここから拷問の時間よ!」
真紅ロングヘアーの強気な女の笑顔が恐ろしかった。手にした短剣が煌く。また銀髪のガキを連想させる。
ザクザク斬って斬って斬りまくる。全身を斬り裂かれ、制止しようが、許しを乞おうが、それは止まらなかった。
ぎゃあああああああああああ!!!!
気付けば、また妙な木から再生されていた──。
儂は……、何故、何度も生き返る? 何故? 何故だ!?
また儂が小さくなっているではないか!?
……しかし、終わらないのか? いつ終わる? 一体どこまでいけば、終われる?
汗ばみ、恐怖に震えながら妙な木の個室を抜け出して、舞い戻った洞窟を見渡す。すると一人の子供が視界に入った。杖を持っている。
「あ、またモンスターだ!」
杖を振りかざす子供。その姿から、銀髪のガキが杖から光の剣を出していた事を連想。
恐怖の記憶が脳裏に浮かび上がる。
過呼吸気味に息を切らし、体が竦む。顔は恐怖にひきつる。
「儂に近寄るなあああぁ────ッ!!!!」
惨めたらしく、腰を抜かしたまま泣き声に近い叫びを上げた。
リッチ・デスシ、彼は延々と底なしの絶望の闇へと哀れにも沈んでいくしかなかった……。
異世界へ繋がる出入り口が存在する最終フロア。元々はボスのリッチが待ち構えていたが、その打倒後はモンスターが現れぬ安全地帯と化していた。
いつもの岩壁に、上下と突き出ている岩山。あちこち覆う苔。少々の草。
そこで白いハウス型コテージが建っていた。
その一つの白い部屋。ベッドに寝かされているナッセの側で、スミレが回復魔法をかけていた。
しばらくすると、スミレはかざしていた両手を引っ込めて立ち上がる。
「……ふう。長くなったけど治療は終わったから、もうだいじょうぶ~」
代わりにヤマミは沈んだ顔で座り込み、ナッセの片手を握った
「……全く、エンドレス殺陣進撃やりまくってたから、死んだかと思ったわよ」
リョーコも腰に両手を当てて、呆れていた。それをスミレは笑顔で「まぁまぁ」となだめる。
「あれが多分、本来の殺陣進撃だと思うの~~」
スミレの言葉にヤマミは振り向く。リョーコも少し見開く。
「無間・殺陣進撃。……あたしはそう名付けるけど、きっと本来は相手をとことん壊滅させて追い詰めていく殺意満々な大技。完全に殺すための技。タネ坊とキンタのは本当に真似事で、ただの連撃技。誰が本来の使い手か分からないけど、かなり物騒な技なのよね~~」
「ひょえええ」
リョーコは汗を垂らし、驚き返る。
「無間・殺陣進撃……」
「え!? エンドレス殺陣進撃の方はボツ!?」リョーコは驚いて見開く。
「ささ、今は二人きりにしてあげましょう~~」
そそくさとスミレは「ええ~」と渋るリョーコを押して、部屋を出ていく。バタンとドアが閉まる。しばしの静寂──。
ヤマミはエレナが既に殺されていた事にもショックを受けていたが、ナッセが激怒して無間・殺陣進撃を繰り出して自滅しかけた事もまたショックだった。
例え口上で禁止して彼が承諾しても、我を忘れればきっと繰り返すだろう。あれだけエレナのその死に様と夢を馬鹿にされれば、自分だって我を忘れるほど怒るだろう。
だからこの事でナッセを咎める気になれなかった。
だが一人行かせれば、いつ命を落としてもおかしくない。今回は本当に運が良かった。けど、次からもそうなるとは限らない。まだ危なげだ。ナッセには誰かがついてやらなければいけない。
エレナのように死なせない為にも!
「……よし!」
ヤマミは決意の眼差しを見せ、一人で頷いた。
「う…………」
しばらく時間が経った後、ナッセはようやく意識を取り戻した。
白い天井。なんか体が重い。まだ意識が混濁している。
「……あ、ヤ、ヤマミ!?」
「おはよう。でもまだ寝てなさい」
「ごめん」
しょぼくれて謝ると、ヤマミは微かに笑んで首を振る。
「ありがとう。エレナの仇を討ってくれて……」
「でも、忠告を無視して殺陣進……」
すると彼女の手がオレの口を塞ぐ。ヤマミは首を振る。
「あの時ね、本当はスカッとしたのよ……。不謹慎だけどね。でも、あの憎たらしいリッチをボコボコに打ちのめしてくれたのが、実は嬉しかったのよ。それに全員生き延びれた。だから今回は叱らない」
「ヤマミ……」
チョップがオレの額を優しく叩く。
「だけど『無間・殺陣進撃』は金輪際使用禁止!」
「う……うん……」
なんか技名変わってるけど、でも禁止言われるのは仕方ないかぞ。
「これからは殺陣進撃改め、『流星進撃』として新しい技に昇華させなさい!」
流星進撃…………!?
「殺陣進撃は相手を追い詰めて完全に殺し切る物騒な技。あなたには似つかわしいわ。だから数多流れる流星のように、強敵や弱い自分など、いかなる困難に打ち克つための技として、使って欲しい」
「……うん。でも、なんかいい技名だなぞ。ありがとうな」
「それともう一つ。これを撃つ際に、何発放つか予め決めて欲しい」
「え? 何発か?」
ヤマミは頷く。
「もし五発なら『五連星』。十発なら『十連星』ね。……この方が回数を管理できて、どのくらいまでが負担かかるか自分で測りやすいと思う」
一生懸命考えてくれたのかな?
ただ禁止するだけじゃなくて、悪い点を改善しようと考慮して言ってくれている。
最初ヤマミの事を取っ付きにくい人だと思っていたけど、本当は温かいくらい心優しくて、それでいて柔らかい女性。
なんだか安心できるような信頼感がある。
「ありがとう! この技、大事に使うよ! ヤマミが懸命に改良してくれた大技、必ず使いこなしてみせる!!」
「ええ……」
オレはヤマミと安堵の笑みで笑い合う。
──その翌日、ナッセ、ヤマミ、スミレ、リョーコは朝飯を済ませ、ハウス型コテージを片付け、万全な状態でお互い向き合う。そして、その視線は出入り口へ向かう。
「あれがこの『洞窟』の、そして私達にとってのゴール……。行くわよ!」
「うん~!」
「おし!」
緊張で顔を強張らせていた。唾を飲み込み「ああ」と言おうとした。
するとヤマミは手を差し出して、優しい微笑みを向けてきた。
それを見て気持ちがほぐれる。
安心感があって、心が温かくなれる笑顔。そして勇気が湧き上がる。自然と顔に笑みが出る。
「ああ! 行こうぞ!!」
オレは清涼感を胸にヤマミと一緒に並び、スミレとリョーコと共に歩き始めていく。
その先、希望溢れる光が視界に広がった。
あとがき雑談w
スミレ「あの技についてまとめておいたわよ~」
『殺陣進撃』
対集団、または一体集中に、渾身の一瞬連撃を叩き込む大技。
駆け抜けながら、渾身の一撃が何発も同時に等しく繰り出せるのが特徴。文字通り“必殺”技である。
タネ坊とキンタの場合は、使い手がそんなに強くないのでスミレの言われた通り、ただの真似事で普通の連撃に部類される。この為か、二人で分散される上に負担もそんなにないので、連発可能。
『無間・殺陣進撃』
激怒したナッセがリッチを完膚なきまで死に至らしめた技。相手の布陣を壊滅させ、なおかつ標的の命が尽きるまで徹底的に追い詰める大技。スミレの言ってた通り、殺意満々で物騒な技。
その為か、爆発的な攻撃力の分だけ反動はかなりのもの。間違えれば自滅する恐れも大きい。
本来の使い手は現時点では明らかになっていないようだが、これが本来の『殺陣進撃』。
『流星進撃』
ナッセを慮ってヤマミが考え抜いた新たな『殺陣進撃』の型。
敵を徹底的に殺すのではなく、強敵や弱い自分に打ち克つ為が、この技のコンセプト。
使い手の背後に宇宙が広がって見え、流れ星が降り注ぐエフェクトがある。
何発か決めて撃つ場合は『○連星!』と呼ぶ。三発なら三連星、六発なら六連星と言うように回数を管理しやすく、どれくらいが負担になるのか自分で推し量れる。
ナッセ&ヤマミ「///////」(どきどきw)
スミレ「よしw ヤマミとナッセは確実にラブラブだ~w むふふw」
リョーコ「全く……。って、ここはッ?」
ハッ! 何故かベッドの上に!? いつの間に??
スミレ「では頂きま~す~w(ルパ○ダイブ)」
リョーコ「ひええええw やっぱりかぁぁww(寒気全開)」
※どうなったのかは読者の想像に任せますw
ここで一旦、一区切り。故に『洞窟』の話は一旦置いときますw
まだ不明な部分も多いので、完全解決とはまだ言えてないようです……。
黒幕であろう魔女アリエルが何の目的で作っているのか、まだ不可解だ。
次話『ついに異世界へ!? そこでナッセたちは何を見る?』