35話「残酷な結末……!!」
コッツ、コツ……!
崩れたリッチが血の池へと沈み、奇妙な音が収まるにつれて辺りの風景がすうっと普段の洞窟へと戻っていく。
オレとヤマミは互いに支え合うように、攻撃後も姿勢を崩さず、目の先のリッチの最期を見納めた。
フラッとヤマミが体勢を崩し、それを「ヤマミ!!」と胸元に抱えた。
「だ、大丈夫よ…………」
汗ばんでいてぐったりしているヤマミは、心配させまいと笑んでいるようだった。
だが、息切れはまだ途絶えない。かなり疲労困憊。気付けば、手の甲の赤い『刻印』は消えていた。
「すっごいじゃない!! 圧倒的強かったわよー!?」
ボロボロになっているリョーコは痛めた足を引きずって、スミレはスタタタと駆け寄って、オレとヤマミへ集合しに行く。
とある薄暗い部屋……!
「……こいつら、リッチ倒しちまったぜ」
モニターに写っているナッセ達は和気藹々していた。
それを眺めていたヤミロは細い目で振り向く。漆黒の頭巾とドレスの魔女アリエルは「ふぅん」と鼻で笑う。
睨めつけるような妖しい視線でナッセを見る。
「あれがクッキーの弟子ねぇ……。面白そうな逸材、見つけたじゃなぁい」
半透明のモニターを生み出し、キーボードを叩く。そのモニターはリッチの容姿とステータスなどが記されている。現在HPは0になっていて、側のHPバーは赤で染まっていてゼロを示していた。
ほくそ笑むアリエルは一指で、キーボードをタンと弾いた。
するとHPの数値が増え、HPバーに緑がギュイーンと増えた。
「おいおい、ひでぇな……。あいつも悲惨だな。救われねぇぜ。……っつても、どうでもいいがよぉ」
アリエルは狂喜に笑む。
「もっともっと足掻いて足掻いて苦しみなさぁ~い。あなたは私の手で踊る滑稽な人形ぉ~~♪」
コッツ、コッツ、コッツ、コッツ……!
周囲が再び独特な空間に包まれ始める。虹色の靄がかかり、荒野が高低差を生み、Y字の墓標が立っている棺桶が浮かび上がってくる。
「ば、バカなっ!?」
「新手……じゃないわよね~? 完全に仕留めたのに~~? なんでなんで?」
オレ達は驚愕に満ちたまま、周囲を見渡す。ゾクゾクとくる威圧。
ぬうう、と血の池から這い上がってリッチは五体満足で復活してしまう。白面でニヤリと笑み、漆黒の衣がザワザワ蠢く。
「…………い、生き返るスキルでもあったのかぞ!」
「あ、ありえないわよ!! そんなのインチキよっ!!」
「精神生命体と言えども、一度死んでから復活するモンスターなんて……ッ」
ヤマミは息を切らしながら、目の前の光景に絶句。スミレもリョーコも身構える。だが満身創痍。満足に戦える体ではない。ナッセがまだ比較的戦える状態だ。だが、この状況で一人は厳しい。
「う……ううっ!」
そ、そんなの……ありえねぇぞ! どうすればいいんだぞ…………?
絶望の闇に心が沈んでいくのが分かる。
「くっ……! あ、あと少しなのに……ッ!!」
「クククッ、クカカカカカッ!! 残念だったなぁ……!」
リッチは晴れ晴れと両腕を広げて笑いながら、ゆっくりと歩み寄る。
慌てて『刻印』を展開、杖から光の剣を生み出し、身構えた。
「ククッ、貴様らの健闘は確かに見事だった。実に素晴らしい。ここまで追い詰められたのは、主らが初めてだったぞ!」
「ぐっ……」
どう打開するか、思いあぐねていた。
「一興として貴様の夢を聞いてやろう。それを聞いてから逃してやるのも吝かではない」
「な? ……なんだって!?」
呆気に取られる。
「お前の目指す『夢』は何だ?」
骸骨を模した白い指差しに、しばし沈黙して唾を飲み込む。信用はできないが、もうヤマミ達は戦えない。一縷の望みさえあれば、みんな見逃してくれるかも知れない。
「あ、ああ。あんたからしたら下らないかもしんないけど……、オレは魔女クッキーのような偉大でカッコいい創作士になりたいんだ! そして見知らぬ広い世界を渡り歩いてみたいぞ」
「ほう……」
リッチは嬉しそうに笑む。
「良い! 実に良い……! やはり若いと言うのはいいものだな。貴殿のような純粋な夢。何も汚れも知らぬ子供のような夢だが、実に輝きがある。カカカカ……、素晴らしい! 素晴らしいぞ!!」
リッチはまるで友人のように親しげに笑む。
「……この洞窟を出れば外界の世界だ。見た事もないような風景が広がっているだろう。お前はそこへ行って、見聞を広めて、どんな風に成長するであろうか? お前はこれから多くの人と出会い、知識や力を蓄えて、憧れたクッキーへ追いつけるのだろうか? かわいい、かわいいぞ!」
オレの頭を優しく撫でてくる。よしよし、とばかりに。
満足したのか背を向けて歩き始める。
「さて、主らはもう満身創痍。こんな時になんだが、いい事を教えてやろう……」
リッチはくるりと振り向いて向き合う。左右の腕を広げる。
コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ!
「さきほどな、嘘をついて済まなんだ……」
「何を?」
不穏な気配に表情を曇らす。
「貴殿の夢を聞いていたらな、やはり本当の事を言った方が、今後の為にもなるかと思ってね」
怪訝に眉を顰める。ヤマミ、スミレ、リョーコは警戒し、成り行きを見守る。
「エレナは儂が殺したわ……!」
二ヤリと狂喜に歪んだ笑顔を見せ、不穏な殺気が膨れ上がる。ゾクッとくる寒気。
「嘘をついた理由は一つ! 貴様らが無駄に希望を持って儂に挑むように、な。おかげで楽しめたわ……。馬鹿みたいに必死になっている貴様らは実に滑稽だったわ! カカカッ!」
……だ、騙していたのか! だから……、あの時、笑っていたんだな!!
オレとヤマミは失意に暮れる。
「カカカッ! エレナも貴殿のような馬鹿な夢を語っておったわ……。目をキラキラして真っ直ぐに突き進む彼女は素晴らしかったぞ!
最後まで戦い抜いてくたばりおった。最後まで命乞いもせず、と言うのは立派だろうが、所詮死ねば同じ『負け犬』!! そうだ! 立派な『負け犬』よ!!!」
すると後ろの方で嗚咽する声が聞こえた。
ヤマミは次第に悲しそうに顔を歪ませ、俯き、涙が溢れて地面に滴り落ちた。スミレも悲しげにしながらヤマミの背中をさする。
「嘘よ……! 嘘!!」
ヤマミは何度も首を振る。
「そうだ、詳しく語ってやろう! エレナは斬り刻んで串刺しにしたぞ!! 光の塵となって散りおった! やはり負け犬らしい最期!! 負け犬らしい最期ォ!!!」
愉悦に面白おかしく、嘲り続ける。
そんなリッチに、頭を沸騰させていく。
「負け犬!? ……その言葉、取り消せよ!」
リッチは馬鹿にしたようなほくそ笑みで首を傾げる。そして煽るように言葉を続ける。
「『負け犬』と言ったが何か? 掲げる大きな夢を抱いて、無様に儂に殺された。それで終わり。何もならない。馬鹿よな……。負け犬は馬鹿な夢を叶える事すら許されんのだよ……。
貴様らもここで馬鹿な夢を潰えるのだ! エレナのような『負け犬』となってなぁ!
カ~~ッカッカッカッカッカッカッカッカ!!!!」
愉快そうに、リッチは肩を上下させて馬鹿笑いする。それに対してナッセは体を震わせた。
ふつふつ心が熱く滾る。もう抑えられないほどに激怒が溢れていく。
ギリ、強く歯軋りする。
「取り消せ!!!」
「負け犬、負け犬、負け犬、負け犬、負け犬ゥゥゥ!!! カ~ッカカカッ!」
「おおおおッ!!」と激昂して地を蹴る。
「だ……ダメ!! 一人で突っ走ってはダメェ……!!」
手を伸ばしヤマミは泣き叫ぶ。しかし届かない! 止められない!!
「貴様も最期まで戦って死ぬか? よかろう!! 負け犬として惨めに死ね!!!」
ボココッと周囲から骸骨蛇が大量に湧き出てくる。だが疾走を止める気はなかった。
「殺陣進撃!!」
一気に数十匹いた骸骨蛇を全て砕き、瞬時にリッチへ飛びかかる。
「飛んで火に入る夏の虫が!! その一発芸はもう撃てま……」
「殺陣進撃!!!」
怒りに任せた渾身の一瞬連撃が、リッチの全身を斬り刻む。それぞれ衝撃を伴う斬撃が炸裂。
「ぐ、がが、ががぁ!!?」
激痛に見開いたリッチ。そのまま吹き飛ばされる。が、オレは後方に盾を生み出し、それを足場に蹴って間合いを詰める。
絶対に逃すものか!! 絶対に許さない!! 絶対にブチ殺す!!
「殺陣進撃!!!!」
再び、リッチの全身を、四方八方から嵐のような強撃連撃で斬り刻む。
「ぐがあああぁああぁぁあ!!!」
我を忘れ、殺意のままに剣を振るう。
憎しみに満ちた恐ろしい形相。それでいて光の剣は完全に殺しに来ている。それにリッチも畏怖を抱いた。
ズダァン!! リッチは後方の壁に身を打ち付ける。
それでも間を置かず、激情のままに斬りかかる。その時、リッチの目に幻か現か、ナッセの背景に広大な宇宙が見えた気がした。漆黒の夜空には天の川が横切っており、数多の星々が煌く美しい光景。
一つ一つ流れ星が尾を引いて、外側へ向けて放射状に流れて見えるように降り注ぐ。
「殺陣進撃!!!!!」
流星のような数多と、無限とも思える剣戟の嵐がリッチを滅多打ちしまくる。
「が! がが!! がぁああ!! があああああ!!!」
何発も何発も叩き込まれ、終わらぬ渾身の一瞬連撃を浴び、口から夥しい血を吐く。
精神生命体故に気絶する事も出来ず、ハッキリした意識のまま、ナッセの無限剣戟を浴び続けるしかなかった。全身を完膚なきまで斬り刻まれ、その激痛が脳髄に何度も叩き込まれ続ける。まるで時間が無限に続くようだ。終わらない、終わらない、終わらない、どこまでいっても終わらない!
「ま、待て! 許し……」差し伸ばした手も、無情に叩き斬られる。
「殺 陣 進 撃!!!!!!」
問答無用でナッセは宇宙からの流れ星と共に、容赦のない連撃を繰り返し続けた。
リッチは激しく後悔した!
精神生命体になったが故の、生き地獄!!
頼む!! 楽にしてくれ!! 解放してくれぇ!!!
死なせてくれぇぇぇぇぇぇぇええ!!!!!
それでも血塗れの体で、狂ったように何度も何度も怒涛の渾身の一撃を叩き込み続けた。
涙ぐんだヤマミは我を忘れて駆け出した。ナッセを後ろから抱きついた。荒ぶるナッセから振り落とされそうになるも必死に抱きつく。
「もう止めて!! とっくにリッチは力尽きてるわよッ!!!」
我に返ってオレは見開いたまま、動きを止めた。
肩を上下させ続ける激しい息切れ、びっしょり汗ばみ、身体は返り血で血塗れ。
自分がまた一人で突っ走った事を悟った。
「オレって……、ほんとバカだ……!」
反動を無視して連発したせいか、そのままドッと重い疲労に沈むように項垂れて気を失う。ヤマミはとめどもない涙を流しながら、ナッセを胸に受け止めて抱いていた。
ズル……、壁に張り付けられたリッチは崩れ落ちて、地面の血の池へ沈んでいった。ドチャ……。
「いわんこっちゃねぇぜ……」ククク……。
ヤミロは薄ら笑み、アリエルもまた満足そうに笑んでいた。
「あいつも面白おかしく苦しんでくれたわぁ……。今回はこれにて終幕ぅ~。でもね、まだまだ終わらせなぁい。これからも、ずっとずぅ~っとブラックこき使うからぁ~~♪」
あとがき雑談w
タネ坊「なぁ『殺陣進撃』ってお前の思いついた攻撃技だね」
キンタ「せや! ワイが思いついたんや~(嘘)」
タネ坊「全力で撃つと、自分も怪我するから速度に重点を置いてるんだ」
キンタ「せやせや! ワイとタネ坊で『連動』での合体技として繰り出す事で更に負担を減らしてるんや!」
『連動』
最も親しい者同士で接続する事により、その相乗効果で何倍にもパワーアップができる。
はたまた、技の発動の際にかかる負担を二人に分散して軽減する事も可能。
これができるようになれば、冒険も楽になれるぞ。
ヤマミ(いつかナッセと////)
ナッセ(ヤマミとこれができたら……/////)
スミレ「あたしも応援してるよ~~w あなた達ならできるよ~w」
リョーコ(私と一緒になりたい為に応援してるような……(((;゜Д゜))))
次話『殺陣進撃の全貌!? そしてリッチの悲惨な末路……』