34話「実はオレTUEEEEだった!!?」
コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ!
虹色が混ざる靄。高低差のある荒野に、無造作に置かれているY字の墓標を突き立てられた棺桶。
それを荒らし回るように無数の骸骨蛇が飛び交っている。
それに対し、スミレとリョーコは奮戦していた。
掠め取るように地面を滑ってくる骸骨蛇を、スミレは飛び越えつつ肘打ちで地面に打ち下ろした。
「はあっ!!」
リョーコは真正面から骸骨蛇を両断し、惰性でアジの開きのように裂いていった。
汗を掻き、はあ、はあ、息を切らしていた。
キリがない……。今やリッチに近付く事すらできない。
無尽蔵に骸骨蛇が生み出され、上空を頭蓋骨が舞い踊る。
コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ!
「さぁ、思いっきり戦い抜くといい!! さぁ、全力を尽くせよ!! そして貴様らはどんな顔を見せて最期を迎えるかな?」
リッチは嬉しそうに「カカカカッ」と嘲る。悪趣味だ。
頭蓋骨も「死!」「死!」「死!」「死!」「死!」「死!」「死!」「死!」と合唱する。
考え込んでいたナッセを呼び戻し、ヤマミは『使いたくなかった力』を発動するために手を繋いだ。
「夕夏家の名に置いて命じる! 我に隷属せし者の魔力と魔法力を束ね、我が力とせよ! 『奴隷集約』!!!」
オレとヤマミの繋ぐ手に、赤い『刻印』が浮かび上がる。
「え?」
自分以外の『刻印』に驚く。なんかのシンボルだろうか、円を抱えた蛇のラインと、左右に伸びる竜の翼のように見える。
「む!?」
リッチは怪訝に表情を顰める。
「あれは……!?」
「うわぁ~! マジで『アレ』使っちゃうの~~!!?」
「な、なんかヤバイの?」
スミレは真顔でリョーコに向き直る。それでいて裏拳で骸骨蛇をぶっ飛ばし破裂。リョーコも斧を振って骸骨蛇を裂く。片手間に片付けながら会話を続ける。
「実はね『連動』って言うスキルがあるんだけど~、二人の絆が堅く強い時にしか発動できないの。でも発動さえすれば二人の力による相乗効果で凄い力を引き出せるんだよ~~!」
リョーコは、タネ坊とキンタが二人組で常に行動し、共に力を振るっていた事を思い出す。
「そういえば二人が手を合わせてたわね。ひょっとしてソレ……?」
「うん。そうそれ。それでタネ坊とキンタが急激に強くなってたでしょ~? あれも『連動』の効力なの~~!」
「わ、分かったわ。……でもナッセとヤマミのは??」
「……夕夏家はある『特殊スキル』を持つ一族なの~。これは『連動』と違い、刻印した人の意思関係なく、魔力などを強制的に借りて我が物にするチートスキルの一つなのよ~。ヤマミちゃんは使いたがらなかったけどね~~」
つまり、絆いらずで他人の力を借りていけるという事。そして互いに力を振るうのではなく、一方的に発動者のみが束ねた力を行使できるという外道なスキルだ。
「ごめん……ナッセ! でも!」
「いや!! エレナに会いにいくんだろ? だったらオレのを持っていってくれぞ!」
両手でヤマミの右手を包み込んだ。その優しさと温もりにヤマミはゆっくり見開く。
罪悪感に苛まされていたが、後押ししてくれるナッセに和らいだ。エレナと会いたいという目的に集中し、ナッセから流れてくる力を受け止めていく。
だが、ズシリとのしかかる膨大なエネルギーにヤマミは「う……」と呻く。
なに……これ……!?
二人は手を離すが、それでも手には赤い『刻印』が記されたままだ。
「ほ、ホノ!」
ヤマミは恐る恐ると手を翳す。すると巨大な火炎球が轟々と燃え盛って現れる。
自分がいつも出している『上級火魔法ホノバーン』を少し上回る量と質。ヤマミは驚愕に満ちていた。当のオレもビックリだぞ。
「す、凄いぞ!! これが……、ヤマミの力!?」
「ち、違う! 違うわよ! ほとんど、あんたの力よ!」
「え? ええ!?」
「チィッ!」
舌打ちしたリッチは、頭蓋骨や骸骨蛇を総動員させて、ヤマミへと食らわせにかかる。
「死、死死、死死死、死死死死、死死死死死、死死死死死死ッ!!!!」
「で、分裂!!」
ヤマミは左右の腕を広げ、巨大な火炎球がボボボボボボンと一斉に数十個も分裂。展開力も速い!
発動している本人はもちろん、誰もが唖然する。
「ホノ多重爆撃!!!」
腕を振り下ろすと、まるで周囲の戦車が一斉射撃するが如く、けたたましく発砲音を鳴り響かせて超高速で火炎球を射出。ほぼレーザーのように長い尾を引いて射線を描いた。
ドゴ、ドゴゴ、ドゴ、ドゴゴ、ドゴゴゴ、ドゴドゴ、ドゴゴゴォォン!!!
爆音轟く容赦のない爆撃の嵐によって、頭蓋骨と骸骨蛇は一瞬にして消し飛ぶ。更に巻き込まれたリッチが「ぐわああ!!」と絶叫する。尚も明々と連鎖し続ける大爆炎。フロア中に響き渡る空震、地響き。吹き抜ける灼熱の熱風。
「くっ!!」
吹き荒れる烈風にスミレもリョーコも屈んで腕で顔を庇う。ブオオッ!
オオオオオ…………!
辺りに広がる灼熱地獄が轟々と燃え上がり続けた。その光景に、目を丸くして唖然とするナッセ。そしてヤマミ。
「あんた……、どれだけMP多いの?」
怖々とヤマミはこちらへ振り向く。
「え? お、オレはそこまで多いとは思ってなかったぞ。ってか、これなんとかアグリの力じゃないのかぞ?」
「そ……そこまではないわよっ! 良くて三倍ぐらいだと思ってたのよ……」
マジで「今のはホノバーンではない。ホノだ」みたいだぞ。
「ぐがあああああああ!!!!」
リッチの憎悪こもる怒声。灼熱の炎が割れた。代わりに漆黒の衝撃波の壁が噴き上がっていた。怨霊が並んで壁になっているらしく、急速で前進しながら眼前の物を削り散らしていく。数多の棺桶を食い散らかすように破片を散らしてく。
やばい! 本気出してきたぞ!!
ヤマミは胸に強い痛みを感じ、手で押さえる。ズキン、ズキン!
「……エ、エンラッ!!」
払うように腕を振るうと、火炎による閃熱の壁が噴き上げながら前進。二つの大きな障壁がドズン、と激突し合う。地鳴りと共に巨大な噴出の障壁がせめぎ合い、周囲に余波が広がる。だが、ほどなくして漆黒の障壁の方がかき消された。
「な、何ッ!?」
迫ってきた閃熱の壁がリッチを覆い被さった。
「ぐぎゃああああああああああああああ!!!!!」
高速で噴き上げる高熱の壁に炙られ、リッチは絶叫。最後の締めに、眩い閃熱の柱へ収束し天井へと噴き上げていった。
よほど高熱だったのか、辺り周囲は焦げてて黒煙が立ち込める。未だ熱風が肌を熱くさせる。硝煙の臭いが鼻につく。
焦げたリッチは、ズドンと両膝を付き「が……ぎぎ……」と呻く。
先ほどの大ダメージもさる事ながら、見下していた人間どもに魔力の面で打ち負かされた精神的なダメージもまた大きかった。
「ぎ……ぎっ……!」
憎々しげに睨んでくる。
「か、勝てるぞ!! トドメを……」
振り向くと、ヤマミは胸に手を当て、片膝を付いて俯いていた。苦しそうに「うう……っ」と呻いていた。
ま、まさか……。オレのせいで? オレの持つ魔法力で?
ヤマミは「はあ、はあ、はあ」と苦しい息切れで、顔に汗がびっしょり濡れていた。
「だ、大丈夫かぞ……?」
苦しそうにしているヤマミを見て戸惑う。
で、でも……、なぜ? なぜ? オレに……こんな力がッ!!?
「ぬううおおおおお!!! 許さん! 許さん!! 許さんぞぉぉぉぉぉお!!!」
激昂し、全身から邪悪な漆黒のオーラを噴き上げたリッチは、怨霊による漆黒の火柱を無差別にフロア中に噴出させた。
暴走するかのようにあちこち噴き上げる漆黒の火柱。次々と数を増やし、破壊し尽くさんとフロア内を蹂躙していく。容赦なく土砂を巻き上げ、多くの棺桶を砕いていく。
スミレとリョーコはオーラを全開にした防御体勢で、ナッセとヤマミの盾となって踏ん張っていた。
「う……ぐっ……!」
押し寄せる漆黒の火柱にも負けまいと耐え続ける。
激しい猛攻を浴びて、傷が増えていこうとも二人は決して動かされる事はなかった。
ナッセ……! ヤマミ……! 締めは頼んだわよ!!
「…………こ、これで……決着を!」
ヤマミは力を振り絞り、ヨロヨロと立ち上がる。
全身を走る激痛を堪え、弓を引くように左右の腕を広げた。その真上で光の槍が威光を放ちながら、巨大化していくと共に、地鳴りと旋風を巻き起こす。荒ぶるように光の槍から電撃が迸っていく。
ヤマミは目眩がしてグラッと体勢が傾く。が、咄嗟にヤマミを支えた。
「大丈夫! オレがついている!!」
辛そうな彼女を放っておけるものか!
これまで色々教えてくれたり、助けてくれたりしてくれたんだ! 今度はオレがヤマミを支える番だ!!
大袈裟かもしれないけど……、これがオレなりの恩返しだぞ!!
「な、ナッセ…………!?」
間近で触れて支えてくる男。その雄々しい顔が近くて、心が高揚していく。なんだか胸が暖かくなり元気が湧いてくるような気がする。この人となら、どこまでも行けるわ……!
ヤマミは安堵したように笑む。
「……ナッセ、行くわ!」
「ああ!! ヤマミ、行け!」
…………もう、これで終わり!! さらばだ! リッチ!
「レヴ聖槍!!!」
支え合う二人の腕から解き放たれた光の槍は、ドキュッと轟音を立てて放たれた。大地を削りながら音速を超えてすっ飛んでいく。前方を阻む漆黒の火柱すら次々と容易に貫き、逆に散らしていった。
「儂を舐めるなあぁあッ!!!!!」
リッチは自身を覆うように漆黒のオーラで包み、濃密で膨大な魔力で『がしゃ髑髏』が顕現。その骨の両手を重ねて阻む。更に前方にも三つ重ねる暗黒髑髏の盾。全身全霊注ぎ込んだ磐石の防御布陣!
ズドッ!!!!!
リッチは見開いた。ゆっくりと自分の腹を見下ろす。丸くて綺麗な風穴が空いていた。
光の槍は何の障害もなかったかのように、暗黒髑髏の盾、がしゃ髑髏とその両手、本体のリッチの腹、それらをいとも容易く貫通していった。そして遥か向こうの壁まで穿つ。
ズドオオオォォォォン!!!
吹き荒れた衝撃波で壁は吹き飛び、亜空間の空が見渡せるほどまでに開けた。
「ゴ、ゴフッ…………」
リッチは愕然としたまま、おびただしい鮮血を口から噴き、ビチャビチャと地面に流れていく。風穴からも大量の血が溢れて、足元に血の池が広がっていく。
徐々にリッチは白目で崩れ落ち、血の池へ溶け込むように沈んでいった。
ドチャ……!
あとがき雑談w
ナッセ「魔法についてお願いしまーす!」(`・ω・´)
ヤマミ「し、仕方ないわね……/////」(頼ってくれて嬉しい)
『魔法』
日本で普及された術。一般にも認知され始めたのは平成からである。
昔は魔法ではなく、妖術、忍遁、など旧名称は色々あった。
だが、近代化して洋風化しに行くにつれて魔法が正式総名称となり、また魔法それぞれの名称も変化していった。主に平成になってからはRPGゲームの影響でカタカナの短い略語になってしまった。
ヤマミ「よく覚えやすいのが火系魔法ね。ゲームみたいな名称なのは、近代化してからだから。本当はもっと古風な呼び方だったわ」
『火魔法(ホノ系)』
ホノ、ホノビ、ホノバーンと基本三段階。
元々は『炎之玉』『焔之火玉』『焔之火葬柱』が旧名称。
火の魔法は最も最初に開発された術で歴史は割と長い。
ちなみに昔は長い詠唱を必要とし、発動までの時間が長かったが近代化するにつれ、方法も変化して掛け声だけで発動できるように改良された。
昔の正式名称や発動方法が忘れられているのを嘆く古参創作士もまた存在している。
ナッセ「長々と唱えるってのもロマンだけど実用性ないからかなぁ?」
ヤマミ「そうね。唱えるより、殴る方が強いって風潮だったから」
ナッセ「殴る方が強いって、ゲームっぽいなぁw」
次話『やったか!?(おいw フラグ立てるなw)』