33話「精神生命体はチート!!」
リッチが落下したであろう地点で濛々と煙幕が立ち込めていた。警戒をとかず、息を飲んで身構える。
……まだ、まだまだ邪悪な気配が感じられる。
「ナッセ!!」
ヤマミの引き止めるような声に、ハッと我に返る。
即座に場を離れ、ヤマミ達のいる所へ数度ステップジャンプで素早く戻る。
「大丈夫?」
「……少し痺れがある。『刻印』全開中だから、これで済んでる。──けど、しばらく接戦はキツイかも」
現に、まだ「ふう、ふう」息が収まってない。
「じゃあ、剣の魔法に切り替えて行きましょ!」
「あ、ああ……!」
そうだった。オレにはまだ剣で撃つ戦い方もあったぞ……。
ヤマミと並ぶように後衛へ下がる。
そしてスミレとリョーコが前に出ると振り向き、笑む。
「こっちゃ任せなさい!! 斧女子の真髄みせたげるわ!」
「そうよ~~! ナッセちゃんはヤマミちゃんと、あたしとリョーコちゃんでラブラブアタックしましょ~~!」
「それはちょっと……!」
リョーコはゲンナリする。
「はは、なんだかなぁ……」
でもこう言うやり取りでなんとなく元気が沸いてくる。ありがとなリョーコ! スミレさん!
コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ!
ドオオオッ、暗黒の火柱が噴き上がった。地鳴りと共に土砂が巻き上げられる。
オレ達は汗を垂らし、向き直る。
「クカカカ……! そうか、貴様ら……、ピンク小娘の知り合いか!?」
煙幕を掻き分け、リッチは少々血塗れのままで悠々と姿を現した。さっきの大技で大ダメージ受けたはずなのに余裕さえ感じられる。ザワザワ、漆黒の衣が蠢く。
こ、こいつ……、殺陣進撃が効いてないっ……!?
「あんた!! エレナを知ってるの!?」
ヤマミが食ってかかる。リッチは首を傾げ、ニヤリと笑む。
「……エレナ、そうだ。そう名乗っていたな! 少し前に儂に挑んできた愚かな小娘。戦いの最中、貴様らの名前を口走っていたから、主らの会話でもしや、と思ってな……。そうか知り合いか!」
ヤマミがゾワゾワと怒りに満ちていくのが傍目で分かる。
「エレナをどうしたの!!?」
「フン! ……まんまと異世界へ逃げられおったわ!」
目を細め、リッチは親指を立てた拳で、後ろの方へ指す。その奥行きには亀裂があった。
オレら四人は息を呑む。入口と同じ形のものだ。
あれに入れば異世界へ?? エレナは無事そこへ逃げ切れた……?
ヤマミが落ち着いたのが見えて分かる。
「良かったなぞ」
「ええ……」
ヤマミはホッとした様子で頷く。
リッチはニヤリと笑み、ズゥンと重々しい威圧を漲らせる。ビリビリ……!
「……だからこそ、それ故に貴様らを逃す気はないのだよ。雪辱を晴らす意味でな! カカカッ!」
妙だ……。何故笑っているのかぞ?
もうちっと腹を立ってもよさそうなのに、どこか余裕綽々だ。単にボスとしての矜持で、前向きなだけかもしれないが…………。
「なら、あなたを倒して……、向こうの異世界へ行かせてもらうわ!!」
「ええ!! 覚悟しなさいよ!」
ヤマミとリョーコが意気込む。
「無駄だ!! その前に死んでしまってはなッ!!」
嘲りながらリッチは両手を掲げ、周囲の荒野一帯から、土砂を巻き上げて黒い蛇のようなものが飛び出す。先端は蛇の頭ではなく、頭蓋骨。大きさは電車より小さめ、割とデカい。
その数本がニョロニョロ蛇行しながら、一気にこちらへ殺到してくる。
コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツツツ!!
骸骨蛇は噛み噛み鳴らししながら、食いちぎろうとしてくる。
スミレは真剣な表情に変え、いつの間にかゴツいグローブをはめた両拳で構え、その拳に光子の吹雪がまとわりつく。そして輝く拳。
「レヴ・マ~シャルア~~ツッ!! うっりゃ~~~~!!!」
突然、血気盛んにスミレは叫び、拳を振るう。ドゴン、と骸骨蛇をぶっ飛ばす。瞬く間に体を捻って回し蹴りでもう一体蹴り飛ばす。二体破裂。ボ、ボォン!
いつの間にか彼女の靴には頑丈なレッグガードが装着されてあり、付加の魔法で輝いていた。
「スミレちゃんって……、か、格闘できたのかぞ……?」
思わず目をパチクリ。
次々と襲いかかる骸骨蛇をガンガン殴り蹴り飛ばすスミレ。次いでリョーコも斧を振るってザクザク斬り裂いていく。
その様子に唖然としてしまう。
あの明るくてふかふかな癒し系スミレちゃんが……!? えぇ……?
「学院ではアイドル扱いしてたと思うけど、あれが本当の彼女よ」
ポンと肩に手を置いてくるヤマミ。しばし言葉が出せなかった。
「ボサッとしてると、貴様らも死霊の餌食だ!!」
ドドドッ、とあちこち地面から飛沫を吹き上げて、骸骨蛇は数を増す。うねうね、大蛇の群衆のように蠢く。ひょえええ!!
コッチ、コッチ、コッチ、コッチ、コッチ、コッチ、コッチ、コッチ!!
慌てて杖をかざし、真上に光の剣を生み出してパララッと分裂。
「おおお!!!」
ズバババッと発砲し、無数の射線で骸骨蛇を撃ち貫く。ヤマミも火魔法の『衛星』で弾幕を張り、爆炎の嵐を巻き起こし一掃。延々と爆破が連なる。
オレとヤマミが爆撃し、スミレが周囲を薙ぎ倒している最中、リョーコは「いっせーの!」と斧を担ぎ、溜めに入っていた。地面を揺るがし、斧から暴れんばかりにオーラが放射状に吹き荒れる。
そうはさせんとばかりに、無数の骸骨蛇が殺到。リョーコはキッと睨み据える。
ズゴン! 無数の骸骨蛇が一点へ集中し、地面を深く穿つ。が、リョーコは飛び上がって、逆にその長い体を足場に駆け出し始めた。
「む!?」
リッチは訝しげに顔を顰める。
リョーコは増幅中の斧を構えながら、次々と骸骨蛇を飛び乗っていく。そしてリッチ目掛けて天高くジャンプ。精一杯、両手で斧を振りかぶる。充填満タン、気合満タン!
「クラッシュ・バスタアァァァー!!!」
気合一閃、渾身の一撃を振り下ろしながら急下降。激しく迸って唸りを上げる斧が、威光を放つ!
リッチは「グッ」と唸り、数匹の骸骨蛇でとぐろを巻いて囲んでガード。しかし強力な斧の一撃を前に、破竹の勢いと骸骨蛇は何本も両断されていく。
焦ったリッチは咄嗟に手をかざし、暗黒の塊を膨らます。
ズゴガッ!!!
フロア内を響き渡る轟音。
……リョーコは呆気に取られた。振り下ろされた斧は、眼前の巨大な暗黒髑髏を豪快に両断していた。両断されたそれは黒い霧を振り撒きながら徐々に霧散。斧は力を失い、沈黙。
後一歩、リッチには届いていなかった。
「この最高硬度を誇る『暗黒髑髏の盾』を裂くとは、大した破壊力……! が、終わりだッ!!」
リッチは大きく鋭い鎌を手に、首を狩ろうと振るう。しかし、懐にスミレが潜り込んでいた!
「何ッ!?」リッチは見開く。
リョーコは笑んでいた。つまり今の攻撃は囮。本命は浄化系魔法と格闘スキルを持つスミレ!!
「うりゃああああ~~~~!!」
輝く拳をみぞおちに叩きつけ、更に片方の手でそれを押し込む。眩い閃光の束が放射状に広がる。
「レゾナンスびっぐばぁ~~ん!!!」
ズン! 体内に衝撃が叩き込まれ、リッチを中心に光球が一気に膨らんだ! 周囲に光の波紋が広がり、大気と地面に振動が伝わる。
五臓六腑にビリビリと圧力が響き渡る。込み上げる激痛。
「ギ……ギハアァッ!!!」
リッチは盛大に血を吐いた。吹っ飛ばされ、ズガアッと壁に身を打ち付けた。
「うっしゃ!! 会心の一撃~~!!」
歓喜して拳を振り上げるスミレ。
だがオレはスナイパーのようにしゃがみ込んだ体勢で身構えたまま、光の剣の切っ先を向けた。
側にいたヤマミは怪訝な顔を見せた。
ドウ!! 発砲音を轟かせ、反動で後ろへ仰け反るも撃ち出された剣は大気を切り裂き、一直線の軌道を描いてリッチへ目指す。するとリッチはサッと横へ飛んだ。剣はズガッと壁に突き刺さる。さっきの一撃を受けたにも関わらず素早い動きだ。
「……あいつ、どういう訳か、全然効いていないみたいだぞ!?」
するとヤマミのチョップを額に喰らう。いてぇ!
「馬鹿ね! 精神生命体なのよ?
普通の生き物のように体に損傷を受けたら、動きが鈍るとか、意識が朦朧するとかない! 気絶もしない!
……生命力の容量をゼロにしない限り、平然と動き回り続けるのよ!!」
そ、そういや幽霊が気絶するとか想像つかないもんな……。
「カカカッ! 物知りよな……、ナッセよ覚えておけ! 我ら精神生命体は不滅の肉体と永遠の意思があるのだ! 貴様ら人間のように睡眠、食事、性欲などと無駄な生理現象はない! 故に効率よく活動できるのだ!」
永遠の意思……。つまり、眠らず、気絶せず、ずっと永久に思考し続けられるって事かぞ…………。
長引けば絶対不利だ。向こうは一日中動き回ってもなんともない。極端、全力で走り続けたって息切れなんかしない。例え大ダメージを受けて瀕死になっても、生命力がゼロにならない限り、無傷のように動き回り、最大攻撃力で攻め続けられる。
まるでゲームのキャラみてぇだぞ……。
こ、こんなチートボス、デタラメだ……! ど、どうすればいいんだっ!?
「ナッセ! 落ち着いてッ!」
ハッと我に返る。しまった考え込んだ……。
「す、すまん…………」
気付けばスミレとリョーコが骸骨蛇を相手に奮戦していた。それでもドドドドッと骸骨蛇は次々と地面から這い出てくる。キリがないぞ。
「あなたって、私がいないとダメね……。でもちゃんとフォローするから安心して!」
いつもの厳しい口調。だけど表情は柔らかくて優しかった。なんとなくポカポカしてくる。
すると握手を求めるように、ヤマミは手を差し出した。
「……本当は『こんな力』なんか使いたくないけど、お願い! 力を貸してくれる?」
「ああ! もちろん!!」
横に並んでヤマミと互いに手を繋げた! ガシッ!
あとがき雑談w
ナッセ「スミレちゃんって可愛いと思うけど、気付いたらときめきが消えていた……」
リョーコ「うん。その直感は正しいと思う」(`・ω・´)
ヤマミ「そりゃそうでしょうね……」
スミレ「まぁまぁw ナッセちゃんに好かれてもしょうがないかなw」
ヤマミ「何気に酷くない?」
ナッセ「好みの問題だし、しょうがないぞ」(`・ω・´)
リョーコ「思ったんだけど、ナッセって天然……? それとも割り切ってる?」
ヤマミ「前者だと思う……」
スミレ「前者だね~w 鈍いし~w」
ナッセ「???」(´・ω・`)?
次話『ついにチート発動!? ナッセとヤマミの協力攻撃!』