32話「特上位種!! ボス戦リッチ!」
ヤマミと一緒に最終フロアへと駆けつけ、足を止めた。精悍とした二人の視線は、向こうの光景を見据えていた。
「なに……これ……?」
後から追いかけてきたリョーコは呆気にとられる。スミレも険しい表情を見せていた。
コッツ、コッツ、コッツ!!
最終フロアは奇妙な空間で包まれていた。洗剤を混ぜたような虹色のモヤ。辺り一面、デコボコな高低差のある荒野の墓場だが、普通とはまるで違う。無造作に多くの棺桶が置かれ、その上をY字の墓標が突き立てられている。その穴から溢れている赤い液体が煤けて乾いている。まるで墓標が棺桶を貫くかのような怖気走る風景……。
渦を巻いて鳥のように群れをなす数多の、頭蓋骨……!
コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ!
頭蓋骨が顎でガチガチ鳴らしているのだろうか? 不気味だ……。
こちらを振り向くなり「死!」「死!」「死!」「死!」「死!」「死!」「死!」と合唱してくる。まるで嘲るようにそれを連呼し続けていた。
こんな不気味な光景……。似たような事が前にもあった。
巨大な女王人形に遭遇した時も、そうだった。カラカラと鳴らし、手下の人形が襲ってきた。そして後に出てきた巨大な女王人形はとても強くて、マイシが撃破しなければどうなっていたか想像したくない。
その悪夢が、また別の形で再現されたのだ。
「カカカッ! ……おやおや、また人間様がたどり着いてきたか!」
オレとヤマミは汗を垂らし、睨み据える。フロアの向こうの奥底に、装飾や宝石で飾った黄金の王座に、漆黒の衣を纏う大男が佇んでいた。
カクカクと曲がった鋭い角が一対頭上に、頭蓋骨を模したような白い顔面、唇はなく歯が剥き出し、二つの白い目が生き生きと瞬きする。首周りの衣には外部向けに角のような刺が生えていた。
重苦しい威圧を振りまき、威風堂々としている。
これまでのモンスターとまるで違う……。恐らく、あの巨大な女王人形と同等か……?
「特上位種……」
ヤマミが呟く。彼女へ振り向くと、頬を汗が伝っている。
「上位種の更に上を行く、特上位種……。主に自分の周囲に独特な空間を発生させ、自分の小さな分身で囲む。簡単に言えばボスクラスのモンスターよ」
「そ、そんなのが……?」
初耳だぞ。じゃあ、あの巨大な女王人形も特上位種か!?
なら、めちゃくちゃ強いのも頷けるぞ。
「その更に上が『魔王級』……。伝説級のモンスターで、滅多にお目にかかれない。出会ったら最後、殺されるのがほとんどだわ。その更に上が『大魔王級』なんて噂もあるけど、笑える話よね……」
自嘲するヤマミ。上には上がいる、と言う事だろう……。凄すぎて身震いするくらいだぞ。
でも魔王“種”ではなくて魔王“級”? ……どうせなら下級、中級、上級、特上級と、統一して欲しいぞ。
「ようこそ! 愚かな人間ども、たっぷり歓迎してやろう……!!」
スウッと、威厳ある直立。衣の左右から骨のようにゴツゴツした白い手を見せ、狂喜の表情を見せる。
「大丈夫!! オレ達は強くなってるぞ!! ちゃっちゃっとアイツ倒してクリアするんだぞ!」
「ええ!! もちろん!」
励まし合って、お互い鼓舞させる。
彼女の凛々しい笑顔を見ていたら、なんだか勇気が沸き上がってくる。
右手から『刻印』を解き放つ。紋様が輝き、大きな『星』印を囲む円に小さな星を三つ生み、光の剣を杖の先端から伸ばす。
ヤマミも身構え、側に円形の盾を生み出す。
「ほう……! 威勢がいいな……。では、これはどうかな?」
リッチはカッと見開く。暴風のように威圧が所狭しと吹き荒れた。ズォアッ!
地面を揺るがし、土埃を巻き上げ、石礫が吹き荒ぶ。ビリビリ、体を貫くような衝撃。恐怖が染み込む感覚……。ミノタウロスの威圧なんかとは比べもんにならねぇ……ッ!
だが、オレ達だって成長してきてるんだぞッ!!
「おおおッ!!!」
「はあっ!!」
ヤマミと一緒に負けじと気合いを吠えた。衝撃波が周囲に広がる。
「はああああああ!!!」
後ろのリョーコもスミレも気合いを漲らせ、四人揃った威圧で返して、リッチの威圧を相殺。
ズン、と重々しい衝撃音がした後、地響きしていた荒野は徐々に静まり、暴風も緩やかに収まっていく。
「ほう! ほうほうほう!! 儂の威圧を弾くとは……、相当な手練れと見た!
よかろう……! 儂が名は不死王リッチ・デスシ!! 汝が魂に刻むが良い!!」
バサァ、と破けている漆黒の衣が拡大し、リッチは浮上する。
コッチ、コッチ、コッチ、コッチ……!!
スミレは両手を挙げ「レヴ・フカーズ」と唱える。光子の吹雪が舞い、ナッセ、ヤマミ、リョーコを包んで染み渡る。
「スミレさん? 今、何を?」
「ナッセ。タネ坊の兵器でも巨大な女王人形には全く効かなかったでしょ?」
「あ、ああ……。確かに」
「うん! HO☆MOズのランチャーでも全然ダメだったわ」
さそも当然のように、余計な一言添えて言うリョーコ。
「リョーコお前なぁ……」
そういや、なんで機関銃やランチャーで傷一つつかないのか、不自然だったなぞ。
例え単に頑丈でもランチャー食らったら無事では済まさない。そうでなくても酷い火傷がつくはずだ。
「特上位種からは精神生命体に近くなるから、物理攻撃が効きにくいの~!」
「精神生命体!?」
驚くオレの肩に、ヤマミは手をつく。
「早い話、幽霊って事よ……」
「ああ、なるほど……。幽霊に兵器効くわけないもんな」
ヤマミは頷く。
「だから霊属性を付加しておいたよ~! これであいつにダメージを与えられるようになったよ~~!!」
「おお! サンキュ!!」
頼もしい、この援護で心強く感じた。
この場面で、僧侶がいるのは助かるぞ! あん時はいなかったもんな。
「ほうほう? 僧侶がいるか……! これは大いに駆け引きを楽しめそうだ。一方的ばかりじゃつまらんからな……。行け!!」
リッチが大仰に腕を振ると、骸骨がビュンビュン、ナッセらに飛びかかる。
「死!」「死!」「死!」「死!」「死!」「死!」「死死死!」「死死死死死!!!」
「行くぞ!!!」
戦意を漲らせ、駆け出した。疾風のようにジグザグ駆け抜けながら光の軌跡を幾重と踊らす。何十匹もの骸骨を斬り散らし、一斉に爆破。ドドドド!!
「いっせーの……!」
リョーコは斧を引き、オーラを収束。迸り、唸りを上げ始める。
ヤマミは挙手し『衛星』で轟々と燃え盛る巨大な火炎球が浮かび上がる。更に同じ大きさでポコポコと分裂。まるで恒星群のようだ。
「バースト・ホノバーン多重爆撃!!」
挙げていた腕を振りおろし、一斉に巨大な火炎球を撃ち出す。絨毯爆撃で広範囲の骸骨を一掃。劈く爆音が鳴り響き、噴き上がった火柱の群衆が周囲を広々と焼き尽くしていく。
「スラッシュ・スレイヤァァ────!!!」
「ぬ?」
視界を覆う爆炎を裂いて、大きな三日月の刃が飛んできた。リッチは見開く。火柱は目くらましかッ!
咄嗟に上昇してこれをかわす。
ズゴォオオオオオオン!!
後方で岩壁が爆砕。当たっていたら大ダメージは免れぬとリッチは察した。
だが、目の前にナッセが迫っていた。
なんと円形の盾を足場に、こちらと同じ高度で突っ込んでくるようだ。リッチは「何!?」と驚愕する。
「進撃よ!!」
ヤマミの合図!! オレはカッと見開く! リッチはその殺意にゾクッとする。
「殺 陣 進 撃!!!!」
四方八方から渾身の一撃が同時に等しく降りかかり、リッチの全身を激しく斬り刻んだ。
頭上、肩、腕、脇、胸、腹、足、衝撃を伴って襲う斬撃に、リッチは見開いて呻いた。
「が!!!?」
まるで全身の骨ごと粉砕されそうなほどの、苛烈な激痛が染み渡る!
「ぐがあ、あ、あぁ、あ!!」
ブシャーッと、全身から血飛沫が放射状に噴き上げる。
ズドドドドドドドドドド!!
遅れて鳴り響く連撃音。吹き荒れる嵐と共にリッチは一気呵成と吹き飛ばされ、後方の王座もろとも地面に叩きつけられ、衝撃波がズガアアァァンと吹き荒れた!
濛々と煙幕が立ち込める。
スタッと降り立つ。
「はぁ……、はぁ……はぁ……」
震える右手首を左手で押さえ、苦しそうに息を切らしながら、先を見据える。
やはり……大技の反動は重い……。『刻印』全開中でさえ、全身に軽い痺れが走っている。だが、以前のように全身を走る激痛に苛まされるよりは遥かにマシだぞ。
「……やったか!?」
ヤマミは呟く。それ言っちゃダメぇ!
あとがき雑談w
スミレ「こいつら強すぎるわよね~w」
リョーコ「いずれもボス格だけど、女王人形みたいにフィールドを徘徊している初見殺しもいるらしいね」
『巨大な女王人形』(悪魔族)
威力値:24000
様々な小さな人形兵士を従え、迷い込んだ人間を斬り刻むぞ。女王人形は三階建てのビルより大きく、その超高速重量攻撃は高層ビルさえ薙ぎ倒してしまう。
精神生命体なので、物理攻撃はほとんど効かない。光か闇の霊属性で攻撃しよう。
カラカラと鳴く。特上位種。
『不死王リッチ・デスシ』(アンデッド族)
威力値:31000
空を飛ぶ頭蓋骨の群衆を従える。漆黒の衣は自由自在に動かせ、武器にも防具にもなる。知性があり、流暢に会話もできる。ボスらしく威厳があるが、性格がかなり悪い。
精神生命体なので物理攻撃は効果がない。光か闇の霊属性で攻撃しよう。
アンデッドに部類するため、僧侶系の浄化系も効果がある。
コッチコッチと鳴く。特上位種。
現在判明しているモンスターのランクは下位種、中位種、上位種、特上位種、そして魔王級、大魔王級が存在している。
ちなみに『~種』と『~級』で分かれている理由は、今のところ不明。
次話『精神生命体とは一体!? 通常生物と違う?』