29話「快進撃!! 四人のパーティー!」
……先へ進めば進むほど、モンスターの遭遇率が増しているぞ。一体どうなってるんだ?
傾きの違うフロア同士。岩山と草の向きがそれぞれ違う。不自然なくらい広い。
あちこち木々が立ち、昼だからか隅々まで明るい。
ナッセ、リョーコ、ヤマミ、スミレは精悍とした表情で身構える。
大きなカタツムリことハイパークミーンに、意地悪婆さんの顔面に八本の足を生やす人面大蜘蛛、胴体にリボルバーを備えたメカ犬のガンナードッグ。いずれも中位、上位種に位置する。
「ピィピピピ」
「ギギギ」
「ワォンワォン!!」
殺気立つモンスターが唸る。続々と飛び出して襲いかかってくる。
「行くわよ!!」
ヤマミの火系魔法の『衛星』が威光を放つように浮き、パラパラと分割した側から次々と撃ち出されていく。無数の射線がモンスターの群衆へ襲いかかり爆炎が上がる。
しかし耐えたガンナードッグが何匹抜け出し、口を開けると火花を散らして弾丸を連射。
「盾!!」
ヤマミの前に回ったナッセが盾を展開して、弾丸をギンギン火花を散らして弾く。他の流れ弾は大地を穿ち、壁をも穿つ。鋭い射線を見るに、本物の銃と変わらないのだろう。
パパパパパパパパ!!
発砲音と共に、穿たれた地面や壁から土煙が舞う。やべ! リョーコが!!
オーラで全身を包んだリョーコは腕を交差して踏ん張っていた。なんと弾丸はことごとく弾かれる。
「ふう」
リョーコは平然としている。大丈夫そうだ。ってか無傷とか、ヤバい硬さだなぞ。
弾切れか、ガンナードッグは顎を上げてガションと声を立てる。リロードか?
その隙を逃さず、ヤマミは挙手。背後から光の玉が浮かび上がる。
「爆発系魔法バクボ連弾!!」
掌を振り下ろす。分割された光の玉がばらまかれながら撃ち出され、爆発が連続で轟く。まともに浴びたガンナードッグを何匹か木っ端微塵に砕く。
噛み付かんと飛びかかるガンナードッグを光の剣で三日月の軌跡を描いて斬り裂く。一匹、二匹、両断して爆砕。ド、ドン!
リョーコを見やると、手早く斧で数匹を叩き割っていた。
「てやーっ!!」
回転する大きな殻を、スミレが横から強烈な飛び蹴りで押し倒す。意外な光景に驚く。
倒れ込んだ殻に、そのままスミレは踏んづけるように着地し、両手で抱えた水晶玉を振り下ろす。
「レゾナンスどーん!!」
ズン!!
広がる波紋で地面に振動が伝わる。ビシビシ、蜘蛛の巣のようにヒビが広がった。やがて殻の穴から体液が溢れた。オーラを内部に伝達させて、内蔵などを破壊したのだろうか?
スミレちゃん、意外とおっかなくね……?
「ヒェタワーズ霜柱槍!!」
ヤマミは地面に手を置いて、無数の氷のラインを走らせた。それは次々と巨大な氷の剣林を生やし、ガンナードッグをザクザクと串刺し。ついでに数匹のハイパークミーンの回転する殻を阻む。即座に巨大な火炎球のホノバーンを撃ち込んで、灼熱の火柱を噴き上げて焼き尽くしていく。
こちらにも、トラックのように迫り来る巨大な殻が回転しながら襲って来る。
炸裂ダッシュで地面を蹴って天高く飛んでかわす。殻はズガァァンと壁に激突。
天井へ足を付け、再び炸裂ダッシュで急下降。「おおお!!」と気合を発し、反射してきた殻めかげて光の剣を振り下ろす。
その時、刀身に魔法力を上乗せさせて鋭く煌めきが増した。
「スターライト・フォールッ!!!」
正に流星が如く、鋭く煌く軌跡が地面を穿つほどハイパークミーンを両断、爆砕。爆風の最中、真剣な表情で次の敵を見据える。
よし! シンプルだが“技”の手応えがあった! イケる!!
ガガガガガガガガガガガ!!
一方、リョーコも大蜘蛛の多脚による連打を、斧で打ち合ってラッシュを繰り返していた。だが、斧の威力で押し切るように、脚をバキバキ砕きまくる。
「ギギィェェェエエ!!!」
砕かれた脚の激痛で呻き、のたうち回る。
「せいっ!!」
リョーコは振り上げた斧で、大蜘蛛の顔面へ振り下ろす。刃がめり込み、体液が噴き出る。
「ギェピィィィ!!!」
断末魔を上げる大蜘蛛を、リョーコは最後まで「くのおおお!!」と力任せに両断しきって、ズドンと大地ごと断ち割る。おびただしい鮮血が飛び散った。
そのリョーコを撃とうと口を開けるガンナードッグに、光の剣を超速で飛ばし口から串刺し。ドガァッと粉々に爆砕。
……よし!
「ありがと!」
「おう!」
オレはリョーコと互いに通り過ぎ、反対側のモンスターへ得物を振るう。
ヤマミとスミレは安堵したかのように笑む。
もうそれぞれが上位種を相手に苦もしない。オレはもちろん、リョーコにとっても敵ではない。
「ナッセ! 撃つわよ!」
「ああ!!」
ヴィン、挙手したオレとヤマミの真上から、光の剣と火炎球が『衛星』として浮かび上がる。
「スターライト・アローバレッジ!!」
「バースト・ホノビ連弾!!!」
ヤマミと一緒に腕を振りおろし、『分割』や『分裂』による弾幕でモンスターを複数、爆撃の嵐に巻き込んで一掃。
逃れたモンスターをリョーコとスミレが強烈な一撃を加え、その二匹がガンと激突し合う。
「ホノバーン!!」
すかさずヤマミは巨大な火炎球を放り、獰猛に火柱を噴き上げて屠る。
ヤマミの隙を狙って撃とうと群がってきたガンナードッグを、巨大な剣である太陽の剣で横薙ぎ一閃。裂かれたモンスターは次々と爆砕。ドガドガドガガン!
このように互いの隙を埋めて、交互に攻撃を繰り返していた。もはやこの四人に隙はない。
光の剣が軌跡を描き、魔法の衛星が弾丸を射出し、斧が大地もろとも粉砕。逆にモンスター達の悲鳴が続々と響く。
四人の破竹の快進撃に、数で勝るはずの上位モンスター軍団はことごとく駆逐されていく。後続のモンスターは恐れおののき尻込みしていく。
「いっちゃいなさい!!」
ヤマミの掛け声でオレとスミレはババッと離れる。
「いっせーの!!」
なんと轟音を鳴らし大地を揺るがしながら、身構えるリョーコのオーラが斧から放射状に滾っていた。
「スラッシュ……、スレイヤァ──ッッ!!!」
大振りの横斬りで、大幅な三日月の刃がすっ飛ぶ。それは数十匹モンスターを一気に上下と裂き、その勢いのままに向こうの岩壁に幅広い亀裂を刻んだ。両断されたモンスターは白目、血飛沫を噴き上げながら、崩れ落ちた。
ボボボボボボン、と肉塊、血もろとも煙となって風に流れていった。シュウウ……。
ザッとオレと、ヤマミ、スミレ、リョーコはそれぞれ身構えたまま静止。油断なく周囲に気配がない事を確認し、ふうと肩を落として息をついた。
「お疲れ~~!」
にっこにこなスミレ。ヤマミは「ご苦労様」とクールに髪の毛を掻き上げる。
リョーコはこちらへ笑んで、手を挙げてくる。あ、そうか!
それに気付いてパンとリョーコと手を張り合う。
「ナイス!」
「そちらこそ」
リョーコと笑み合う。
どことなくジェラシーな視線を感じる気がする。振り向くとにこにこなスミレ。いつもの笑顔だけど、なんか雰囲気が違うような……。背後から炎が、ゴゴゴゴ……。
さ、錯覚かなぞ……?
「げげ!」
そしてリョーコもなんか引いてて萎縮してるぞ。何があったんだよ……。
……とは言え、戦闘が多くなった分、お互いで補い合う戦い方や自分の戦い方を模索するのも、やりやすくなってきた。
まるでRPGゲームやってて、四人パーティで洞窟を進んでいるみたいだぞ。そして経験値を積んでレベルアップしている気分になる。なんかいい気分だぞ。
気のせいか、オレ自身の力もぐんぐん増してる気がするぞ…………。
更に数時間くらい突き進んでいると、今度は交差点になっている奇妙な広大なフロアだった。
苔、草、木々。鍾乳石のような上下の岩山。その辺りの風景は今までと変わりがなかったが、二つの立法長方形が交錯するようになってる形の空洞だった。
ざわ……!
「ヤマミさん……」
「ええ。この気配……」
先頭にいたヤマミと並ぶと、彼女の顔が強張っているのが見えた。冷や汗も窺える。
その視線の先、交差点になっている十字の広大な通路。その左側…………。
どうも嫌な胸騒ぎがする。
気になって一歩一歩、慎重に足を歩ませる。少しずつ左側の通路の奥が見えてくる。何故か背中に濡れた冷や汗が冷たい。
……なに……これ……!?
ズズズ……、左側の通路の奥行に底知れぬ闇が見えた。それはただの闇ではない。黒い茨の触手が天井、壁、床を這うように蠢いていた。それは絶望に染める邪悪なオーラ。
オレ、ヤマミ、スミレ、リョーコ、四人とも顔を強張らせ、冷や汗がびっしょり吹き出ている。言葉が出ない。誰もが静止している。足が震える。
それだけ、凶悪に歪んだ触手のようなオーラだ。ただ漏れ出してるだけのような感じだが、それだけで誰もが絶望に苛まされるような感覚を覚えた。
あの圧倒的に強い武劉フクダリウスや、龍史マイシすら、可愛いと錯覚しそうだ。
脅されていたのが些細な事と思えてしまう。今なら、喜んで引き受けてしまってもいいとさえ容易に思ってしまう。
それほどまでに、途方もなく深く、そして濃密で膨大な闇……。
それはこの洞窟を作った『主』からなのか?
有り得る……。
この洞窟自体、広すぎるくらいだ。時空間魔法だとしても、生成や維持にかかるエネルギー量も想像つかない。
一人か? それとも大勢か? あるいは……、人ならざる者なのか??
ただ、分かるのは! そこへ曲がって行ってしまったら、確実に、もう、帰れないッ!!
「み……んな、左には……曲がらないで! 真っ直ぐ……進む……ッ!!」
「あ、ああ!」
振り絞ったであろうヤマミの忠告に頷く。正直、ここにいたら気が狂う。さっさと通り過ぎてしまいたい!
それでも、誰もが一歩一歩前進するだけで、とてつもなく体力をこそぎ取られる気がした。精神をすり減らされる。とても時間が長くなってくる気さえした。
まるで一歩進むのに、数十分かかってるような錯覚さえする。
極限な緊張が四人を包み、心音が聞こえるほどまでに高鳴り続けていた。気付けば、過呼吸気味になってきている。どうりで息苦しいワケだ……。
気付いたら、ヤマミの手がこちらの手を握っていた。恐怖で震えているのが分かる。まるで「離さないで!!」と言わんばかり強く握ってくる。
ヤマミの顔を見ても、こちらへ振り向く余裕などない。依然、強張っている。
藁に縋っているだけかも知れない。無意識かも知れない。それでも頼ってくれている……。オレは『漢』として勇気を奮い立たせた。
「……一緒に行こう!」
返事は来なかった。だが握ってる手の感覚で、少し安心してくれた気がした。
────ついに魔の交差点へ、足を踏み入れた。
その瞬間!
ガクン、と角度が変わった。床が断崖絶壁に! 左側の通路が、穴に!! 宙に放り出され、絶句する四人!
な!? 同一フロアなのに! 重力の向きが!!?
「うわあああああああああああああ!!!!!」
あとがき雑談w
ナッセ「この洞窟を作ったヤツって何者だろ?」
リョーコ「ものすごーくヤバいヤツじゃない?」
ヤマミ「いつか倒さなきゃならないとなったら、今のままじゃ無理ね」
スミレ「あたしはリョーコとなら、どこへでも行けるよぉ~w」
リョーコ「だからなぜ、そんな話になるの~!」(怯え)
スミレが背後からリョーコの腹を腕で交差させて捕まえる。
なんか色っぽいスミレがリョーコの耳を艶かしく甘噛み……。
ナッセ「まるで百合カップルみてぇだぞ///」
ヤマミ「そうね///」
リョーコ「そんな事言ってないで助けてぇぇー!!」(絶叫)
次話『ついに現る! 洞窟の主!?』