2話「緊張の自己紹介で……ですっ!」
大阪アニマンガー学院。
表向きは、プロ漫画家やアニメーター目指す人が技術を学んでいく専門学校となっている。
だが、実態は違う。師匠が言うには、創作士を養成する為の学院だ。簡単に言えば、人間社会に紛れた魔法学校のようなもんだぞ。
でも本当に魔法学校だったら良かったぞ。
どっかの某小説のように、遠くの険しい山岳地帯に建つ洋風の城みたいな魔法学校だったらロマンがあるのにな。
一年生の教室、普通の学校と変わらぬ広さと、等間隔に並列する机椅子。既に入学生でごった返ししていた。
入口手前で見せていた威勢はどこへやら、落ち着けずソワソワと見渡す。
見知らぬ人でいっぱいだ。自分は人見知りするので、これは落ち着けない。
するとエレナが笑顔で手を振っているのが見えた。
あ……入学生だったのかぞ。ってか生徒会長さんもいる。
エレナの側に黒髪姫カットの生徒会長に、アイドルのような超絶美少女もいる。
すると生徒会長がこっちを見て、僅かに見開いてきた。しかし落ち着きを取り戻してキッと厳しい視線を送ってきた。
「前に座ろっか?」
リョーコははにかんだ笑顔でグイグイこちらの裾を引っ張る。
だが目立つのが嫌なので、教室後方の空いた机へと目指す。
「ちょっ、ガンスルーしな──い! 行こ!!」
「え──……」
ジト目で見るも、構わずリョーコに手首を引っ張られて、教室前方の席へずるずると連行されていった。
半ば強引に、リョーコと相席で座る事になって落ち着かず、もじもじする。
なにしろ、女子が間近にいるのだ! 冷静でいられないぞ!
「もしかして照れてる……?」
ぎくっ!
「そ、そんな事ないぞ……」
顔を赤くして視線を逸らしてしまう。
「ふ~ん?」
チラっと見たら、なんかニヤニヤしてる……。
それでも可愛い顔だから、そんなに見つめられると身体が火照って熱くなりそうだぞ。
ああああ!!! これだから女子への免疫がない童貞は嫌だぞォォォォ!!
「はいはい、お静かに!」
先生が拍手すると、騒然としてた場が沈黙した。緊張に包まれていくのが分かる。
先ほどの事でオレは意気消沈していた。ぷしゅ~!
ゆっくりと初老の長身のおじさんが歩いてきて、にっこり優しい笑顔を見せた。どこか貫禄を感じさせる雰囲気を醸し出していた。
「私は大阪アニマンガー学院校長の出薄ヨネオ。
創作士のみなさん、それぞれ夢と信念を抱いて遠路遥々入学ご苦労様です。
畏まらず、気楽に自分の好きな『創作』をしていきましょう。
決して無理して命を落とすでもない。第一に自分を大切にな。各々の健闘……、いつでも私は応援しているぞよ……」
そう言うと穏やかな顔で歩き去っていった。
「『創作』……か」
緊張し、顔を強張らせた。息を呑む。そのままの意味に受け止めれば、単純に漫画など『創作』をやっていこう。ってなるんだろうが……。
やはり『創作』とは、創作士としての能力の事だろう。
「え──、みなさん自己紹介お願いします。あと創作士としてのクラスも忘れずにね」
先生が拍手し、促す。席順に席を立ち、生徒は自分の名前などを言い連ねていく。
「僕は和久モリッカです。趣味はフィギュア集めです。クラスは魔道士です!
世界を滅亡させるほどの……いえ、世界も認める立派な魔法使いになれるように頑張っていきますっ!!」
いかにもな魔法使いの緑色のローブを着た細身の青年。童顔で大人しそう。魔道士と言うのは魔法を使う者の総称だ。
何気に恐ろしい事を言いかけた気が…………。
「俺は森岳タネ坊。以前は自衛隊をやっていました。クラスは暗殺者です。漫画家になる為に頑張っていきます。よろしくお願いします」
丁重に会釈する細身の男。縦の楕円形の顔型に、丸い目とタラコ唇というデフォルメっぽい癖に、キリッと引き締まった表情から歴戦さが窺える。
数々の戦場を潜り抜けた貫禄が感じられた。見た目ギャグキャラっぽいのに。
「ワイは大珍キンタや。みなさん笑わせたるわ。ほなクラスは蛮族や」
陽気な感じだが、体格は大柄なデブ。垂れ目で前髪が後退しててデコが広い。
どう見ても見た目オッサンだが、タネ坊と同様、数々の修羅場を潜り抜けた歴戦の戦士としての気配はあった。
見た感じ、タネ坊とキンタ二人は一緒に組んでいる。
脳裏に、相棒と意気投合して自分と一緒に得物を構えていくシーンが浮かんだ。
信頼できる相方。共に背中を預ける仲。それを想像すると、じんと感動が染み込んでくる。
「……相棒か。憧れるなぞ」
「じゃあ、あたし頑張るー!」
笑顔でガッツポーズをするリョーコ。張り切っているようだ。
「り、リョーコと……?」
「またまた~、照れんな~!」
リョーコはにっこりして、背中をポンポン叩いてくる。親しげに叩かれるのも恥ずかしいぞ……。
なんか視線を感じて振り向くと、未だ厳しい視線で見てくる生徒会長さん。
美人ではあるがおっかない感じだなぞ。
視線が合っても妙に見つめてきたままなので、そのまま気にしないつもりでこっちから視線を外した。
「あ……!」
なんか掠れるような声がした。……まさか生徒会長?
その後「あらあら~銀髪ちゃんが気になる~?」「か、関係ない事よ……」とか会話聞こえた気がする。
気になるけど、怖くて振り向きたくない……。
ガタッと勢い良く立ち上がる女。赤髪のセミロング。キリッとしたツリ目。
「あたいは龍史マイシ! 剣士として、世界一を目指してるし! 同じ剣士なら負けないし! そこんとこヨロシクだし!!」
強気で活発にアピールし、不敵の笑みを見せる。腰から剣を引き抜き白刃を煌めかせた。堂々過ぎて隠す気ないな。同じ剣士に戦意剥き出しだし、絡まれたら面倒だから極力関わらんとこ。
そもそも同業者をはっ倒してまで世界一の剣士とかなりたくないぞ!
「僕は創也コハク。クラスは槍士。充分一人で出来るので協力は要らないし断りますね。普通一人で出来るのが当たり前でしょう」キリッ!
紫のクールなロング。整った顔立ちに自信満々が溢れる。正にイケメン。側のリョーコもウットリの美形男性。
だが、どことなく高圧的っぽいし、あんまり関わらない方がいいかな。
ついに自分の番が来て思わず立ち上がる。ガチガチ強張ってしまう。
「お、オレは城路ナッセ。セ、剣士です!
師匠のようにカッコ良くて偉大な創作士にオレはなる、なります! あ、なりたいです!
よ、よろしくお願いするぞ、ます!」
我ながら呂律が回らず恥ずかしい紹介になった。
あちこちで笑い声が聞こえてくる。もう嫌だ、とばかりに引っ込みたくて、サッと座り込む。
マイシの方を一瞥する。ジト目の呆れ顔で見られていたが、眼中無しと視線を外された。その様子にホッとする。絡まれなさそう。
できれば卒業まで、何も起きないといいなぞ。
「あたしは小野寺リョーコです。地味で不器用で、鈍重な斧使いの戦士の悪いイメージを変えるべき斧女子として普及させたいので入学しました!
クラスは戦士です! よろしくお願いします!!」
リョーコが自己紹介している間も、まだ緊張で身が震える。
やばい、今もバクバクしてる。みんなの前で自己紹介とか、もう試練じゃないかぞ。
次々と生徒たちが自己紹介を続けていく最中、穏やかでいられなかった。
ちょい自己紹介で強張ってしまったのを引きずってる。これから上手くやっていけるかなぞ……、不安だ。
「緊張しないでくれ。みんな初めてだし同じだからね」
「せや。ワイもドッキドキ緊張や。城路はんの気持ち分かるわ〜」
「あ、ありがとう」
隣の席の森岳タネ坊と大珍キンタは優しく笑んでいた。優しい人でよかった。
ちょっと安堵が胸に広がっていく。
トントンと腕を叩いてくるので振り向くと、にっこにこなリョーコ。
「よろしくね。ナッセちゃん」
こんな緊張する場面でも楽観的なのが正直恨めしい。
「ちゃんは止めてくれ」
「えー。じゃあナッセがいい?」
「城路さん、だろ? 小野寺さん……」
「ぶー! 他人行儀は嫌よ。リョーコでお願い! こっちナッセでいくからね」
「えぇっ!」
初っ端から女子と距離近いのは、は、恥ずかし過ぎるぞ……。
下の名前で呼び合うとか……、うわあああ!
「あはは! 照れてる! 照れてる~!」
「やめて! やめてぇ~!!」
リョーコが嬉しそうに肩をツンツンつついてくるの、もう耐えられない!
こ、こんなんで、師匠のような偉大な創作士になれるんだろうか……? 早くも不安になってきたぞ。
あと感じる視線は外れてないような気もする。
まさか初日から生徒会長さんに目を付けられたのかぞ……?
ピンクのポニーテールの巨乳は桃園エレナ。生徒会長さんは夕夏ヤマミ。そしてふんわり淡い水色のロングの美少女は岡本スミレ。
確かに自己紹介でもそう言っていたぞ。
また絡まれそう……。特に生徒会長さんはこっちを気にしてるみてぇだし。
う~ん前途多難……?
あとがき雑談w
ナッセ「ふうー自己紹介緊張するわーw」
リョーコ「あたしもーw」
ナッセ(生徒会長っぽい美人さん、キツい性格なのかなぁ……?)
ヤマミ(こっち振り向いてきてビックリしたわ。でもあの女リョーコっていうのね。馴れ馴れしいわ……)
スミレ「顔に出てるよ~~w」
マイシ「フン! ナッセが剣士だとし? 標的にするまでもないっしょw」
次話『学院に裏施設が!? 語られる世界の危機!?』