28話「いっせーの! リョーコ大活躍!!」
朝かどうかは分からない、だが洞窟内の湖の広場では、控えめの明るさに朝霧が立ち込めている。
まるで現在時刻と連動するように洞窟内も変化するようだ。
「遅い! もう八時よ!」
キッチンを備える台所で、ダイニングテーブルの席についているヤマミが厳しい表情を見せていた。側ににっこにこのスミレ。
まだ眠いまま目を擦りながら階段を下り、そしてあくびするリョーコも後から出てきた。
なんかスミレを見たリョーコがビクッと怯えた気がした。
「リョーコ?」
「あ、ううん! なんでもない……」
「っても、一緒に野宿するの初めてだなぞ」
起きた時は、いつもと違う白い部屋で少し戸惑った。学院行かなきゃと使命感もあったが、野宿してた事を思い出した。
そっか。今は洞窟探索してるんだよな……。
朝食を終えコテージを片付けた後、ヤマミとスミレと一緒に洞窟をしばらく進んでいると、徐々に眠気が吹き飛んで体も活発になっていった。
だが、かれこれ二時間も歩いている。ここ広過ぎる……。
「ここからは未踏の域だね~」
水晶玉を媒介に、地図作成のスキルを常時発動しているスミレが振り向く。何故かリョーコがビクッと怯んだ気がする。
一体何があったんだぞ?
その先のフロアも、一見すれば今までと変わりがない。
「エレナとスミレと一緒だった時はここまで。二人だけだったら、ここまでは来れなかった。だからナッセとリョーコには感謝するわ」
「うん……。では、どうするのかぞ?」
妙に側のリョーコが静かだ。いつもならリアクションしてそうなのに。
するとヤマミがこちらへ接近し、すれ違うように顔を近づけ合う。
「殺陣進撃は、私が許可するまで禁止。あれは武劉さんのような強靭な筋肉でないと反動に耐えられない大技。体を壊したくなければ従って!」
「は、はい……」
「なら大丈夫そうね」
そう呟くと、踵を返す。やはり先へ進むようだ。
「なんか言ってた?」
「……無茶するな、と」
リョーコは神妙に頷くだけだった。珍しいな。いつもだったら「え~無茶してた? なにかしでかした?」とか食い下がってそうなのに……。
だがヤマミさんの言う通り、殺陣進撃は反動で全身に激痛が走るほどだ。オレのような優男には絶対向かない大技だぞ。これ使うなら、筋トレしないといけないのかな……?
その後も、未踏のフロアに足を踏み入れていった。
スミレの地図作成の立体投影地図に、新しくフロアが継ぎ足しされているのが分かる。
「待って! 既にモンスターが徘徊してるわ。……ハイパークミーンが二体!」
通路の出入口からまだ数十メートル離れているというのに、ヤマミが、腕を横に伸ばして制止してきた。
スミレも把握していて「うん」と頷いていた。
やっぱ『察知』スキルは便利だなぞ。オレも覚えようかな……?
「既に出現してるとか珍しいなぞ。いつもは地面から這い出てくるけど……」
「先読みで現れる事なんて、洞窟では珍しくない」
常連のようにヤマミはさらっと言う。
それにしても厄介だなぞ。ハイパークミーンは殺陣進撃で倒せたようなものだから、普通に戦うとなったら勝てないかもしれない。ヤマミさんですら退避を促してたほどだ。
「ヤマミさん……」
だがヤマミは首を振る。許可は下されない。
「それを使うまでもないわ」
「え?」
他に方法が……?
「じゃあ、あたしが行く!」
「おし! 行け~~!」
ガッツするような感じのスミレに後押しされて、リョーコは片手斧を手に悠々と先を進んでいく。
「ちょっと!」
ヤマミも制止しようとしたが、スミレに肩を抑えられる。互いに視線を交わす。何が伝わったか知らないけどヤマミは納得したように頷く。
心配そうなオレを見てか、スミレはニッコリと笑いかける。
「ナッセちゃん大丈夫~! 一緒に行こ行こ~」
無邪気にスミレは拳を振り上げて、リョーコの後を付いていく。オレはヤマミと一緒に足を歩ませる。
でもリョーコを先行させて大丈夫なのかぞ?
ヤマミのスミレに対する信頼は厚いと思う。でも、それよりスミレちゃんがリョーコに任せるなんて、一体どうなってるんだぞ……?
開けたフロアには、数本の木と草原。そして少しの荒野。水溜りが隅っこにある。
その地面を這う大きなカタツムリ。まるで警備してるかのように壁伝いにぐるぐる這っているようだ。
出入り口は幸い高い所にある。見下ろす形なので、ハイパークミーンからは見えてない模様。気付けば、あちこちに四角い出口がある。どっかに通じているのだろうか?
リョーコは準備もなしに出口から降り立ち、地面を踏むと同時に蹴ってドンッと爆発させて加速。
炸裂を足裏から発動して、初動を速くした!?
ビュンとリョーコは駆け抜けていく。気付いたカタツムリが「ピギィ」と唸り、向きを変える。奥のもう一匹も気付いて向きを変えてきた。
「せーの!」
リョーコの振りかぶる斧からオーラがボウッと溢れる。俊敏に振り下ろされたソレは大きな殻にズガン、と轟音を響かせた。メキメキと斧が深くめり込んで、ハイパークミーンは「ピギャアゥ」と吐血。
この一撃で吹っ飛ばされた殻は、向こうの岩壁にズドン、めり込んで周囲にヒビを広げた。
ガン!
いつの間にか追い打ちと、リョーコが速攻でトドメを刺す。壁と斧で挟撃を食らったハイパークミーンは「ギバァァア」と盛大に吐血を吐き、ぐったり崩れ落ちる。
「に、二撃で……、あの上位種を……?」
二匹目の大きな殻が回転攻撃を仕掛けていた。危ない!!
が、反射的に炸裂ダッシュで横に飛び、リョーコは避けた。おお、いい反応だなぞ。
壁に反射して回転殻は反対方向へ突き進み、壁に反射して、逆に向かってくる。
「ヤバい! またこのパターンぞ!」
飛び出そうとすると、スミレが腕を伸ばして阻んできた。
回転殻は徐々に加速し、縦横無尽と跳ね返り続けている。地面を滑りつつ、リョーコは斧を腰に引いて、身構える。
「いっせーの!」
なんと斧へオーラの光子が収束。徐々に増幅されて威力を高めていくのが分かるように、噴き出すオーラの激しさは増していく。あれは『増幅』なのか? ビリビリ、地鳴りと共に大気から伝わってくる。
大きな殻がリョーコへ襲いかかる。最大最速で押し潰さんとする勢いだ。
だがリョーコは退かず、鋭い眼光を見せ、一声「クラッシュ……」と、激しく噴き上げるオーラを纏った斧を振るう。
「バスタァァ────ッ!!!」
力一杯、大振りで振り下ろした斧と殻が激突。フロアに響き渡るほど、凄まじい激突音。豪快に殻は木っ端微塵に砕け散った。衝撃波と共に広い範囲へ破片と肉片が飛び散っていく。それぞれ広いフロアの壁に突き刺さる。それらはボシュンと煙となって掻き消える。
ふうふう、とリョーコは息を立てる。
そして終わったと、こちらへ顔を向けて、親指を立てた拳を突き出す。
「……ほ、本当にリョーコかぞ? す、すごい威力ぞ…………!」
「マジだよ~!」
スミレは笑顔で即答。
「リョーコちゃんね。素質はあるんだよ~。ちゃんと基礎教えて、ちょい訓練すれば、どんどん強くなれるんだよ!」
ほわほわな調子のスミレでさえ、見抜いていたみたい。
潜在的にリョーコも相当な力を持っていた事に!
ヤマミも薄々勘付いていたのだろうか? でなければ、リョーコを連れて行こうと思わなかったのだろう。
「さ、これからあたしに付いてきなさい! どんどん快進撃いくわよ~!!」
自信付けたのか、斧を振り上げて自信満々とリョーコは胸を張った。スタスタとヤマミが近づく。
「調子に乗らない!」
ぺしーと額に軽くチョップ。あうう、とリョーコは泣きっ面。
だが、これで頼れる戦力になれるぞ。もう庇わなくても大丈夫みたいだ。
安堵して、和やかに笑む。
「ナッセ。もうこれでハイパークミーンが何匹いても退却はなし。この四人で突破するわ!」
「じ、じゃあ、ヤマミさん。あの時、退避を促したのは……、戦えないリョーコがいたから?」
「当たり前! 本来なら氷魔法で進行を阻害し、動き止めて焼くなり煮るなり好きに料理。それと貴方もエレナと同じで、一人突っ走る傾向あったから」
「す、すみません……」
ぺこぺこ頭を下げる。
とは言え、ベテランのヤマミさんとスミレさんにかかれば、この程度の上位モンスターなど何でもないのだろう。考えてみれば何度もここへ入っているのだ。当然、遭遇する事もある。経験がない理由はない。
……反省しなきゃな。
「これにて万事解決~~!!」
にっこりスミレが笑顔でパチパチと拍手。リョーコに向けて可愛らしくウィンクする。
心なしか、リョーコは少し引きつってる気がするぞ?
あとがき雑談w
ナッセ「お前、なんかおかしいぞ?」
リョーコ「スミレ怖い! 胸揉んでくるし」
ナッセ「ってか女同士じゃんかぞ?」
リョーコ「それはそうなんだけどねー! そうなんだけどねー!」(泣)
スミレ「リョーコは俺の嫁w ぜって~幸せにするぜ~w」(妙な決意)
ヤマミ「……キャラ違わない? 私の時は全然なのに」
スミレ「そりゃタイプじゃないし……(ボソ)」
ヤマミ「なんか言った?」
スミレ「いえ何も~w(*´∀`*)」(猫かぶり)
次話『快進撃だ~!! ガンガンいこうぜ!』