24話「ヤマミのスキル講座だぞ!」
進むごとに奇妙な構成になっていく『洞窟』は、普通の洞窟とはまるで違っていた。
ただただ、箱型フロアと分岐もある通路で繋いでるだけの構成ではなく、角度がズレたまま箱型のフロア同士が繋がっていたり、複数の箱を合体させたように中の空洞がカクカクと広がっている大広間まである。
更に重力の方向も違っていて、互いの場所が違うと相手が壁や天井を歩いているようにも錯覚してしまう。
そのおかげか、方向感覚が狂いそうになる。
「な、なんなんだぞ……? これ……」
思わず呆然とする。それもそのはず、広がる光景は奇妙なものだった。
鍾乳石のように上下から突き出ている岩山。あちこち緑で不定形に広がる苔。申し訳程度に所々生える草。更に透き通った川。これだけなら普通の洞窟にも有り得る。
でも、重力の方向がフロアごとに違うために、岩山と草の向きがあちこち傾いていて、川に至っては滝を境界線にカクカクと角度を変えて複数のフロアを通って流れている。
「初めて入ったらそうなるよね~」
「あ、うん……。うおっ!?」
スミレの方へ相槌打ちながら振り向くと、彼女の持つ水晶玉が淡い光を放ち、その上に積み木を連ねたような迷路が投影されていた。その一つの箱の中に緑の点が四つ。
その様子に呆気に取られた。
「このままじゃ、迷子になるから「地図作成」の探索系スキルで、ここの洞窟の構成を確認してるんだよ~。あ、映ってる分はあたし達が踏破した分ね。そしてあたし達のいる位置は緑色の点々だよ」
「こ、こんなスキルもあるのかぞ……」
「ひょえ~~! ホント複雑~!」
確かにマッピングされている洞窟の構成は捻れてて、複数のルートが絡み合って交差している。
普通の洞窟と違って縦横無尽と広がっている為、二階、三階と言った階層が存在しない。これが余計、方向感覚を狂わせてしまうせいだ。
「なんの準備もなく入ってたら、帰れなくなるかもしれないでしょ」
「た、確かに……」
腕を組むヤマミに、コクコクと頷く。リョーコに至っては驚き固まっていた。
そもそも冷静に考えてみれば、高架橋の柱の裂け目から入った洞窟がこんな自由に広がってるのも不自然だ。地形的に地下へ降りていかないと高架橋から洞窟は成り立たない。
「……だから、亜空間の疑いが大きい。誰がこんなもの作ったか知らないけど、こんな途方もない時空間魔法……、今の人類じゃとても作れない。それが各地にあちこちあるの」
「こ、これ……人工か? いや人工って言うのもおかしいが……」
「不自然に人が通れるようになってるのもおかしいでしょ? 洞窟風に岩山とか苔とかそれっぽくしてるけど、妙に地面が平らで歩きやすいようになっている」
「え~~? 誰が何の為に~~??」
リョーコは驚き返って見渡す。
前に修学旅行で本物の洞窟入った事があるけど、観光用に人が通れるように木造の橋のような通路を設備してある。だから誰でも鍾乳洞が見れるようになってる。
設備されてないものは立ち入り禁止のロープとかで阻まれている。そういうのがここにはないのだ。
「誰が何の為に、が分からないから謎なの」
「もしエレナが一人で入ったとしたら、中々出てこれなさそうだぞ」
「全くよ!」
ヤマミは呆れていた。
エレナって人は後先考えない性格らしい……。なんで一人で入っていったんだぞ?
「敵くるよ~~!」
スミレのゆったりした調子の喚起で、ヤマミは腰を低くして身構える。それを見て身構えた。
「え? 来るの? エンカウント?」
キョロキョロするリョーコ。
すうっと地面に影が浮かび上がり、それは立体化していく。それはやがて狼に変貌した。
「ぐるるるる……」
殺意の赤い目。剥き出しの鋭い牙。バイクくらいの大きさ。濃い青い毛色。その数、数十匹。
「む、アサシンウルフかぞ!?」
「そのようね……」
すかさず『刻印』の『星』印を輝かせ、形成した光の剣で身構える。
「ヤマミさん。確認するぞ」
「なに?」
「アサシンウルフって、こいつら人間並みにチームワークして執拗に攻めてくる。主に陽動しながら、影に擬態して地面に潜伏して背後から不意打ちしてくるのが得意。間違いないかぞ?」
「……間違いないわ。なら問題ないようね」
ヤマミは嬉しそうに微かに笑む。
「まず、スタンバイスキル! ナッセ見てなさい! 中級火魔法ホノビ!!」
ヤマミが挙手すると、背後から大きめの火炎球が浮かび上がる。狼達はピクッと警戒する。
「これが『衛星』。私が好んで使う」
ふよふよと、彼女の周囲を回り、自由自在に上下左右動いてみせる。どうやらコントロール出来るようだぞ。確かに衛星っぽいなぞ。
「自分を中心に、有効範囲内なら自由自在に操作できる」
「で、でも、誘爆したら自分も巻き込まれね……?」
「昔はそういうのあったみたいだけど『コマンド入力待ち』を開発し、導入してるから心配いらない。今は撃たれても欠けるか、霧散するだけで危険性が減ったわ」
ヤマミは冷静で説明が上手いなぁ……。しかしそういう歴史があるのか……。
アサシンウルフは「ガウッ」と吠え、一斉に押し寄せてきた。
「コマンド入力で、普通に撃つ。通常弾!」
ヤマミは挙げていた腕を振り下ろし、火炎球をすっ飛ばす。それは狼に直撃し、爆炎を撒き散らして「ギャアア」と断末魔を呼ぶ。
左右から狼が雪崩れ込んでくる。
「もう一度、衛星! そして分割! それで通常弾!!」
ヤマミはまた同じ大きさの火炎球を浮かせ、それは小さな火炎球にバラバラと分割され、ヤマミの振るった左右の腕に従い、左右に火炎の弾丸が放たれた。
無数の射線に穿たれ、狼達は爆炎に包まれて消し飛ぶ。
それでも懲りず、ぞろぞろ飛びかかってくるアサシンウルフ。
「ちょい難しいけど、衛星! そして分裂!!」
再び火炎球を浮かせると、今度は同じ大きさの火炎球を二つ、三つ、とポコポコ増やす。ヤマミを見ると汗が滲んでいた。
「今度のコマンド入力は炸裂弾!!」
一つを飛ばし、ドガアァッと轟音と共に広範囲へ爆炎をぶちまけた。
「グワアアァァ……」
数匹の狼は火炎に呑まれて、掻き消えた。更に一発、二発、ドカンドカン放るだけでオオカミの群れは半壊状態だ。
今度は威力強めに撃った!?
ヤマミの背後に影が……、それが立体化して飛びかかる狼。しかし一つの火炎球はぐるんと弧を描いて襲ってくる。狼は咄嗟に横に回避しようとするが、火炎球も追っかけて直撃。
「追尾弾……」
ボオゥッ、背後で爆炎が広がり狼を屠りながら、ヤマミはクールに呟いた。
「……弾丸の属性を二種類いずれかに変えて撃てるコマンド入力?」
「この二つ以外にもまだまだある。そうそう炸裂弾は範囲が広がるほどの高威力弾。追尾弾はロックした対象を追いかける弾。このように同じ魔法でも性質を変える事で千差万別の戦い方ができる。
これらはコマンド入力での基礎スキルだけど、有るのと無いとでは大違い!」
今度は目の前に飛びかかってくる狼に、掌を向けて直接氷の矢を撃つ。ザキュッと頭を鋭く撃ち貫く。
「今のが、初歩的な撃ち方。直接掌で撃つから速射性がある。でも一発ずつだから、弾幕を張るのが難しい」
「だから衛星とかあるんだ」
「……その通り」
ヤマミは握ってる左拳に、周囲から光の粒子が収束。
「これもスタンバイスキル『増幅』。そして通常弾!」
掌を向けると、大きな雷の奔流が放たれる。それは轟々と迸って軌道上の狼を次々と貫き、遥か向こうの壁がバゴォォンと粉砕された。
「……これでも下級雷魔法デンガよ。通常なら小さな電撃の矢を放つ程度だけど、この通り集中して溜める時間が長いほど、威力はそれに比例して高まっていくわ。それが『増幅』」
「ひええ……」
気付いたらアサシンウルフ全滅してるやんけ……。
彼女にとっては片手間で済ませられる戦闘ってトコかぞ。噛ませ犬っていうか狼……。
「それと軌道弾!!」
まだ残っていた火炎球を飛ばす。向こうの通路の曲がり角に沿ってカクッと曲がると、赤々と爆炎が溢れた。なんと狼が潜んでいたらしく「ギャインッ」と微かに悲鳴が聞こえた。
「今のが弾道を設定して撃てる弾。ちなみにこれらの基礎スキルは魔法だけに限った事ではないわ」
「え? 魔法教えてくれるんじゃ……?」
「スキルの説明って言ったでしょ! 話聞きなさい!」
ピシャリと厳しく叱責するヤマミに思わず怯む。
「剣でやるなら、マイシがやってたように斬りつけて爆砕する炸裂剣。後は回避する敵を逃さず斬る追尾剣。自由に軌跡を描く軌道剣……。そんな感じね」
「そうか。じゃあ、分裂剣ぞっ!!!」
杖の先から、光の剣をニョキッと複数伸ばす。ヤマアラシのようにトゲトゲしている剣。
…………間の抜けた沈黙が、しばし続いた。
「で、それでどうするの?」
「……え!?」
腕を組んだまま冷めた目でヤマミは突っ込まれ、冷や汗たらたら。
どうみても実用的じゃない分裂剣。むしろ使いにくい。安易な思いつき。いわゆるバカの発想っていうか……。
「案外ぬけてる~~」
あははっとスミレは笑う。リョーコまで「草生える~」と笑い出す。 恥ずかしくなってプルプル震えながら赤面したぞ……。
や、やっちゃった…………ぞ。
まさに“草”剣だぞ。
あとがき雑談w
ヤマミ(がっちりハート掴めているといいんだけど……////)
スミレ「応援してるよ~~w ふれふれ~w」
ヤマミ(なんかスミレさん積極的ね……。まぁ嬉しいからいいけど////)
スミレ「リョーコちゃ~んw」(抱きつき~w)
リョーコ「なんで抱きつくの~w」(妙な寒気なんだろ?)
スミレ(柔らかくてぷにぷに気持ちいいぜ~w)
ヤマミ「百合百合しいけど、なんか雰囲気がおかしいような……?」
ナッセ「え? 百合ってそんなもんじゃないのかぞ?」
次話『ナッセ本領発揮!? 覚えたスキル試しがちな年頃w』