23話「初のダンジョン突入!!」
エンカウントした先の荒廃した世界で、コンクリート造の高架橋に亀裂が走った形の洞窟が空いていた。
中は真っ黒で中が窺えない。
暗すぎて見えないだけなのか? あまりにも黒すぎる……。大丈夫かぞ?
「アナタ、『洞窟』は初めてのようね……。この際、教えてあげる」
常に冷静沈着のヤマミはゆっくりと洞窟へ足を歩ませる。躊躇いなど微塵にも感じられない。
そんな彼女にオレ達は注視する。
「……この類の洞窟は、世界各地に点在するもの。ここはその一つね。ただ、便宜上『洞窟』と呼んでいるけど実際は異なる。いちいち説明するより、入った方が分かりやすいわ。付いてきなさい」
「お……、おい!」
そのままヤマミは真っ暗闇な洞窟へと踏み込んでいった。
すると、水面に沈むかのように波紋が広がり、ヤマミは闇へと姿を消した。
そんな奇妙な現象に、リョーコと一緒に呆然。
「じゃあ、お先に待ってま~す!」
スミレも明るい笑顔で手を振りながら、ひょいと潜っていった。やはり入る際に波紋が生じる。
まるで当たり前のように入っていった二人に、リョーコもぽかんと口を開けた。
「溺れないの?」
リョーコは洞窟へ指さして、不安そうにこちらへ振り向く。
「……水、じゃないな。なんか理屈は分からんが、空間の境界線のようにも見える」
「境界線…………?」
怪訝そうにリョーコは首を傾げ眉をひそめる。
「師匠がよく時空間の事を話していた。でも難しいから流してしまった。けど、空間は全部一緒じゃないって聞いたような気がする」
「なにそれ、よく分かんない……」
「オレもだぞ」
「さっさと来なさい!」
焦れたのか、ヤマミは洞窟から険しい顔を覗かせて叱責してきた。
「は、はい!!」
竦んだ二人は慌てて入口へ向かった。
ちゃぷん、水面から出るように波紋を立てつつ、リョーコと一緒に洞窟の内部へ入り込んだ。
見渡すと、人工的っぽく四角いフロアで広がっている岩の洞窟だ。
天井からは鍾乳石のように、岩がつらら状に伸びていた。床からも点々と小さな突起が点在。壁には張り付いた石柱のような鍾乳石が不規則に並ぶ。
照明はおろか、松明さえ無いというのに、妙に全体が明るかった。
「驚くのはまだ早いわ。向こうの通路の先を見なさい」
ヤマミの指さす先に、何故か次のフロアへと繋がる通路があった。
そしてその次のフロアも四角い感じだ。だが、斜面になっている。向こうのフロアが傾いているように見える。
その次の遥か向こうのフロアも逆に傾いている。
「なに……これ……?」
呆然するオレとリョーコに構わず、ヤマミは通路へと足を歩めた。
スミレも「おいで~」と手招きしながら、ヤマミの後を付いていく。
通路は周囲の地形で少し歪んでいるものの、ちゃんとした廊下として言っていいぐらいしっかりしている。
ヤマミが先に次のフロアへ踏み込む。
すると、斜面に沿って彼女も傾いたまま直立していた。思わず竦む。
「大丈夫。来なさい」
意を決して、踏み込む。
するとガクンと重力が変化したのを感じた。
振り向くと、まだ通路にいるリョーコの方が傾いていた。一緒のフロアにいるヤマミとスミレは自分と同じ直立方向だ。
「この『洞窟』は亜空間の中を突き抜ける通路のようなもの。だからフロアごとに重力の向きが違う。
一体、誰がこのような作りにしているか分からないけど、どこか繋がるように通路が存在しているみたいね」
「うん。まるで人が通れるように設計されてるみたいだよ~」
スミレも付け足してくる。
「そ、そうなのかぞ……?」
た、確かに……、ただの『洞窟』ではないようだぞ……。
剣と魔法の世界を舞台にした漫画や小説で言う洞窟って言えば、大地の中にできた通路のような空洞がイメージしやすい。
でもここの『洞窟』は違う。
寧ろゲームのダンジョンみたいな感じの洞窟だ。不自然に広いフロアと、それを繋ぐ通路。
「……わ、分からない事だらけだぞ」
「同感ね」
「あたしも!」
オレの言葉に共感するヤマミとスミレ。
「だから、ナッセ。あなたのような持久力のある創作士が欲しかったわけよ。もっと捜索範囲を広げる為には、私たち二人では心許なかったの」
「だからか……」
洞窟探索する時、遠くまで探索するには体力のある創作士が必要だ。
「桃園エレナは、よく一人で突っ走っるから、多分調子に乗って遠くまで行ったのかもしれない……。全く、無茶してばっかり……!」
「そうそう! エレナちゃんはサバサバしててね~、堅物のヤマミちゃんとよくぶつかってたよ~!」
「だ、黙っててくれる!?」
暴露されて、カアッと頬を染め、取り乱すヤマミ。あ、可愛いな。
「──と、ともかく!」
するとヤマミが急接近してきて、思わずドキっとする。
ショルダーバッグの前ポケットに手を忍ばせ、なにか小さな機器を取り出す。……盗聴器。
「失礼ながら、事の詳細を聞かせてもらったわ。モンスターと荒廃した世界の正体も、そしてあなたの戦い方もね」
「ご、ごめんなさい! でも、どうしても気になったの~! あわわ~」
慌てたようにスミレはペコペコと頭を下げる。小動物的な可愛さ……。和むぞ。
「いや。気にしてない。……それとリョーコ、さっきは疑ってすまない」
リョーコへ顔を向けて頭を下げる。
「ん~、いいわよ。でもほっぺ引っ張ってくれたから、同じ事していい?」
「え? ちょっ……」
ずずいとリョーコに詰め寄られて、ぐいぐい~とほっぺ引っ張られる羽目になったぞ。女子につままれるのも、なんだかむず痒いものがある。
「あ、敵くるよ~~!」
スミレが水晶玉を手に、注意を喚起。
床に影が浮かび上がり、浮き出てくるように立体化してスライム数匹。天井からは両翼を備えた丸いコウモリが羽ばたいてくる。
不思議と彼らは違う種族同士なのに、徒党を組んでいるようだった。
前に出て「『刻印』発動!」と叫び、手の甲の『星』印を浮かび上がらせた。
が、ヤマミはオレの肩に手を置いて、制止してきた。
「充分見せてもらったから、今度は私の魔道士としての創作能力を見せてあげる」
クールに落ち着いたヤマミ。サラッと長い姫カット黒髪ロングを掻き上げる。
スタイルが良くて委員長風のカッコよさが印象的だ。緩やかに円を描くように手を振ると、周囲に火炎球がポツポツ浮かび上がる。
「ギィギィ、グアアアアア!!!」
一斉にスライムとコウモリが束になって襲いかかる。それぞれ鋭い牙を剥き出しに、殺気丸出しで飛びかかる。
それにヤマミはキッと厳しい視線を向けた。
「ホノ連弾!」
ヤマミは挙手していた腕を、モンスター目かげて振り下ろした。
周囲の火炎球は一斉に撃ち出され、キュドドドドドドドッと爆炎の連鎖を噴き上げた。ドォン、ドォンと尚も爆炎が続々と広がっていく。
「ギャッガァァァ」
燃え上がる爆炎に包まれ、数匹のモンスターは散り散り消えていく。
「ガァア!!」
それでも後続のスライム群が爆炎を飛び越えて、牙を剥き出しに飛びかかる。
が、ヤマミは軽やかに身を翻しながら薙ぎ払うように手を振って、まだ待機させていた火炎球を撃つ。
彼女の間近で、爆炎が轟きスライム群は「ギャアァ」と焼かれ、消し飛んだ。
「ギィィ!!」
ビュンとヤマミの左右からコウモリ郡が挟み撃ち。鋭い牙を剥き出しに食いかかろうとする。
ヤマミは慌てるでもなく、踊るように左右へ腕を振り、無数の火炎球を左右それぞれに放つ。
鋭く真っ直ぐに射線を描き、的確にコウモリを撃ち抜く。
「ギャアアアアアア!!」
撃たれたコウモリは爆炎に揉まれながら落下。途中で掻き消えていく。
濛々と爆煙が立ち込める。
唖然とするオレとリョーコ。
ヤマミは再び挙手。その掌の上に巨大な火炎球が轟々と燃え盛る。
彼女が見つめる先の煙幕から、豚人間と呼ばれる巨大なオークが棍棒を振りかざして飛び出してきた。
さっきまではいなかったはずなのに!? でもヤマミは気付いていた!?
「ホノバーン!!」
冷静にヤマミは手を振り下ろす。すっ飛ぶ巨大な火炎球はオークを飲み込み、轟音と共に大きな火柱を噴き上げた。
「グアアァァァ!!!」
超高熱の火柱に包まれたオークは断末魔を上げて、散り散り消し飛んでいく。
瞬く間にモンスターは全て殲滅。
ヤマミはクールに長い髪を掻き上げ、火炎地獄を背景に踵を返す。そんな光景にオレは震えてしまう。
「すっげー!! 本物の魔道士だぞ!! マジでマジの魔法だぞ!! カッコいい!!」
ヤバい! 心が震えて興奮が収まらない。ついはしゃいでしまいそうになる。
だが、やはり派手な魔法はやっぱり好きだ!
誰がなんと言おうとも、魔法使いはオレの憧れだぞ!!
目を丸くしたヤマミは、顔を逸らし目を細め口を結び、頬を赤く染めていく。照れた。可愛い。
「モリッカのは魔法じゃないよね~?」と、スミレ。
「そうそう。アレ絶対オーラだから~!!」
リョーコも同意してスミレと手を取り合う。
ヤマミは「ふう」と一旦、区切るように一息を付き、真剣な眼差しを向けてきた。
「協力を要請して、報酬も聞かず承諾してくれたのは嬉しい。でも、タダ働きさせるつもりはないわ! ……この洞窟探索を兼ねて、あなたに色々スキルを説明してあげる。よろしくて?」
ゴクリと息を飲んだ。
確かに今まででは、龍史マイシには絶対勝てない。
劇的パワーアップとまで行かなくても、せめてタネ坊やキンタのように強力な攻撃系スキルは持ちたい。
それにヤマミは正真正銘、魔道士。
もしかしたら、ちゃんとした魔法が撃てるようになるかも知れない。
元々、自分は魔道士としてのステータスっぽいから、これで撃てるようになれば戦力の幅は広がるぞ。
なにより憧れの魔法がバンバン使える剣士になれるかもしれない!!
「は、はい! 是非、お願いします!!」
ヤマミも和やかな笑みを見せた。
あとがき雑談w
スミレ「という訳で、ヤマミちゃん念願のアプローチ開始~~w」
ヤマミ「も、もう/// からかわないで//////」(赤面)
スミレ「カッコイイとこ見せれたし、これはイケるのでは?w」
ヤマミ「/////////」(もじもじ赤面)
ナッセ「よーし! 色々教えてもらえるぞー!」
リョーコ(薄々気付いていたけど、ヤマミさんナッセ好きっぽいねー)
スミレ(ふっふっふw これで念願のリョーコゲットだぜw)
リョーコ(な、なんか貞操の危機するの何故~?? ゾクゾクッ)
ヤマミ(もっともっと良い所みせなくちゃ/////)
次話『ヤマミが教えるスキル講座! それは一体!?』