200話「ナッセの夢『ワクワクできる異世界へ』!!」
二〇一一年三月九日──。大阪アニマンガー学院卒業当日──。
日本国旗を下に、演壇のヨネ校長が穏やかな笑みで卒業生を祝福するように次々と名前を呼んで、一人ずつ卒業証書を授けていった。
「城路ナッセ!」「はい!」
ガタッと席を立ち、背筋を伸ばして演壇へ向かう。
ヨネ校長と向き合い「……異世界へ旅立つのだな」「はい! 大変お世話になりました!」と交わし、卒業証書を手に頭を下げて去っていった。
席へ戻って、隣のヤマミと微笑み合った。
しみじみとこれまでを感慨深く思い返す────。
終戦後、帰還したオレたちは世界大戦を終結させた英雄として、日本で平和の祭典を開かれて盛大に祝って貰えた。
しばらくは賑わう日々が続いた。
後日、城路家で平和を祝う宴会という事でオレはヤマミを連れて富山県へ帰郷した。
そこでは本家と各地の分家の方々も来られた。
「ええええ!? ナッセが妖精王で『鍵祈手』ですとー!?」
「あ、あのスペリオルクラスですか!?」
「新潟の分家でも『勇者』クニローいるじゃないかー!!」
本家の城路家総統タツロウ、長男ヒコタツ、次男タツアキは揃ってムンクの叫びみたいな顔芸で驚いていた。
更に世界大戦で大魔王を倒した功績で、SSS級戦功の報奨金が約一〇〇億円ってのもあり、本家よりお金持ちになっちゃったのもある。
「本当にコイツが大魔王倒したのかよ!? じゃあセンターに来い!」
それでも納得いかなかったタツアキは、創作士センターで威力値を測る装置で比べ合おうと提案。
オレの化けの皮を剥がそうと目論んだらしい。
「おおおッ!! ギャラクシィ・シャインスパークッ!!」
巨大な刀身を伸ばす銀河の剣による激烈な剣閃で測定装置に叩き付け、轟音と共に凄まじい衝撃波を噴き上げながら「99999」のカンスト数字を弾き出す。
そんな衝撃に本家たちはあんぐり口を開けて魂が抜け出す。
ちなみに総統タツロウは三万。ヒコタツは一万三〇〇〇。タツアキは一万六〇〇〇。
すげー低く見えっけど、万クラスは世間じゃ相当強い水準だぞ。しかも幼少より鍛え上げられた筋金入りのエリート。立派なA級創作士まである。
むしろオレたちがバケモノ過ぎるんだよなぁ……。
そしてついでに判明したのだが!
「ええええっ?? 仮想対戦に参加できないっ!?」
オレとリョーコとアクトは受付の前でびっくり仰天!
久しぶりに仮想対戦するかって矢先で、オレだけ弾かれたのだ。受付の人が言うに「種族値が一定を超えてるので」との事……。
「まぁ妖精王だしなぁ……」
「対戦中は絶対妖精王にならないから、ってダメなの~??」「はいダメです!」
受付の人は頑として首を縦に振らなかった。
妖精王として進化してたもんなぁと、オレは苦笑い。以前マイシが出禁になった話も聞いてたから、やはりオレにも同じ事が起きたのかぁ……。
同じバケモンみてーな強さのアクトは普通に参加可能だけど。
二人だけで参戦したが仮想フィールドに出るなり、複数いた対戦相手チームが揃ってスタート時に逃亡という事態になり、試合が破綻……。
ペナルティで総ポイント減らしてでも、大魔王と闘った連中と戦いたくないって気持ちがアリアリだったぞ。
「あーもー!! なんでなのー!! 逃げんなー!!」
両拳を突き上げてプンプンするリョーコに「引き時かな」と苦笑い。
あ、そうそう。そのリョーコの事なんだが!
「斧女子リョーコ!! いっくぞー!!」
キラキラっとポーズを決めたリョーコがマイクを手に明るい笑顔を見せる。
薄暗い中で無数のペンライトの明かりが踊る、大音響で歓声沸く舞台。カラフルなスポットライトが巡るましく動き照らしながら、アイドル衣装を着た五人が一斉に踊って歌って美しく輝いていた。
なんとリョーコは四人のメンバー集めて、既にアイドル活動を始めていたとの事。
金髪オカッパのリョーコ、緑パンチパーマのエリ、黒髪ロングのトシエ、ジト目褐色金髪のナツミ、猫耳の栗色のミディアムボブのテルが斧女子メンバーだ!
オレもアクトも驚きつつもペンライトを振って応援し続けた。
ライブアイドルはあまり知らないが、斧女子ユニットがヒットしたのには驚きまくったぞ。
「もう、斧女子を広めるという夢叶えちゃったかー」
カラフルな明かりが入り乱れる最中、感無量と眩しいリョーコを眺め続けていた……。
彼女はいつだって明るく楽しそうで、どんな難関にもめげずに夢を叶えるまで頑張ってきたのを、一緒に見てきたからなー。
これからも輝いていきそうだ。
ちなみに、この日ヤマミが冷めた目で帰りを待っていたぞ。マジびびった。
この夜、九月一二日で販売された『マッチモンスター(マチモン)』のリメイク対戦ゲームで盛り上がったりしてた。頭のいいヤマミは育成もワザもしっかりしてて激強だ。さすがに全敗は堪えたぞ。
そして就寝時、事もあろうか唇を重ねっ……むぐぅ……!?
ベッドの上で時間を忘れるぐらい激しい対戦を繰り返し精魂尽き果てたのは、忘れられようがない初体験だった……。ふう……。
リメイクゲームはシルバーとゴールドな。学院内でも対戦で賑わってたぞ。
秋季大会のメンバー選定でタネ坊ことオカマサとキン太ことドラゴリラはスタメン落ちしたので、別の学院へ転校したが結局ベンチだったので変わらず……。
ちな、オレ達は秋季大会の地区予選大会を優勝したぞ。
あとその秋季大会の全国大会は『仮想対戦・明治魔導聖域』で行われた。
そこで一回戦から優勝連覇している強豪校にイキナリ当たって、一進一退の激戦を繰り広げて辛うじて勝つ事ができた。
そのせいか、後は順調に勝ち抜いて優勝しちまったぞ。
十二月頃、インドから帰国後アクトは入院した。
「がああああああああッ!!」
唐突に盛大な吐血後、ぶっ倒れた時はびっくりしたぞ。
実はインドで四首領ダウートが六道石を使って宇宙終わらして極楽浄土へ行ってたりとか、誰が聞いても信じてもらえないような事が起きてた。
その時にアクトは『万覇羅弐』を更に超えた『万覇羅参』にまで到達したからなぁ。
そら体壊すわ、って思ったぞ。
こうなっては創作士センターの回復カプセルでも治せなかった。
なので病院へ長期間入院して自然回復を待つ事にしたぞ。
「本当なら、とっくに死んでもおかしくない状態ですよ!」
「まぁ、そうだよな……」
永遠の入院生活も覚悟せねばならない……。
「心配すんなァ……! 相棒さえ無事なら、俺ァ二度と戦えなくなってもいい覚悟だァ……」
ベッドで寝たきりの本人は辛い素振りなど見せず、笑って済ましていた。
そんなアクトを、心身ともに強い男だったと敬意を払わずにいられなかった。
そして密かに異世界へ行けば、治る方法が見つかるかもと考え始めた。
二〇一〇年四月一日──。大阪アニマンガー学院二年目開始──。
初々しい入学生も目新しい。
アクトと同じインド人のコンドリオンって創作士が来たんだぞ。なんと四首領ダウートの息子だぞ。
インドで色々あったが、まさか日本へ来るとは思わなかった。
「ナッセさんまた会いましたね……。よろしくお願いします」
そしてもう一人の入学生にも驚かされた。
「初めまして。私は藻乃柿エガラです」
小動物系の大人しめの少女。なんと藻乃柿ブンショウの娘だというからビックリ!
そしてヨネ校長にも亡き父の最期が伝えられた。
「ヨネ校長さん。お父さんを救ってくれてありがとうです」
「ふむ」
かつて学院裏の施設を無断で星獣召喚を目論んでいた彼は、ヨネ校長に追放された。
最初は追放された恨みに駆られていたが、頭を下げて謝ってきた事が忘れられず、頭を冷やす為に故郷で休養した。
献身的な妻に奉仕されながら、病状が悪化していく彼は驚くほど心情が落ち着いていった。
寝床で、娘であるエガラに側にいてもらった……。
「……なんと愚かな事をしたか……。君や妻を蔑ろに身勝手な研究を繰り返してきた、こんな私を許してくれ…………」
エガラは物心付く頃、父である彼は傲慢不遜で愛想が悪かった。
勝手に大阪へ出張して、帰ってこなくなった時は悲しかった。なにか大事な理由があると信じて、父からの愛を求めつつも我慢を続けていた。
「私は父失格だ。もう少しヨネ校長の忠告を聞いていれば、もっと違った結末になってたのかな……。エガラ……、私の……最期の頼みを聞いてくれないか?」
「うん」
「ありがとう……」
やせ細った父の手に頭を撫でられて、心が温かく湧き出した。
「……大阪アニマンガー学院入学を申し込んである。エガラ、英雄ナッセたちと触れ合ってくれ」
「うん。勇気出せず言えなかったけど、本当は行きたかったの……」
「きっと貴重な経験を与えてくれよう……。この私などよりもな」
エガラは首を振る。
「最後……分かってくれた……。頭撫でてくれた……。嬉しい」
勇気を出して微笑むエガラ。
ブンショウはそれを見て安心し、じんと涙腺が緩む。自分にはもったいない我慢強い娘だ。これからも強くなっていく事だろう……。
優しい顔の妻が入ってきて「私がちゃんと見送るから安心なさい」と微笑みかけてくれ、心は安堵に満ちた。
────既に一緒に見送れるだけの時間が自分になかったからだ。
「何から何まで済まない……。そして今までありがとう…………」
「いいえ。結婚した時から、愛しいあなたについてゆこうと覚悟してましたもの」
「うん! 私もお父さんとお母さんみたいに強くなる!」
妻子に温かく看取ってくれる幸せを噛み締めながら、ブンショウは安らかに息を引き取った。
ヨネ校長は「それは良かった……」と涙ぐんで安堵して、後悔の念は消え去った。
追放して良かったのか自責の念に苦しまされていたが、最期救われたのを知って心穏やかになれた。
それはそうとして、この後が驚かされた!
「さぁ行くわよ!!」「うん! 行く!!」
なんとマイシの妹ナガレとエガラが拳をガツンと交わし、周囲に衝撃波を広げた。
互いエーテルを纏ってアクロバティックに動き回りながら、仮想フィールド内でガンガン激しい格闘の応酬を繰り返し続けたのが衝撃だった。
まさか威力値が五万超えてるとは思わなかったぞ……。
学院二年目の夏休みに、ヤマミと一緒にアメリカへ渡航。
ヒーロー&ヴィラン連合で『洞窟』から湧き出したモンスターの大侵略や、変な宇宙人襲撃と地底人襲撃を防衛したぞ。
サクッと短文で済ましているが、色々なドラマとかけっこーあったぞ。
さて、思い出に耽るのはここまでにして────────。
卒業式を終えて、オレたちは学院前に集合した。
眩しい太陽の下で、オレとヤマミは同じ卒業生であるリョーコ、マイシ、コハク、フクダリウス、モリッカ、ノーヴェン、ミコト、コマエモン、エレナ、スミレ、クスモさんと円陣を組んだぞ。
例え、別れるにしてもお互いは同じ生徒として幾多の障害をくぐり抜けて培った絆がある。
それは決して消えやしない。
また会う事もあるのだろう……。その時は懐かしんで積もる話をすればいい。
オレたちは精悍とした笑みで、みんな片手を重ね合って思い切って叫んだ。
「これで終わりじゃない! これからが夢を叶えるスタート地点だッ!!」
「「「おう!!!」」」
そして各々スッキリした顔で帰路に着いた。
オレはヤマミと並んで、青空の下で夢を叶えるべき一つの道を歩み始めた。
「あ、その前に……!」「ええ!」
オレたちは学院卒業と“ある夢”の報告の為に夕夏家総本山へ向かった。
「ヤミザキさんはいますか?」
「おお! ナッセ殿にヤマミ殿! お父さんなら裏庭にいますぞ」
社長室っぽい立派な部屋でダグナは快く応えてくれた。
夕夏家では終戦後に総統継承式が行われ、ダグナが二代目総統となったらしい。
もちろん『夕夏刻印』はヤミザキ専用として、器の継承は撤廃されていた。そして黒執事ダクライと共に二代目を支える役目になったらしい。
オレが来たとの事でコクアが嬉しそうに駆けつけてきて「今日は泊まるのですか? 泊まるんですか?」とウキウキ聞いてくる。ヨルも「ようこそー!」と満面の笑顔だ。
実はコクアは総統継承式で「なぜナッセ様が選ばれないのか!?」と不満だったらしい。
まぁ、最初っから断ってたし、そもそも総統なんてガラじゃないしなぁ……。
廊下を歩いていると、カゲロが幼いライクをおんぶ抱っこして遊んでいた。
「ナッセ……!」
角の隅っこから仏頂面のマミエが頬を膨らましている。なんか投げつけて来て、咄嗟に受け止めるとハート型チョコだった。
不機嫌そうに「構ってよ……」とプイと赤らめた顔をそむけた。
ムッとしたヤマミはハート型チョコを奪い取って自ら口に入れた。
「あ────!!! 姉さんヒドい────!!!」
「チョコで人の彼氏寝取ろうなんて浅ましいわ……」
「コロス────!!!」ぷんぷん!
……なんでか、毛嫌いしてたのに大魔王倒してからか変にツンデレっぽくなっちゃった。
それでも姉妹としてケンカする仲になったのは大きな進歩だと思う。
ってかエレナちゃんといい、余計なライバルは増えて欲しくないなぁ……。
そういえばウニャンが「男の妖精王は永遠にイケメンの宿命」だとポロッと暴露してたけど、関係ないかなぁ。
「コクアさん。ブラクロさんは?」
「あ、ああ。スミレさんの所ですよー。押しかけ女房みたいな感じで同棲し始めました」
「ふふふ、スミレ大変困ってたわ。まぁ自業自得ね……」
ヤマミはスミレと友達なので事情は知ってたようだ。
裏庭のテラスガーデンでヤミザキはゆっくり座していた。
澄み切った青空に、瑞々しい緑と花々で彩る裏庭。ヤマミと共に踏み入れた。
「……ようこそいらっしゃたな。ナッセ君とヤマミよ」
「久しぶりです」
「うむ。ちょくちょく会ってくれるのは嬉しいぞ。では椅子に掛けてくれ」
「では言葉に甘えて」とヤマミと一緒に椅子に座る。しばしの沈黙。
「卒業したそうだな」
「はい。二年間色々なものを学べました……」「ええ」
ひゅうう、春の涼しい風が撫でてくる。
チューリップやヒヤシンスを眺めながら色々話を交わした後、夕日を背景にオレたちは「じゃあこれで」と席を立って、間を置いてから覚悟を決めた。
「……これからオレたちは異世界へ行きます!」
ヤミザキは「うむ」と穏やかな顔で綻んでいた。
「気を付けて行ってきなさい。私はここで積もる話と土産を心待ちにしておるぞ」
「はい!」
踵を返そうとすると、ヤマミは意を決してヤミザキへ向き直る。
「お父さん行ってきます!」
ヤマミは柔らかい顔で笑んで、頭を下げた。
二人歩き去っていくのを見送りながら、ヤミザキはご満悦と微笑んだ。
……コクアはガックリ落ち込んでたそうだけど。
この後、オレとヤマミは世話になったマンションを退去して、数日かけて『洞窟』をくぐり抜け、出口前にいるボスを難なく撃破。ついに輝きが漏れる出口が目の前に……。
オレはヤマミと顔を向き合って「行くぞ!」「うん!」と掛け合って、足を踏み出した。
澄み切った青空に白い雲。木々や岩山が点在する広々とした大草原は通り抜ける風で波打つ。そして海の代わりに見渡す限りの広大な雲海を、悠然と大きな浮遊大陸が大小バラバラの郡島を伴って浮かんでいる。
地球のどこを探しても決して見られぬ景観。
そんなワクワクしそうな未知な異世界に心奪われる────!
「ついに異世界なんだぁ────────!!!」
両拳を振り上げて有頂天のままにジャンプし、ヤマミもにっこり笑う。
胸が弾む想いで「あははははは」とオレたちは広い草原を駆けていった……。
念願の異世界へ着いても、オレたちの冒険はまだまだ続くぞ──!!
~第一部・完~
あとがき雑談w
作者「あ──! やっと終わった──!!」スッキリ!
クッキー「学院生活、大分はしょったけどね……」(汗)
アリエル「夏休みのアメリカ渡航もはしょりすぎてるわぁ」(汗)
ヤミロ「それだけでも200話とけっこーな長編だぜ? 細かいこたぁ書いてたらキリねぇぜ?」
アマテラス「でも、なんだか寂しくなりますね……」(*^_^*)
という訳で完結です。長い間ご愛読いただき、誠にありがとうございます。
最後まで応援してくださって大変感謝しております。
次話『第二部はハイファンタジー編だぞ──!!』ヽ(・∀・)ノヘイヘーイ!!