199話「ナッセとヤミザキ和解! 大団円!!」
朝日を迎え、荒れ果てた戦場を覆い尽くす純白の花畑が煌びやかに光飛礫を上昇させていく。
そして大魔王がいた場所から、金に輝く実をならし、銀に輝く葉っぱを広げた世界樹が荘厳と生えていた。
薄らと戦闘用の亜空間が解けて通常空間へと戻ったが、世界樹はそのままだ。
《まさかナッセ君と『開闢の鈴』を錬成すると、こんなものを生み出せるとはね……》
ウニャンを肩に乗せたまま、その世界樹を見上げていた。
ただの巨木ではない。膨大な魔法力を内蔵する魔法の木。そして神秘的な銀の葉っぱを煌めかしている。
って言うか、なにか不思議な効果でもあるのかなぁ?
「おーい!! ナッセェー!!」
「よくやったなァ! 相棒よォォォ!!!」
手を振るリョーコとアクトが駆け寄ってくるのを見て安堵した。
すると世界樹から黄金の実が光飛礫を散らしながらゆっくり落ちてくる。気付けば多くの実が豪勢に煌びやかに花畑へと落ちていった。
それを見た人たちは「おおっ!」と感嘆を漏らした。
「銀の木から金の実って、なにこれ~~?」
「美味しいのかァ……?」
気になってしょうがないリョーコに「実はオレとウニャンで生まれたみたいだ」と説明すると「えぇ────っ!!」とビックラこかれてしまった。
「という事はナッセとクッキーの子供っ!?」
「えええ!? そ、そっちじゃないぞ!!」
「あはは! わかってるよー!」
あっけらかんに笑ってバンバン背中を叩いてくる。ワザとか……。
と、思っていたら黄金の実が眩く輝き出して溶け出していく。中から胎児姿勢と呼ばれる背中を丸まった体勢で服装を着た人が見えてきた。
するとどうした事か!
「「「わああああああああああああああっ!!!!」」」」
軍人や創作士たちが湧き上がって生存の喜びを分かち合っていた。
思わずビクッと驚く。
「なななな、なんなの~!!?」
「……実から出てきた人は、みんな戦死した人だァ……」
「ええっ!?」と衝撃を受け、咄嗟に肩のウニャンへ見やる。
《これがワタシの晴天の妖精の能力さ。だけど今回だけだよ。『大災厄』が原因だったからこその救済処置だよ》
「死者を生き返らす能力…………!!」
緊張が走り、息を呑む。
敢えて問わまい。こんなチート能力、絶対頼るワケにはいかない。
きっとオレたちは某少年漫画みたいに「でぇじょうぶだ。クッキーで生き返れる」と安心して依存して、生死を軽く見てしまうかもしれない……。
……そう、これはオレたちだけの秘密だ。
みんなが知ったら、きっと余計に混乱するかもしれないぞ。
「うん! ありがとな!! でも一度きりで充分だよ!!」
快く頷くと、ウニャンはにっこり綻んで笑う。
それを聞き逃さなかったヘインとグレンは鋭い目を見せていたが、フッと鼻で笑い飛ばした。
「あの大魔王を倒した“奇跡”としとこうかの!」
「……だな。打算も野心も忘れて、純粋にこの“奇跡”を喜ぶとするか」
満足げにグレンは酒瓶を手に、ぐいっと飲み干した。
不敵に笑うヘインは「かっかかか!! 余もお主も丸うなったな」と皮肉る。だが彼らは『大災厄』が一番の脅威だという事を、この戦いで思い知らされた。
相手は恐らく『概念の存在』。
同じ土俵に引きずり降ろさん事に完全な解決はままならない。
「して、戦犯のヤミザキたちをどうするかじゃな……」
浮いているヒカリが見下ろす先に、王子たちに囲まれたヤミザキが観念したような感じで座り込んだままだ。
マイシたち、みんな静かに見守っている。
「ヒカリ……済まなかったな…………」
《ほんっと、いつも心配かけさせるよねー!》
ヤミザキは俯いている……。
それをそっとヒカリが同じ目線に降りてきて、微笑みかける。
《でも無事でよかったよ》
ヤミザキは顔を上げ、一番会いたかったヒカリの微笑みに涙腺が緩み、頬を熱いものが伝った。
コクアもダグナもブラクロも、そしてカゲロにライクも安堵の緩んだ顔で見守る。まだ幼いヨルはコクアの後ろでもじもじ。五戦隊に至っては「うおお~ん」と感涙して喜び合っていた。
それを少し遠くからヤマミが神妙な顔で眺めていた。
一度は殺された身……。いや、並行世界も含めれば、何回殺されたか……。
正直言って、穏やかな心情で見れない。
ジャーマンスープレックスで叩きつけて、多少は溜飲が下がったけど……。
オレは察し、後ろから肩に手を置いて「ヤマミ大丈夫!」となだめる。
「……うん」
しおらしく頷くヤマミを通り過ぎて、ヤミザキの元へ向かう。
気付いたか、ヤミザキもこちらを見上げる。しばしの間────。
「ヒカリに会えてよかったな」
ヤミザキは「ああ」と俯いた。
そんな安心しきったような柔らかい彼の顔は初めて見る。
最初は野心溢れる恐ろしい男と戦々恐々だった。いつも厳つい顔で、傲慢不遜といばってて、そんで凄く強かった。
初めて戦った時に奥義を破られて挫折しそうになった。でも復帰して本気で気持ちをぶつけて、互いに全力を尽くして戦ってきた。
思えばヤミザキのおかげで、オレは強くなれたかもしれない……。
「ナッセ、強くなったな……。もはや私も敵わぬほどに…………」
「それは言いすぎかな……」
「いや、初めて会った時よりも遥かに成長を遂げ、ついに大魔王をも浄化するほどに心身ともに強くなったのだ。
これなら異世界へ行っても、昔の私の時のようにはなるまい!」
あの四首領ヤミザキが認めてくれた言葉に、なんだかじんと感激が湧いてきた。
こそばゆくて、でも嬉しいなって気持ちが弾むように跳ね上がってくる。
《その事なんだけどね!!》
突然ヒカリが割って入ってきて、オレたちは思わず振り向いた。
────聞かされた事実に誰もが驚き戸惑った。
事の始まりとなったヤミザキたちの異世界での悲劇も、限界を超えた『鍵祈手』が迎える魔王化の概念も、全て『大災厄』の仕業だという事が明らかになった…………。
一同は言葉を失い、呆然とするしかなかった。
「そうか……。そういう事か…………」
ヤミザキは腑に落ちたかのように、深く俯き、しばし耽った。
オレも知らなかった部分もあり割と衝撃的なのだがぞ……。だが『大災厄』の正体が分かった。
『大災厄の円環王マリシャス』
「真に倒すべき敵か…………!」
こいつの真の目的には背筋が凍るほど戦慄した。
人々の才能や能力を概念から無力化し、善悪が分からないほど疑心暗鬼に駆られる欺瞞に満ちた社会にして、周りが敵だらけと闘争を煽って心を傷つき傷つけられる無間地獄に変える事。
そこでは一生、気が休まらず悪意と欲に突き動かされて罪悪と後悔に苛まされながら惨めに生きていくしかない。
そんな苦しみもがく人々を嘲笑って愉しむという悪意満載な目的……。
「それだけはぜってーさせねェ…………!!」
沸々と怒りが滾って、拳を固めて歯軋りする。
「ナッセよ!」
ハッと我に返ると、ヤミザキが立っていた。いつもの威圧ある直立不動。
緊張感に駆られてオレは息を呑む。
「……ヒカリはお前の『運命の鍵』。そしてそれを自由にすると言ったな!?」
「ああ!!」
「ならば、この想いお前に託そう! ナッセ! ヒカリをよろしく頼む……!!」
オレの肩にヤミザキの手がズシリとかけられた。
託そうとしてくる想いがしみじみ伝わってくる。そしてヤミザキは厳かなものの柔らかい表情を目にした。
自分でも分かるくらい、フッと柔らかい笑みを口に走らせた。
「ああ! オレに任せてくれ!!
異世界へ行ってヒカリも解放する! そんでマリシャスもぜってー倒す!!」
「うむ!」
高くなった朝日の日差しの元で、オレとヤミザキは穏やかに笑み合いながら拳をコツンとぶつけ合った。
そんな二人にヒカリは《えへへ》と首を傾げて明るく笑う。
ブラクロは密かに「この“形”でも占い通りね……」と呟き、安心した。
「で、私は!」
腰に手を当ててヤマミが凄んできた。
オレもヤミザキも思わず身を竦ませる。すっかり忘れて、二人だけで意気込んでしまっていたぞ。
「なんと言おうとも、私はナッセと一緒だから……」
ずいとオレの側に寄ってきて、譲れぬ姿勢を見せつけてきた。
それにヤミザキは弱る。その顔も初めて見るぞ……。ヒカリはクスクス笑う。
「ああ、うん……。ヤマミもよろしくな…………」
「あ、ああ…………!」
「勘違いしないで! 私はもう城路ヤマミだから!」
例えどうであろうが反対も文句も彼女は受け付けるつもりはなかった。それが気になった。
実を言うと、親子として確執を続けて欲しくなかった。
「なぁ、オレからも頼む……。ヤミザキさんの事を“お父さん”って呼んでくれない?」
思わずヤミザキが「おと……」と戸惑い始める。
ヤマミはムッとした顔でヤミザキへ見やり、しばししてからニヤッと含みのある笑いを見せ始めた。
「分かったわ! お父さん!!」
「…………ッ!?」
言い慣れなかったのか、さすがのヤミザキも次第に動揺していく。
今まで厳かに「お父様」「総統様」と呼ばせて威厳を保ち続けてきただけに、いきなり庶民じみた親の呼称に抵抗がなかったようだ。
「お・と・う・さ・ん!」
ずずいと言い寄るヤマミに、ヤミザキはたじだじだ。
汗を垂らすコクアとブラクロ。ダグナは「うむ。お父さん、良いですなぁ」と快く笑む。
ヨルも気に入ってか「おっとうさーん」と笑顔で声を上げた。
王子たちからも「お父さん」呼びに、ヤミザキはタジタジだぞ……。
そんな大団円に、ヒカリはこちらへ嬉しそうに笑ってくる。
《ありがとうね! ナッセ!》
「ああ! 良かったなー!」
満足したのかヒカリは再び鍵へと戻り、オレの胸へ吸い込まれていった。
余韻と光飛礫が散って、オレは瑞々しい青空を見上げた。心が晴れ晴れするように太陽が暖かく眩しい。
…………またな! ヒカリ!
あとがき雑談w
ナッセを手伝って、戦死者を全員生き返らしちゃいましたw
クッキー「なんかやっちゃいました?」
アリエル「『大災厄』が原因とはいえ、やりすぎじゃなぁい?」
アマテラス「おっけー!!! おっけっけー!! あはははw」
なんと酒瓶たくさん、そして盛大に酔っ払いまくるアマテラス。
ヤミロ「あ~あ。どうなっても知らねぇぜ?」
この後、シラフに戻ったアマテラスにこってり絞られたりしてw
やらかした事の始末書も書かなきゃならなくなったクッキーさんw
ついでに巻き込まれたアリエルさんw みんなお疲れっすねw
次話『ごじつだーん!! やはり最終回は最終発情期かぞ!?』