198話「アルティメットホープ! 開闢の鈴!!」
キラキラと光飛礫を散らす快晴の鈴を真上に浮かせたまま、オレは軽やかに腕を左右に広げ、目を瞑って祈る。肩にはウニャンが乗ったままだ。
星獣は両翼を羽ばたかせながら、頭上にいるナッセを見守る。
側にいるヤマミもヒカリも見守る。
足元で咲き乱れ続ける花畑から、フワリと浮く。
ウニャンと共に手を掲げた。
「ヤミザキを救う為……! いや! みなでハッピーエンドを迎える為に!!!」
ウニャンの力を借り、オレの決意に応えるべき、赤黒い暗雲を吹き飛ばして空は深淵の闇に染まり────、膨大な量の星々が煌びやかに輝きだした。
それらはゆっくりと蝶々のように群れをなして四方八方から羽ばたいてくる。胸元前で次々と球体状に張り付き合って圧縮され続けていく。
並行世界にも及ぶほどの深い次元から、天文学的な量の雫が凝縮されているようだ。
ついに純白に輝く『賢者の秘法』が錬成され、光輪を放っていた。
そっと両手ですくい上げるように触れると、嬉しそうに輝いた。温かい。
《これが究極へと昇華された『賢者の秘法』……。それが『開闢の秘法』だよ》
「これが師匠の…………?」
途方もない力……。魔女クッキーは一体どれだけ研鑽してきたのだろうか?
大魔王はこちらを見るなり、目を細め「ヴヴヴ……!」と唸り出す。
周囲の大地が蠢き出し、ドババババと破片を巻き上げながら漆黒の巨大な腕が複数生え出していく。辺りに禍々しい威圧を吹き散らしながら、無数の腕が触手のようにうねりだす。
満身創痍のフクダリウスとダグナは、吹き付けてくる烈風と振動する地面をこらえながら苦い顔をする。
「未だ……増し続けている……! 本当にアレでヤツを倒せるのか……!?」
「もはやナッセ殿を信じるしかあるまい!」
ダグナは意を決して、剛雷斧をドンと足元に下ろす。
「む、無理だろうッ! 過信し過ぎてないかい……」「せやせや」
フクダリウスの後ろでオカマサとドラゴリラは尻餅をつきながら首を振る。
だが彼らの言った通り、どれだけ高い攻撃力をもってしても大魔王を倒す事は叶わない。それは戦場にいる誰もが痛いほど思い知っていた。
だが、オレはそれを分かっていながらも決意の眼差しを鋭く煌めかす。
「創作士とは、自由な発想でありとあらゆる可能性を切り開いていく者! 固定観念に囚われず、自分の可能性を信じて、歩むべき道を自ら創り出して突き進む者!
創作士は単なる戦闘員にあらず!
自分の可能性を自ら広げて、試行錯誤しながら成長していく者ッ!」
ウニャンこと師匠クッキーから何度も言われた事を口にした。そして!
「オレは『剣士』でもあり『鍵祈手』でもある以前に……、『創作士』だッ!!」
カッと見開き、自ら誇れる信念の言葉で吠え、その『開闢の秘法』を真上の鈴に重ね、眩い閃光が爆ぜて広がった。
その輝きの中から引き抜き、神々しく煌く純白の巨大な鈴が現れる────。
「アルティメットホープ!! 開闢の鈴!!」
踊るように鈴を振り回し、キラッキラッと音色を目視化したような放射状の輝きを灯らす。
そしてオレ自身の衣服は煌びやかな光飛礫に包まれ、外見上の負傷も消えつつ純白のウェーブがかかったワンピースのようなものに変わった。下にはキトン、上にヒマティオン。頭上には花を連ねた花冠が淡く灯っていた。
「お、おおっ……!!」
ヘインたちは目を丸くした。
ナッセから神々しく眩い光の輝きを放たれ、安心させる温かさを広げていく。
その輝きにヒカリは恍惚とした瞳を見せる。
あれならヤミザキを救ってくれそうな気がしてならなかった……。
アクトとマイシは空を飛びながら、身を震わせながら想いを昂ぶらせていく。
「……さすが俺の相棒だァ!」
「へっ! ライバルはこうでなくちゃなし!」
「ヴオオォオオオォォオオオオォォオォ!!!」
荒ぶる大魔王が周囲の無数の巨大な手を伸ばし、怒涛の嵐のようにナッセへと襲いかかる!
その余波だけで戦場に凄まじい烈風と土砂の津波が吹き荒ぶ!!
その最中、ヤマミがオレの肩に手を置いてきて、思わず振り返る。彼女は神妙な顔だ。しばし見つめ合う。
「あのバカ親父……、先に殴らせて!」
想う所があるのだろう。それを察して快い笑顔で「ああ!」と頷く。
「って事だ! 地球さん!! 頼む!!」
《おう!! 承知した!!》
両翼を羽ばたかせ、ナッセとヤマミを乗せたまま超速飛行で自ら無数の手の嵐へ飛び込む。
「行くぞォ────ッ!!」
星獣は《残った力を全て友の為に!!》と意を決し、開いた口から刹那の光線を放つ!!
大陸すらも吹き飛ばすほどの破壊力の光線が球状の爆発球を連ねて、無数の手を破壊し尽くしていく。更にその爆発の連鎖が大魔王へと届くが、今度は向こうも大きく口を開けて────!!
「ヴォオオ!!!」
無数の黒い光子をかき集めた巨大な漆黒魔王星を高速で撃ち出す!!
大地が深く割るほど飛沫を吹き上げながら迫ってくる魔王星を、星獣は《我が引き受けた!! ナッセ行け!! ヤマミ任せた!!》と前足で抱きついて受け止める。
オレとヤマミは頷き、星獣の頭上から飛び立つ!!
ズゴゴゴゴゴ……、踏ん張る後ろ足ごと大地を引き裂きながら押されていく星獣は唸りながら必死に食い止めていく。
星獣の目に、ナッセの羽ばたく後ろ姿が映っていた。
ふふふ……! 地球に張り付いたちっぽけな存在……!
このように我が高揚する気持ちを抱ける人間は初めてだ…………!!
《がんばれよ!! ナッセ!!》
そのまま「ウオオオオオオ!!」と精一杯吠えながら、遥か上空へ魔王星を放り投げる。
閃光が爆ぜると天変地異の大爆発を轟かせ、地球を震わせた。煙幕が嵐のように流れた。そしてうつ伏せに力尽きた星獣は「ヘッ」と快く笑み、ボンと霧状となって散った。
…………ありがとな! 地球さん!!
「ヴオオオオオオオオ!!!!」
憤った大魔王はなんとヤミザキが使っていた『九極星・降魔穿嵐旋』という最強の奥義を更に極悪に巨大化させた多重層無限回転を周囲に広げ、戦場ごと跡形もなく吹き飛ばさんとする!!
まるで漆黒の台風だ! 戦慄するオレとヤマミの前に、アクトが割り込む!
「おっとォ相棒は死なせやしねェ!! 心剣流!! 断斬・菊枝仏断ッ!!!」
なんと一刀だけで二刀流のように多重層無限回転をX字にズバンと豪快に大きく斬り裂いた!!
破れて破裂した奥義の余波が台風のように凄まじい嵐となって大地の震撼と共に周囲へ吹き荒れた。戦場にいる人は「うわあああああああ!!!」と煽られていく。
「相棒ァ……! 思いっきり突っ切って行けッ…………!!」
力尽きたアクトは萎んで、安堵の笑みで後ろへ流されていく……。
それに感傷しそうになるも「ああ!! ゆっくり休んでてな!」と託された想いを胸に前へと突き進む!!
ドォーンと時空を超越する輪が世界中に広がった!!
気付けば大魔王は天をも衝くほどの超巨大な漆黒剣を両腕で掲げて、振り下ろそうとしていた!
「まさか!! 覇極・降魔滅殺剣ッ!!?」
こんなものが地球に炸裂したら真っ二つになるんじゃないかってくらい凄まじい威圧をビリビリと感じた。
一難去ってまた一難、なんてレベルじゃない!!
人類滅亡級の凶悪な大技を立て続けに連発してきているのだ!!
「ヴアアアアアアアア────ッ!!!」
黒い稲光伴う光速級のひと振り一撃が迫る!!
しかしマイシが二つの禁忌の刀に全身全霊の竜の力を込め「リベンジだあああああッ!!!」と迎え撃つ!!
なんとマイシは白と黒のフォースを左右から噴き上げていた!?
闇竜王カゲロの大きな手と光竜王ライクの小さな手が共に差し出されていて、それがマイシのパワーに加算されていた!!?
「いっけ────!! マイシさん!!!」「いっちゃえー!!」
二人の混沌の力を加えた火竜王の力強い息吹!!
「混沌火竜王のォ!! 炸裂凰翼最終剣────ッッ!!」
白黒赤混じりの両翼のフォースを左右に広げ、気合いのままに二刀を突き出しながら上昇突進!
その二本は途中で輝き出して一つの刀となって、大魔王の一撃と強烈な激突!!!
ガッッ!!!
大魔王の超巨大な剣とマイシの刀が共に木っ端微塵に砕け散り、数多の破片が四方八方と飛び散った!!
吹き飛ばされていくマイシは笑いながら「てめぇはあたしが倒すし……! だから絶対勝てし!!」と激励しながら、後方へと流されていった。
その言葉で燃え上がったオレは頷き、託された想いを背負って更に前進!!
ここまでしてくれたんだ! アクト! マイシ! 必ずたどり着いてみせる!!
ことごとく最強の技が打ち破られて、初めて大魔王は焦りを表情に滲ませていく。
「ヴグ……! ヴアアアアアア!!!」
それでもと腰に引いた巨大な両拳を握り締めて超速パンチでラッシュを繰り出す!! 嵐のようにめちゃくちゃ連射される巨大な拳による弾幕が周囲の大地を大規模に粉砕し、大岩が烈風に乗って流されていく!
まさにガムシャラな苦し紛れの抵抗!! されど破滅級の破壊力!!
しかし!!!
「構わず突っ込めぇぇぇぇぇええッ!!!!」
なんと後ろから追従してきたリョーコたちが輝きながら大勢で押し掛けてきていた!?
いや!! 『開闢の秘法』によってかき集められた仲間の力の化身だ!!
誰もがナッセを助けたいと一心で浄化の力として具現化されたのだ!!!
リョーコはもちろん、コクアもダグナもフクダリウスもノーヴェンもエレナもスミレもシロウも他のみんなも、そしてなんとジダ公までもが流星群のごとく駆けつけて、全員総攻撃で大魔王のラッシュをことごとく捌き切っていく!!
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!
意気込む大勢の総攻撃が大魔王の猛攻をも上回り、ついに拳から肩までバキバキと両腕を砕き散らしていった!
「ヴ……ガアアアアッ!?」
そしてその切り開けた一筋の道を通っていく!! よし! 行けるぞ!!
「ナッセ!! 行っちゃいなさーい!!」「ユーなら絶対行けマース!!」「ダーリン!! 負けんなー!!」「ナッセ様!! 総統様を頼みます!!」「ぬうおおおお!! 迷わず行けいッ!!」
激励するみんなに背中を押されて、オレは更に勢いを増して空を駆け抜ける!!
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」
裂帛の気合いを叫びながら、決死の勢いで開闢の鈴を引っさげて大魔王の巨大な顔面へと迫る!!
さすがの大魔王ももはや手は残されておらず「ヴァ……」と呻く。
「これで終わりだああああああああああッ!!!!」
全身全霊、渾身のひと振りで『開闢の鈴』を炸裂させた!
眩い音色の輝きが放射状に爆ぜ、光飛礫を舞い踊らせながら光輪が煌びやかに広がっていった!!!
キィ────────ン!!
「ヴオオオオオオアアアアアア────────ッッ!!」
浄化の音色の輝きを浴びて、大魔王は堪らず断末魔を上げた────!
甲高い音色が波紋のように、世界中へと暖かく輝く光輪を伴って広く広く響き渡っていく!
そして大魔王を中心に、大規模で純白に輝く花が一気に咲き乱れていく。やがては戦場を覆い尽くすほどの壮大な花畑へと広がっていった。
「アアァァァァァ……ァァァ…………ッ!!」
ついに大魔王の漆黒の全身に閃光が溢れる亀裂が走っていき、パァンと数百数千もの漆黒の破片は木っ端微塵に弾け散って虚空へ蒸発していった……。
中から虚ろな顔のヤミザキが仰向け状態で、花吹雪に巻かれながらゆっくり落下していく。
ヒカリは見開きながら身を乗り出していく……。
「お父様ッ!!」
ヤマミが一足先と飛び出し、抱きついていく。
オレも「へへ……、やったぜ…………!」と力を使い果たして衣服と外見上の負傷が元に戻り、ゆっくりと落ちていく。
みんな……ありがとうな…………!! おかげでたどり着けたぜ…………!!
フワリと花畑に仰向け状態で沈み、感無量した気持ちで満面の笑顔。
遅れて降りてきたウニャンはオレの腹の上に座り込んだ。
「や、ヤマミ……!?」
抱きつかれて戸惑うヤミザキ。これまで自分の娘と思わなかったのに、その温もりになんだか安心感を覚えていく。
相対的に湧き上がっていく罪悪に「す、済まなかったな……。ヤマミ……」と謝る。
ヤマミは涙ぐんで頬を膨らませて顰めっ面。
「ふざけんな────ッ!!」
激昂したヤマミは、ヤミザキを抱えながら真後ろに反り投げるように落下!?
逆さまのまま慌てるヤミザキは「ま、待て!? な、何を!!?」と青ざめた。
ズガガァァン!!!!
ジャーマンスープレックスでヤミザキの脳天を地面に落下激突!!!
「えええええええええええええええッッ!!!?」
オレも誰もが目を丸くして唖然とした…………。
殴るどころか、プロレス技で撃沈した────!?
一同は固まったまま、地平線から朝日が輝きを溢れさせてくる。なぜかモサッと一本の木が急成長していく。
思わずヒカリはクスッと微笑んだ……。
────世界大戦、六日目。午前六時一七分にて終戦。
あとがき雑談w
クッキー「あー!! 戦争終わってよかったー!!」
背伸びして両拳を挙げて、スッキリ笑顔w
アリエル「かつてのアンタが『開闢の鈴』を使ってたの懐かしいわぁ」
アマテラス「ふふっw」(終盤クッキーがチート級の『開闢の鈴』や『運命の鍵』を連発し出した設定はもはや懐かしい黒歴史ね……)
ヤミロ「今回も大概、色々やらかしてると思うがよ……。突っ込むのも野暮か」
ヤミザキ(鍵祈手)50万(万全:100万)
夕夏大魔神ヤミザキ(鍵祈手)75万(万全:150万)
大魔王ヤミザキ(鍵祈手) 430万(加速度的に上昇中。この数値は打倒時のもの)
ヘイン(魔皇帝) 62万(万全:124万)
アクト(侍) 10万5000(万覇羅21万)(万覇羅弐42万)
マイシ(剣士) 11万(火竜王33万)(混沌火竜王80万)
ナッセ(鍵祈手) 10万(妖精王30万)
ヤマミ(魔道士) 10万(妖精王30万)
妖精王ナッセ&妖精王ヤマミ(『連動』時)60万
コクア(剣士) 12万2000(刻印魔人48万8000)
ブラクロ(魔道士) 11万(刻印魔人44万)
ダグナ(戦士) 14万9000(刻印魔人59万6000万)
カゲロ(格闘僧) 11万(刻印魔人44万)(混沌竜王53万7000)
ライク(格闘僧) 9万7000(刻印魔人38万8000万)
ダクライ(剣士) 52万(全盛期64万 万全:104万)
※四捨五入して単純表記しています。
※技を繰り出した時に増大する威力値は無表記。
※万全時の数値も併記。これは疲労、満身創痍じゃない状態を表す。
※小話編でインフレしたせいで、上方修正された。(2023.2.5)
次話『いろいろ戦後処理にゃーw』