195話「終わりの始まり!! 絶望の果てに……!」
ヤミザキは歓喜した!! ついに妖精王の力を我がものにできると!
今世へループする前の出来事────。
ナッセは足元から淡く輝く花畑を広げて、荒々しく花吹雪を巻き上げて、背中に六枚の羽が円陣を組んで浮遊する。
後ろ髪のロングが波打つ。虹彩に星のマークが入った双眸。
そんなファンタスティックな風貌とは裏腹に、怒り昂ぶるナッセは口を噤んで、握り締めた右拳を手の甲から見せるように構えていた。
「もう許さねぇッ!! お前なんか、ぶっ倒してやるッ!!」
ナッセをかばって死んだモリッカとフクダリウスの犠牲……。その悲しみと私への怒りが地響きと威圧でひしひしと伝わってくる。
これまでとは打って変わって、人間のレベルを遥かに超えた凄まじいフォースが溢れ出ていた。まさか彼が妖精王だとは思いよらなかった。
自爆を喰らって満身創痍の身、死を覚悟して一戦を交えた。
自由自在に空中を駆って、幾重もの魔法弾と格闘が飛び交い、天と地を割るが如し神々の戦いの様!
これまでドラゴンの力にばかり注視していたが、妖精王の力もそれと同等のものと知った。
人間以上のパワー! 見えないものが視える! 時空を超越しうる! 莫大なフォースを漲らせる高次元存在!!
怒れるナッセは超高速でこちらへ迫ってきていた。
「これで終わりだぁぁぁあッ!!!」
「ぐがああああッ!!!」
ナッセの渾身振るう『無限なる回転』の奥義で、私は絶命した────!
ますますナッセが欲しくなった私は『運命の鍵』によるループ能力で、もう一度人生をやり直す事になった。
今度は占いで結果を確定する家系能力の人間を取り入れるなど、秘密裏に計画を立てて準備を整えていった。
事前に日本中を旅して『刻印』を潜ませておき、有事の際に『運命の鍵』で命を代価にパワーアップさせて日本人全員を掌握した。
だが総統継承式の時、妖精王には『刻印』が効かない事が判明。
ギリギリ命を代価に『運命の鍵』で妖精王を変えるしかないと思い立った。これは正直賭けだった。
仕掛けた世界大戦で、投降した王子たちを『刻印』の支配から解き放つなど自分でも予想だにしなかったが、あくまでも目的はナッセを『器』にする事のみ。
だが、その目的は無事果たされた!!
ナッセが自ら『運命の鍵』を使わないと自白したのを確認し、そして戦いの最中で不意を打つ形で自分の『運命の鍵』を撃ち込んだ!!
それは見事にナッセの胸へ吸い込まれていった────!!
「これで世界大戦は終結だッ!!!」
オレはまさかヤミザキが『運命の鍵』を使ってくるとは思わず、それをもろに受けてしまった!
「ぐああああああああああッ!!!」
自分の体がキューブ状に分解され、嵐のように周囲を舞っている。
内部から作り替えられていく感覚に抗える術はなかった。ヤマミが必死に小人を飛ばしてくるが、ことごとくキューブ状に砕け散ってしまう。
誰もがどうしようもない状況で立ち尽くすしかなく、己の無力に愕然するしかなかった。
《大丈夫!》
そんな折、頭に響いてきた優しい声……。
すると分解されていたキューブの嵐が徐々にオレの体へと収まって、パキパキとパズルのピースを当てはめていくように肉体は元に戻っていく。
そして────!
パァン!
なんとオレの胸から閃光が溢れると共に『運命の鍵』が弾かれ、くるくる弧を描きながらヤミザキの真上へとピタリと滞空。
誰もが驚く最中、ヤミザキは面食らった顔で「な……何ッ……!?」と戸惑いを露わにした。
「え……? ええ? オレ作り替えられたんじゃなかったの??」
オレ自身も戸惑い、自分の手と体を見渡す。
すると胸元から蓮の蕾が生まれて、それが開くと共に閃光が溢れた。そしてオレの『運命の鍵』がパァンと飛び出す。
そしてオレとヤミザキの真上で『運命の鍵』は共鳴し合うようにキィンキィン鳴き始めた。
「う、運命の鍵が二本に……ッ!?」
その光景に誰もが驚いた!
《ナッセ! もうキミは大丈夫だよ!》
「ってか……、お、オレ魔王化しちゃわない!?」
《今回は特例だから、大・丈・夫!》
ヤマミが「大丈夫?」と駆け寄ってきて肩に触れてくる。「ああ、大丈夫みてーだ!」と頷く。
和やかに安堵するヤマミを見て、ホッと胸をなでおろした。
ヤミザキはヨロッとよろめき「ぐ……!!」と悔しげに歯軋り。
《……失敗したねヤミザキ!
滅多に起きないケースだから無理もないけど、『鍵祈手』同士で鍵を差し合う事はできない。また二つ共有もできない。それにさ……あなたのやり方は私は気に入らないから!》
「し、しゃべれるだと……? い、いや! それよりも……そ、その声ッ!!」
ワナワナ震えるヤミザキは徐々にオレの鍵へ手を伸ばしていく。
鍵が淡く灯る煙にポワンと包まれたと思ったら、人型が見えてくる。思わず目を丸くした。
金髪ツインテールで、オフショルダーのワンピース。長ニーソとロンググローブで手足を覆う。
神妙な顔でヤミザキを見下ろす。その表情は怒っているとも悲しんでるとも取れた。
「ヒカリッ!!!!」
見開いたヤミザキの大声に、オレたちはその驚愕の事実に驚く。
うつ伏せのマイシも、瀕死のヘインも言葉を失う。
《本当は異世界から生き残って、私たちの分まで幸せに生きて欲しかったよ……》
「な……なぜ…………なぜだッ…………!!!?」
落胆したようなヤミザキの震える声。
なぜ、さんざん探していた私の前に現れず、ナッセなんかの中に隠れていたのだ!? 道理でいくら探しても会えるはずがないッ!
では、これまでの苦労は全部無駄だったのか!!?
長い時を過ごし多くの犠牲を出してまで、やってきた事は……何だったんだッ!!?
「わ……私は……、一体何をやって……ッ!?」
愕然と、限りない絶望の闇に心を呑み込まれてゆく────……!
《彼がこうなってしまったのを知って、アマテラス様に『運命の鍵』にしてって志願した。そして闇落ちしたヤミザキを止める為に、私をキミに預けたんだ。押し付けがましくてごめんっ》
ヒカリはこちらへ申し訳なさそうな顔で合掌しつつ頭を下げる。
「いやいいよ……。どのみちヤミザキと戦うのは避けられなかったし」
《うん。でも……また厄介事頼んでしまうけど……》
ヒカリに頷く。ヤマミと並んで、ヤミザキへと向き直る。
ドクンドクン自らの心音が聞こえるほどに緊張感が増していく……。
「ぐ……ゴホッ!!」
屈んだヤミザキはおびただしい血を吐き、地面を真紅でビチャッとぶちまけた。
身を震わせ辛そうにゲホッゲホッと咳込みが続き、更に真紅が飛び散る。
膝を付き、苦悶に蹲り、全身から黒いモヤが漏れ出る……。
────あの時と同じだ!
ビリビリ……小刻みに大地が震えだす。
ヤミザキの『運命の鍵』は先っぽから漆黒に染まり、やがて全部を覆うとグニャリと形を変えて禍々しい螺旋状にねじ曲がっていく。
「あああああああああああああああああッ!!」
ヤミザキが天に向かって咆哮し、その心臓に位置する胸から黒いヒビが放射状に広がっていく。
途端に周囲の大地が地響きを起こしながら隆起していき、凄まじい黒い波動がヤミザキを中心に放射状に吹き荒れていく。ズオオッ!!
ヤマミはクッキーが言っていた事を思い返す。
何度も『運命の鍵』で願いを叶えたり、ループを繰り返したり、あるいは絶望しきったりして因子を重ねていくと、MPが無限に増大し続けて限界を超えた所有者は────!
「魔王化する!!」
「ああ!!」
かつてオレに起きた事象。あの時はヤマミが介錯してくれたから、止められたけど……。
太陽の剣を弓のように構え、ボウガンのように無数の光の矢を連射。
だが、吹き荒れる黒い波動は激しさを増して、それらを砕き散らす。もはや届かないほどに悪化────。
「……だ、ダメかぞッ!! オレん時よりひでぇ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
世界が震撼に包まれ、徐々に強烈な威圧が重々しく辺りを席巻していく。
更に激しさを増していき、地球の地表から噴火のように飛沫があちこち噴き上げていった。砕けた破片が乱気流に乗って流され、木々が薙ぎ散らされ、海は全て荒波で荒れ狂い、空を稲光伴う暗雲が渦巻いていく。
その余波で、創作士たちは吹き飛ばされそうになる。
ドッドドドッドッドドドッドッドドドッドドドドドッ!!!
「ぐっ!」「うわああ!!」「ぎゃあ!!」「ぐおっ!!」「がっ!」
「みんな大丈夫か!?」「せ、星獣クラスだ!!」「ぐあっ!」
最高機密要塞はスーパー聖剣の菱形の盾によって守られているが、当のヨネ校長は「うぐっ……」と辛そうに踏ん張っていた。
「まるで……ブラックホールみたいだ…………!!」
ヤミザキを包む漆黒の柱が天地を繋いで肥大化していく様子に、アメリカジェネラルはワナワナと畏怖に震えていく。
オオオオ……ンッ!!
大地の震えが収まる頃、オレとヤマミとヒカリは浮いたまま静かに見上げる。
暗雲を割って天を突くほど巨大な漆黒に染まる巨人。二対の大きなツノを生やす頭の後ろで漆黒の後光がゆっくり回転している。
カッと赤い三つの目が禍々しく輝いた。
「ヴオオオオオオオオオ!!!」
その咆哮で大地が振動し、亀裂が走り、破片が飛び出すように浮かぶ。
次いで烈風が吹き荒れて岩盤が押し流されていく。
ついに『大魔王ヤミザキ』が誕生したのだった……。
《お願い!! ヤミザキを助けてあげて!!》
「ああ!!」
地面に向かって左の掌を向け、広大な魔法陣を描き────!
「星・獣・召・喚ッ!!」
ズズン!!
地を揺るがして猫の姿をした地球の星獣が大きく聳え、天使のような両翼を羽ばたかせ、その頭上にオレとヤマミが降り立った。側にヒカリ。
そして気を引き締めて大魔王ヤミザキを見据える。
「ヤミザキ!! ぜってぇ、なんとかしてやっからな!!」
周囲から雫をかき集め『銀河の剣』を錬成し、超巨大な刀身を伸ばした。
あとがき雑談w
ナッセの『運命の鍵』が実はヒカリの転生体だった!?
クッキー「そりゃ鍵がしゃべれるわけだわw」
アリエル「もちろん鍵自体に意思はあるけど、言語までは喋れなかったわねぇ~」
ヤミロ「ククク……。ヤミザキザマァねぇな……」ポテトぱりぱり。
アリエル「蓄えてたポテト食い尽くす気ぃ~」(汗)
アマテラス「ヒカリは私が育てたw」えっへんw
いつの間にか来てたアマテラスにクッキーとアリエルはビックリ仰天!
次話『大魔王の脅威! 人類滅亡級の破壊力!!』